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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
134/432

118-鳴神祭➃

俺達がようやく劇場に辿り着くと、そこでは何故か、既にドールとライアンが待っていた。

相変わらず寝ている美桜の周りで、出店で買ってきたであろう食べ物をつまんでいる。


探す手間が省けたのはありがたいけど、よくここに来るってわかったな……


「お帰りなさい、みなさん」

「ただいま。ドール、ライアン。

よくここに来るってわかったな?」

「そりゃあこの人寝てんだもんよ〜。

戻ってこない訳ねぇよな〜」


ドールがわざわざ立ち上がって出迎えてくれたので、俺も挨拶を返しながら聞いてみる。

すると、焼き鳥を頬張っていたライアンが事もなげにそう答えた。


……なるほど、そりゃそうだ。

そもそも舞台裏に美桜がいるとわかったのがすごいが、多分あの劇はこのお祭り騒ぎの中心だったと思う。


なら、もしかしたらこの2人も見ていたのかもしれない。

吾輩や美桜、雷閃と違って、2人はあの場で紫苑に会っているので、俺が会いに行くことも予想できそうだ。


なら次は、この後どうするかだけど……

このまま宿に向かうか、近くにあるのなら白兎亭に顔を出してみるか。


俺は行ってもいいけど、みんなが疲れている可能性もあるのでまずは聞いてみる。


「この後どうする? 1軒くらい白兎亭見てくか?」

「ああ、そういえば守護神獣を探しているんだったね。

なら鳴ちゃん。君の出番だよ」

「んー……つっちーのことか? そうだなぁ行くかぁ」


俺は主に、ドールとライアンに相談したつもりではあったが、答えたのは雷閃と紫苑だった。

これまた心当たりがありそうな言い方をしている。


だけど、ドールとライアンならともかくこの2人か……

案内させたら迷子になりそうだ。


場所だけ聞いて、案内は断れたらそれが1番いいけど……そもそも場所をわかっているかもわからない。

なんかもう……どうしょうもねぇな。

俺はすっかり諦めて、2人に確認を取る。


「念の為聞くけど、ちゃんと辿り着けるのか?

