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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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119-サボり魔連行

翌日。俺はまたも、心を締め付けるような夢に起こされる。

……チルを飛ばしてから毎晩これだ。


しかし、昨日もそうだったけど内容は全く覚えていない。

ただ、今までよりも少し強く心が痛むだけ。

まぁ昨日は冷徹の仮面(ドール)が起こしたから覚えていないのかもしれないが……


今日は、なんでだろうな?

いつもの夢もおぼろげではあったけど、ここまで完全に思い出せないのは珍しい。

俺は、少し不思議に思いながら起き上がる。


周囲で熟睡しているのは、相変わらず寝起きの悪いロロや、案の定寝相の悪い雷閃、紫苑。

ライアンは今日は早起きのようで、吾輩と因幡は……散歩かな?


律は起きているっぽいけど、まだ寝ぼけているし……


「律、起きるか?」

「あっきは、本当に、いる? けものは、強く。

人は、弱い。しゅうまつは、幻に……」


一応声をかけるが、彼はぼんやりと訳のわからないことを次々に口走っていた。目の焦点が合っていない。

終末とかどことなく不気味なことを言っていて、心配でははあるけど……


愛宕にいたら妖怪の襲撃を多く受けていそうだし、強く刻み込まれているだけかもしれない。

別に無理に連れ出す必要もないので、俺は彼を部屋に残して廊下に出る。


窓から外を見ると、もう薄っすらと明るくとても涼しそうだ。2人……もしくは3人の散歩に合流してもいいけど……


今日はたしか4日目の朝だ。

ギリギリまで粘れるとしても、あと10日。

因幡が早く見つかったから余裕はありそうだが、準備終えておいて損はないだろう。


俺はそう思って、先に食堂で朝食を食べることにした。




~~~~~~~~~~




俺が食堂に着くと、そこにいたのはドール達だけだった。

美桜は昨日の夕方くらいからずっと寝ていたのに、まだ寝ているらしい。もうどうしょうもねぇな……


どうしょうもねぇから、もう放っておこう。

それより、4人いるように見えて実質1人なのが虚しい。

見た目だけだと、どの分身なのかはわからないが……おそらく冷徹、楽しみ、喜び……辺りか?


彼女達はそれぞれ、天ぷら、肉じゃが、鮭、うどんを、それぞれ嬉しそうに、楽しそうに、真剣に、無表情に食べている。


つまりは野菜、肉、魚、炭水化物。

全員ドールではあるし、多分栄養素は本体に収束される。

うん、なんか……すごく効率的だな。


その光景見た俺は、嬉しそうなドールの食べていた天ぷらを選ぶ。見てるだけで幸せになれそうなくらいだったので、流石に食欲がそそられた。


あと、特に朝からでも食べられない量ではないし、食べたくなった時に食べるのが1番だし……

俺は数日前にクロノスが言っていた言葉を思い出しながら、冷徹の隣の席についた。


すると、彼女はちらりと俺の顔を横目で見て、小さな声で話しかけてくる。


「もしかして、また泣いていたんですか?」

「……また? 泣いてる?」

「ええ。起きてすぐの昨日ほどではないですが、今日もそう見えます」


彼女の俺を見る目は、もちろん冷徹そのもの。

だが、その中にかすかに心配の色も見て取れた。


俺に自覚はないんだけど……

昨日も今日も泣いていたというのだから、確認しない訳にはいかない。


不本意ながら、軽く目をこすってみる。

……やっぱり濡れてはいない。


「怖い夢でも見たんですか? それとも悲しい夢ですか?」

「目は別に濡れてないぞ?」

「はぁ……私の力を忘れましたか? 冷気です。

すぐに凍らせたんですよ」

「え……ありがとう」

「どういたしまして」


反射でお礼を言うと、彼女は事もなげにそれを受け流して鮭を口に運ぶ。特に恥とは思わないけど、わざわざ凍らせてくれてたとは……


彼女は、いつでも冷徹にみんなの補佐をしてくれる。

怖いなんてとんでもなかった。


しかし、泣く理由はわからないな……

嘘つく理由もないし確かなのだろうけど、理由が気になる。

そんなことを考えていると、本体のドールが声をかけてきた。


「2人共、どうかしたんですか?」

「あ、いやなんでもない」

「そうですか……?」

「え、なになに〜? 2人だけの隠し事?」

「へー♪ 2人の秘密……楽しげだね♪」

「仲いいな〜。いいな〜」

「そんなことないですよ。私は誰にだって同じ対応をしますから」

「まぁそうだよね♪」


恥とは思わないけど、まぁ率先して教えたいことでもない。

どうにか誤魔化せてよかったな……


正直、静かな場所なら3人にも聞こえていたと思うが、冷徹の前と右側には喜びと楽しみがいる。


それに挟まれた形で、冷徹の対角線上にいる本体のドールにはほとんど聞こえていなかったようだ。

この2人は基本的にうるさいので助かったかもしれない。


冷徹ももうそれ以上は突っ込んでこなかったので、俺は考えていても仕方がないと思って、さっさと朝食を口な運んだ。




