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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
147/432

131-射楯大神

「あれぇ? 呼んだよね? ほら、ミーをさ。呼んでない? いやいや、呼んだよ? え、無視しないで……?」

「……」


あまりのことに、瞬きが止まらない。

もちろん返事なんて返せるはずがない。


……暗い森で何故か影をまとって追ってきた巨大な鳥。

ずっとついてきていたので、間違いなく俺達を狙ってきているはずだった。


だが、ついに接近してきたと思っても攻撃してくることはなく、むしろフレンドリーに話かけてくる……

よくわからないけど、攻撃してこないならひとまず剣をしまってよく考えてみるか……?


どうにか考える、というところまで戻ってこれたので、俺は静かに彼を見つめてこれが何なのか考えてみる。

すると、その間にも彼はまた馴れ馴れしく話しかけてきた。

やっぱり名前は知っているようだ……


「ちょっとー!! たしかに森は暗いけど、ミーのこと見えてるよねぇ!? クロウくん!? 呼んだでしょ? ねぇーえー。

呼んでおいて無視はひどいと思うなぁ。ねぇ? ねぇ?」


とりあえずこいつ、騒々しいな……その割には羽ばたきの音はしないけど。いや違う違う、今は騒がしさとかどうでもいいんだ。俺は頭を振って、改めて考えてみる。


俺の名前を知っている……何故?

だけど、フレンドリーな鳥ってことは……なんだ?

少なくとも魔獣じゃない。


この国で有名な神獣といったら、妖鬼族以外では人間と関わらない守護神獣か、人間を襲う魔獣――妖怪くらいのはず……

どっちでもないぞ? いや、ほんとに何こいつ……?


考えてもなんにもわからない。

いっそのこと、ちゃんと話しかけてみるか……?

何故かめっちゃ名前を呼びかけてくるし……


俺がそう思っていると、真神が何かに気がついたようにスピードを落とし始める。

すると、彼女に釣られたのか、俺と冷徹が乗っている吾輩も戸惑いながらスピードを落としていく。


そして速歩きくらいにまで落ち着くと、彼女は後ろを振り返って意外そうな声を発した。


「おや……? あなた、この国にいたのですか?」

「あー!! ようやく話してもらえたぁ!! ねぇクロウったらひどいんだよ? 自分からミーを呼んだくせに、完全に無視するんだ」


真神の口振りからして、どうやら知り合いだったようだ。

なら守護神獣でいいのかもしれない。

鳥の守護神獣と言ったら……え、射楯大神(イタテノオオカミ)!?


よく見たら、彼のすぐ側にチルもいる。

俺はひとまずチルを呼んで、彼らの様子をうかがうことにした。


「おお!! 射楯大神ではないか!!」

「イエ〜イ、夜刀神〜!! 元気してた〜?」

「していたとも!!」


夜刀神が急に動くのでしがみついていると、彼は鳥の神獣――射楯大神を尻尾辺りに乗せ、仲よさげに話し始めた。

吾輩という一人称を教えてもらった相手らしいし、やっぱり仲は良いらしい。


さっきまで真神に愚痴っていたはずの射楯大神も、もうそのことを忘れたように陽気だ。いや、ほんとどいつもこいつも……何で八咫の奴らは、こんなに自由気ままなんだ……!!


「夜刀は黙っていなさい」

「う、うむ……」


だが、真神はいつもと変わりなく冷静で、話を進めるために吾輩を黙らせると、射楯大神に問いかけ始める。


「無視と言っても、初対面なら当然の反応でしょう。

まず、何故彼の名前を知っているのです?

しかも、襲ってきたと勘違いしていたのもあなたに対してですよね? もう少し普通に登場できなかったのですか?」

「うわぁ……矢継ぎ早の質問だね」


真神に問い詰められても、彼は軽薄なままだ。

頭を落ち着きなく動かしており、話しかけてきたくせに話す気があるのかと不安になる。


あと他の守護神獣は大体白いのに、彼が黒いのはなんでだろう……?


「まず、名前を知ってるのはミーがいろんなものを見てきたからさ。キミたちと違って、外を飛び回っているんでね!!」

「彼は外では有名なのですか……? まぁいいでしょう」

「んで〜……襲撃? それはキミたちが動くからじゃん?

