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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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130-神奈備の森・後編

俺達が影と木の葉を突き破るような音を聞いて顔を上げると、かなり上空だが明らかに巨大な空飛ぶ物体がいた。

何故か俺達を追ってきているようで、不気味に光る目や無音の飛行がとてつもなく怖い!!


「何だ何だ!? あいつ何!?」

「うわっ鳥〜!?」

「どうかしましたか?」


真神と吾輩は、広大な神奈備の森を迷わずに進むために、前だけを見て進んでいる。

敵対する可能性があった天迦久神は鹿なので、なおさら空中などに意識を割いてはいない。


そのため影に気がついたのは、チルを呼ぼうと集中している俺を含めた、背に乗って辺りを見回していたメンバーだけだ。


だが獅童なんかは、神獣探しのような面倒なことはしないのでまだ気がついていないようだった。

しかし、俺達が騒ぎ出したことで怠そうに顔を上げる。


「おいっ!! 上に何かいるぞ!!」

「なにかの鳥の神獣だよー!! まだよって来ないけど、このスピードにもよゆうでついて来てるー!!」

「あぁん……? ほぉぉう、珍しいもんじゃのぉ!! どでけぇ鳥の神獣……!! 強えぇんかのう!? 戦かってもいいんか!?」


すると彼は、いつものように炎を散らして闘志を燃やし始めた。さっきまで飽きたようにダラダラしていたのに、一度興味を持ったら誰よりも楽しそう……


しかし、もし飛鳥雪原の時のようにやるのなら、森もろとも焼き尽くしそうだ。俺に止められる訳がないが、止めない訳にもいかない……!!


「無駄に騒ぐなよ!! 天迦久神とか来るだろ!!」

「けど、空から襲ってくるってんなら戦わねぇとな〜」

「だとしても炎は危ないっての!」

「はい。火事になったら死にますよ」

「あ〜……じゃあ、誰か止めに行くか〜?

夜刀神に飛び移ってさ」


最初は獅童の行動も致し方なしといったライアンだったが、他の全員に反対されると困ったように頭をかく。

とはいえ、飛び移って止められる相手でもないんだよな……


「……ならドールがやりますよ。また冷徹で凍らせます」


"冷徹の仮面(ドール)"


するとドールが、彼を飛鳥に連れて行った時のように凍らせてしまおうと、分身を生み出した。

近寄れるのであれば、たしかに一番確実に止められるけど……


冷徹の身体能力ってドールとそこまでの差はないよな?

飛び移れるのか……?


「乗れるのか?」

「どうでしょう……? 的はずれな場所でなければ、氷で固定しますけど……」


念の為確かめてみると、彼女はやはり飛び移るという部分で不安そうだった。ドール以外だと止める部分で不安だし……


「恐怖はどうだ〜? 雷で飛ぶとか〜」

「出せますけど……空、飛べますかね……?」

「いきなり試すのは怖いな。……もう俺が抱えていこうか?

早く鳥に集中したい」


相談している間にも、少しずつ鳥の神獣は近づいてくる。

暗闇の中に影を落としている異質な巨体は、目に映るだけで少し潜在的な恐怖を呼び起こす。


神奈備の森が炎に包まれてしまうまでの、カウントダウンが聞こえてくるようだ……

何故か追ってくる無音の鳥も怖いし、今にも大火事を起こしそうな獅童も怖い!!


今はライアンが、ケット・シーの力で氷や水、風なんかを飛ばして牽制しているけど、威力は控えめなのでそのうち一気に来そうだ。


何を投擲しても、あれへの影響は少なそうだし……

というか、無音でわからないけど多分無いな。

絶対にそろそろ来る。


そしてあれが来たら、獅童が大火事を起こす。

マジでふざけんなあいつッ……!!


「そうですね……ではお願いします」

「おう。じゃあロロを頼む」


冷徹がうなずいたので、まずはロロをドールに預ける。

そして、落ちないよう慎重に彼女に近づき、抱きかかえて真神の端っこに移動した。


真神も何かが来たことはわかったようだが、上を見たら木に激突するので、飛び乗る手助けなどは期待できないだろう。


俺自身の身体能力と、神秘による強化でどうにか……

普段から剣で戦っているので、ドールよりは遥かに自信があるけど、やっぱり不安だ。


「ふぅ……はぁ……よし、行くぞ」

「はい」

「おっらぁ!!」


少し深呼吸をして、落ち着いてから一気に吾輩に飛び込む。

2頭も並走してはいるが、吾輩は蛇なので掴みにくい。

しかも俺は冷徹の仮面(ドール)を抱きかかえているので、片腕しか使えないのも難点だ。


「……っと!!」


かなり滑りながらも、鱗にほんの少しだけある取っ掛かりを、どうにか片手で掴んで体を安定させた。

あ、危ねぇ……!!