~~~~~~~~~~




俺達とドール達が朝食を食べ終わる直前くらいにライアン達早起き組、食べ終わった頃にほとんどの熟睡組がやってきた。


しかし、美桜はまだ寝ているらしい。

本当に……心の底からどうしょうもないと思う。


まぁ今日の予定は、愛宕に戻って美桜と雷閃、できれば紫苑なんかを海音に引き渡すことくらいだ。

一応その先……大口真神がいるという飛鳥に行くつもりでもあるが、移動だけだから気にする必要はない。


美桜には、出発直前に白虎を呼び出してもらう……とかでもいいだろう。そう思って、ちゃんと起きた面々が食べ終わるのを待つことにする。




全員が食べ終わったのは、それから15分程してからだ。

寝ぼけ眼の雷閃と紫苑を軽く急かし、すっかり目を覚ました律やロロ、早起き組と雑談をしながら立ち上がる。


「白兎での神獣探しは〜思いの外早く終わったし〜、今日は愛宕でのんびりしてもいいくらいだな〜」

「そうだね。白兎亭、愛宕支店、いく?」

「オイラはべつにいいやー」

「俺も嫌だ」


岩戸で考えていた予定では、残り9日あれば見つけられるかな……という感じだ。


多分大口真神のところも、移動しつつ探すことになるだろうし、神奈備の森の守護神獣達なら同じ場所にいるので手間は少ない。


俺としては……幕府で海音ともう少し話したりしたいかな。

あとは、美桜と雷閃がやたらと信頼している氷室影綱と会ってみたい。


前回の愛宕観光では入れなかった場所なので、何度も入った白兎亭より断然行きたいと思う。

そんなことを2人と話していると……


「へぇ……愛宕御所に入りたいんだぁ?

