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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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133-天迦久神・前編

行きと同じく射楯大神に乗った俺達は、ドールや真神と別行動を始めた場所を目指して移動する。

今回は巨大な蛙―多邇具久命(タニグクノミコト)が射楯大神の下にぶら下がっているので、スピードはかなり遅い。


だが彼女達は、一応俺達のような神獣探しではなく、獅童の解凍と説得をしているだけなので動いてはいないはずだ。

もし動くとしたら、獅童が代わりに誰かと戦おうとしたり、運悪く天迦久神に見つかってしまっていたりした場合だけ……


流石の獅童も、まさか仲間との殺し合いなんてしようとしないだろうし、こんな広い森でピンポイントで見つかるのも逆に難しい。


きっと大丈夫だろう。

俺は、そんなふうに楽観的に予想していた。

していたのだが……


「やっぱり前方で何か光ってるねぇ。

炎、それから……ふっふ〜。本当に山火事になっちゃいそう」

「ううむ……地面に足をつけておらんのでわからんが、これは下手したら森が消し飛ぶぞい」


森の中をしばらく飛んでいると、遠くに色とりどりの光や爆音付きの煙などが見え始めた。

最初に異変に気がついたのは、普段から空から遠くを見ているであろう射楯大神だが、今では全員に見えている。


獅童が誰かと戦おうとしたのか、天迦久神が彼らを見つけて殺しに来たのか……

どちらにせよ、とんでもないことになってそうだ。


なのにこの梟ときたら……まるでゲームでもしているかのように楽しげに話している。


陽気で親しみやすい方だけど、理解はできないな……

親しみやすい上に、人間をよく知っている多邇具久命とは大違いだ。


「しどー、かみかみ、夜刀へび、しかの神獣、ドールん。

みんなたたかっちゃってるよ、クロー」


射楯大神の頭に登って感知をしてくれたロロが、現場の詳しい状況を教えてくれる。教えてくれるんだけど……


真神と吾輩、ドールの呼び方どうした……?

大惨事になりそうでテンションがおかしくなっているのか、急にあだ名で呼び始めている。

いや、かなり気が抜けるぞその呼び方……


おっと、かわいい呼び方を気にしている場合じゃない……!!

少し気が削がれたが、頭を振って意識を戦場に戻す。


うーん……獅童と天迦久神はもちろん暴れているようだけど、まさか真神とドールまで参戦してるとは思わなかった。


吾輩は流れで暴れそうだけど、あの2人ら止める側かと……

まぁ獅童が暴れ始めたら、実力行使しかないんだろうけど。

……俺達が戻って抑えられるかな。


「鹿ってことは、天迦久神だよな?」

「そりゃあそうだろうさ。あれは頭がダイヤモンド。

獅童を見つけて殺しに来たんだろうねぇ。

鹿焼きダイヤモンド乱反射!!」


頭がダイヤモンド……?

普通に頭が固いって意味にとっていいんだよな?

それに、最後のはもう独特すぎて考えるのすら面倒くさい。

無視しよう……


「む? さっきとは音が違うの……」


また遠くで爆音が鳴ったのを聞いて、多邇具久命が俺達の下でつぶやいた。


さっきまでの音というと、多分獅童が爆炎を放っていると思われる爆発音だけど……

正直俺は、あんまり音を聞き分けようとしていなかったので、多分聞き逃していた。違いがわからない。


音なのでもちろんもう消えているが、また聞こえてこないかな……と耳を澄ませてみる。

すると、大きく地面を抉るような音、木の幹が粉々に吹き飛ぶような音が聞こえてきた。


獅童の炎なら、地面を抉ってもおかしくはない気がするけど……それだと木なんか音もなく灰になるだろう。

真神には大して破壊力がなさそうだし、吾輩が水で吹き飛ばしたか、ドールが分身を犠牲にする攻撃でもしたか……?


でも、もしあの池を作るような攻撃をしたのなら、多少は俺達のところまで水が飛んできそうなものだ。

それにドールのも、犠牲を作りながらなんて真神がさせるとは思えない……


やっぱり天迦久神がやったことだと思った方がいいのか……?

大口真神、夜刀神、橘獅童、ドールを相手に、そんな大暴れができるような存在だとは思いたくないんだけど……


俺はちょっぴり期待を込めて、多邇具久命り聞いてみる。


「本当だな。なんの音だ……? わがは……夜刀神か……?」

「大口真神は雪、夜刀神は水、橘獅童は炎じゃからの。

おそらく天迦久神じゃろう。あれは炎や水に耐性こそあるが、基本的に特殊な力は持っとらん。ただ切り開くのみよ」


彼は、淡々と天迦久神の力について話してくれた。

期待はもちろん大外れで、かなり強いようだ……

だけど、切り開くのみとは……? 力なのか……?


