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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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136-神奈備の森-羅刹へ

俺達は天迦久神の、羅刹にいる隠神刑部のところまで案内してくれるという提案を受け入れ、まずは出発の準備を整えることにした。


とりあえず、天迦久神と吾輩、獅童が大暴れしたせいで森は大荒れになっている。元に戻すことはできないが、少なくとも通れるくらいにはしないと俺達も不便だ。


宇迦之御魂神なら木々まで治せるらしいが、もちろん彼女は岩戸にいるので頼めない。

仕方なく、谷爺が地面を均すだけに留める。


「じゃあやるぞい。準備はいいかの」

「おう!! 早うしてくれぃ!! (オレ)はずっと燃えとったもんで、かなり疲れとる!!」

「はっ、自業自得だろうがよ!!」


"万土漫遊"


"烈火を宿す都(カグツチ)"


"怒りの仮面(ドール)"


だが、彼が得意としているのはただの土よりも泥なので、固めるのにはドールや獅童の炎を使う。

特に獅童がうるさいので、作業時間はかなり短縮する。


しかし怒りの仮面(ドール)も気が強いので、彼らを抑えるのに苦労した……




次に昼食だ。

朝から射楯大神と天迦久神探し回っていたので、もうすっかり日は空高くに登っていた。


だがかなりハイペースで見つけたため、だいぶ余裕はある。

のんびりと準備をし、のんびりと食べることにした。


真神や吾輩もだが、角ちゃんと谷爺も人型になったので狭苦しさもない。守護神獣たちはみんな巨体なので、地味にありがたい……


ちなみに、角ちゃんは真神のような威厳のある美しい女性というよりは、活発そうに感じる見た目、谷爺は普通に好々爺といった見た目になっている。


あと、いつの間にか戻ってきていた射楯大神も一緒だ。

同じく真っ白い格好の人型に変身しており、気がついたら何食わぬ顔で座っていた。


「おかわりいいか〜い? 盛々崑崙でさ」

「もちろんです。……はい、どうぞ」

「ありがと〜う。いやぁ美味しいねぇ、うん、美味しい。

食べすぎてミーも食べ頃になってしまうよぅ。良き良き。

太って夜刀ちゃんにパクリ。わぁ怖い、近寄らないでね」

「おい、風評被害はやめろ」


……彼は誰よりも楽しそうで、誰よりもたくさん食べていた。

他のみんなはのんびり食べているのに、顔を回しながらすごいスピードで完食し、何度も何度もおかわりをしている。


天迦久神たちが暴れていた時も、森の修復作業の時もいなかったのに、しれっとおかわりまでしていて、めちゃくちゃ腹が立つな……!!


こいつ、ずっと逃げてたくせによく何食わぬ顔でいられるもんだ……胆力が半端じゃない。


だけどまぁ……獅童と吾輩、角ちゃんは下手したらすぐに喧嘩を始めるから、彼のひょうきんさはありがたかったけど……




そして、昼食が終わればすぐに出発準備を始める。

食後の後片付けをし、テーブルなどの荷物を片付け、獣化した守護神獣たちの前に集まった。


集まったけど……


「なぁ、誰に乗ればいい?」


俺は目の前に立っている、真神、吾輩、角ちゃん、射楯大神の4人を見上げて声ながらをかける。

谷爺は高速移動ができない蛙なので、人型のまま俺達の隣だ。


残りの4人……多分誰を選んでも、結局角ちゃんが先頭に立って進んでくれるんだろうけど……

現時点で同行してる守護神獣は5人になったし、谷爺を除いても、一組を除いて個別に乗ることもできてしまう。


全員が同じ人に乗ってもいいし、広々個人で乗るのもあり……

一番森に慣れていそうなのはやはり射楯大神だが、いろいろ心臓に悪いので悩ましい。


とはいえ、確実に乗るのは俺達人間4人に加え、ロロと谷爺の2人を加えた計6人だ。

他の守護神獣3人も乗ることになると窮屈だし、最低2人には乗せてもらった方がいいだろう。


けどもし選ばなければ、吾輩とかは悔しがりそうだし……

神を選ぶってのはどうにもやりずらいな。

本当にどうしよう……?


