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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
141/432

125-飛鳥へ

獅童を追いかけて愛宕御所を出ると、俺達を眩しい日光が襲う。


御所にももちろん明かりはあったけど、やっぱり外とは比べ物にならない程度。

今はまだ昼なだけあって、その差は思ったよりも俺達を苦しめた。……主に目を。


まぁ最近は朝から晩まで外にいることが多かったしな……

しばらくまばたきをして、目を慣らしてから歩き始める。


飛鳥雪原は白兎とは真逆で、愛宕から北東に進んだ位置の本島内にあり、通る場所も陸だ。


まずは律の様子を見てからにはなるが……

もし彼が行けなくても、崑崙に向かった時のように街外れで吾輩に乗るのがいいだろう。


彼が言っていた白兎亭は、たしか初日の宿の近く……

飛鳥雪原と同じく北東の……街の端っこ辺りだったか。

俺達は獅童に軽く説明をしてから、律のいると思われる白兎亭へと歩を進める。


「おい、てめぇら」


だが丁度その瞬間、左側から中性的で綺麗だが、賊のように荒々しい声がかけられた。

どこかで聞いた覚えのある声……というか……


「ん……? あっ……!!」

「ようやく思い出したようだな……!!」


振り返ると、そこにいたのは今思い出した通り船長だった。

ルルイエから八咫の本島まで送り届けてくれ、その後も足になると言ってくれていた人……


彼は現在、その美しい顔で威圧的に俺達を睨みつけている。

美人が怒ると怖い……

俺は若干声を震わせながら口を開く。


「せ、船長……!!」

「足になるっつったのに、完全に放置しやがって!!」

「わ、悪い……」

「すみません……龍宮とは方向が違ったのと、その後も夜刀神さんがいたので忘れてしまっていました。オロオロ」


俺に続いてドールが弁明をするが、彼の怒りは収まらない。

それ以上責めてくることはなかったが、舌打ちや足踏み、大きく息を吐きだしたりなどして、全身で怒りを表現している。


……というか、自分でも国内移動では不便であることを自覚しているが、だからこそイライラしているような雰囲気だ。

激怒というよりは、ヤケクソ気味であるような感覚を受ける。


どうするのが正解だ……? と少し迷っていると、答えが出る前に彼は爆発した。

普段より……何より怒っていたさっきよりもヒステリックな女性のような声になっているが、昂ぶったらこうなるのか……?


「はぁー!! えーえー、船は神獣に乗るより不便でしょうとも!! そりゃあ!? 大きいし!? 岩戸なんかは広くて、どこに行けばいいのかすら曖昧で!? 一緒に歩ける夜刀神が適任!? ええ!! わかっておりますとも!!」

「おいお〜い。船長どした〜?」

「ただね!? 何か言っといてほしいもんです!!

なんの連絡もなく、ただ港に停泊してぼんやりし続けるだなんて……つらい!!」

「ごめんねー……」

「……猫に謝られるなんて初めてだ」

「戻ってきたか?」

「ああ」


彼は狂ったように今までの不満を爆発させていたが、ロロが謝ったことで頭が冷えたらしい。

唐突に怒りを消すと、いつものような男寄りの雰囲気に戻った。


この男寄りの時と、よく見せる猫を被った女性的な面、それから爆発した時のようなヒステリックな面。

どれが本当の彼なんだか……


「まぁ、国を出る時に夜刀神に乗るとしても、一度寄ってくれや。そしたら俺達も勝手にルルイエに帰る」

「了解。それまでどうするんだ?」

「海賊行為でもして憂さ晴らしでも……」

「ぶわっはっは!! この(オレ)の目の前で良い度胸じゃねぇか、船長!! 随分と捕まりてぇみたいじゃのぉ!!」

「冗談だ、バーカ。てめぇ程じゃねぇが、適当に呑んだくれて時間潰すぜ」


船長さんは、どうやらクロノスだけでなく獅童とも知り合いらしい。海賊行為に逮捕と、なかなかに危うい冗談を言うが、お互いに本気にすることなく笑い合っている。


よくこの爺さんと軽口を言い合えるな……

かなり唯我独尊な人だったのに……長年の信頼が為せる技か?


