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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
15/432

13-風の双子・前編

「……疲れた」

「オイラも、気力が……」


そう口にすると、俺とロロは座り込む。

疲労困憊だがダメージというよりは気疲れ。

魔人ってこんなにいるもんなんだな……


数が多すぎて、息をつく暇もなかった。

しかも、まだあの双子がいるのだ。

ただただ気が重い……


正直俺とロロは、もう帰りたいとしか考えていないと思う。

だが流石超人。ヴィニーは凛とした佇まいで思案顔だ。


「どうした?」

「……いや、なんでもない」


俺が声をかけると、彼は今ある考えを振り払うかのように頭を振って目をつぶる。

それはすぐに振り払えたようで、あの双子とどう戦うかという問題を考えようと提案してきた。

少し引っかかるが、まあいいか。


「ああ、俺は勝てなかった。お前も一回やられたよな?」

「そうだね……でも今回は君の加護がある」

「神みたいに言うのやめろよ」

「でも神秘は神と同じようなものじゃないか」

「せめて俺が使いこなせるようになってから判断してくれ」


ヴィニーは笑いながら俺の加護だなんていうが、それを聞く俺はたまったもんじゃない。

こうやって話してるだけでもゾッとする。


そんな意味のわからない扱いされるとプレッシャーもやばいし、何よりその落差が油断に繋がりそうだ。


ヴィニーに限ってそんなことはないだろうけど、それでも思わず考えてしまわずにはいられない。

過度な期待は隙を生む。


「別にそこにこだわりはないけどね。とにかく、今回はやれる気がするよ。ロロの援護もあるし」


だが彼は、そんな心配はする必要がないというかのように、変わらず軽い調子で話を続けた。


こいつに油断しやすくなることがわからないはずはないんだけどな……どっちかというと、こいつの方が俺を導いてそうだ。信じて戦うか。


「……」


2人でそんな話をしていたが、ロロは反応を見せない。

疲れて使えないとか、ないよな?

