表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
150/432

134-天迦久神・中編

雪の狼が自由自在に暴れ、水ブレスや炎が荒れ狂い、角を振るうだけで森を破壊している化け物がいる戦場の真っ只中。


俺はしばらく何も言えず、何かすることもできずに呆然とそれを眺めていた。

本当に、何もできない。


どれか1つだけなら少しの間くらい防げるだろうが、これ全部を剣一本で防ぐとか……

風や茨を使えるリューやローズならまだしも、ちっぽけな運しかない俺には不可能だ。


ライアンでも大怪我しそうだよな……

ほんと、どうしたらいいんだか……


ちらりと隣を見ると、ライアンと谷爺は俺ほどは衝撃を受けていないらしく、困り顔ながらも少し笑っていた。

谷爺は泥を操ってまとめて拘束とかできるかもだけど…… 


ライアンは結局、神獣の力をまとって突撃するんだよな?

ケット・シーやフェンリルの氷など、多少は遠距離攻撃も使えるようだけど、俺の弓と同じでメインにはしていないはずだ。


……よっぽど身体能力に自信があるのかもしれない。

まぁ、頭がおかしくなりそうな程に大量の神獣を取り込んでいるから、当たり前ではある。


身体能力だけなら化け物だ。

獅童はそれに加えて爆炎を放出するのがたちが悪いんだよな……

だから止めないと、もっと酷くなりそうなんだけど……


「谷爺、あれ止められる?」

「いーや無理じゃな。天迦久神だけであれば、角に気をつければ拘束できるじゃろう。じゃが今のままでは、おそらく他の攻撃に吹き飛ばされるの。特に夜刀神の水は厳しい」

「妙に落ち着いてるライアンさんは?」

「ん〜? まぁ死にはしないと思うけどな〜……

どうやって止めんの〜? 倒すのか〜?」

「それはだめだろ」


今はできないという谷爺ならともかく、ライアンは何もできなくてなんで笑っているんだよ。

倒したら協力してもらうどころの話じゃなくなるし……


とりあえず、一番余力が有りそうでなおかつ普段から冷静な真神に話を聞いてみるか……?


ただ突っ込んでも絶対に死ぬ……ことは多分ないけど、ただ運が良くても致命傷を受けて終わりだ。

俺は2人にそう伝えて、余波や流れ弾に気をつけながら真神に近づく。


多邇具久命とライアンも、いきなり参戦するつもりはないようだ。たまに俺目掛けて飛んでくる攻撃を、さり気なく防いでくれながらついてくる。


「おーい、真神」

「おや、戻りましたか。多邇具久命もお久しぶりです」

「うむ、久しぶりじゃな」


俺が声をかけると、彼女は戦っている最中だというのに、リラックスした様子でゆったりと俺に目を向けた。

流石に主神的な立ち位置にいるだけあるな……


天迦久神がまだ暴れているのは、この人……じゃないけどもういいや。面倒くさい。


この人に倒すつもりがないからといった感じだ。

真神や吾輩も攻撃しているとはいえ、人間に倒されたら協力とかしてくれなそうだからな……ありがたい。


「そんなことより、どういう状況?