まぁ僕がいれば間違いなく入れるねぇ……入る?」

「白兎亭いいと思うけどなぁ」


何故かサボっている幕府のトップ、雷閃と、一度引き渡す予定の紫苑が一気に目を覚まして話に入ってきた。

雷閃は昨日と同じくのほほ~んとしているが、紫苑はなんかバチバチと火花を散らしていてビビる……


「吾輩も興味があるが、我らは所詮、ただついていっているだけの同行者だぞ? 鳴神紫苑」

「ああ。だけどそれ以上に、白兎亭は絶対にお前とは行きたくない。それから、火花どうにかなんないのか?」

「おっとすまねぇな。これは俺のあくびだ」

「あくび……?」

「嘘だ」

「いや、嘘かよ!!」


とぼけたような言動をする紫苑に対して、俺達一同は思わず一斉にツッコミを入れる。

なんて愉快なヤツなんだ……


多少面倒を起こすこともありそうだけど、それを補って余りあるくらいに面白いな。

まぁそれはそれとして……白兎亭に行くのはなんとしても阻止しなければならない。絶対に、あっては、ならない。


「白兎亭は何度も行った。愛宕御所には入ったことがない。

なら白兎亭なんか行かずに御所だろ」

「俺と白ちゃんだけで‥」

「まだ懲りないのかい? 迷惑かけるだろう? あんたは」

「っす」


彼は、俺がどうにか否定させようと説得してみても微妙な反応を繰り返す。だがどこからともなく現れた、つっちーと呼ばれるマントの女性に言われると、すぐに頷いた。


前回も思ったけど、紫苑にはこのマントの女性をぶつければ簡単に止められそうだな。

この人はこの人で、怪しさの塊みたいな格好してるけど……


「ありがとう。えと……つっちーさん?」

「前回のあれを見ちゃったら流石にねぇ。

呼び方もそれでいいよ。白兎大明神を白ちゃんって呼ぶのとおんなじで、呼びにくい名前だからさ」


紫苑を一瞬で抑えるアネゴ肌の女性。

……よし。こいつに何かを無理やり食べさせられそうになったりしたら、すぐに頼ろう。


「あと、あの人も連れてきたよ」

「ん?」


つっちーが窓の外を指差すので見てみると、そこには白虎の背で寝ている美桜がいた。

どうやら彼女も早起き組だったらしく、一度美桜を起こして白虎を呼び出させたらしい。


頼りになるな……


「ありがとうございます。しかし、よく部屋がわかりましたね? 泊まってはいなかったですけど……」

「ああ。あたしは外の方が落ち着くんだよ。

部屋は白ちゃんに聞いた」


ドールが無表情なのにどこか不思議そうな感じで聞くと、彼女はしれっとそんなことを言う。

外……つまり野宿したってことか?


荷物なんてろくに持っていないのに……たくましいな。

因幡――白ちゃんを見つけ出して部屋を聞くのだって、紫苑と違って完璧な仕事だ。


こいつなら探す前に迷子だろう。

そういうところも含めて頭が上がらないんだろうな……


「なるほど男性の中でも早起きの方がいたのですね」

「こう見えて、ポクもけっこう長生きだからね」

「吾輩もだ」

「張り合うなよ……」

「おーい、さっさと行こうぜー!!」

「ん……?」


俺達がつっちーと話していると、どこか遠くから声が聞こえてきた。


部屋の中から聞こえてくるのような気もするし、もっと広い空間からのような気もする。

いや、むしろその境界にいるような音の響き方だ。


少し考えてから食堂の出口を見ると、やはりそこには顔を半分だけ出して呼ばわっている紫苑。

それから、今にも出ていきそうな雷閃とライアンがいた。


あいつらっ……!!

ライアンもなんとなくついていってる感じだな、あれ!?

けどまぁ、彼がいるなら迷子にはならないか……?


「あっ、バカタレ……!! あんた離れたら迷子になるよ!!」

「みなさんー!! 大所帯になったのですから、勝手に動かれたら困ります!!」


俺はライアンへの信頼から、思わず大丈夫かと放置する姿勢になってしまったが、同時に気がついたしっかり者2人はそうはいかなかった。


つっちーは主に紫苑に向けていると思われる怒号、ドールは3人全員に向けた、教え子に注意する先生のような凛とした大声だ。


ドールとあの3人だと、本当に悪ガキと引率の先生みたいに感じる。

俺もたしか、村の大人に色々教わるときなんかに……いや、やっぱあんまり覚えてないな。


「あ……ぼくたちも、早く行かないと……」

「そうだな。ロロと因幡、吾輩も行くぞ」

「おっけーい」

「うむ。おーいロロ、時間切れのようだぞ」

「あいさー」


俺と律のやり取りを受け、吾輩がまだフルーツを食べていたロロに声をかける。

すると彼は、大口を開けてすべて飲み込んでから俺の肩に飛び乗ってきた。


どんな口と喉と胃をしてるんだ……?


「でも、ドールの言う通り本当に大所帯だぞ。

麒麟足りないけど、移動できるか?」

「ふっ……吾輩の存在を忘れたのかね? クロウ。

吾輩、全員を乗せられるだけの巨体だぞ?」

「あーまぁ海ならそうだな」


よく考えたら、この国の大きい街はだいたい臨海部だった。

街がない龍宮は置いておくとして……愛宕も岩戸も白兎も全部だ。


愛宕なんて首都だから立派な港まである。

白兎は……少なくとも俺達が降りた場所はただの砂浜だったので、やっぱり吾輩で移動するとしたらありがたいことだな。


……というか、この国での夜刀神の便利さが半端じゃない。

俺はしみじみと吾輩への感謝の念を抱きながら、律達と共に外へ向かった。


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