すると、真神が角ちゃんにゆったりと視線を向けた。

一挙手一投足が優雅で、神としての威厳がすごい……


「詳しく聞いていませんでしたが、案内というのは正確な場所を知っているという意味ですか? それとも気まぐれでついてきたくなっただけですか?」

「大体の場所を知っている、かしら。

入ったことはないけど、多分合ってるはずよ」

「なるほど……

ならば我らも人型になって、あなたに乗りましょう」


角ちゃんに質問した真神は、その返事を聞くと速やかに人型に戻る。そして、吾輩や射楯大神もそれに続いた。


俺達にはよくわからないが、正確な場所を知っていたら角ちゃんに乗ることになるのか……?

負担がすごそうだけど……


「1人で全員を乗せて疲れないのですか? ハラハラ」

「ええ、直線なら私はすぐよ。道は開かれるわ」


ドールも同じように思ったようで、1人獣型のままでいる角ちゃんに向かって、無表情に首を傾げて問いかける。

すると彼女は、何でもなさそうに断言した。


崑崙と愛宕が同じくらいの距離だと聞いてるんだけどな……

その距離を人1人乗せて走った麒麟も、全力だと辛そうだったし……


しかも谷爺や角ちゃんと違って、ある程度絞り込めているのはいいけど隠れているらしいんだよな……

場所が大体なら探すだろうし、探してたら絶対に疲れる。


「まぁ乗りなさいよ。

落ちたら命に関わるから、しっかりとね」

「角掴んでいいか〜?」

「嫌よ。あなた、悪い人間なの?」

「あはは〜。嫌がられることはしねぇって〜」


俺が考え込んでいる間に、まずライアンが一番乗りで乗り始めた。その表情はのんきそのもので、いいと言っているのだから頼ってしまおうといった感じだ。


というか、獅童よりも早いんだな……

俺の認識では、獅童はリューの進化版みたいな存在だ。


彼こそ率先して行きそうなものだけど……と見てみると、彼は吾輩と言い争っている。

あれは疲れるから、放っておこう……


……まぁ角ちゃんが案内してくれるんだから、任せるか。

よく考えたら俺が気にしても無駄なので、考えるのをやめて頼ってしまうことにする。


真神が2人を叱っているのを尻目に、俺も角ちゃんに登った。

獅童と吾輩が乗り終われば出発だ。


全員が乗り終わると、角ちゃんは伏せっていた体を持ち上げ、戦っていた時と同じように、その立派な角を振るおうと頭を振りかぶ……


ん……? なんで移動するのに角なんだ……?

少し不思議に思ったが、もしかしたら森を切り開いて近道するのかもしれない。


彼女が嫌う、森を傷つけるというのに当てはまる気がするけど……まぁ自分でするのなら俺が口を出す必要はないか。

黙って見守ることにする。


"開闢天-黄道"


すると次の瞬間、俺の目は像を結ばない景色で溢れ、耳には風を切るような音と共に、何かが捻れるような音が響いた。


鼻が感じる匂いも、レストランのように様々な匂いを含んでいるように感じるし、何故か体をくるくる回されたかのような気持ち悪さもある。


視覚、聴覚、嗅覚、平衡器官など、ありとあらゆるものから、過剰な情報を得た感覚でひたすら気持ち悪い。


そして気がつくと、俺達はさっきよりも鬱蒼とした森の中にいた。しかも背後には、薙ぎ倒された木々が積み重なっている。……は? え、ここどこだ……!?