「ではでは〜、今日はこれにて失礼いたしますね♡

ぜひこれからも我が船をご贔屓に♡」


彼はしばらくしてまた女性的になると、宣伝しながら見惚れるような仕草で去っていく。

もう、俺にはあいつがわからねぇ……


「おぅ。じゃあぁさっさと白兎亭行くぞい!!」

「…………おー」

「行くか〜」


俺達は、船長さんを見送った後しばらくぼんやりしていたが、獅童が勢いよく急かしたことでようやく御所を出発することにした。


やっぱりせっかちだし、雷閃と真逆で基本的に誰にも従わなそうだし、大変だ……




少し迷ってしまったが、俺達はなんとか律と初めて会った白兎亭まて辿り着いた。


獅童は律と会った白兎亭を知らないので、案内など頼めなかったから思いの外大変な大変……

まぁ、そもそも案内しなそうではあるが。


それに、因幡が会いたがった人ってのと知り合いだったら騒ぎそうだ。迷惑にならなきゃいいけど……


「……騒ぐなよ?」

「はぁ!? 店は騒ぐもんじゃろがい!!」

「おい夜刀、こいつ止めといてくんねぇかな!?」

「うむ、吾輩も珍しく危機感を覚えた」


紫苑も騒いだが、こいつにはつっちーのようなストッパーもいないので手がつけられない。

しかも唯我独尊な人物……もう一歩でも入れたくない人物だ。


どうやらそれは吾輩も同じだったようで、二つ返事で了承してくれた。他の神には素直で扱いやすいという、微妙な評価を受けていたが、これでかなり頼りになる。


「あぁん……? む、貴様夜刀神か!! ぶわっはっは!!

初めてみ見たわい!!」

「ならば少しは敬え、人間よ」

「ぶわっはっは!! おもしれぇのぉ!!」

「獅童殿……!!」


頼りになる……か?

