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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
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14-風の双子・後編

-ヴィンセントサイド-


先人達の記録。もはや廃れた科学の文化。

そういったものがあった……そんな知識でしかないジェット機。


リューという男は、正にそれだった。

剣を構えるヴィンセントの前にして、その身一つで空を飛ぶ。


半魔達の加速や、フーのような浮かぶのとはまるで違う。


圧倒的な速度を持った、飛行。

確かな技術で扱われる、烈風。


それは剣を叩き折らんばかりの破壊力で、剣士であるヴィンセントには厳しい相手だった。


風だけでその威力。

そして当然、彼は武器にまで風を纏わせる。

それも、大剣だ。


2メートルを越すような大剣に、風の威力を合わせている。見かけ上の隙は大きい。

だがジェット機並の風を放出する彼には、実質隙がない。


そんな力技で戦う彼は……


「……」


呼吸すら静かに俺を見据える。

荒々しい戦い方に反した、感情のない表情。


それは潜在的な恐怖を呼びおこす……




ヴィンセントは、いつも通り観察から始める。

振り下ろされてくる大剣をいなし、風を受け流し、致命傷を避けながらの戦い。


大剣はともかく、風は厄介なもののようだった。

大剣に纏わせたら当然ヴィンセントの剣を弾くし、稀に飛ぶ斬撃のように床を抉りながら飛んでくる。


彼の体に纏ったものにしても、速すぎて移動スピードが点と点を瞬間移動しているようになるし、腕の一振りで丸太でもぶつけられたのかと思うほどの衝撃が走る。


そしてその全てが半魔とは比べ物にならない位の威力なのだ。

死なないにしても、直撃すれば骨の数本は砕けるだろう。


ヴィンセントは血眼になって攻撃を見切り続ける。

掠めることはあるが、直撃だけは避けなければいけなかった。


さらに、勝つにはその中で少しでも通る攻撃を探さないといけない。これが本当に大変そうだ。


(一応狙い目の時はあるけど……)


もう既に4度目だろうか。

リューは、大剣を彼に向けて投げてくる。

何度も床を突き抜け大地を引き裂いた、到底防御しきれないような一撃。


しかも、さっきまで縦だったのが今回は横だ。

全身全霊で、見切る。掠ることすら許されない。

横薙ぎのソレを避けるには……


(んん……どうする?)


ヴィンセントは、だいたいいつも左右への細かなフットワークで攻撃を逸らしたり避けたりしている。

だがこれは、それを阻むような横薙ぎだ。


(……あれ、俺死ぬ?)


「ふぅー……それは決して許されない」


一瞬動きが止まったヴィンセントだったが、すぐに表情を引き締めると、思いっきり息を吐きだして覚悟を決める。


狙い目は武器を手放した今。

ならば床スレスレに走り、無理矢理にでも避け、接近して斬ってやろうと身を屈める。


剣が邪魔しないよう右手を後ろに、風に逆らった特攻だ。旋回する大剣は髪を掠めているが、ギリギリ彼には当たらない。


大剣は勢いよく後ろに突き刺さり、地面が揺れる。

少し体がブレるが歩みは止めず、彼はリューに接近していく。


リューが素手のうちに、少しでも攻撃を通しておかないといけないため、彼は神秘を限界まで取り込み駆ける。


当然負担はかかっているが、ロロの治癒力上昇があるため前回ほどの賭けにはならない。

少し内出血はしているかもしれないが、今回は肌が裂けたりはしていないようだった。


(クロウの運はすごいね。

ロロを助けてなければ可能性もなかったよ……)


「……」


ヴィンセントが接近すると、リューはやはり無言で拳を構える。

叩き潰すという意思はありそうだが、同時にヴィンセントの後ろで空気の爆音が響く。


投げた後は風で大剣を運ぶ事で、効率的な攻撃にしているのだ。

あれが届くまでが、一番の隙。


(間に合えッ……!!)


彼の風は強いが、同時にいくつもに影響を与えることは出来ない。


ヴィンセントにかかっている風圧は少ないため、接近自体は問題なし。

ただ、構えている段階で轟音を鳴らす腕は……


彼がリューのほぼ目の前にまで接近した時。

リューもまた、脚から出す風で勢いをつけてきた。


いつものヴィンセントなら軌道を読んで逸らす所だが、彼はそこまで甘くない。体勢が低く、鋭い拳。


逸らそうとしようものなら、それごと捻り潰されるだろう。

それを理解したヴィンセントは、息を整え、カウンターをお見舞いするべく見切る。


できる限り引き付けた彼は、全身を回転させながら避けると、同時に攻撃を。


攻撃中の風は大抵真っ直ぐだ。

無防備な横腹をざっくりと斬る。


「ようやくッ……」


斬れた。

再び大剣を手にこちらを見据える彼は、脚まで血で濡らしている。


ヴィンセントだったら重傷と言える位だが、リューは風で動きをサポートしているのでまだ動く。


意識を落とす、もしくは制御に支障をきたす位には斬らないと、勝ちにはならないのだろう。


リューは風で床を軋めかせながら、斬られる前と変わらず大剣を振り回し始める。

再びそれを避けるだけの時間……


(……いや、やめよう。強気にいく。威力は変わらなくても、精度は落ちている……と思う!!)