驚いて周囲を見回すと、どこか遠くから獣たちの悲鳴のようなものが聞こえてきた。

同時に、薄っすらと血の匂いも漂ってきている。


真神たち守護神獣以外も、何が起こったのかわからずに混乱しているようだ。

獅童ですら言葉を失っているようで、あんぐり口を開けたまま珍しく大人しくしていた。……助かる。


「はい、着いたわ」

「感謝します、天迦久神」

「よくやった。吾輩が褒めてやろう」

「風穴開けられたいの?」

「う、うむ。すまん」


俺達と違い、真神たちはこの移動方法を知っていたらしく、特に驚くことなく降りていく。

真神も吾輩も、谷爺も射楯大神も、守護神獣はみんなだ。


真神は優雅に、吾輩は威厳たっぷりに見せかけて、結局怒られて。射楯大神は、ただただうるさい。


「着いたぁ、疲れたぁ。光の如く一瞬で、川の如く正しき道を。飛ぶより早いとかミーの存在意義なくなるよねー。

もしかして梟の刺し身とかになっちゃう? あ痛ぁ」

「お前さん、もうちっと静かにせい。あの狸の領域じゃぞ」


こんなに特殊な移動をするんなら、最初に説明くらいしといてくれよ……


俺は少し脱力しながらも角ちゃんから降りる。

気持ち悪さも案外すぐに治ったので、もう驚き以外には何もない。


ここが隠神刑部がいる場所なら会いに行けるし、この近くにいるから探すとしても、問題はないだろう。

俺は真神と角ちゃんに、ここは隠神刑部がいる場所なのか、隠神刑部に近い場所なのか聞いてみる。


「なぁ2人共。ここにいるのか? 近くに来ただけか?」


乗せる役割が終わったからか、真神だけでなく角ちゃんも人型だ。もちろん谷爺や射楯大神も人型のままなので、少なくとも近くにはいるはずだけど……


「そうね……多分ここ、結界があるのよ。

入り口は……わかる? 大口真神」

「そうですね……」


角ちゃんと問われた真神は、何かを探すように周囲を見回し始めた。それと同時に、何故か雪も降らせているようだ。

少しずつモリニ雪が積もり始める。


「あぁ……そこですね」


しばらく待ってみると、やがて彼女はある一点を指さした。

その先にあったのは、特に変わったところのない森……

だが、雪の積もり方が他よりも弱い場所だ。


彼女はその場所に向かって優雅に歩み寄ると、さらに木々の間を観察して回っていく。

何を探してるんだ……?


「これですね……御札」


俺達が見守っていると、すぐに彼女は何かを見つけたらしく立ち止まった。言葉から察するに、結界というのは御札で何かすることらしい。


多分……隠していたりするのかな?

羅刹に隠れているとかって言ってたし。


だとすれば、御札を見つけたことで俺達も入れたりするのだろう。そう思ってみんなで真神の元まで歩いていく。


「そちらにもあります」


俺達が近づいてくるのを確認すると、真神は御札に手を伸ばしながら声をかけてくる。

その視線の先には、彼女が今触れているのと同じ形の御札が貼ってあった。


あれも剥がさないといけないのか……?

多分2つを剥がせばいいのだと思いつつ、俺達よそ者組は余計なことだけはしないように見守る。


タイミングとか呪文とか、もし何か必要なものでもあった場合は、かなり面倒なことになるかもしれないからな……


だが、獅童も細々したものは興味なさそうで、射楯大神も騒がしくいろいろ喋りながら見ているだけだ。

何故か谷爺すら動かないので、しばらくよくわからない時間が続いた……


しかし、一向に誰も行かないのを確認すると、角ちゃんが2枚目が貼ってある木に行ってくれる。

そして、真神と息を合わせながらそれらを同時に引っ剥がした。


――ジジ……ジジジ……


すると、どこから聞こえてくるのかわからない異音が、そこら中で不気味に鳴った。

そして……


「うわぁ!? なになに!? だれだれ!? 敵襲!?」

「落ち着けい。親方の同胞……そして、例の人間じゃ」


森の上に見張り小屋のような建物が現れ、その上から数匹の狸が顔を覗かせていた。


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