その心当たりの場所に」

「僕は知りませーん。鳴ちゃんは?」

「俺は完璧よぉ!! 自信を持って案内できるぜ!!」


雷閃は予想通り……というか、もともと心当たりがあるのは紫苑なので、案内はできない。

だが意外にも紫苑は自信たっぷりだった。


正直不安しか感じないけど……

みんながあまり疲れてなくて、会いに行くのに賛成ならば行くか。


俺はそう思い、今度こそライアン、ドールに問いかける。

多分ロロは俺が行くといえば行くし、吾輩は紫苑とじゃれ合っていたくらいだし元気そうだ。

雷閃は……正直来なくていい。


「どうする?」

「いいんじゃねぇかな〜。

もし本当にいたなら、明日愛宕に戻れるし〜」

「そうですね」

「じゃあ案内頼む。慎重にな?」

「あっはっは!! 任せとけ!!」


短い話し合いの結果、宿に行く前に白兎大明神に会いに行くことに決まった。

けど、多分2人に躊躇いがなかったのは、紫苑がちゃんと案内できると思っているからな気がする……


俺はさっきの惨劇を見ていたから不安しかなかった。

……まぁ決まったものは仕方がないし、ちゃんと会えるなら早い方がいい。


俺は、紫苑の一挙手一投足から目を離さないようにしようと心に決めて、ズンズン進んでいく彼を追った。




~~~~~~~~~~




俺達が紫苑に案内されて来たのは、どの店からも少し距離があるのにテーブルがいくつも置かれている謎の区画。


何十人もの男達が群がっており、もう夕暮れだというのに未だに騒がしい場所だった。

そこでは盛んに腕相撲が行われているようだけど……

何だこれ?


うーん……え? もしかして、そのためだけにテーブルが並べられているのか?

俺は少しの間彼らを観察し、ようやくその結論に辿り着く。

あまりの異様さに、すぐには理解できなかった。


……いや、やっぱり理解できないな。何だこれ?

このお祭り騒ぎのメインは紫苑の演劇。

それをより快適に楽しむためにあると思われるのが飲食店。


じゃあこれは何なんだ……!?

なんのためにあるんだ……!?


俺が混乱していると、ライアンがうずうずとし始めた。


「な〜な〜。俺も混ざってきていいかな〜?」

「あー……? まぁいいんじゃね?

別にただの腕相撲大会みたいだし」

「よっしゃ〜!! んじゃあ飛び入り参戦たのもー!!」

「今更入れるんですかね……?」


彼は、どうやら力比べに参加したかっただけのようだ。

フーと比べてしまうと、あまり戦闘狂のイメージにはならないけど……


それでもいつも笑いながら戦っているし、案外力比べは好きらしい。あと、相変わらず順応が早いな……

……まぁ多分何も気にしていないだけか。


「すいませ〜ん。俺も参加いいかな〜?」

「何だいあんた? もう締め切ってるし、終盤だよ」

「あ〜……なら、ハンデ付きでもいいんで〜」

「へぇ……」


突っ込んで行った彼を見守っていると、彼は大会の管理をしている人と少し揉めているようだった。

途中参加は厳しいのかもしれない。


ただ、俺は参加するつもりはないし、ドールや律、吾輩もその気はなさそう。雷閃と紫苑もつっちーというのを探しているので、乱入するのはライアンだけだ。


枠がない訳でもなさそうだけど……


「ハンデ付きであたしに勝てると思うかい?」

「ん〜? あんたも参加者なんだな〜……

まぁ女に負けることはねぇだろ〜」

「あっはっは。いい度胸じゃないか。

なら、今現在の敗者全員にこの重り付きで勝って、この枠に入んな。決勝まで残ってれば、あたしが叩き潰してあげる」

「おお〜、ありがとな〜」


話を聞いていると、随分と不利な条件での参加になってしまったようだ。まぁ彼は神秘だし、普通の人間に負けることはないだろうけど。


俺がそんなことを考えながら見ていると、同じくその様子を見ていた吾輩が楽しそうに笑い始める。


「フハハ。逆境でなお元気か。いいことだ」

「あれが彼にとって逆境なのかは諸説ありますよ」

「多分物ともしないな」

「人間達の驚く顔が楽しみだな」


吾輩もドールも、ライアンが勝つことをまったく疑っていなかった。もちろん俺も、あいつが負けるとは思えない。


……そして、同じく彼と受付を見ていた雷閃は、俺達とは少し違った部分を見ていたようだ。

ライアンではなく、その奥に立つ受付の人に対して首を傾げている。


「あれ? 受付で話しているのがそうだよね? 鳴ちゃん」

「おー……」

「あはは……鳴ちゃん、いつも世話になってるんだからさぁ。

あんまり嫌そうな顔しないであげなよ」

「そりゃそうだけどよー……あいつもこんな大会開いてるんだぜ? 理不尽だよなぁ……」

「あは〜。君が問題を起こすことなんて、すっかり忘れて楽しんでいそうだねぇ。似た者同士ー」


どうやら心当たりのつっちーというのは、今受付にいる人物のようだ。ライアンとの会話的に、参加者でもあるようなのでしばらくは話しかけても邪魔になるだろう。


俺達は大会が終わるまで待つことにして、ひとまず大会の観戦を始めた。