ずっと黙り込んでしまっていて少し心配だ。


「ロロ、大丈夫か?」

「うにゅ、大丈夫」


うーん、ヤバそう。

口ではそう言うが、彼は骨がなくなったかのような脱力を見せているし呂律も回っていない。

と、ロロを観察しているとまたヴィニーがぼんやりしている。


「2人共大丈夫かよ?」

「……なんであの2人は、まだ来ないんだろうね?」


また心配になって声をかけると、彼は今度はいきなり不安になるようなことを口にし始める。

勘弁してくれよ……


「不安を煽るなよ……」

「ごめん」

「はぁ……ヴィニーはここと廊下、どっちであの2人と戦いたい?」


俺の場合は、あんな素早いやつに飛び回られると勝てる気しないからここで戦いたい。

もしヴィニーもそう言うのなら、あの2人はそれをわかっているのかもしれない。


「そうだね。ここ……かな」

「なら、あいつらはそれが嫌だったんじゃねぇの?」

「そうかも」


ヴィニーも同じ意見ということで、あいつらが場所を嫌っていると話が落ち着いた。

と、思ったら……


「ふにゃー!! ふっかぁーつ」

「……場所より体力の方を気にするべきじゃない?」


途端にロロが騒がしく跳ね始める。

癒されるけど、話が悪い方向に進んでしまうな……


たしかに場所よりも敵の消耗してる時を優先するべきっていうのは明らかだ。

明らかだけど……


「考えてもどうしようもねぇよ。今は作戦だ」

「理想は、俺が強い方を倒して2人が弱い方を足止めするだね」

「ここで待つか?」

「いや、進もう。もし、戦闘前にお嬢を助けられたら勝率が高まる」

「了解。ロロ、進むから静かにな」

「あいさー」




~~~~~~~~~~




俺達はさらに奥へと進んだ。

言うまでもなく、あの空間を出た先も相変わらず暗い廊下だ。

といっても、出たというよりはまた屋敷に入ったって感覚だけど。


一応ところどころで大きめの部屋にも入ったのだが、そこにいたのはほんの数人の知性のない魔人。

数が少ないので中庭の時と同じように、ヴィニーがすぐに方を付けてしまった。

彼のあの話を聞いた後なので、より不気味に感じる出来事だった。


「ローズがいたところってのはまだ着かなそうか?」

「もう少しだよ。だけど、少し先に部屋がある……そこを超えた先だよ……」

「双子はそこかな。迂回はできない?」

「あの大広間を進んじゃったら、もう無理だよ……」

「じゃ、要警戒だ」


既に、扉が近づいてきていた。開けなくても分かる、渦巻く風の神秘。

軋む扉を開いた先には……




「アハッ来たねぇ」

「……」


やはり彼らが待ち構えていた。

先程会ったときよりも、濃厚な殺気と神秘。

予想はできていたのに、思わず口から文句がこぼれ出てしまう。


「うわぁ……やっぱりかぁ……」

「アハッ。アハハハ……殺す……アハハハハハハ」

「……」


怖すぎる。

俺が顔を歪めていると、彼女は前回よりも狂気度を増した高笑いとともに、勢いよく突撃してくる。


「せっかちだね‥」


すると、ヴィニーが前に出て剣を構える。

当然初めは、彼の見極めからだ。


もう既に俺達が力をかけてるから、しれっと倒しそうだけどな。

俺がそんなことを考えていると、迎え撃とうとしたヴィニーは唐突に身を翻す。


「っ、2人も回避!!」

「え‥」

「クロー!!」


反応できなかった俺を、ロロが吹き飛ばす。

するとさっきまでいたところにあったのは、数え切れないほどの小さなナイフだ。

念動力で飛ばされなければ危なかった……


「アッハハハハハ」

「これは分析いらないかな。2人が相手するべきだね」

「運と念動力か?」

「そう。あの人がどんな力かは分からないけど、同じってことはないはずだからね」

「了解だ」


正直俺の運もロロの念動力も、あの数のナイフを避けられるとは思えないけど……

それでも、剣1本のヴィニーよりかはマシか。


俺は覚悟を決めて、一歩踏み出す。

その間も彼女は、ウズウズとした表情で俺達を眺めている。

風は強くないのに、その圧は凄まじい。


「2人がかりだが、悪く思うなよ」

「"そよ風の妖精(ゼプュロス)"

……うん? 分かった分かった。

じゃあ一応、名乗っとくよ。

あたしはフー・ヴィンダール、あいつはリュー・ヴィンダールだ」


離れていてよく分からなかったが、あのリューというやつが何か言ったのか?

フーは唐突に正常そうに戻ると、そう名乗ってきた。

これで少しは頭が冷えてくれると助かるんだがな……


「俺はクロウだ」

「ロロだよ」

「……ヴィンセント」

「アハッ。さあ、死合おう!!」


うん……そうだよな……

むしろ水を差された事で、色々な圧が高まった気がする……


だが、その気性に反して彼女の風は恐ろしく精密。

辺りに吹くそよ風は細かく操られ、1つ1つが彼女の手足のようだ。


「出し惜しみ無しで行くぞ」

「あいさー」

空間すべてが敵かのような戦いの幕が上がった。




~~~~~~~~~~




フーが2人に襲いかかった後、この場に残るのは静かな男。


「君は、本当に喋らないね」

「……」


"恵みの強風(ノトス)"