どうにか夜刀神に飛び移れて、俺はほっと息をつく。


「はぁ、よかった……」

「では獅童様を凍らせますね」

「ああ、よろしく……」


だがそれに比べ冷徹は、いつも通り落ち着き払っていた。

俺の腕から出ると、薄く笑って大笑いしている獅童に近づいて行く。


氷で足元を補強できるので、かなり安定した歩みだ。

俺やライアン、本体のドールが中腰で慎重に進むのに、彼女はまっすぐ歩けるのがちょっと羨ましい……


「ぶわっはっは!! もうちっと近づいてきたら、(オレ)の最大火力をぶつけてやるでのぉ!! 耐えれるんか楽しみじゃのぉ!!」

「すみませんが、それは大惨事になるので止めさせていただきますね。また凍っててください」

「あぁん? っあ!! テメェま……た……!!」


そして、あの鳥だけを見ていて周囲の警戒をまったくしていなかった獅童を、いとも簡単に封じて見せる。


前回街でやった時にも思ったけど、やるべきことだからか躊躇が全く無いな……

相手によっては死んでしまうのに……ヒマリとか。

……つら。


「お〜い!! あの鳥飛ぶ位置がそっち寄りになったぜ〜!!」

「ん?」


俺はまた少し暗くなってしまっていたが、真神の上からライアンが大声で呼びかけてきたことで気を取り直す。

数回瞬きを繰り返し、ゆっくりと体の向きを変える。


振り返ってみると、たしかに鳥はこちら側に寄っていた。

たしかさっきは真神の背後に近い辺りにいたから、多分真神を狙っていたはず……狙いを変えたってことか……?


実際、真神よりも吾輩の方が弱いだろうし、体も安定させにくい。その上、乗っているメンバーも俺と分身1人と氷像だけだ。


こっちに襲いかかられたらひとたまりもないかもしれない。

あの不気味なのがこっちに来るのか……さっきよりも不安定な場所になって、さらに恐怖が数段増しだ。ちくしょう……!!


「冷徹は手を離せないんだもんな?」

「獅童様は力を溜めていましたし、多分4分の1でも力を分割したら燃えますね。大火事です」

「そりゃ大惨事だ……」


くそっ……本当に厄介なやつだな獅童は!!

サボるだけの他2人が可愛く見える!!

……はぁ。俺がどうにか受け止めるしかないか。


吾輩は……真神との並走しか気にしてないな。

あの鳥のことは、存在にも気がついていないかもしれない。

まぁ真神よりも注意しないと、上に乗ってるやつを吹き飛ばしかねないから仕方ないか……


俺は、気を取り直して吾輩の尻尾に近いところまで進む。

流石に尻尾なんかには乗れないけど、できるだけ後方で迎え撃たないと、吾輩から攻撃されそうだ。


もし尻尾を掴まれでもしたら、俺達まで振り落とされて重症だろう。せめて狙いは俺だけにしてくれ……

分身とはいえ冷徹もいるし、痛みを感じさせたくない。


鳥は真神の後ろから外れたことで、ライアンの牽制も減って近づくスピードが上がっている。

近づいてくるってことは、吾輩よりもスピードを出しているはずから気をつけないと……


巨大な鳥はじわじわと接近してきて、今にもその鋭い鉤爪や嘴で俺を攻撃して……


「ハーイ!! ようやく近づけたよぅ!!

ミーを呼んだよね? クロウくん」


こなかった。

…………は?


不気味な黒い影を落とす巨鳥は、俺の名前を呼びながらフレンドリーに接してくる。しかも、やけに軽薄だ。

…………は?


とりあえず敵ではない……らしい。

だが、俺は予想だにしなかったことに戸惑い、彼に何も返すことができなかった。



クロウと冷徹の組み合わせ結構好き

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