~~~~~~~~~~




決勝戦まで勝ち残ったのは、厳しいハンデを付けられつつも順当に対戦相手を圧倒したライアン。

それからつっちーと呼ばれる受付にいた女性だ。


彼女は愛宕の白兎亭で会った時と同じように、全身を覆うマントを羽織っている。

腕を出しても顔や体は出さないので、どこをどう見ても不審者てしかない。


だが、紫苑と同じく積み重ねた信頼があるようで、誰も彼女の格好に突っ込むことなく決勝戦の合図が鳴った。


「あんた思った以上に強いじゃないか。流石聖人だ」

「だろ〜? あんたも神秘みたいだけど、俺はまだまだ余力があるからよ〜。勝ちは譲らねぇぜ〜?」


テーブル上でお互いの手を握り、がっしりと下に固定したまま2人は笑い合う。

彼らは、何故か試合が始まる前から舌戦を始めていた。

だが、もちろん試合はすぐに……


「レディー……ゴー!!」

「ふんぬ〜!!」

「はぁ!!」


審判の合図と共に、2人が渾身の力を込める。

両者神秘ということもあって、テーブルのきしむ音が凄まじい。


「ぐぬぬ〜……!!」

「はぁぁ……!!」


時間が経つにつれ、テーブルの響かせる音は大きくなり、彼らの声やライアンの表情も必死なものになっていく。

だが、腕は変わらず中央で拮抗しており、まるでブレずに保たれている。


「頑張れー!! マントー!!」

「飛び入りになんて負けんなよー!!」

「はぁぁ!!」

「ぐぬ……」


しばらく微動だにしなかった腕だが、一際声援が大きくなると、遂につっちーが押し始めた。

え、あのライアンが負ける……!?

単純な近接戦闘では、圧倒的な力を持つ魔人ライアンが……!?


「く〜……!!」

「あたしの、勝ちだー!!」


ライアンの手の甲が、テーブル目前にまで押し込まれる。

時間が止まったかのように、ゆっくりと……

そして着実に一歩ずつ……


だが、手の甲が叩きつけられたかに見えたその瞬間、ライアンは一際大きく声を上げた。

まるでここからが本番だと言わんばかりの、喝。


「まだまだぁ〜!!」

「なっ……!!」


途端に手が動くのはさっきとは真逆の方向。

つまりは、つっちーの側だ。


そして彼女の手の甲は、ライアンが押し込まれていた時とは比べ物にならない程のスピードで反対側に押し込まれた。

同時に、その勢いを受けたテーブルが粉々に砕け散る。

恐ろしいパワーだ。


「勝者、ライアン・シメール!!」

「うぉっしゃ〜!!」

「な、なんてこった……」


なんとあの土壇場で、ライアンは逆転勝利を決めてしまった。負けたつっちーは、テーブルが砕けたためそのまま勢い余って地面に寝っ転がり驚いている。


これには雷閃と紫苑も驚きを隠せず……


「うっははは!! 負けてやんのー!!」

「あは〜。気持ちいいくらい綺麗に負けたねぇ」

「あんたらっ……!! しおーん!!」

「俺だけかぁ!?」


全力で喧嘩を売っていた。

うん……つっちーって人が怒るのも無理はない。

特に紫苑の言い方は毒がありすぎる。


多分普段から鬱憤が溜まってたんだろうな……

だけどそのせいで、この前白兎亭で怒られていたようなことになっている気がしなくもない。


まぁ自業自得だな……




彼女が落ち着くのを少し待ってから、俺達は改めて彼女に話しかける。


紫苑の心当たりはこの人のようなので、もしかしたら白兎大明神と知り合いだったりするのかもしれない。

もっとも人に紛れている神だと言うし……


「こんばんは」

「うん? ああ、この前の……こんばんは。

あんた、こいつと一緒にいて大丈夫だったかい?」


さっきは大会ではしゃいでいたけど、やっぱりこの人はアネゴ肌だな。めちゃくちゃ気にかけてもらっている感じがする。


「ああ。迷子になったのには驚いたけどな」

「あっはっは。雷閃もいたんじゃねぇ」

「風評被害はやめてくださーい」

「事実だろ」


一体どこからそんな自信が湧いてくるのか……

雷閃は彼女の言葉を聞くと、まるで嘘をついているかのように否定した。


俺はそれをバッサリ切り捨ててから本題に入る。

本当の被害者は、ここに数名いるからな……


「まぁそれはともかく……

白兎大明神って知ってるか?」

「なんだ、あの子に会いたいのかい? それなら……」


俺は、彼女が目線で示した方向――腕相撲大会会場の、すぐ隣にある高めの建物に視線を向ける。

すると、そこにいたのは紫苑に初めて会った時に、彼と一緒に大食い勝負をしていた少年だ。


展望台のような場所で、相変わらず大量の団子を食べていた。……あの子が、守護神獣?