話したいのに逃げるんだもの」


彼は頭を振りながら1つ目を自慢げに、2つ目をゲームでもしているかのように楽しげに答えた。

ただ、なんか大雑把というか……かなり納得がいかない。


まず俺は有名なんかじゃないし、もともと移動していたところを追ってきたのがこいつだ。

こいつが近づいてきたから動いた、とかじゃない。

それに、黒い影が追ってきたら間違いなくビビる。


暗い森の中で、闇に紛れるような見た目で高速移動についていったけど、それは動いていたキミ達が悪いよね……だなんてふざけんな。


仮に立ち止まってても、暗闇に紛れて黒い物体が迫ってきたら怖すぎて逃げるわ……!!

頼りになる真神も、彼の話を聞くと同じように指摘してくれた。


「まずあなたがいることを知らなかったのですが……とりあえず、旅装束はおやめなさい。我の目から見ても怪しいです」

「おっとぉ!! まさかそんなところにからくりが!!」

「常識です。暗闇に紛れていたらそうなります」


すると彼は、まるで世紀の大発見!! とでもいうかのように大袈裟に驚いて見せる。

これ、本当にわざとじゃないのか……?


とりあえず、影のような見た目は普段のものではなかったらしい。なのにそれがどう思われるかを理解していないのか……


そんなことを考えていると、彼はすぐに見た目を元に戻す。

他の守護神獣達と同じように、全身真っ白な神々しい姿に。

真神ほどではないが、吾輩よりは輝きが強い気がする。


真神はそれを確認すると、改めて射楯大神に問いかけた。

今度は名前を知っていた謎や、射楯大神にあった問題点ではなく、そもそも国にいたということへの驚きだ。


「それで、何故ここに? いつの間に帰っていたのです?」

「ミーは北風のように、自由気ままにやってくるのさ。

ほら、かつての文明の歌でもあるじゃない。北風〜小僧〜の寒太郎〜(カンタロウ〜)今年も〜街ま〜でやってきた〜……って、冬だからくるんじゃ、ミーと真逆だねぇ?」

「……はぁ」


真神にとっては、ほとんど会えないはずの友がタイミング良く国にいたという、身近だからこそ気になるもの。

さっきの、自分とは無関係な謎やくだらない奇行ではない。


そのため、より関心を高めて聞いていたのだが、射楯大神は相変わらず少しズレた反応だ。真神もたまらずため息を零す。もしかしたら少し苦手なのかもしれない。


俺からしても印象は同じだ。

世界中を回ったら無名の俺のことを知ったとか言ったり、闇に紛れた追跡も俺達のせいだったりするのももちろん、急に歌い出すのもまともじゃない。


……クロノスも似たようなもんか。

彼の場合は詩ではなく歌だったので、裏声まで使ったものだけど。


「では、用件は?」

「だから呼ばれたんだって〜。クロウがさっき小鳥を回収したでしょ? 案内してもらったの」

「すると……もうあなた達が話す番ですかね?」


もう気になることはなくなったようで、彼女は俺達の方を向いてそう問いかける。

俺達の番……守護神獣である射楯大神を、戦いに引っ張り出す交渉の時間だ。


彼は真神と話していたので彼女の方を向いていたが、位置的には俺めがけて飛んできていたので俺が近い。

というか、吾輩に乗っているから目と鼻の先だ。


なのでいつも通り俺が交渉することにする。

ただの性格かもしれないが、因幡と同じように友好的っぽく感じるので協力してくれるとありがたいけど……


「射楯大神。あと大体9日前後で、愛宕に妖怪と妖鬼族が攻めてくるらしいんだ。俺達に加勢してくれないか?」

「オッケー、任せて」

「もちろん人間があんたらに攻撃を仕掛けたのは謝……る……

え、いいの!?」

「うん、いいよ? 天逆毎みたいに、あんまり強いのとは戦えないけど……それでも良ければ喜んで!!」


俺は、少しくらい渋るだろうと高を括っていたのだが、彼は迷いなく戦ってくれると断言してくれた。

幕府の下っ端が暴走して、彼らに攻撃を仕掛けていたんじゃなかったのか……?


……あ。そういえばこいつは、ずっと外国を飛び回っていたんだっけ? 多分吾輩と同じくらい生きているはずだし……

え、まさか3000年以上そんな感じだったのか!?