なんであんたまで戦ってんの?」

「そうですね……成り行きで、ですかね」

「成り行き……?」

「ええ、成り行き」


森への被害は甚大だが、ひとまず戦況は均衡しているようなので詳しく話を聞いてみる。


話ができる余裕があるのはいいんだけど……

正直、余力を残しているにしても、1対4という不利を物ともしないのは恐ろしいな……




彼女の話によると、まず獅童を解凍してしばらくしてから、天迦久神が近くを――少なくとも、獅童の大声が届く辺り――を通りかかったらしい。


彼女も別に、人間と見ればすぐさま殺しにかかるような存在ではない。森にいる間監視し、問題があれば排除する。

本来の天迦久神がするのはその程度だ。


だが、彼女は以前にも何度か獅童と会っていたらしい。

炎を散らしている獅童を見つけると、すぐに殺意を込めて睨み、近づいてきたという。


とはいえ、大人しくする、もしくはさっさと帰るのならば見逃すとは言っていた……

とても懐の深いことに、そう言っていたのだが……それを獅童が拒否したようだ。


しかも獅童は、射楯大神と戦えなかったことから欲求不満で、いつもよりも喧嘩っ早かった。

危険だとはわかっているのか、森を燃やすことこそしないものの、あの手この手で挑発した。


そしたらもう、天迦久神に遠慮などない。

容赦なく、森の敵として獅童を排除しにかかった。


……この時点での参戦者は、天迦久神と獅童だけ。

最初はここまで派手な暴れようでもなかったようなので、まだ大口真神は雪で森を守っているだけだ。


だが、不運なことに夜刀神に流れ弾が当たった。

それも、何回も何回も繰り返し。


もちろん夜刀神は怒る。

激怒とまではいかなくとも、2人目掛けて強めの攻撃を仕掛けた。ここまで来れば、もう収集がつかない。


夜刀神は大口真神に叱られて、標的を天迦久神だけにしぼったが、彼らの戦闘はどんどんヒートアップしていく。


最初は炎を斬って防ぎ、獅童だけを殺せるように調整して攻撃していた天迦久神だが、もはや獅童を殺せればそれでいいとばかりに森ごと斬り始める。


それに応じて夜刀神の攻撃も、木を粉砕し、地面を砕く本気の水ブレスに変更。

獅童の炎も、最初は戯れが混じっていたのが、本気で殺すための炎になる。


……大惨事だ。

夜刀神が参戦したことで、大口真神も森を守るよりも捕らえる方向に変更したが、研ぎ澄まされた天迦久神は捕まらない。


なのでついでに、もう少し天迦久神の気を逸らせないかな……と、ドールにもちょっかいをかけてもらい始めた……


そして現在だ。


雪の狼が天迦久神を捕らえようと自由自在に動き、水ブレスや炎が荒れ狂い、そのすべてを防ぐ彼女が角を振るうだけで森を破壊している。


……捕らえる方向になるのはありがたいけど、本当に大丈夫なのか? 谷爺の言う通り、森が消し飛びそうな勢いだ。

まぁ……すべてじゃなくて、一部がだとは思うけど。


「ちゃんと止まるのか? これ」

「さて……どうでしょう?」

「どうでしょうって……」


心配になって聞いてみるが、彼女はもし森が消えても問題はない……とでも思っているんじゃないか? というくらいには冷静だ。


捕らえようと動くのは雪の狼なので、傍から見るとただ観戦しているだけにしか見えない。

安心感はあるんだけどな……


「かみかみ、いがいとてきとうだねぇー」

「そうですか? ひとまず子ども達に被害はないですよ?」

「森はたいへんだよ?」

「宇迦之御魂神に頼めばなんとでも」

「うわぁ人まかせー」


やっぱり安心感、ないかも?

獅童に焼かれる可能性があっても気にしてなかったし……


「ゲーコゲコゲコ。まぁそうじゃろな。

儂が参加しても、そう変わらぬしのう」

「俺も基本は体一つで突っ込むからな〜」


俺が軽く引いていると、後ろにいた谷爺が出てきて笑い出す。そして、謎に落ち着きながらそう言い切った。

ちゃっかりライアンも同意している。のんきめ……


まぁたしかに、付いてきた2人が参戦しても、十中八九捕らえることはできないし、多分被害が増えるだけだ。


……正しいけど、いいのか? それで。

森が消えるかもしれないのに、落ち着きすぎていないか?


……まぁ、今回は俺も似たようなもんだけど。

正直今のところ誰も死ななそうだし、森がなくなっても他人事だからな。


「いや、本当にどうするんだよ? 森が消えるぞ。

期待はしてないけど、協力できないかも頼んでおきたいし」


2人が入っても意味ないのは知っているので、無視してさらに真神に詰め寄る。

森に関しては他人事ではあるけど、近くでやられてるのは危ないし話もしたい。


すると彼女は、少し戦場を観察してから冷静に問いかけてきた。森の破壊を気にしていないなど、神なだけあって少し浮世離れした風ではあるが、この地獄では一番頼りになる……!!


