128-神奈備の森へ
翌日。ひんやりと心地いい大口真神のもふもふの毛に包まれて、俺は目を覚ました。
ひんやりとはしているが、雪原の冷気は遮断されていて快適この上ない寝心地だったな……
少し名残惜しく思いながらも、ゆっくりと体を起こす。
今日はいよいよ、守護神獣の半数がいる森に行く日だ。
獅童が暴走する可能性から目を背ければ、大口真神が同行してくれるのは頼もしく、うまくいく気しかしない。
吾輩は少し抜けてるところもあるからな……
俺も今起きたところである上に、まだ寝ている人もいるため、もちろん寝そべったままの大口真神を見てみる。
……目、開けてるな。
「おはよう、大口真神」
「おや、起きていましたか」
「今起きた。あんたは寝なかったのか?」
「もちろん寝ていますよ。
ほら、彼女が起きたので、我も一緒に起きたのです」
彼女の視線の先を見ると、昨日消した火を改めて起こしているドールがいた。何人かの分身を出して、朝食などの準備をしているようだ。
ライアンはともかく、獅童、吾輩なんかにはできないだろうから、どうしてもこうなるよな……
「我はこの子らが起きるまで動けません。
あなたが手伝ってあげなさい」
「わかった」
分身がいるし、正直手伝うことはない気はするけど……
全部任せっきりなのも違うので、大口真神に言われた通り、彼女を手伝うべく祭壇を降りていく。
獅童が寝ていて影響が薄れているため、今の飛鳥は元のように大口真神の影響だけで、雪が降り積もっている。
滑ることがないように、足元に気をつけないといけない。
とはいえ、獅童がいるので昨日来た時よりはマシだけど……
「おはよう、ドール」
「おはようございます、クロウ様」
「おはようございます、クロウさん」
「おっはよ〜♪」
「おはよー、いい朝だねー!! あっははは!!」
ドール達に近寄って挨拶をすると、彼女達は同一人物らしく一斉に俺を振り返って挨拶を返してくる。
ドールと冷徹は食材の処理をしている手を止めているが、楽しみと喜びは火を起こしながらで危なっかしい。
「おい危ないぞ」
「あっははは、大丈夫だってー」
「そうそう♪ もし火傷しても、消えれば戻るし♪」
思わず注意を促すが、彼女達は喜びと楽しみという感情らしく、まったく気に留めていない。
龍宮で吾輩と戦っていた時のように、けがどころか死にすらも無頓着なのはかなりのイカれようだ。
彼女達も彼女達で、律並に自分を犠牲にしてて痛々しいな……
まぁ冷徹がいるならまずいことにはならないか……?
……よく考えたら、龍宮で特攻したのは冷徹の指示があったからだった。
俺が見たくないっていう自分勝手な理由だけど、2人にけがをさせないように見ていないと……
そう思って、俺は火のところへ行く。
「俺も手伝う。ちゃんと前見ろ」
「あっははは、心配性だなー」
「みんな一緒かー……楽しいね♪」
「窮屈でしょうに……ほら、少し退いてください。
お米を炊きます」
「はーい♪」
俺の参加で喜びと楽しみがはしゃぐと、冷徹が面倒くさそうにしながらやってくる。
手に持っているのは米の入った大鍋だ。
……うん。たしかに移動しにくそうで、否定はできないな。
俺は冷徹を避けながら、それならドールの方に行くべきか?と彼女の方を窺う。
どうやら今は、野菜を切っているらしい。
彼女は折りたたみテーブルをいくつか広げ、切る前のもの、切った後のもの、今切っているものに分けて作業している。
吾輩や大口真神、獅童なんかは神獣・怪物らしくとんでもない量食べるからな……野菜からして馬鹿にならない。
火を起こしたり火力を下げないのも、ここでは他より大変ではあるけど、人手が足りてないのはむしろあっちか……
せっかく2人が喜んでくれたのに申し訳ないけど、俺もドールの手伝いに行くかな。
考えを改めた俺は、2人に向こうを手伝うことを告げて、冷徹と一緒にドールの元に行った。
「悪い、最初からこっち来るべきだったな」
「いえ。切るだけの単純作業ですから」
「そうか……?」
「とんでもない。火起こしと比べても大変な作業ですよ。
ありがとうございます」
ドールに謝ると、彼女は手伝いの拒否こそしなかったが、少し遠慮するような素振りを見せる。
だが、もしかしてこっちでも邪魔になるのか……? と戸惑っていると、冷徹がフォローしてくれた。