少しは国に留まっていた時期もあるだろうし、その期間に人間といざこざを起こしているかもとが思っていたけど、思いのほか変人……いや、変鳥だったようだ。


「えっと……じゃあよろしく」

「ふっふっふ、任せといてぇ!!

ミーは撹乱とか得意だからね〜」


俺は戸惑っているというのに、彼はなんとも思っていないような、陽気な返事を返してきた。


こんな反応なのに、よく自信たっぷりでいられるな……

もし俺だったら、なんかしてしまったのかとちょっと不安になる。


あと、飛ぶ音はまるでしなかったけど、それ以外がうるっさい。ライアンタイプっぽいから、苦労は少なそうだけど……


返事がトンチンカンだったりするんだよな……

そこが面倒っちゃ面倒だけど、まぁムードメーカーだと思っておこう。


「あっはは、そりゃあいいな〜。獅童の爺さんや海音、夜刀神も脳筋っぽかったし〜、美桜も撹乱って感じでもなかったから助かるぜ〜」

「おいおい。吾輩、これでも頭脳派で通っておるのだぞ?」

「バカ言うなよ〜。

頭脳派は無闇に暴れて叩き潰されねぇよ〜」

「む……」

「いいねぇ。やるねぇ。面白いじゃんキミ〜」


外で何を見ていたのかはわからないが、運が悪ければ会えなかったと言われていた分、会ってしまえば簡単だったな……


しかも夜刀神と仲がいいので、ライアンともあっという間に馴染んでいる。

……いや、ライアンは元から誰とでも仲良くなるか。


まぁとりあえず、一番大変だと思ってた守護神獣は、いとも簡単に仲間になってくれましたよ……と。

なら次は……


「あの、もう解凍しても大丈夫ですか?」

「おっと……そういえば獅童がいた」

「忘れないでください。また消えてしまいますよ?」

「悪い……」


残りの三柱のことを考えていると、俺の背後――吾輩の頭近くから冷徹が声をかけてきた。


凍らせ続けているからか、それとも昨日も同じように力を酷使していたからか、少し顔色が悪い。

早急にどうするか考えないと……


俺は彼女にもう少し待ってほしいと頼むと、守護神獣や真神の方にいるみんなに聞いてみる。

射楯大神は味方になったけど、正直近くにいるのを見たら教える前に爆発しそうだ。


「あいつ、どうする?」

「夜刀神さんは仲間として会ってますけど、初対面で敵と思っていた場合はどうなのでしょう……? ハラハラ」

「いや〜、夜刀とも殺し合おうとしてなかったか〜?

危ねぇってあいつは〜」


まず人間側の話としては、全員が自分達の手に余る怪物だという認識のようだ。

俺も含め、同族であるはずなのに誰一人信じていない。


ドールだけは少し信じる気持ちがあるようだが、それでも疑惑から入っているのだからもう無理だな。


「そうですね……射楯大神に会わせるのは、説明した後の方がいいでしょう。我も最初は力試しだと襲われました」

「へぇ、面白い子だねぇ!! ミー達と遊び感覚で殺し合おうだなんて。いやぁ……長生きでいい感じに狂ってる。

長距離飛行で疲れた筋肉がほぐれそうだよぉ」


それは獅童の炎で燃えたり、拳で殴られてってことか……?


「やつは人間の範疇を超えているぞ……!?

お主などすぐ焼き鳥だ、焼き鳥」


そして、それは神獣側の話も同様だった。

愛宕でキレていた吾輩はもちろんのこと、知り合いであった真神でさえも解放すべきじゃないと断言する。


1人……いや、1頭おかしいのがいるけど、まぁ流石に解放するようなことはないだろう。

冷徹を無理やり引き剥がすことになるし。


「なら射楯大神は一回どっか行っててくれ。説明する」


ほぼ満場一致で、まずは射楯大神が目に入らない場所で獅童に説明するということが決まった。

なので俺は、射楯大神にこの場を離れてもらおうと声をかける。


だが彼は何を思っているのか、くるくると頭を回すばかりで飛び立つ様子を全く見せなかった。

あんたがいたら、いつまで経っても話が進まないんだけどな……!!


