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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
162/432

146-犠牲の権化、救済の凶人

彼はただ、自分を憎んだ。

感情の一切を外に出さず、ただ自分のみを蝕んだ。


もはや彼を縛るものはなく。

誰かではなく、自分の幸せを願うことができるとしても。


彼は、彼自身に……過去に……親に……家族に……理想に……

自らの意志で、縛られている。


彼に巣食うのは、まさしく呪い。

彼は魔人として異質で、だが誰よりも呪われていた。


それは、周囲の者が苦しむほどの自己犠牲。

壊れる体、砕けない心。永遠に終わらぬ犠牲と救済。


彼は彼自身の心を守るために、何があっても誰かを助け続けるのだ……




~~~~~~~~~~




影綱から八妖の刻を任された律は、影の結界内で八頭の妖怪達を相手に圧倒していた。敵の前衛は天逆毎(アマノザコ)と玉藻前。

それから一応、陽動程度にしかなっていない狐のお面をした怪人だ。


一振りで人体を破壊したり炭にしてしまう彼女達だったが、彼は体がなくなっても突っ込んでいくため、全く意味をなしていない。


攻撃が当たったとしてもその程度なのだ。

そもそも、足を破壊しながらの超スピードを完璧には捉えられていないため、優勢なのは明らかに律だった。


次に中衛と呼べるのは大天狗と犬神、あまり戦闘には参加していないぬらりひょんだ。


彼らは、風を起こしたり火の玉を飛ばしたりといった援護射撃、取り憑いて体力を奪うなどの弱体化。

それから指示を飛ばしたり、たまに接近して無視できない一撃を入れてまた引くなど様々なことをしていた。


しかし、やはり律は意に介さない。

風で体が裂けても炎で燃えても倒れず、外で彼の心と接続している凛が少ししたら回復してしまう。


取り憑かれて力が入らなくても気持ち悪くなっても、彼は折れないため関係ない。無視して前衛と殴り合っている。


稀にぬらりひょんが、ぬらりくらりと捉え所のない動きで邪魔をするも、たとえ急所を攻撃されても怯まない。

すぐさま反撃して、捉えられないまでも後退させていた。


最後に後衛。巨大な体を活かして遠くから攻撃してくる、だいだらぼっちにがしゃどくろ、八岐大蛇だ。


しかし、最初に戦っていた時からだいだらぼっちの攻撃は防がれていた。がしゃどくろなども、一撃で消し飛ばされたことがあるくらいだ。


一応消し飛ばされても再生しているが、攻撃を仕掛ける度にその腕や首が消し飛んでいる。

同時に律の体も消し飛ぶが、彼にも凛の回復があるため決着がつくことはなかった。


律を無視して出ようとしても、足を破壊しながら回り込んでくるため倒さなければ出ていけない。

彼らは八頭揃って、完璧に律1人に足止めされていたのだった。


「おい、犬神。あれは呪い殺せんのか?」


中衛で指示を飛ばしていたぬらりひょんが、痺れを切らしたやうに犬神に問いかける。

彼が何度ぬらりくらりと外へ行こうとしても、それ以上のスピードで阻んでくる律……


それどころか天逆毎すら決定打にならない現状に、流石の妖怪達の首領といえど我慢ならなかったようだ。


「ぐふふ。いやぁ……あれは無理だな、ぬらりひょん。

あのガキ、普通なら死んでもおかしくないのに、平気な顔して暴れてやがる。在り方がどうかしてんのよ」

「知っているつもりでいたのだがね……ここまでとは」


だが、犬神は迷うことなく無理だと断言してしまう。

他の八妖と違って、外からではなく内から攻撃できる犬神。

そんな彼の攻撃すら……いや、むしろそんな彼の攻撃だったからこそ、律には効いていないのだった。


「忌々しいガキだ……!!」


返答を聞いて、最初は感心した風だったぬらりひょん。

しかし、ちょうど天逆毎とだいだらぼっちの腕が吹き飛ばされたのを見て、顔を歪めて吐き捨てた。


そして、すぐに彼は仲間の再生を始める。

顔の前で印を結んで、軽く目を閉じると指を天逆毎に。

すると、彼女の腕はみるみる治ってしまった。


「ぬらりひょん、ほんとうに、やっかい」

「お互い様だ」


それを見た律は、もう何度目かもわからない特攻を始めた。

天逆毎とだいだらぼっちは体勢が整っていないが、玉藻前や八岐大蛇などが迫る中、構わず突っ込んでいく。


"神威流-神脚"


足を破壊しながらの超スピードは大前提。

彼はさらに、その移動の踏み込みで起こる振動を辺りに流して暴発させた。


これにより、すべての首を伸ばしていた八岐大蛇も燃える尻尾を叩きつけようと接近していた玉藻前も、足場から崩して彼らに隙を作る。


念の為、まだ動きを見せていない天逆毎やだいだらぼっち、気にする必要のないがしゃどくろにもだ。


"神威流-穿拳"


彼は大天狗が空から降らせるかまいたちなどを、両手をズタボロにしながら撃ち落としていく。

そして一瞬でぬらりひょんに接近すると、残った腕で渾身の一撃を放つ。


"神威流-壊拳"


何度も何度も繰り返しだいだらぼっちの巨体に打ち込んだ、家数十軒を余裕で吹き飛ばす程の衝撃をぬらりひょんに。

