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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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121-愛宕御所

愛宕の街に入った俺達が目指すのは、もちろん愛宕御所だ。

雷閃がずんずん進んでいってしまうので、俺達は彼に置いていかれないように必死に早足でついていく。


……なんだけど、1つ気になることがあった。

それは、この街が聖域になっているように感じることだ。


愛宕は八咫の首都で広いからなのか、はたまた俺が慣れてきたからなのか、正直崑崙なんかと比べて薄っすらとしか感じない。

しかし、それでもたしかに微かな落ち着かなさを感じた。


現地民や最初から気にしていなかったライアン、ドールは特になんとも思っていなそうだけど……ロロは顔をしかめている。


もちろん街は変わらず活気に満ちているが、心做しか前回よりも暑い気もする。これ、多分橘獅童がいるよな……?


まぁ……今はちゃんとついて行かないと入れなくなりそうだから、探すのは後でだ。

……けど、聖域の確認くらいはしておくか。

俺は振り返って美桜に声をかける。


ちなみに彼女は、街中にも関わらず白虎を出したままだ。

律は麒麟を隠したがったが、彼女は白虎を隠すつもりがないようで、普通に寝ている。

もう、取り繕うつもりもないらしい。


「なぁ美桜。もしかしなくても、橘獅童いるか?」

「そうだね〜……範囲広くて薄いけど、いるっぽいかな〜」

「場所の特定はできる?」

「ん。多分海音ちゃんに捕まってるんじゃないかな〜。

あの人は来たらすぐバレるし〜」

「じゃあ目的地は御所のままで大丈夫そうだな」

「そだね〜」


占いではなく予想でしかないけど、まぁこの人もやることはやる人だし信じよう。


それよりも、先頭を歩く雷閃、紫苑、ライアンは、少しずつテンションを上げているのでいよいよ置いていかれそうだ。

……あ、でも美桜がいれば問題はないか?


「あと、幕府に居場所があるか不安で聞くんだけど、あんたにも権限あるか? 俺達を招く」

「もちろ〜ん。幹部舐めちゃいけないよ〜?」


念の為確認すると、彼女は気にした風もなくのんびりとそれを肯定した。居場所があるか不安とか、かなり失礼だと思うけど器が大きい……


「なら無理にあいつらについてく必要はないな」

「そういえばそうでしたね……美桜さんがあまりにも自由にしていたので、つい忘れていました」

「失礼だな〜。けど、任せなさ〜い? 正直首を絞めることになるけど〜、ちゃ〜んと案内しますよ〜」


どういう基準なのかはわからないが、ドールが同じようなことを言うと、彼女は少し頬を膨らませる。

ただ、それでもやはり軽い調子で請け負ってくれた。


サボり魔だけど、面倒くさがるだけめ意外と面倒見がいいな……俺に陰陽道教えてくれたりもしたし。


しかも、一応は自分の首を絞めるという自覚があるらしい。

この人も案外人に逆らわないのでは……?

俺は少し美桜の印象を更新しながら速度を落とす。


美桜でも問題ないならもういいだろう。

雷閃についていくのが面倒になった俺、ロロ、ドール、美桜は、ゆっくりと御所に向かうことにした。




~~~~~~~~~~




もはや走っている雷閃、紫苑、ライアンと、挑発を受けている吾輩、抑え役のつっちーが視界から消えて数十分後。

俺達は愛宕御所の目の前までやってきていた。


相変わらず侍達の出入りが激しく、門番もちゃんと左右に立って見張っていて、部外者が立ち入る隙はなさそうだ。


しかし、もちろん今回はちゃんと関係者がいる。

雷閃には置いていかれてしまったが、巨大な虎に寝転んでいる美桜も、一応は幕府の幹部だ。


自信満々に案内できると言っていたのだから、ちゃんと役に立ってもらおう。

そう思ったのだが……


「おい美桜。いつの間にか寝てんなよ」

「う〜ん〜……ごめんね〜。最近すっごく疲れるんだよね〜」


気がついたら、美桜はまたしても寝ていた。

いくらなんでも寝すぎだろ……

一応街中で、白虎に寝転んでいるせいで目立っているというのに、恐ろしい胆力だ。


そもそも疲れてるといっても、どうせ俺達についてきたせいでずっと動き回ることになったからだろうし……

俺は最初から愛宕に置いて行きたかったんだ。

自業自得でしかない。


「せめて私達を中に入れてから寝てくれませんか?」

「わかってるって〜……」


ドールが遠慮なく頼むと、美桜は白虎に頼んで門まで自身を運んでもらう。部下の前でもそれでいくのか……


俺は、岩戸の春日鉱山ではけっこうしゃっきりしていたのにな……と呆れながらそれを見守る。

すると、1分もしないうちに話をつけたようで、すぐにこちらに手を振ってきた。


もちらん、寝転んだまま……

ありがたいけど、なんか締まらないな……


「おいで〜クロウちゃん達〜」

「わかった。ありがとう」

「ありがとうございます」

「いいってことよ〜」


俺達は、敬礼して脇に避ける門番に軽く会釈してから御所の中に入った。




~~~~~~~~~~




御所の中も、やっぱり多くの侍達が立ち働いていた。

ある者は大量の紙束を運び、ある者は刀を腰に警備を。


またある者達は、広場のような場所で動きが完璧に連動した訓練をしているし、ある者達は隅に集まって何やら議論をしている。


建物自体も神社のような、年季が入っていそうな木造建築なので、とても厳かな雰囲気だ。

正直ちょっと動きにくいな……場違い感がすごい。


「……入りにくいな」

「そうかな〜?