一瞬、腰が引けている様子を見せたヴィンセントだったが、今度は薄く笑い、また表情を引き締めた。


打ち合えないとしても。受けながらでも。斬る。

そのような覚悟を持った彼は、距離を取って凌ぐのをやめ、距離を詰めていく。


意表をつくような行動だったはずだが、やはりリューの表情は変わらない。

それでもヴィンセントの意図は察したようで、彼は風を放出し迎え撃つ素振り見せる。


パワーもスピードも風で十二分。

そのため彼は、機動力を捨てどっしりとした構え。


ヴィンセントからしたら、フーのような軽い連打ではなく、重い一撃ならまだいい方だろう。

不測の事態は受け切れない事だけなのだから、その1つを見ればいいのだ。


そういった意味では、彼とリューとは相性がいい。

ヴィンセントは、落ち着いて迫る大剣を見据える。


触れただけでも真っ二つ。

だが彼は、拳をさっき見切っている。

範囲を修正すれば問題はなかった。


今度は斜め、袈裟斬りだ。縦と横を避けた事からの学習で、ヴィンセントがどのような行動に出ても追撃するつもりのようだ。


(全く……頭を使う相手は厄介だね。

だけど……角度がある方が逸らしやすい……!!)


ヴィンセントの剣は、甲高い音を鳴らしながら大剣を滑らせる。


そして、ギリギリと不愉快な音を響かせながらもどうにか逸らすと、さっきと逆の脇腹を斬った。


「ッ……!! もっと、深く……!!」


ヴィンセントの剣が、リューの体を斬り裂く。

剣が通った後に見えるのは、真っ赤な中にあるかすかな白だ。


(これで、内蔵まで到達したはず……)


十分なダメージを与えたと感じた彼は、体を反転させてリューを見る。

だが、その直前に……


「ガッ……!!」


――メキメキ


ヴィンセントは、そんな音が鳴っていてもおかしくない程、猛烈に蹴られた。一瞬、彼の息が止まる。


さらには部屋の壁まで吹き飛ばされると、全身を強打してしまう。


(ッ……油断なんて、してないんだけど……

視界がチカチカするし、平衡感覚も……ちょっと、おかしい気がする。これ、まずい……かな?)


崩れた壁の破片が降る中、ヴィンセントはおぼろげな意識で手を動かす。

剣は彼の手からこぼれ落ち、もはや自分の身を守ることすらできないだろう。


しばらく藻掻いていた彼だったが、やがて震える手を横たえ、目をつむった。




~~~~~~~~~~




俺がフーと最後の斬り合いを始めた瞬間、向こうで轟音が鳴り響いていた。


俺も彼女も一瞬意識を持っていかれたのだが、俺は運が良い。

その油断が命取りになったのは彼女だけ。

お互いにナイフの軌道が微妙にズレ、彼女にだけ刺さった。


それが決定打となり、彼女の動きに乱れが出来た。

あまり慣れていない俺でも、ブレたナイフを捌くのは簡単。

なんとかフーを倒すことができた。




「おいヴィニー、無事か?」

「ヴィニ〜」


俺達は取り敢えずフーを縛ると、大声で彼を呼びながらヴィニーの戦っていた方向へと向かう。


すると、進むに連れて床が抉れて地面が剥き出しになっていく。壁もところどこら穴が開いていてボロボロだ。

どんな戦い方をしたんだ?


想像もつかないが、とりあえず俺とフーの戦闘より激しい戦いだったようだ。

俺が相手じゃなくてよかった……申し訳ないと思いつつも、密かに胸をなでおろす。


「お……」


そしてしばらく進むと、リューと呼ばれていた男がうつ伏せで倒れていた。全身血まみれだ。

勝ってるってことは、あの凄まじい音はヴィニーが何かした音なのか……?


あいつにそんなことができたかなぁ……?

釈然としなかったが、まずはリューを縛る。


意識はなくても、もし万が一起きた時に抑えられる自信はない。フーの時よりもキツくっと……


縄を何度も引っ張ってみて、刃物がなければ絶対に解けないという確信を持ってから、ヴィニー探しを再開する。

だが、ここら一帯は煙っていてよく見えない。

返事もないのはなんでだろ……?


「ヴィニー?」

「〜‥」


かすかに声が聞こえた方へ近づくと、ようやく見つけた。

彼は何故か抉れている壁のそばに横たわっている。

勝ったはずなのに、思ったよりも重症そうだ。


「勝ったんだな」

「勝った……のかい?」

「は? あいつ向こうで倒れてたぞ」

「そっか……俺、最後あの人にとんでもない一撃を受けたよ」

「ならなら、オイラの出番だね。傷はどこ?」

「う〜ん……全身かな」

「全身!?」


どうやら、倒れる間際にでも何か攻撃を受けてしまったらしい。

轟音だったもんな……風で壁まで吹き飛ばされた、とかか?

やっぱりあいつとは戦わなくてよかった……


俺がそんなことを考えながら見守っていると、ロロは流石に全身は舐めずに、脇腹を舐め始めた。


「なんでそこなんだ?」

「ここに蹴りを食らったんだよね、突風付きの」

「うわ‥あいつの相手、ありがとな」

「ははは、お互い様だよ。俺はフーの相手は難しかった」

「かもな」