黙りこくったリューは、やはり予備動作無しで動き出す。

全身に宿る風は、その無口さとは裏腹に荒々しく、しかし精錬されていた。

見かけ上では多少強い程度で、何の変哲もない風。


それを見たヴィンセントは、今までの無知性達の上位互換だと判断した。

向かってくるリューを、真っ向から受け止めるべく、剣を構える。


しかし、リューは少し変わったな動きをし始めた。

空中で跳ねるかのように動き出したのだ。


だが、フーと同じようなそよ風ではない。

言うなれば全身が風の噴射口。

緩やかな曲線を描くことはなく、壁にぶつかりながらのようなカクカクとした移動だった。

風の魔人として、珍しい戦い方。


いや、正しくは違う。

今までの知性のない魔人達が、まるで()()()()()()()()()()統一された戦いを行っていただけ。

彼は知性があるだけに、正しく魔人だったと言うだけの事。


その動きを見たヴィンセントは疑念を確かなものとして、強大な神秘に挑んだ。




~~~~~~~~~~



-クロウサイド-


俺とロロもヴィニーの憂さ晴らしで強くなったと思っていたのだが、フーもまた先日戦った時より遥かに強かった。


彼女は先日同様、自身をそよ風で操作することにより蛇顔負けの柔らかさを持つ攻撃を繰り出す。

それも防御のしにくい厄介な攻撃なのだが、今の彼女は範囲攻撃まで使ってきていた。


小型のナイフを風で自由自在に操り、飛ばしてくるのだ。

これが実に厄介。

数がそもそも多いのもあるが、彼女の手足と同じく防御の直前で軌道を変える事がザラにあるのだ。


接近しても、距離を取っても軌道が読めない。

そんな戦いづらい相手だった。

運、そして念動力がなければ1分も持たずにズタズタになってしまっただろう。


ローズが捕まってなければ苦戦しなかったのにな……

彼女がいない今、不本意ながら俺達が適任だった。


「アッハハハハハ」


そしてさらに心まで削ってくるのが、彼女の性格。


攻撃を死にものぐるいで避けている俺達からしてみれば、あの狂ったような笑い声は死神のようなものだった。


ふっつーに怖い。

てか、性格と能力が合ってないだろ絶対。


「クロー、他にオイラにできることない?」

「分からん。俺らの力は抽象的すぎるからな……」


ナイフの雨の中、俺達は頭を悩ませ続ける。

基本的に攻撃は、俺のナイフでしか出来ないのがキツイ。


「アハッ。話してる余裕が〜あるのか〜い?」

「ねぇな!! けどそうしないとなんも変わんねぇだろ」


また、接近してナイフを突き立てようとしてくる。

今回もどうにか反らしたが、それでも少し掠めてしまった。

彼女は近くにいるが、ナイフの雨のせいで追撃する余裕はない。弾くので精一杯だ。


凌ぐことしか出来ずに、少しずつ消耗していく。

突破口がほしい……


「念動力であいつぶっ飛ばせねぇか?」

「オイラそんな力強くないよ」


試しに聞いてみると、ロロはナイフを反らしながらそう答える。


……そりゃそうか。

あんな狂気的なやつと同じ力が小猫に出せる訳がない。


といっても、彼には自分の身を守る事を優先してもらっているので、負傷はゼロだ。

精神は擦り減っていると思うけど。


「あいつにナイフを向かわせるのは?」

「大ざっぱに飛ばすだけならできるかも」

「アッハハハハハ。うっぜぇ事考えるなぁ」

「お前は黙れ!! ロロ」


ほんの少しのナイフが彼女に飛ぶ。当たる気配はないが……

ほんの少し軌道を変えるくらいならできるか?


「ナイフに当てろ」

「あいさー」


弾幕が弱まり、やっと接近できる。

よっし!! ひたすら防戦なんてのはこれまでだ!!

俺は一気に攻撃に転じる。


「直接肉を抉るのも、あたしは好きだよ?」

「っ、抉らせねぇよ」


ロロの援護は、俺の運こみで中々の精度で攻撃を弾く。

それでも止むことはない雨を両手のナイフで弾きながら進んでいると、彼女はさらに細やかな調整を行い接近戦との両立を始めた。


前はフーとの打ち合い、左右と後ろはナイフの雨。

彼女を目の前にして、雨への対処はほぼ不可能。

ふざけろっ……!!


「ロロー!!」

「任された!!」


ロロに向かうナイフの数が減り、俺への密度が上がる。

おそらく、精密さを上げたせいでロロまで意識を割きにくいのだろう。


こちらにとっては好都合。