自身の体を犠牲にしながら。


「何度やればわかる。我には効かぬと」


しかし、どうやらぬらりひょんにはそもそも攻撃が当たっていないようだった。


彼の体はぐにゃりとネジ曲がっており、衝撃はすべて外に逃されている。

その方向までも操れるのか、他の八妖の刻にもまったく影響がない。


治るとはいえ、ダメージを負ったのは律だけだ。


「……もくてきは、あしどめ。べつに、たおすひつようない」

「本当に……鬱陶しい」


"柔靭裂波"


ぬらりひょんはまたしても忌々しげに吐き捨てると、少し離れてからのらりくらりとしていた体をもとに戻す。

そして腕を動かして、大地をものらりくらりと操り始めた。


律の周囲は動きを阻害するよう特に柔らかく、仲間達の周囲は補助をするように絶妙なさじ加減で。


「殲滅……させていただきます。あなたも、ヒーラーも。

八咫のすべてを、この私の手で」

「ひっくり返りなさい。

まったく言うことを聞かない、悪夢のようなガキ」


"妖火-蛍火"


"逆月"


ぬらりひょんの操作により、玉藻前と天逆毎は上空にある足場から、動けないでいる律を一方的に狙う。


まず玉藻前が手を突き出して握ると、彼に向かって9つの朧気な火の玉が飛んでいく。

それらはうねる地面をすり抜けて、律のいるところまで一直線だ。


次に天逆毎。彼女もまた、手を突き出して握る。

すると、渦中のように体勢が安定していなかった律は、一瞬でその場にひっくり返ってしまう。


足が勝手に持ち上がるなどの予備動作も全く無く、ぬらりくらりとしている地面まで宙を舞っていた。


両足を吹き飛ばせば足場がなくとも空が飛べる律だったが、視界がいきなり反転した上に、ぬらりくらりと行く手を遮る土まであってはそれもできない。


大天狗のかまいたちのように消し飛ばそうともするが、腕はすり抜けてしまって体を捉えられてしまう。


「ブルーム」

「あぅ……あつい……」

「ブルーム……ブルーム……」


火の玉が花開くと同時に、玉藻前は呪文のようにつぶやいていく。無機質な声で、まったく声を震えさせずに。


だが、そんな冷たい声色の玉藻前とは対照的に、律の受けた妖火-蛍火の威力は絶大だった。


1つ目が爆発した時点で、防御できなかった律の体は丸焦げ。

そこにさらに8つの火の玉がやってくるのだ。

連鎖的に巨大な爆発を引き起こし、すべての火が消えた頃には律の体は大部分が消し飛んでいた。


両足は重点的に潰されており、腰から下は跡形もない。

左腕は辛うじて二の腕の一部が残っているが、右腕は綺麗さっぱり消し飛んでいる。


最も形の残っている胴体も首含め右半分が抉れており、顔すらヘコんでいたり焦げていたりと原型を留めていなかった。


「今だ!! 我ができるだけ抑えおく!!

出られる者から外へ行け!!」


そんな律の様子を見ると、ぬらりひょんは大地を操って彼を閉じ込め、仲間に指示を飛ばす。


すると、律に致命傷を与えた2人以外の八妖の刻達は、結界を破るべく速やかに外を向いた。

そして、各々のやり方で都へ出ていこうと……


"砕けぬ信念(アキレウス)"


だがその瞬間、ぬらりひょんが囲い込んでいた大地が一気に吹き飛んだ。彼が言っていた通り、律を封じていた部分が……


「すべてに手はとどかない……」


同時に、八岐大蛇の首、だいだらぼっち、がしゃどくろの上半身がすべて消し飛ぶ。


「でも、ぼくのいるところには……」


続いて、大天狗と犬神の腹部が消し飛び、彼らの上半身と下半身が泣き別れた。


「不死身……肉体すら超越した強すぎる心……

アストラル体になってまでも貫く意志……」


頬を引きつらせてつぶやくぬらりひょんの前に立ったのは、体の大部分が消し飛んだままの律だ。


だが欠けて無いはずの部位は、謎の光を放ちながらそれぞれあるべき場所に見えている。

それも見えているだけでなく、一時的にか体の代わりにまでなっているようだった。


彼はぬらりひょんの言葉を聞き、首を傾けて問いかける。


「この世に、かんぜんな善も悪も、ないんだろうね」

「そうとも。獣は人であれ狩る。それだけだ」


律がぬらりひょんに話しかけている間に、凛の回復が段々と彼の体を再生していく。

元に戻った体からは光が消えており、そこにあるのは普通の神秘だ。


「きみたちには、きみたちの正義があるのだろうね」

「そうだね。強いて言うのなら、人が壊した自然の怒り……」


同時に、吹き飛ばされた八妖の刻達の体も再生していく。

律とは違って置き換わる感じではなく、無から生えていくという正常な再生だ。


「でも、ぼくは、ぼくのエゴで。目のとどくはんいだけは、ぜったいに、助けるよ」

「ふん……ならば我らは、我らが生きるために、人にとっての悪となろう」


ぬらりひょんの言葉と同時に、律の体は完全に再生した。

しかし、それは八妖の刻達も同じで、再生が終わった彼らは律から目を離さない。


「正義は、おのおのの、むねの中に」

「我だけなら負けなかったものを……」


律は折れることなく、変わらぬ決意を込めて。

ぬらりひょんはぬらりくらりと、影綱の采配を呪って。

決して決着のつかない彼らは、再び激突した。