もう既にだめな気がするけど……とりあえず引き止めてはいられそうだ。


俺達は、獅童が入る気を起こす前に急いで白兎亭に入った。




~~~~~~~~~~




白兎亭は、この国で1番人気のある店だ。

いつ来ても、どこの店に行っても、半分以上は席が埋まっている。


だが、前回賑わっていたはずのこの店は、今回何故か客がほとんどいなかった。

いるのは団子食べているを律と、ディーテで出会った彼の保護者の少女だけ。


飾られている花や絵画など、内装は全く変わっていないのにどこか異質な雰囲気を感じる。

それに、2人しかいないと逆に声をかけづらいな……


俺はつい尻込みしてしまうが、左右にいるドールとライアンは一対一で接したことがほとんどないだろうし、そこまで仲良くもないだろう。


俺がやるしかない……

謎の緊張感に抗い、覚悟を決めて2人――主に保護者の少女を意識して話しかける。


「こんにちは」

「こんにちは……あら」

「えっと……久しぶり……です」

「はい、お久しぶりです」


俺は律にけがをさせたことを責められるのでは……とこわごわ挨拶をするが、彼女が浮かべたのは柔らかい笑顔だ。

前回会った時と変わらず慈母……


だけど、けがしてるのを知らせないはずもないんだけどな……

怒られたい訳ではないが、無反応もどうなんだ……?

教えていないとしても、気にしていないとしても違和感がある。


もう見ただけじゃわからないくらいの状態ではあったけど……

教えていないなら教えないといけないし、気にしていないのならその理由を聞いておくべきかもしれない。


少し迷ったが、自分から聞いてみることにした。


「あの、律のけがって……」


すると彼女は、悲しげに目を伏せた。

教えていない訳でも、気にしていない訳でもないようだ。


「そうだね……骨折。ずっと痛いままだったと考えると、心が引き裂かれそうになる」

「医者には……」

「医者……ではないけど、私が治したよ。

多分わかっていると思うけど、聖人だからね」


最初に会った時から白いオーラの気がしていたが、やはり彼女は聖人だったらしい。

骨折の治療ができるとなると、ロロよりも遥かに強い治癒力だ。


「すごいな〜」

「ええ……この子に対してだけなら、だけど」

「律にだけ……?」


少し気になる言い方をしたので聞いてみたが、彼女はやはり悲しげに律の頭をなでるだけだった。

たしかに律は、龍宮で腕を折った時もその後も、痛みを気にしている様子がなくて痛々しかったけど……


そのどこか頭のネジが飛んでいることと、彼女の祝福は関わりがあるのかもしれない。

あまり聞くべきじゃないか……?


聞いてしまったが答える様子はない……

しかし、今更訂正していいのかもよくわからない……

どうしたもんかと悩んでいると、彼女は律を優しい眼差しで見つめて問いかけた。


「あなた、彼に話した?」

「ううん。ぼくは、ただお兄ちゃんと、楽しくしてただけ」

「そう……話しても、いい?」

「……? ぼくの、こと? ぼくは、きかれないから、教えてないだけ。お姉ちゃんが、話したいのなら、いいよ」

「わかった。軽くだけ話すね」

「うん」


律から許可を取った少女は、彼女自身の祝福と律のことについて話し始める。

宣言通り、軽くだったが……




彼女が言うには、自身の祝福は回復能力としては最上のもので、だがある意味最下のものだという。

理由はもちろん、彼女がその力を得た理由だ。


だがその理由を知るには、まず律の存在から知っておく必要がある。


……律は、魔人だった。

しかし、俺の目にはオーラは見えない。

それどころか、神秘としてもうまく認識できない。


ただ、なにか不思議な雰囲気を感じるというだけの、おそらく世界でただ一人の存在だ。

しかし彼が特別だという話ではない。


彼も、もちろん他の魔人と同じく、過去の出来事がきっかけで神秘に……負の感情から成る魔人になった。

だが、その負の感情の向きがよくなかった。


俺やローズなどが、ほんのりと外にも負の感情を漏らすのに対して、彼はまったく外に漏らさない。

幼く純粋な頃に成ったからか、ただ自分だけを責め続けている。


だから、黒いオーラが外に出ることはなく、暴走することもなく、何があっても折れない。

決して壊れず、倒れず、折れずに自分だけを憎む……まさに呪いと言えるものを抱えた魔人。それが律だ。


彼女がその祝福――"ただ君に救いを(イシス)"を得たのは、そんな律を救いたいと思ったから。

だから、その回復能力は律にのみ死すら覆せる効果を発揮し、その他の者には効果は薄い。


だから、最上で最下の回復能力だ。

軽くなので、律自身が呪いを得た理由はわからない。