とりあえず、海音ちゃんのところ行こっか〜?」

「そうですね」

「ではでは〜こちらですよ〜」


案内する場所が決まると、美桜はようやく白虎から降りて自分で歩き始める。

流石に建物の中でまでは乗ってなくてよかったよ……




俺達が案内されたのは、多くの机が並べられ、書類が山積みになっている部屋だった。

机に座って何か書いている人や話し合っている人などがいるが、海音は見当たらない。


1番奥にある大きめの机もいないので、海音はここにはいないようだ。うん……やっぱり忙しそうだな……


判決がどうとか、妖怪に騙された人がどうとかということをつぶやきながら頭を掻きむしっている人がゴロゴロいる。


書類はそれらの記録でも残しているんだろし、解決だけでも大変そうなのにとんでもない。

海音はこれをまとめながら政所、侍所もか……


「あー!! 美桜さん!!」


俺は海音がいないとの結論を出し、普通に少し仕事の観察をしていると1人の女性がこちらに気づいて駆け寄って来た。

その腕の中には、当然のように山のような書類がある。


目に見えて忙しそう……

だが、それを見た美桜は変わらずで、俺達よりも場違いだと思えるような笑顔を彼女に向ける。


「こんにちは〜」

「ようやく帰ってきたんですか!?」

「そうね〜。まぁたまには帰ろうかと思ったから〜」

「ならここじゃなくて、政所へお願いします!!

あっちの仕事が減れば、こっちも減るので!!

まったく……100年くらい前から不可解な暴走がありましたが、最近ではさらにサボりまで続出ですよ。

誰かさん達のせいかは知りませんけど!!」

「ん〜今何してるの?」

「問注所の話なら、また化けて出たって話が多く届けられてますよ!! 他にも、天迦久神が現れただの、高速移動物体を見かけただのとの相談も!! もちろん、普通に人間同士のいざこざも多少!! 規模は小さいですが、毎晩のように妖怪の被害も出ますし……って、いいから早くお願いします!!

そちらへの文句は全部こっちに来るんですからね!?

それがなくても、上手く回ってなくて引き受けてるんですから……あ、これ政所のです!! 持ち帰ってください!!」

「え、こんなに……? わ、わかったわかった〜」


彼女は嵐のようにまくしたてると、美桜に書類の山を押し付けて机に戻っていく。

かなり渡せてたし、随分楽になったんじゃないか……?

そう思って、戻っていく女性を目で追ってみる。


だが、彼女の机にはまだまだ書類の山が残っていた。

……うん。海音以外も、もれなく全員過労だ。

流石にこれは手伝えないけど……


「えっと……案内ってどうするんだ……?」

「え〜? 私は仕事ができました〜!!

勝手にうろついててくださ〜い!!」

「それは流石に……」

「と、言いたいところですが〜、案内役を付けてあげます」


美桜はそう言うと廊下に出て、懐から御札を取り出した。

もう何度も見た式神の札……って、どの式神も巨大なのに案内役!?

移動が面倒だぞ!?


「ちょっと待て。全員巨大だったよな?」

「ん〜ん。最後の子がいるよ〜」


"大裳(たいじょう)招来"


俺の静止を気にせず地面に叩きつけると、床が盛り上がっていく。これは麒麟と似たような登場……


部屋の前で明らかに迷惑な召喚だったが、ここまで来たら止めることなんてできやしない。

仕方がないので、大人しく見守ることにする。


同じく山のようになり、ぱっくりと割れると中から出てきたのは……


「ほっほっほ。久々に事務仕事ですかな?」


めちゃくちゃかっちりした服装の老人だ。

帯までキツく締めていて、物腰も柔らかに頭を下げている。

全く隙がないし、ヴィニーや七兵衛のような完璧さを感じるな……


「そうね〜。ぜひ頼みたいかな〜。

でもまずは案内をお願い。まず獅童のとこ連れてってみて、海音ちゃんか獅童がいなければ雷閃のところかな〜」

「了解致しました。では、幹部陣のどなたかとお会いできた後に政所へ向かいましょう」

「うん。よろしくね〜、じぃ」


"生命の息吹"


大裳に俺達のことを任せると、美桜は床を再生させ始める。

前も使ってたけど、術じゃないのか?

だとしたら、なんか似たような術を考えたい。


廊下が直ると、彼女は手を振りながら歩き去っていく。

多分政所に行って仕事をするのかな……? 似合わねぇ。

そんな彼女を見送った後、彼は俺達に向き直って口を開いた。


「では、参りましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


式神って本当に便利だな……ますます式神が欲しくなる。

俺はそんなことを考えながら、まずは侍所へ向かうべく大裳に連れられて進んでいった。

期末レポートやテスト、秋期の履修登録、秋期の授業スケジュールが鬼過ぎるので、今日の投稿からしばらく予約投稿にします。

クライマックスに入るまでは月水金の12時で、入ったら毎日投稿になる予定です。


ただ、2章は思ってた1.5倍くらい長かったので、もし息切れして毎日投稿じゃなくなっても大目に見てもらえるとありがたいです。


あと、この先ではたまにテンション上がって後書きコメントしてます。励みになるので、是非みなさんもお願いします……

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