冷徹はやっぱり、本体のドールよりも遠慮してこなくて、ただひたすら冷静に最善を選んでいるな……
分身の中では一番頼りになるし、ドール自身にもっとも近いので接しやすくもある。
「ならよかった」
「はい。では、クロウ様にはこちらを」
「了解」
俺達は、3人で朝食の準備を始めた。
「おはよ〜う」
「うむ、良い朝だ」
作業が半分ほど終わった頃、ライアン、吾輩が起きてきた。
ライアンも大口真神の毛に包まっていたので頂上からだが、吾輩は祭壇の階段で寝ていたので、反対側から顔をのぞかせる形だ。
「おはよう。早速だが、ライアンは手伝え」
「いいぜ〜」
流石に吾輩に料理は頼めないが、ライアンはサバイバルに強いので、少し手伝ってもらう。
味付けや火加減の調整など、大雑把ではあるが絶対に失敗しないので安心して彼に任せた。
「ぶわっはっはぁ!! いぃ〜い朝だのぉ!!」
「寝ている時以外静かにできないのですか?」
「あぁん? 人生は楽しむためにあるんじゃぞ!?」
そして、完成した頃になって獅童が起きてくる。
一番遅かったが寝起きはいいのか、起きた瞬間から騒がしい。
至近距離にいた大口真神が文句を言うが、彼は相変わらず自分の人生を貫いているな……
静かにしてるのが不幸せだとは思わないけど。
「うにゃー……」
彼のうるささは、まだ大口真神の毛にに包まっていたロロも起きてしまうくらいだ。しかし、今回に限ってはロロほ目覚まし時計になったので助かった。
「みなさん起きましたし、ちょうど朝食の準備もできました。朝食にしましょう」
冷徹が祭壇の上にも声をかけると、獅童が騒がしく笑いながら、ロロは大口真神に乗って嬉しそうに降りてきた。
「ぶわっはっは!! 朝飯か!!」
「我が言うのも少しおかしいですが、あなたは子どもなのですか?」
騒がしく……というか、炎で飛びながらやってくる。危ねぇ。
しかもそのはしゃぎっぷりは、大口真神が言ったように子どものようだ。
「あんたはこっちな」
「おぅ?」
獅童はちょっと危なっかしいので、みんなとは別のテーブルに大量の朝食を用意して、そこに座らせる。
少し変な顔をされるが、何するかわからない以外にも、全部食べてしまいそうという不安もあるので譲れない。
嫌がらせってほどには離していないし、隣で我慢してもらう。……まぁ隔離には違いないけどな。
俺が苦労して隔離していると、大口真神も人型になって、他のみんなが座るテーブルに座る。
そして、大量の料理に感心したようにつぶやいた。
「随分とたくさん作りましたね」
「ええ。大口真神様や夜刀神様、獅童様などは、昨日もたくさん食べていましたから」
「様は不要ですよ」
「個別に呼ぶときは大体つけているんです。
普通に接するとしても変わらない癖というだけですよ」
なんか気が合いそうな2人だな。
冷徹はあくまで分身だけど……
もしドールに分身を出す必要がなくなったら、彼女の性格なんかはこれだろうしやっぱり上手くやってそうだ。
「ではいただきましょう」
「お〜し、いっただっきま〜す」
もう食べている獅童は例外として、全員が席につくと俺達は朝食を食べ始める。
味噌汁や焼き鮭、スクランブルエッグ、ベーコンなどに、幻桃果などを添えた豪勢な朝食だ……
「ごちそうさま〜」
「とても美味でした。感謝します」
「ぶわっはっは!! 儂も満足じゃあ!!」
朝食を食べ終わると、大口真神は礼儀正しくお礼を言い、獅童は騒がしく大笑いする。
大口真神が神獣で獅童が聖人なのに、獅童の方が自由気ままで野性的な性格なのが地味に面白いな……
迷惑だけど。
「じゃあさっさと片付けして、神奈備に行こうぜ〜」
「手伝いましょう。夜刀はあれを見張っていなさい」
「な、何故吾輩が……」
「俺達じゃ無理だからな。頼むよ」
「う、うむ……クロウが言うのであれば、やってもいいが……」
……ちょろい。
吾輩がすぐにうなずいたので、獅童は彼に任せることにする。食器、テーブルなどを収納箱に片付け、準備ができたらすぐに出発だ。
俺、ロロ、ライアン、ドールは大口真神に乗せてもらい、獅童という爆弾は夜刀神に押し付けて神奈備の森に向かった。
夜刀神って、いつの間にこんなイジられキャラになってるんだろう……?
雷閃と同じで、作者でもわからんです。(いまさら)