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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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120-愛宕

のんびりと追った訳でもないが、結局俺達がドール達に追いついたのは、門の前辺りだった。


彼女達はとっくに着いていたらしく、白虎とじゃれている雷閃やライアン、今にもどこかへ消えてしまいそうな紫苑を見張っている。


美桜は……あれ? ちゃんと起きてるな。

彼女はたしかにさっきまで寝ていたはずなのに、今は白虎とじゃれ合う雷閃を見て微笑んでいる。

……まぁ、ダラケていることには変わりないけど。


俺が軽く驚きつつもやはり呆れていると、俺達が到着したのを確認したドールとつっちーは、彼らから目を離さないようにしながら会話を始める。


「全員揃いましたね。出発しますか」

「いいけど……どうやって行くんだい?」

「陸なら律くんの麒麟……海なら夜刀神様ですね」


彼女達が移動手段の話をしていると、うずうずと歩き回っていた紫苑が一瞬で駆け寄ってきた。

あまりに速いので、自称あくびの雷を使って移動しているのかもしれない。


「へぇ!! 背中に乗っけてくれんのか!?」

「そうだよー。僕も海上で寝ていた時に、引っ張り上げてもらって乗ったんだぁ」


うん? 寝ていた……?

少し離れた場所からだったし、聞き間違いかな?


「引きこもりの蛇に乗れる日が来るとはなぁ」

「おい。吾輩、守護神獣だぞ? 少しは敬え」


紫苑の言葉を雷閃が肯定すると、本人……本蛇がいるのに気がついていないのか、彼はまた挑発するようなことを言う。

そして、目を剥いて歩いていった吾輩と紫苑は、またしても言い争いを始めた。


どうやら相性が良くないらしい。いや……むしろいいのか?

相性は良くないかもしれないが、傍から見たら仲は良さそうに見える。


俺とリューも似たような感じかもしれない。

……とすると、やっぱり相性は悪くて仲はまずまずといったところだな。


ただ、問題を起こすから言い争う俺達よりも、純粋に性格が合わないっぽいのと、止める人がいることは違う。

今も、騒がしくなったのを見咎めたつっちーが止めに入っている。


「うっさいよ紫苑」

「うっ……すまねぇ……」

「そうだぞ鬼人」

「あっテメ……!!」


面白いので見守っていると、吾輩に掴みかかろうとする紫苑を、つっちーが首根っこを掴んで見事に釣り上げた。

それを見た吾輩は、けっこうムカつく顔をしてバカにしている。


「ゆかいだね、クロー」

「そうだな。

俺とは無関係のところでやってる分には、ただただ面白い」

「でもたぶん、彼らはずっと、さわいでいられるよ。

止めないと、出発、できない」

「おいお〜い、喧嘩してないでさっさと行こうぜ〜」

「おう、そうだな!!」


律の言葉に反応し、白虎に埋もれていたライアンが彼らの間に入っていく。紫苑も切り替えが早く、もう笑顔だ。

ほんと、見ているだけなら気持ちがいいくらいだな……


つっちーも紫苑を離したので、わくわくと先頭に立つ雷閃から順に、獣型へと戻った夜刀神に乗っていく。


「では諸君、乗り給え。

特に半端者の鬼人は感謝するのだぞ?」

「はあぁぁ!?」

「もういい加減にしとくれよ」

「悪ぃ……」

「フハハ。そうだな。これくらいにしておいてやろう」

「いや、マジで後で覚えてろ!?」


乗る段階になってもなお言い争う2人に思わず笑ってしまう。

気が緩みすぎて、乗り終わる前に落ちそうになるくらいだ。


けど、つっちーというブレーキがある紫苑に、この後やり返すことができるのか……?