「それってどういう……」

「ついたよぅ。殺されないようにお気をつけて〜」

「は……? あ!?」


もう少し詳しく聞いておきたくて、俺がさらに質問を続けていると、ちょうどその瞬間、戦場に着いてしまったらしい。


頭に乗っていたロロを除いて、爪で掴んでいた多邇具久命、背中にいる俺とライアンは容赦なく振り落とされる。

爪は離すだけだったが、俺達はくるくると回ってまでだ……!!


人間は!! 落ちたら死ぬんだぞ!?


「ふざけるなぁぁ……!!」

「ミーはあんなのと戦えないからヨロ〜」

「おお〜う……これは流石に辛いなぁ〜」


一度落とされてしまえば、もう射楯大神の上に戻ることはもちろん、やり返すこともできない。

俺は為す術もなく、天迦久神と獅童、大口真神、夜刀神、ドールが戦っている場所に落ちていった。




~~~~~~~~~~




「あぁぁ……!!」

「ほいさ!!」

「へぶ!!」


……何か、柔らかいものの上に落ちた?

空高くからだったから、普通の地面は論外として……

もし耕されたふかふかの土や葉っぱの山があったとしても無理そうだったんだけど……


不思議に思いながらも手足を動かし、少し周囲の状況を確認してみる。固形というには柔らかすぎるが、決して水ではないもの……泥か?

え、全身泥に浸かったのか!?


俺が状況を理解して飛び上がると、目の前にいたのは先に落とされた多邇具久命だ。

満足そうに笑いやがら、俺達を見ている。


「ゲココ……昔子ども達に頼まれたもんで、汚れない泥を作ったのじゃよ。いいじゃろ?」

「ああ……そうだな。ありがとう」


彼の言葉を聞いて確認してみると、たしかに泥は体にくっついてこなかった。もはや水と言っても過言ではないくらいに、スルスルと綺麗に体から離れていく。


というか、もし水だったら濡れるけどそれもない。

水よりも便利だ……


「ついでに戦場はもう少し先じゃ。爆風でズレたかの」

「ほほ〜。ならさっさと行こうぜ〜」

「俺とか無力な気がするけど、仕方ないな……」


彼らが視線を向ける方向を見てみると、木々を薙ぎ倒す衝撃波のようなものが飛んできていた。

ここまで来ると、獅童の炎や吾輩の水、真神の雪も舞っている。


本当に仕方ないな……

俺達は泥から立ち上がり、余波に気をつけながら戦場へ向かった。




~~~~~~~~~~




俺達が戦場に辿り着くと、そこにあったのは思っていた数倍は恐ろしい、地獄のような光景だった。

中央に陣取っている白く美しい鹿の神獣――天迦久神に向かって、四方八方にいる真神らが攻撃を仕掛けている。


彼らは森が焼けたり凍ったりしても、地面が抉れてクレーターが生まれてもお構いなしだ。


もしかしたら、環境の変化など目に入っていないのかもしれない……というかむしろ、そうじゃない方が恐ろしい。


"開闢剣-葦原"


"白狼"


"神殺しの神火"


"瀑布"


"感情の仮面(ロキ)"


それは、天迦久神がすべて捌き切っていなければやりすぎだと思えるくらいの、とんでもない集中砲火だ。


真神は周囲に降り積もる雪を操作し、流体の体を持った白い狼を作り出して一方的に攻撃を加えている。

吾輩は口から地面を抉るほどの威力の水ブレスを吐く。


獅童は飛鳥雪原を焼き焦がした炎を、全身から天迦久神に向かって放出しているし、ドールも分身を呼び出して、遠距離から攻撃したり全身にまとわせて突撃させたりしている。


守護神獣達と獅童の攻撃は、どれも環境を変えてしまうような異常な威力だ。


もちろんドールのものだって無視はできない。

俺だったら彼女の攻撃だけでも手一杯で、1分も保たないだろう。


だが天迦久神は、一体どういう理屈なのか頭の角一本でそのすべてを捌いていた。


白い狼は形がないので避けているが、吾輩の水ブレスや獅童の炎は角を振るだけで両断し、ドールの分身たちの攻撃も、そのついでといった風に軽く角を当てて消している。


さらには彼らの攻撃の合間にも、天迦久神は全力で角を振るって大地を裂き、木々を薙ぎ倒していた。

真神達の攻撃が天迦久神を狙っている分、森への被害は彼女の方が多く出しているかもしれない……


いやもう本当に……俺にどうしろって言うんだよ……

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