~~~~~~~~~~




少しは回復しないと危険なので、俺達は10数分程休憩を取った。

骨抜きのロロとボロボロのヴィニーもちゃんと戦える位には回復してくれたようで、一安心だ。


なぜロロも倒れていたかというと、ヴィニーに治癒力上昇を全力でかけていたからだ。

治癒力だけでそれとは、ヴィニーは相当なのを食らってたようだな。


その上、どうにか感知もしてもらっていた。

確かかは分からないが、親玉っぽいやつがこの先の部屋、その地下にローズがいるらしい。

そしてその部屋の奥にも、俺達が進んできたのと同じくらいの建造物があるからまだ手下たくさんいるかも、だと。


無事に帰ることができたら、労ることを心に決めた。


「行けるか?」

「ああ、行こう」


一応確認を取ると、ヴィニーは何でもないことのように返事をして立ち上がる。

ふぅ、これでどうにか進めるな。

あの双子は縛ったし残る問題は……


「あ、ちょっとさき行っててー」

「どうした?」

「うん、少しやる事があるんだ」

「別にそっちから行っても‥」

「分かった。クロウ、行こう」

「え? ……まあいいけど。急げよ」

「あいさー」


ロロはそう言うと、軽やかに土煙の中に飛び込んでいった。

……ちょっと気になるけど、ヴィニーも納得してるなら間違いはなさそうだよな。

超人だし。


俺達はロロを残して、大広間を抜けた。




~~~~~~~~~~




仲間が大広間から出て行くのを見届けてから、彼は双子を縛っているところまで戻った。

目的は不明だ。


「やっぱり、歪だなぁ」


彼はそう呟きながら、双子の周りをぐるぐると回っている。

双子の意識はないが、それでも何かが気にかかっている様子だ。


しばらく回りながら眺めたり匂いを嗅いだりしていたが、唐突に立ち止まる。

その表情は、純粋そうな笑顔。


「うん、これは食べても良さそうだね。

ふふ、感謝してよね」


彼はそうつぶやくと、体の輪郭がぼやけ出す。

巨大化し実体が曖昧になった彼は、そのままフーに噛み付いた。




~~~~~~~~~~



大広間を抜けると、再び廊下。

だが、少し先にもう扉が見えている。

他よりも立派なものだし、恐らくここがボスのいる部屋だろう。


「ロロが感知できたって事は、魔人なのかね」

「だろうね……それにあの2人を従えてたんだし、かなり強そうだ。2人がかりでやらないと」


そんな事を話すうちに、扉の前に着く。

やはり暗い配色で、禍々しい雰囲気だ。


……賊のボスの部屋なのに、やたらと威厳を感じる。

案外大物なのかもしれない。初めて聞いたけど。


「……やっぱり、面倒事呼び込んじゃったね。お嬢に申し訳ないや」

「今から助けるんだろ。解決できるなら問題ねぇさ」


俺が落ち込み気味のヴィニーを慰めていると、後ろから甲高い声が響いてくる。

早いな……そう思って振り向くと、ロロが全速力で走ってきていた。


「おーい、ふったりっとも〜」

「おう、早いな」

「けっせんに遅れるわけには行かないからね。

ぜんりょくしっそうさー」

「ふふ、じゃあ行こうか」


俺達は扉に向かって一歩を踏み出す。


まだ見ぬ親玉。

初対面で、どんなやつなのかはわからない。

だが、立ちはだかるなら……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強敵との手に汗握るバトルでした。緊迫感があって良かったと、思います。風という能力の厄介さもうまく描かれていたように思います。
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