12-潜入、風の屋敷
「よし、じゃあ行こうか?」
「ああ……」
「うん……」
翌日。
ヴィニーの訓練と称した憂さ晴らしを無事乗り切った俺達は、賊の根城に潜入しようとしていた。
ロロのおかげで体調は万全。だが気力が……
そんなふうに足取り重く歩いていると、「魔人がたくさんいるんだからシャキッとしなよ」などと言ってくる。
誰のせいだよ、全く。
「ボロ雑巾にしといて何いってんだ……」
「オイラ、心のダメージはかいふくさせれないんだよ……」
「慣れるまで特訓延長しようか?」
俺達が文句を言っていると、ヴィニーはそんなことを笑顔で言い放つ。
……なんて恐ろしいことを言うんだこいつは。
「いや!!万全だ」
「オイラ神獣だからつかれ知らずだー」
たまらず俺達は意見を翻す。
ほんと、こいつ人間か? ってレベルでやられたので、もう絶対に同じやり方では特訓したくない。
ヴィニーはかなり容赦がないというのも覚えておこう。
「ふふ、じゃあ入ろうか」
その一言で俺達は行動を開始した。
3日前と同じく、暗い屋敷に足を踏み入れる。
門には鍵がかかっておらず静かに開いた。
前回は見張りが開けていたが、今回は見張りもおらず鍵も開いていた。
しかもその先も玄関まですんなりと進める。
多少の不安は煽られるが幸運があるから大丈夫だろう。
ずっと暗闇が続くのも恐ろしいが……
「ロロ、魔人はいるか?」
「ご、ごめん……入ったとたんに……反応がぜんぶ、消えちゃった……」
俺とヴィニーは首を錆びつかせながらロロを見る。
「え、じゃあ今にもあの暗殺者が近づいてるかもってこと?」
信用してたのにいきなりピンチ!?
……取り敢えず幸運をかけるか。
"幸運を運ぶ両翼"
うわ、チルの輝きが目立つ……恐ろしい。
「おー。これがクローの言ってたこーうん?」
「ああ。だけどあんまり過信するなよ……相手が俺より強い神秘なら、その守りは当てにならん」
「それでもないよりはいいよ」
空間把握能力はそのまま問題なく使えるようなので、ロロのナビで俺達は奥へと進む。
魔人が増えたと言う割には変わらず静寂が続いていて不安だ。古い屋敷ではないようなので足音すらしない。
数分間は代わり映えのしない廊下を通っていたのだがロロの
「この先に、ちょっと広い空間があるよ」という言葉で歩みを止める。
今のところ敵に出くわしていない理由……どこかで待ち構えてるってのがありそうだよな……
そう思いヴィニーに問いかける。
「避けるべきだよな?」
「うーん……怪しさはあるね」
「迂回するなら、左に行くよ」
「じゃあそうしとこうぜ」
そんなやり取りをしていると、風の音。
ああ、これはだめなやつだ……
「ぐぅぅぅ‥」
屋敷全体を震わすかのような烈風が俺達に叩きつけられた。
そしてその勢いのまま、中庭のような空間に放り込まれる。
ロロがこれを耐えられるか心配になったが、その必要は無いようだった。
小さな神獣だとしても猫は猫。身軽に受け流していた。
むしろ俺達人間のほうが、派手に地面に叩きつけられたことでダメージを受けた。
「クロウ、無事?」
「ああ、だけどこれは‥」
「ピンチ……だね」
放り込まれたのは、やはり中庭。
今までの室内とは違い、屋根が無く日光が取り入れられていることで明るい。
平坦な広場といった雰囲気だが、壁には多少の装飾が施されている。
そしてそこには、何十人もの魔人がいた。
……魔人だよな?
何やら彼らの様子がおかしい。
いたのは先日と同じ、風、火、獣。
だがなんだ……?
風は全身が竜巻に飲み込まれたような見た目だし、火はこれまた全身が燃えてる。
獣だと思われるやつは全身筋肉の塊になっている。
見た目は二本足で立つ猛獣。
どう見ても人としての原型をとどめていない化け物達だった。
エリスとあの男は力が化け物じみていたからそう呼んだが、こいつらは人じゃなくなった異形という意味での化け物だな。
「なぁロロ、こいつらがお前の言ってた魔人?」
「多分そう……魔人だし、おおいし、あのとき感じたのと近い神秘だよ。ね? あらぶってるでしょ?」
「だけど、見た目も荒ぶってるとはね。その割には静かだけど」
ヴィニーの言う通り、彼らはうめき声を上げながらではあるがその場にただ立っていた。
……俺達を敵だと認識してないのか?
