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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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126-飛鳥雪原

俺達は律と凜の話を聞いて、少し暗い気分で店の外へ出る。

すると目に入ったのは、怒鳴るわがは……夜刀と、豪快に笑う獅童だった。


街の建物や人々には騒音以外に被害がないようだが、何があったのか吾輩がヒートアップしている。

まぁ吾輩が人間のために怒るとも思えないし、単純に気に入らないことがあったんだろうけど……


「貴様ッ……いい加減にしろッ!!」

「ぶわっはっはー!! おもしれぇのぉ貴様!!」

「こんの極悪人がッ!! どれだけ掠め取るつもりだッ!!」

「かっはっは!! 引きこもりはやっぱり器が小せぇのぉ!!」

「ほとんど奪われて怒らないヤツがいるかッ!!」

「うっはっはっへっふ!!」

「ぬぅ……酔っ払いの耄碌爺がッ!!」

「かぁー!! アホ蛇何か言うとるわ!!」


どうやら獅童はまた酒を飲んでいるようだ。

御所の時よりはマシだが、またしても顔を真っ赤にしてやらかしていた。あと、ちらちらと炎も散っている。危ねぇ。


そして、吾輩が怒っているのは団子を奪われているからか……

獅童の手元にはかなりの枚数の皿があるので、吾輩の言葉通り、本当に半分以上は奪っていそうだ。


いや、ライアンと美桜がちょっかいをかけて、おじいちゃん呼びした時、紫苑とじゃれる時よりもキレてるぞ……

団子を強奪された上に、あれだけ煽られたら当たり前かもしれないけど、明らかにガチギレで入りずれぇ……


しかし、止めない訳にもいかない。

俺は思わずため息をつきながら、彼らに近づいていく。


「おい、落ち着けって」

「おうクロウか!! この爺、殺してもいいか!?

人間とは思えぬ!! きっと妖怪が化けているぞ!!」

「うん、ちょっとわかる」

「な!? では殺すぞ!!」


あっやべっ……!!

俺は反射的に同意してしまい、吾輩が更に勢いづいた。

騒ぐのはまだいいとしても、殺すなんて単語が出るのは穏やかじゃない……


「いやいやいや、止めろよクロウ〜!!」

「そうです! 流石に問題になります!」

「むぅ……」

「何じゃ!! 殺し合わんのかい!!

ぶわっはっはっ……はっ……は?」


俺が焦っていると、左右からライアンとドールが止めにかかる。若干呑気で、若干本心かわからないような無感情さだが、力強く言ったので吾輩は止まってくれそうだ。


獅童は殺し合いを……というか、多分殴り合い? をしたいようで、挑発しながら豪快に笑っているけど……


"冷徹の仮面(ドール)"


いつの間にか現れた冷徹が、彼に手を触れて氷漬けにして黙らせる。え、死なないか……!?

すごく嫌な思い出が蘇るし、普通に命に関わるヤバい手だろ……!!


――ジュゥゥゥ……!!


一瞬心配したが、彼の氷像はものすごい音と蒸気を発しながら溶けているようだった。


酒を飛ばす時にもやってた通り、彼の力は炎……

全身凍って意識を失う前に、溶かして解放されようとしているらしい。化け物じゃねぇか……!!


しかし、冷徹が常に触り続けることでどうにか抑え込めている。力ずくすぎてちょっとどうかと思うけど……

多分まだ煽るし、正直何しでかすかわかったもんじゃない。


獅童は手に負えなすぎる。

申し訳ないけど、これは今のうちに出発するべきだな。


「出…………せ……!! ……」


そう思っているうちにも、一瞬獅童が氷から出てきて途切れ途切れに一喝し、また凍った。怖すぎる……!!

ホラーだぞこんなの……!!


「あの、すぐに溶けそうなので急いでもらっていいですか? ライアン様、手が離れないギリギリのラインで運んでもらえると助かります」

「りょ〜かい」


"半獣化-フェンリル"