念動力の守りの割合を上げてもらい、フーに集中する。

だが……


「数はまだ増やせるよ〜?」

「どんだけナイフ、持ってんだよ!!」


もうこいつ、頭がおかしいっ……

今までだって雨だったのに、これなんだよ!?

嵐か!?


て……あ、つい文句を言ってしまったけど普通にやばい。

無駄な隙を作ってしまった……

いくらかのナイフが念動力をすり抜ける。


ギリギリで弾くが、その後ろにも隠れたナイフ。

いや、だから!! その性格でなんて芸の細かいやつだ!!


俺は叫び出したいのをこらえて、がむしゃらにナイフを振る。

どうにか致命傷にはならなかったが……


「ぐっ‥」


意識が逸れた隙に、フーの一撃が俺を穿つ。

致命傷とまではいかないが、右肩からは鮮血がほとばしった。


くそっ……こいつ。寄りにもよって右かよ。

利き腕をやられてしまい、ついなぶられるイメージが頭に浮かぶ。まだいけるか……?


「アッハハハハハ。キレーな血だね〜」


ナイフを落とすまではいかなかったが、やっぱり全力で振るのはキツイかもしれない……

というか、普通に無理!!


「クロー!! 治癒力は上がってる。しばらくしのいで」

「分かった。どれくらいかかる?」

「浅いなら数分。だけど……早めるよ」


そう言うと、ロロが俺の元まで飛んでくる。しかし……


「アハッ。猫ちゃんの血も、見せてくれるの?」


フーは口が裂けてるのか、と言いたくなる程の笑顔で突っ込んでくる。

どうやらロロまでズタズタにするつもりらしい。

怖いのは性格だけにしてくれよっ……!!


「見せるかよ!!」


再び、雨。

これは片手ではきついかもしれない。

一瞬、死を覚悟する。

なら……


「飛べ、チル」


空中にいきなり青白く輝く鳥、チルが現れる。

さっきまでの呼びかけには応えなかったチルだが、今はこれまでで一番の輝きを放ちながら飛ぶ。


これは常時発動の呪い。

なら死にかけている今、その力は最大限に発揮できる。

さらに、今のチルに攻撃を気にする必要はなく、さらに多少自我がある。


……ある……よな? きっと死なねぇよな……?

初めてでかなり不安だが、それを吹き飛ばすように勢いづける。


「どうあっても俺を殺させねぇ呪いよ。今がその本領発揮の時だぜ」


"幸運の呪い(チル)"


チルは羽ばたく。実体はない。

だが神秘であるチルはそんな理屈など超え、希望の風を吹かせる。

それは俺だけを守る自動機構。


フーのそよ風に勝てる訳ではない。

だがその風は十分すぎる抗いを見せ、殆どのナイフを俺から逸らす。


「今だけは俺の守りは必要ねぇ。自分を守れ」

「あいさー」

「いいのかい? そんな無防備で」

「お前だけなら、問題ねぇ」


フーが直接ナイフを振るってきたが、力付くで押し返す。

そして丁度そのタイミングで、ロロが俺の元までたどり着いた。


フーも近くて最高のタイミング!!

あとは一瞬だけ死ななきゃ勝てるっ……!! ……はず。


「治癒力上昇だ〜」


ロロが俺の傷を舐めると、直接舐めたからだろうか、見る見るうちに傷が塞がる。


「ナイスだロロ」


傷は治った。チルは……まだ行けそうか?


間違いのないように確認すると、チルは少し光が弱まりながらもナイフに負けずに飛んでいる。

よし!! なら、今が好機だ!!


「行くぞ、フー」

「アハッ、滾るねぇ」


チルの起こす風は俺を守る。

その分ロロに多くの攻撃がいってしまうが、彼の守りは固い。後顧の憂いなし。


一息に距離を詰め、目をギラつかせた彼女と向かい合う。

いや、怖すぎる……なんて笑みを浮かべてやがるんだ。


「奥の手が、あったんだねぇ」

「はっ、賭けだ。俺の制御出来る力じゃないんでね」


捉えられない曲がる太刀筋。

だが、此処までお膳立てされてんだ……


怪我は、治る。

なら今はただこいつを倒す、そのためだけに。

全身全霊で、ナイフを振るう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンに緊迫感があって良いと思います。風で変則的な動きをする双子という設定も面白くて良いですね。 [一言] 主人公の能力が抽象的なので、描写が大変でしょうが頑張ってください。
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