しかし十分すぎる。

俺は……俺も彼を救いたいと、そう思わされる。


……自分にだけ向けた憎しみだから、けがをしても無反応だったんだな。痛みは人一倍あるってのも……


「律。守護神獣を見つけた後、遊ぼうな。

絶対にすぐに見つけるからさ」

「うん、じゃあ、行こっか」

「ちょっと待って。流石にしばらくは私といてほしいな。

楽しかったとしても、骨折するような旅ではあったんだし、白ちゃんもいるからみんなで遊ぼ?」


律が俺の言葉に反応して立ち上がると、少女は辛そうな表情で彼を引き止めた。

おそらく彼女は回復特化で戦闘能力がないので、ついてくるという提案もしにくかったのだろう。


それでも目を離したくないから、引き止める。

過保護と言ってしまえばそれまでだが、俺もけがをさせた立場だし何も言えない。

もちろん俺だって傷ついてほしくないし……


だが、律は表情の薄い顔をあげると、やんわりと嫌がる素振りを見せる。


「え……白ちゃんは、おばちゃんの友だちだよ?

ぼくの友だちは、お兄ちゃんと……

あれ、他に友だち、いたかな……?」

「私がいるじゃない……!!」

「お姉ちゃんは、お姉ちゃんさ」

「お母さんはどこにいるかわからないし……」

「……そうかもね。でも、白ちゃんは、おばちゃんの友だち」


俺だけが友達とか、本当に悲しくなってくる。

せめてライアンとかは友達になれないか……?


ちらりと隣を見ると、彼も辛そうだ。

だが意図は察してくれたようで、笑顔を作って律に話しかける。


「俺とも友達になろ〜ぜ〜」

「……ライアンお兄ちゃんは、せいかく、合わないんじゃないかな」

「悲しいこと言うなよ〜……俺はクロウの友達だぜ〜?」

「そうだね。でも、ライアンお兄ちゃんの、クロウお兄ちゃんを見る目は、もっとやさしげ」

「まぁたまに辛そうだからな〜」

「クロウお兄ちゃんの、お兄ちゃんだね」

「友達だって〜」


撃沈だ。まぁ性格が合わないかもってのはそうかもそれない。正直誰とでも仲良くやれる性格だと思うが、律にその気がないんじゃな。


なら次は……

ライアンとは反対側にいるドール、そして肩に乗るロロ。


「ドールはどうですか?」

「オイラはー?」


2人に話しかけられた律は、しばらく彼らを見つめる。

その答えは……


「こんど、遊ぼ」

「はい」

「いいよー。おおぐい大会とかやろー?」

「いいね。紫苑とかを見て、楽しそうだと、思ってたんだ」


まだ友達候補のようだが、どうやら仲良くなれそうだとは思ったらしい。


ロロは神獣だが、まだ子どものようだし少女の母親の友達でもない。俺の友達は親関係ないのでセーフだ。

ドールもたまに荷物とか気遣っていたし、大人しい。

完璧だ。


まぁ大食い大会は遠慮したいけど……

てかロロも大食い無理だろ。


「俺としては残念だったけど、まぁ何よりだな〜」

「やさしい、みんなの、お兄ちゃん。

ぼくも、行っていい?」

「おいお〜い。それはキツイって〜……」

「……」


律は友達とは別区分のライアンに本来の話を振るが、彼は困り顔で視線を泳がせる。

そういえば友達云々って、ここに残らせるための話だった……


彼はその後も全員を見回すが、首を縦に振る人はいない。

すると流石に諦めたらしく、大人しくテーブルに座り直した。


彼の話を聞いた後だと、自分より他人を優先したように思えてしまうが……そしたら何も言えなくなるので押し込めよう。


「わかったよ。ぼくは、妖怪に、そなえてる」

「私が見守っているので、みなさんはこの子が戦わなくていいように、守護神獣をよろしくお願いします。

何も手伝えなくて申し訳ないんだけど……」

「任せてください。友達ですから」

「ありがとう」


せっかく再開した律と離れるのは悲しいが、やる気はむしろ上がっている。しかも、少女が見守っているのなら安心だ。


俺達は早く見つけて戻って来ようと、意気揚々と出口に向う。あ、そういえば……


1つだけ忘れていたことを思い出して、俺は律と少女の方を振り返る。いつまでも少女ってのは失礼だ……


「そういえば、未だに名前聞いてなかったな」

「たしかにそうだね……私は鈴鹿凜。この子共々よろしくね」

「よろしく」

「はい。よろしくお願いします」


少女の名前を聞いた俺達は、いよいよ最後の守護神獣探しに出るべく白兎亭を後にした。


船長さん、めちゃくちゃ頼りになる上にかわいいなぁ……

(見た目設定は苦手なので、中身の話)

だけど化心は全体的にキャラが多いので、彼の名前は出しません。(科学者セドリックは名前呼ばないとでしたが……)

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