申し訳ないけど、面白い見世物になってくれていてとてもありがたい。


それでもどうにか手を滑らせることなく登り切る。

位置取りは、先頭にいた雷閃が鼻先といっていいレベルの場所で、紫苑とつっちーは多分首の辺り。

それ以外の面々も、だいたいその後ろ辺りの頭部だ。


唯一の例外は美桜で、彼女は白虎に寝転んだまま、彼に腹部……もしくは尻尾の辺りにしがみつかせている。

もちろん白虎の上にはいつの間にか朱雀がいて、寝ている美桜を支えているという完全体制だ。


本当にブレないな……

雷閃はただの迷子という可能性が出てきたが、彼女は徹底してサボり続けている。もう逆に感心してしまう。


「さぁ出発だぁ! 快適な海の旅をよろしくねぇ!」

「任せ給え」


準備を整えた俺達は、何故か雷閃の号令と共に白兎の砂浜を出て愛宕へと向かった。




~~~~~~~~~~




太陽が天頂に昇る少し前頃。俺達は愛宕の砂浜に到着した。


背に10人もの人が乗っているからか、スピードは今までで1番ゆっくりとしたもの。

その上、岩戸と隣接する部分には大きな港があるので、そこや船を避ける必要もあり到着はかなり遅めだ。


昼なら作業をしている人は少ないと思うが、俺達は一応注意しながら砂浜へと滑り降りていく。

もし夜刀神は見られたとしても、俺達は見られないように港の反対側へ……


多分、吾輩を見たら変な妖怪がいたくらいの話になるだろうが、俺達は人だし問い詰められそうだ。


「つ、疲れた……」

「オイラもー……」


俺とロロは、吾輩から滑り降りると一気に脱力する。

いくら頭部に乗っかっていただけとはいえ、気をつけていないと海に落ちることも全然あったのでかなり疲れた。


速いのは吹き飛ばされそうで疲れたけど、ゆっくりはゆっくりでまた違った疲れがくるもんだな……

倒れ込んだりはしないが、ちょっと座るくらいはしないとやってられない。


だが、ちょうど隣に降りてきた雷閃は元気そのものだった。

いつも通り爽やかに笑いかけてくる。


「そう? けっこう気持ちよかったけどなぁ」

「あっはっは!! 流石閃ちゃんだ!!

それに引き換え、お前ら弱っちいなぁ!!」

「いやいや〜。人には個人差ってのがあるんだぜ〜?

クロウはキツそうだけど、俺は平気だ〜」

「おお、やるなぁ!! 流石つっちーを負かした男!!」


全員を対象にしてくる紫苑にライアンが反論すると、何故か彼はやけに嬉しそうに歓声を上げる。

いつも彼女に抑えられているようなので、少し鬱憤が溜まっているのかもしれない。


しかし、軟弱だなんて鬼人に言われてもな……

ライアンと雷閃はちょっとおかしいけど、普通は基礎身体能力からして鬼人には勝てなくないか?

自分を基準にされても困る。


「一応言っとくけど、普通ならもっと疲れてるからな。

俺達はまだマシだぞ」

「そうですね……背もたれも取っ掛かりもなく、半日近くあの体勢を維持し続けるのは骨ですよ……」

「ちなみにポクもね」

「え、白ちゃんもかよ!?」


ドールが俺に同意すると、それに続いて因幡も疲れ顔で同意する。紫苑は派手に驚いているが、これが普通だこれが。


美桜は寝ていたから論外だけど、律だって疲れて……

ん? なんか右腕を眺めているな……


あ、よく考えたら腕の骨が折れてるんだったか!?

見た目の形だけは正常になっていたし、いつも通りすぎてつい忘れてたけど、とんでもないことを強要してしまった……!!


「律、悪い。右腕……」

「うん。ぼくは、お姉ちゃんのところに、もどるよ。

ちゃんと、戦いの日には、ここにいるから」

「ごめんな……無理はするなよ」

「ううん。ぼくは、ぼくがしたいことを、するんだ。

ぼくは、クロウお兄ちゃんを、助けたかった。そして、街が、おそわれるなら、ぼくは何があっても、守る」


そう言うと彼は、やはり右手で御札を取り出して地面に叩きつけると、麒麟を呼び出す。

痛覚は人一倍あるらしいのに、右手を使うことはやめない……