「動かねぇなら丁度いい。無視して行こうぜ」
「そう……だね」
俺達がそう結論づけた瞬間、
「そ〜んな釣れないこと言わないでよ〜」
現れた。
ヴィニーをズタズタにし、俺を屋敷の奥に吹き飛ばした女。
彼女は相変わらずフワフワと、空から化け物の傍らへと降りてくる。
「また、てめぇかよ」
「君が戦ったっていう女性?」
「お前をやったのも多分あいつだ」
「なるほど。だけど何故今ここに? あなたは闇討ちに向いた能力だよね?」
「そりゃーこいつらが動かないからさあ。あたしら以外は知能が消えてるんでね」
そう言うと、異形達の中から男が現れる。
隣の騒がしい女と同じような身軽な服装に、靭やかな肉体を持った短髪の美丈夫だ。
「…………」
喋らない……
だが、こいつが双子の片割れだ。
「つまり、今から俺達を叩きのめすって事か?」
「せ〜いか〜い。あんた達、行きな」
その一言で異形達は動き出す。
同時に不気味なうめき声は雄叫びとなり、大広間に響く。
「qr:w>w/%o2@Z殺dw7.>6;f誰?逃:@o;.s6m4u9>苦de>」
彼らは見た目の重々しさとは裏腹に機動力は俺より上だった。
風は風圧で、火は爆発のようなもので、獣は筋力で。それぞれの方法で、破壊力も兼ね備えた突撃をしてくる。
「っ、シャレになんねぇ」
俺達全員に幸運、それからロロの自己治癒能力上昇はついてるが、こいつらの神秘が俺達より高かったら……
「彼らの動きは単調だ。昨日俺の特訓に耐えたんだから、倒せるさ。ただし、ロロと離れないでね」
「了解だ」
「あいさー」
特訓で見た感じ、念動力の威力や範囲はそこまで高くなかったが、運も合わさればなんとかいけるか?
俺はナイフを構え、最初の衝撃に備えた。
どうやら双子は手を出す気はないらしく、すでに目の届く範囲から姿を消していた。
この暴走状態の奴らと同時に相手をできる気がしなかったのでありがたい。
とはいえ、双子がいようがいまいが厳しい戦いだ。
どこから来たやつかは知らないが、まず圧がすごい。
ずっとうめき続けていること、触れるだけで怪我をしそうな体、そしてそんなやつがとんでもない軽快さで迫ってくること。
……うん、恐ろしい。
1つ救いなのは、ヴィニーの言うとおりまるで知性がないことだった。速いが動きは直線的。
なんとか食らいつくことができる。
「ロロ!!」
「あいさー」
目の前に迫った炎の塊。
ちょっと避けられそうにないのでロロの念動力の力を借りる。
慣性を無視した移動。
そして……
「自己治癒能力、反転〜」
生まれた隙に、俺がナイフで一突き。するとじわじわと傷が広がり動きが鈍る。
「こいつが化け物じみた自己治癒能力持ってて良かったね〜」
「斬ってもすぐ治ったのには焦ったがな」
そう、ロロはすごかった。
自己治癒能力上昇の応用だと思われるその力は、どんな傷でも与えれば重症化させられる。
斬っても炎・風での止血をされたのでヤケクソで言ってみたら出来てしまった。
今更ながら神獣ってすげぇな。あの時助けられて良かった。
そして、ヴィニーは前回よりも超人さが増していた。
知性がない敵とは言っても、神秘的には半魔と比べ物にならないような敵を圧倒している。
魔人の俺が苦戦してるのに、だ。
まぁ素の能力がおかしいんだよな……
彼は、敵が攻撃を仕掛けようとしている段階でそれを読み、カウンターで止血できないほどに深く斬る、場合によっては手足を吹き飛ばしている。
そんな力技で敵を戦闘不能にしていた。
それもロロの自己治癒能力上昇のおかげか、この数十分の間ずっと。
鬼気迫る迫力だった。
不死身になれるような力じゃないはずなのにな?
多分大丈夫なんだろうけど、この後の双子との戦いまで持つのか?と思ってしまう。
「クロウ、よそ見は厳禁だよ」
「わかってる」
そしてこれだ。あいつ、俺の戦況まで見てやがる。
もう笑うしかねぇよな……はは。
厳しいの俺達だけ。俺、いらねぇ……
それからさらに数十分は経ったと思う。
時計は無いから実際はわからないが……ともかく、数百人はいた魔人はようやくその最後の1人が倒れた。
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