ちらりと横を見ると、吾輩が少年と同じように真っ白い見た目で立っている。そういえば宇迦之御魂神も真っ白だった。

白一色なのが神の色なのかもしれない。


「えっと……」

「彼を呼ぶことはできますか?」

「もちろん。ちょっと耳塞いでな」


俺達は彼女に言われるまま耳を塞ぐ。

それを確認すると、彼女ハ大きく生きを吸い込み、大声で少年を呼んだ。


「白ちゃーん!! お客だよー!!」

「っ……!!」


全身を震わせるような大声……

だけど近くにいる人にしか影響はないのか、周りで片付けをしている人や腕相撲大会の参加者達は動じていなかった。


理屈はわからないけど……

どうやら一部の地面が盛り上がっていたり、浮いているようなものもあるので、それらの影響かもしれない。


まぁ今気にする必要はないな。

今は降りてくる少年の方が重要だ。


「はーい。誰かなー? お、キミたちはこの前の……」

「こんばんは」

「うん。ポクに何の用かな?」

「実は……」


彼は、夜刀神のように攻撃を仕掛けてくることもなく、宇迦之御魂神のように敵意を剥き出しにしてくることもない。

とても穏やかな神獣だったので、さっさと本題に入る。


あの後俺達が崑崙へ行ったこと。

そこで晴雲に占いや助言をもらったこと。

今はそれに従って、守護神獣に協力を取り付けていることなど。


彼は全部聞き終わると、案外あっさりと結論を出した。


「ごめんねー。

ポクにはあんまりせんとうのうりょくがないからさー。

晴雲が言っていたとおりの協力はできないかなー」


悩む素振りもなく、本当に一瞬の出来事……

これはどう受け取ればいいのだろう?


「それでてどういう意味だ〜?

白兎の安全は保証する〜……みたいなことか〜?」

「えっとだねー。ポクができるのは少しのいりょーと、道しるべになることがある、縁を結ぶことがあるとかかな?

ぜんせんに出たら死んじゃうよー」

「つまり、後方支援ならしてもいいと?」

「そうだねー。だから、さんせんかと聞かれたらノー。

ふさんせんかと聞かれてもノー……だよ」


ライアンとドールに交互に聞かれ、彼はくるくると回転しながらにこやかに答える。

頼みを断っているのに、すごく楽しそうだ。


この答えだけ聞くとどっちつかずに思えるけど……とりあえず宇迦之御魂神よりは好意的かな。

既に会っているからか、普通に話せるし。


3柱の神に会った結果は、1勝1敗1引き分けといったところか……残りの神も不安になってくるな。


ある程度期待できるのが、大口真神、多邇具久命、あとは会えれば射楯大神くらいか……

4柱……半分……


しかし、最初の聞いた時は、多邇具久命以外面倒くさいのばっかりだと思ってたし、夜刀神がいいヤツだった時点で儲けもんかもしれない。


因幡……白兎大明神も言えば助けてくれそうだし……


「まぁ好意的でよかったよ。もし機会があればよろしくな」

「りょーかい。ちなみに、あしたは愛宕へ?」

「そうだな。島の守護神獣はみんな回ったし、一旦は」

「へへ、ならポクもついてくよ。白兎亭に行きたいからね」


彼は人に紛れている神らしく、愛宕への同行を誰よりも簡単に決めた。……というか、多分もとから明日も行くつもりだったので、足代わりに丁度いいって感じだな。


これはありがたいことなのか……?

戦いには協力しないとしても、愛宕にいるってのは心強い気はするけど……


「あー……ありがとう?」

「あと、夜刀とも久しぶりだからー!!」

「う、うむ……それはそうだな……」


そう言うと、因幡は吾輩に飛びついていく。

だが、当の吾輩本人は迷惑そうだ。なんかこの光景だけ見ると、親戚の叔父さんと子どもみたいだな……


「なんだよーイヤそうにしないでおくれよー」

「縁を結ぶ……前々から思っておったのだが、まさか吾輩と大口真神の縁を結んだりしてはおらんよな?」

「……えへ」

「き、貴様ッ……!!」


なんか、これまた癖の強い神様だな……

多分誰よりも人間好きなのに、決して深入りせずに紛れるだけ。


夜刀神や宇迦之御魂神と違って子どもの見た目なのに、明らかに夜刀神よりも上手い立ち回りをしている。


信用できるかどうかって話なら信用はできそうだけど、これ以上に信用できない神がいるんだもんな……

隠神刑部、どうなるんだろ……


俺はそこはかとなく不安を感じながら、因幡や吾輩、雷閃に紫苑も含めた全員で宿へと向かった。

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