彼が言う言葉も合わせて痛々しさしかないけど、一体どういう状況なんだろう?

御所に行った後で、あの少女に話を聞いてみたいな……


「なぁ。どこに行くのか聞いていいか?

律のお姉さんに話が聞きたい」

「……この国で、さいしょに会った、白兎亭。

たぶん、そこに行くかな。じかんがあれば、来ていいよ」

「ありがとう」


俺が予定を聞くと、彼は少し考えた後で教えてくれる。

あまり触れられたくない部分なのかもしれない。

だとしても、できれば俺は知っておきたいけど……


そんなことを考えながら、俺が見送る態勢になっていると、横から因幡が顔を出した。

さっきの疲れ顔はどこへやら。

もう満面の笑みを浮かべて、麒麟に乗る律に話しかける。


「あっ、ポクもいっしょに行っていいかな?

あの人にひさしぶりに会いたいから」

「べつに、いいけど……君も、知っていると思うけど、あの人はお姉ちゃんに、絶対に会わないよ」

「いいよ、いいよ。だって、うらにはいるんでしょ?」

「そうだね。じゃあ、いっしょに乗ってこ」

「ありがとー」


律のお姉さんに会わない、あの人……あの子……

少し気になるけど、俺達も後で行く予定だしその時でいいか。


俺は思考を止めて、2人の少年が乗る麒麟を見送る。


「また後でな」

「ちゃんと治してこいよ〜」

「うん、ばいばい」


彼らは笑みを浮かべながら俺達に手を振ると、緩やかに街へ向かって走り去っていった。


多分また少し離れた場所で歩きに戻るんだろうな……

俺は腕を折ったことがないのでよくわからないが、左手だけで乗れるなら正直乗って急いでほしい。


あれ……?

そういえば、守護神獣である因幡が会いたがった人なら、吾輩だって面識がある人だよな……?

吾輩はついて行かなくてよかったのか……?


「因幡が会いたがった人って、吾輩も面識あるんだよな?」

「うむ。もちろんだとも」

「お前はいいのか?」

「いや……吾輩は別に……」


気になって聞いてみると、彼は歯切れが悪くそう答える。

どこか怯えたような雰囲気だけど……

まさか大口真神なんていないよな?


知りたいけど、これは聞いても教えてくれなそうだ。

後で会えたら確認しようかな……


「それじゃあ僕達も行こっかぁ」

「だな〜」

「面倒だなぁ……」

「あたしも嫌だよ。けど、思っていたのとは違って、天坂も敵対したいって感じじゃあないみたいだしねぇ……」

「そりゃあそうさ。投獄されても殺されはしねぇよ。

知り合いなんだから」

「それが嫌だってんだよバカ」


俺がまたぼんやりと考え事をしていると、残った面々がこれから向かう愛宕御所でのことを話し始める。


海音との約束で連行する雷閃。

彼はもともと逆らわないと聞いていたからいいとして……


できれば大人しくさせたいからと頼まれた紫苑。

昨日祭りの後で話しただけだが、最初に白兎亭で見たようなやり取りではなくなっていた。


あの時は何が何でも逃げたいって感じだったはずなんだけどな……まぁ紫苑はどちらかというと会いたがってたか。


ってか、知り合いだったのかよ……

彼女は鳴神紫苑ってフルネームで読んでたんだけど……どういう繋がりだ?


そして美桜は……


「ふぁ〜……」


相変わらず白虎に寝転んだままで、扇子で顔を仰いでいる。

みんな案外平気そうだな……

誰も逃げるつもりがないようなので、すごく気楽だ。


「よし、じゃあ行くか」

「わっかりましたぁ」

「逃げずに海音に会うのなんて久々だなぁ……楽しみだ!!」


たしかに海音も、必ずしも捕まえる必要がある訳でもないと言っていたけど……

紫苑の言動に、そこはかとなく不安を感じる。


けどまぁ……

大人しくなったなら、もう揉め事にはならないだろう。

俺達は、拍子抜けする程スムーズに愛宕の街へと向かい始めた。

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