「そうですね……あなた、もしかして攻撃を当てられるのではないですか? たとえ傷は与えられなくても、一応体には当たりはする……とか」

「そうだな。当てるだけなら運良く当たるかもな。

運が絡まないような、広範囲を守る盾とかあれば別だけど」


ガルズェンスでは、ニコライの電気は突き抜けたが、ヒマリの氷盾には止められた。


多分同じ広範囲でも、厚さ、固形かどうか、多数が攻撃に反応して撃墜するか1つがどっしり構えているかなど、左右する要素はたくさんあるのだろう。


しかし、天迦久神は角だけだ。きっといけるはず……

俺の答えに、真神も満足そうにうなずく。


「では、一撃お願いしましょう。

彼女の気が逸れたら、我が夜刀と獅童を拘束、多邇具久命が彼女の拘束をお願いします」

「あいわかった。水が消えれば拘束も可能じゃろう」


作戦を聞いた谷爺も、これならできると太鼓判を押した。

……うん、もし気が逸れたならいけるんだろう。

気が逸れたら……責任重大だ。


運任せだから俺がどう思おうと意味ないけど、この惨状を見てしまうとちょっと緊張するな……

一応は回数制限がないにしても、一度防がれたらその後だって無理だろうし……


俺にも怒りが向きそうだ。単純に怖ぇ。


「気楽にやれよ〜」

「いや気楽にって……ちゃんと頑張るさ」


俺が緊張して少し考え込んでいると、1人だけ仕事のないライアンがのんきに声をかけてくる。

何もしないからっていい気なもんだ。


少なくとも真神とドール、もしかしたら吾輩にも殺す気がないとはいえ、あの4人を同時に相手にできる化け物に目をつけられるかもしれない仕事なんだぞ……?


もし怒りを買ったら、絶対にただでは済まない。

しかもこいつ、神獣になれるから責任がないどころか危険すらないんじゃないか……?

本当にズルい……!!


「あっはっは〜、おう頑張れ」


適当な感じで応援してくるライアンを無視して、俺は収納箱から弓を取り出す。

ローズに作ってもらった、災いを穿つ茨弓(ボルソルン)……


いつだかエリスにダメージを与えたライアンの槍――災いを呼ぶ茨槍(ボルソルン)と同じくらいの威力があると思われるので、流石に彼女の気を逸らすくらいはできるだろう。


それにエリスには致命傷にならなかったし、天迦久神も死ぬことはないはずだ。

エリスと彼女のどっちが強いのかわからないけど、場合によっては致命傷にも……


あれ? もしかして、失敗しても成功しすぎても、どっちにしろ天迦久神は怒るんじゃないか……?


「どうかしましたか?」

「い、いや……」


一瞬頭が真っ白になったが、真神が心配そうに声をかけてきたことで気を取り直す。

若干震える体を精神力で押さえつけ、両肩を水平に、顔のすぐそばまで矢を引き……放つ。


"必中の矢(ゴヴニュ)"


俺の必中は、吾輩の水、獅童の炎、ドールの分身たちが放つ雷、氷、風などをすり抜けながら天迦久神の元まで飛んでいく。


彼女の目に映るのは、ただ運が良い他にはなんの力もないの弱々しい矢。


だが、その運と弱さ故に気づくのは直前だ。

他のみんなの攻撃を防がないといけないことも相まって、俺の矢は後回し。


ギリギリになって、彼女はようやく対処しようと動いたが、角はかすかな焦りを反映して矢を捉えられない。

弱々しいが決して無力ではない矢は、彼女の額の左辺りに突き刺さり、赤い鮮血を撒き散らした。


天迦久神アメノカクノカミさん、なんでこんなに強いんです……?

無茶苦茶すぎて、作者もドン引きです……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