「どうしましたか? 焼かれますよ?」

「うーん? そうだねぇ……キミ達次はどこへ? 多邇具久命、天迦久神、隠神刑部にも会うつもりみたいだけど」


真神が離脱することを催促すると、彼はマイペースにこの後の予定を聞いてきた。頭をくるくる回しているのも相まって、ちょっと腹立つ。時間食うなぁ……!!


「……どこ行く?」

「まぁ順当に行けば多邇具久命じゃね〜?

一番話せる相手なんだろ〜?」

「そうですね。敵対も、騙そうともしてこないでしょう。

我もお勧めしますよ」


敵対するのはともかく、騙そうとしてくるのはちょっとどういう心境なのかまったくわからないな……

隠神刑部にはあんまり会いたくねぇ……会わないとだけど。


しかし真神のお勧めなのだから、隠神刑部じゃなくて多邇具久命に会いに行くのでいいだろう。

見張れと言ったのも彼女だし、助言に従っても問題ない。


「そうだな。多邇具久命を探すよ」

「オッケーオッケー。

ならクロウ、ミーと一緒に飛んでいこう」

「は? 場所知ってるのか?」

「いーや? でも、森はミーの領分さ。

説明してる間に見つかるかもよ?」


俺達が次の予定を決めると、彼はすぐにその捜索を始めようと提案してきた。

頭をくるくる回しながらというふざけた感じでありながら、実に理にかなった案だ。


どうせ離れるんなら、一緒に探してしまおう……と。

しかし随分とせっかちだな……

追ってきた時もやたらと話しかけてきたし、もしかしたら暇な時間は嫌いなのかもしれない。


ちらりと見ると真神や吾輩も、特に止める様子はなかった。

実際、神奈備の森は射楯大神の方が詳しく、また移動にも適しているのだろう。


それに、森の中で獅童と一緒にいるとちょっと気が休まらない部分もあるし、逃げてしまった方が楽でもある。

……うん、逃げるか。


「……なら、そうするかな」

「さぁ乗って乗って!! 速く飛ぼ!!」

「わかったわかった」


射楯大神に急かされたので、俺は彼を落ち着かせながらよじ登る。


彼は、紐状の吾輩や美しい真神のようなスラッとした体型ではなく、少し丸みを帯びた体型なので少し登りにくい。

しかもすぐ滑りそうで、乗り続けるのも大変そうだ。


「うっし……登れた」


俺はもっふもふの体を苦労して登り終わり、しがみついて体を固定する。登っている時も少し思ったけど、これ移動する時の勢いで引っこ抜けたりしないよな……?


そんなふうに少し心配していると、真神からライアンが飛び降りてくる。


どうやら、いつも通り珍しい体験に惹かれているようだ。

彼は暗闇でもまぶしく感じるような笑顔で、射楯大神に話しかけ始めた。


「あ、ついでに俺も乗せてくれよ〜。

面白そうだから、体験してみてぇ〜」

「オイラもー」

「オッケー、任せといて。快速な森の旅をお届けするよ。

ただし、激突には気をつけてね」

「快適どこ行った!?」


彼とライアン達のやり取りに思わずツッコむが、彼らは気にせず出発の準備を整え始める。

2人共マイペースだ……


射楯大神は軽く羽を動かしており、ライアンとロロはそんな彼にしっかりしがみついて体を固定している。

うーん、急に不安になってきたな……


「さぁさ出発だぁ。爺さんのことはよろしくねぇ〜!!

焼き狼、焼き蛇にならないように気をつけてー!!」

「善処しましょう」

「善処じゃなくて、絶対にならないって断言してくれ!!」

「あっはは、面白いな〜!!」


くそ、俺ってこんなにツッコむキャラだったか……?

リューは引っ張り回してきたり、問題をよく起こすから文句を言ってたけど……


神達はどこかズレた反応をすることが多いから、別の意味で言葉を荒げてしまう……


しかも、ドールは言葉だけじゃ特に反応を示さないし、ライアンは面白がるばっかりだし……

俺ばっかりオロオロしてるな!!


俺は、さっきまで頼りになると思っていた真神にも少し不安を感じながら、射楯大神に乗って森を進んだ。


僕だったら絶対に疲れるから友達にはなりたくない人(梟)です。若いリューとは比べ物にならないし、状況によっては美桜や獅童よりも辛いかも。


あと、もしかして60万字超えましたかね?

本来の予定では2章は30万字前後で、そろそろ決着ついてると思ってたんですけどね……

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