~~~~~~~~~~




律が体を破壊しながらも、決して折れることなく戦い続けてさらに数十分間が経過した頃。

羅刹で足止めを食らっていた守護神獣達がやってきた。


"天岩戸-閉幕"


羅刹のある東方向から、光の道に乗って大口真神、夜刀神、射楯大神、多邇具久命、獅童、ライアンの6人が。

彼らは道を降りてからも光り輝きながら、律と八妖の刻の戦いを見つめている。


「遅れてすみません。

我ら守護神獣、人間側に加勢しましょう」

(オレ)と、この気のいい兄ちゃんもなぁ!!」


彼らは、そう宣言しながら律が1人で多数を相手にしていることを理解し、彼らの間に割って入った。


死鬼は、獅童以外の雷閃四天王と戦っている。

足止めに徹していた名前付きの鬼たちは、侍達の相手。

守護神獣たちが戦う相手は、残る八妖の刻だ。


ここに百鬼夜行、第2フェーズが開幕した。

戦場が多く珍しく群像劇っぽいので、一応説明を……

(ぐちゃぐちゃでわかりにくいと言われないか不安)


視点は愛宕。影綱をメインに話が進みます。

全体像、八妖の刻、茨木童子ときて主軸は終了。


次は雷閃、海音、美桜の百鬼夜行が始まってからの行動です。これの時間軸としては、みんな影綱が奔走している間に敵と出会っています。


雷閃はちょっとややこしいですけど……

全体像の時点で死にかけ、八妖の刻の辺りで紫苑と戦い始めてますね。


文章でわかるようにしろよと思われるかと思いますが、自分なりに整頓した上で不安だったので許してください。

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