冷徹が指示を飛ばすと、ライアンは両腕に氷属性のあるフェンリルに纏わせ、獅童の巨体を持ち上げる。

フェンリルも凍らせることができるので、これで炎1対氷2だ。そう安安と溶けてはこないだろう。


「うむ。では出発だな」

「街の方達には、少し説明していかなければいけませんよ。

どうやら侍所の方も来たようですし……」


ドールの言う通り侍達がやってきているが、獅童が凍らされたことで、吾輩は満足げだ。

俺達は、少しこの状況を弁明してから街の外へと向かった。




~~~~~~~~~~




獅童を凍らせたまま愛宕から出た俺達は、凍らせたまま飛鳥雪原へと向かった。

獅童の氷像を抑えながらなので、そのスピードは本島に来るまでの大所帯よりも遅々としたもの。


そのせいで夕方になってしまったが、一応は今日中に辿り着くことができた。獅童がいたことは、案内役と相殺できるくらいには厄介なことだったかもしれない……


まぁ景色が森や草原から雪原に変わってくるに連れて、解凍速度も遅くなり負担は減ったんだけど……

厄介なことには変わりない。


吾輩から降りてようやく落ち着けた俺達は、かなりげんなりしながら獅童を地面に降ろす。

さて、次の問題はこいつを解放していいのかどうかだ。


これは俺達が悪いけど絶対怒るし、もしかしたら暴れる可能性すらある。街でも


「……一応聞くけど、どうする?」

「ん〜……街の外だし、流石にな〜」

「すみません、流石にもう無理です。

しばらくは出てこれないので、よろしくお願いします」


みんなに聞いてみると、冷徹は疲れた表情でそう言って消えていった。まぁずっと凍らせたままってのも無理があるし、解放しておくか……寒いし。


「じゃあ放置したらいいのか?

勝手に溶かして出てくるよな?」

「うむ、この爺はきっと自力で出てこれるぞ」


未だにジュウジュウ言っているので、彼は明らかに氷を溶かそうとしている。

みんなに聞いても満場一致だったので、とりあえず放置して待つことにした。




獅童の氷像を放置していると、彼はものの1分足らずですべての氷を蒸発させた。現在地は雪原のはずなのに、真夏の海のようにあっつい。


流石に暑すぎて、俺達はつい少し距離を取ってしまう。

まぁ暑さだけじゃなく、かなり危ない手段を取ってしまったことに対しての負い目みたいなのもあるけど……


「獅童さん、到着しましたよ」

「ぶわっはっは!! そりゃあ何よりじゃなぁ!!」


最初は冷徹だけが凍らせたので、その力の元であるドールが代表して到着を告げる。

すると彼は、この熱も含めて太陽のように見える笑顔で俺達に笑いかけた。


あれ、意外と怒ってないな……?

豪快さは変わっていないが、氷漬けのおかげで頭が冷えたのか、吾輩に喧嘩を売っていた時とはえらい違いだ。


何でかわからないので、正直不気味に思ってしまう。

まさか忘れてたりしないよな?

爆発されたらたまったもんじゃないんだけど……


俺達は、吾輩を除いた全員で顔を見合わせる。

そして目と仕草だけで意思疎通を取り、先に謝ってしまうことに決めた。


「氷漬けにして連れてきちゃってすみません!!」

「あぁん? んなもんいちいち気にしとるんか!?

神秘はもっと好きに生きる方がええぞ!!」

「怒ってないのか……?」

(オレ)ァ自由に生きてんのよ!! 昔は普通じゃった頃もあるし、迷惑になることが多いのはわかっとる!!

街の奴らぁ理解しとるがのぉ……それを貴様らに押し付けるんは違うじゃろう。償うんとは違うが、まぁ自由の代償よな。

理由が(オレ)にあるんならぁ、そりゃあ受け入れる!!」


重ねて聞いてみると、彼は豪快に笑いながら自分の生き方について語ってくれた。なんというか……まっすぐな人だな。

迷惑かけてるんだから、その分返されても文句は言わない……と。


これが八咫の聖人を育てた聖人か……

まさしく傑物だ。


あと最初に言っていた「神秘は」ってのは、俺達にもそういう生き方をしろってことだと思うけど……

流石に獅童のようには生きたくないな。


「まぁ抵抗はするがの」

「まぁさっきのは抵抗してなきゃ危なかったからな」

「ぶわっはっは!! いぃ〜い力じゃったのぉ!!」


俺の言葉を聞くと、彼は豪快に笑いながらそれを肯定する。

……どうやら危なかった自覚はあるらしい。

それであの信条か……


抵抗するとしても、まったく怒らないのはすげぇ。

こんな唯我独尊な人物なのに……


「ふんふんふふーんふんふふーん……」


俺が密かに感心していると、彼は雪原の中央方向を見ながら鼻歌を歌い始める。腕を伸ばしてみたり、火花を散らしてみたりと、動きも実に奇っ怪だ。

多分楽しいんだろうけど……何もやらかさないよな?


またみんなで顔を見合わせるが、今回は俺達は何もしていないし、何をしようとしているのかもわからないので放置することになった。


俺達はとりあえず野宿の準備だ。

もう夜になるので、火をおこして、テントを建てて……


"神殺しの神火"


「ぐ……!!」

「何をっ……!?」


突然、目を向けていられない程の光が辺り一帯を覆う。

そして同時に感じるのは、全身を溶かしてしまいそうな程の熱気。


また炎っ……獅童のやつ……!!

どういうつもりか知らないが、また派手にやってくれたようだ。俺達は雪原という、本来寒いはずの場所で暑さに苦しみ、これが終わるのを待った。


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