11-猫の神獣
屋敷の奥で黒猫を助けてから1時間後、ようやく俺達は宿まで辿り着いた。
割と時間がかかってしまったがこれでも最短時間だったと思う。
こいつは構造が分かると言っていたが、それは知識ではなく空間感知能力のようなものだったので、あの女以外の魔人も察知していた。
そいつらからも隠れながら出てきたので少し遅くなってしまったのだ。
能力はないみたいに言ってたがとんでもない。
俺と同じタイプで、戦闘能力が低いというだけだった。
そして現在。
逃げ出せた後も俺に付いてきてくれて、宿に一緒に戻ってきていた。
「クロウ、その子どうしたの?」
ヴィニーの元まで行くと、ベッドに横になりながら聞いてくる。
「ああ、実は賊の根城に潜入してたんだけどよ。こいつが捕まってたから助けてきた」
「猫を?」
「オイラ、神獣だぞ」
そんな訝しげな反応に対して、黒猫はやはり飛び跳ねてそう主張した。
癖、なのかな?
それに対してヴィニーは少し引き気味で、顔を歪めている。
威厳、ないもんな。
「え、神獣? ……なんで捕まってたの? 間抜け?」
「はー!? オイラ間抜けじゃないってのー。神獣なんだから、いげんたっぷりでばんのうだ、バーカ」
などと喚きながらやはり飛び跳ねる黒猫は子供にしか見えない。そういや生まれたばかりって言ってたか。
「はは、は。……え、これどうするの?」
「こいつ神獣ってだけあって色々力があるみたいなんだよな。逃げた後は別にどうもするつもりはなかったんだが、自分で付いてきてんだから協力してもらおうぜ」
「なるほど。じゃあキミ、何できるの?」
ヴィニーがそう聞くと、黒猫は急にしゅんとしてしまう。
屋敷で聞いたときもそうだったな。自信がないのか?
「あぅ……オイラ、生まれたばっかだから……そんなに力ない……」
ヴィニーがこちらを訝しげに見てきたので慌ててフォロー。
もう少し自分で自分を売り込めよな……ったく。
「いやいや、こいつは確かに強くはないっぽいけど力はあるぞ。
屋敷では念動力があるっつってたし、空間感知能力みたいなのもあって屋敷の構造から魔人の位置まで教えてくれたからな。地味かもしれんがかなり助かる」
「だってさ。キミ自信持ちなよ」
すると、黒猫は分かりやすく表情を輝かせる。
「うん!!オイラ、すごいんだ」
「ところで今更だけど、お前名前なんて言うんだ?」
「え? オイラに名前なんてないよ?」
生まれたばかりってそんなについ最近なのか?
これは俺達が考えないと不便だな。オス……だよな?
「じゃあクロってのはどうだ?」
「名前くれるのか? 嬉しいなー」
「ちょっと待って。それだとクロウに被ってる」
「それもそうか……じゃあお前考えてくれ」
「俺? ……ロロとか?」
「黒のロかよ。まぁクロでもよかったんならロロでもいいよな」
「うん。オイラ、今度からロロって名乗るよ。ありがとうクロー、ヴィニー」
「でだ。俺達の仲間も捕まっててよ、手伝ってほしいんだがどうだ?」
するとロロは、腰に両手を置き宣言する。
「いいよ。オイラ、クローと友達だから。クロー助ける」
小さいのに、やけに堂々とした宣言だ。
……というか、よく考えたらなんで二本足で立ってるんだろうな?
そしてやたらと懐いている。本当になんでだ?
助けたのも運が良かっただけなのに。
ちょっと罪悪感が……
「それで、どうするの?」
「そうだな……ロロはさっき言った2つ以外にもなんかできることがあったりするか?」
「んーとね。自己治癒能力を高めたりできるかも。ヴィニー痛そうだから、かけるよ」
「え、ほんとに? すごくありがたいよ」
ロロはヴィニーが体を起こして休んでいるベッドに飛び乗る。
果たして彼に何をするのか、と見守っていると彼の手を舐め始めた。
こうして見てるとただのペットと飼い主のようだ。
……やっぱ自己治癒能力を高めるということだったし、今すぐ目に見えて全快ということにはならないな。
「どれくらい早まるんだ?」
「さぁ……でもヴィニーはもう血が止まってたからすぐ治るんじゃない?」
すぐって言われても抽象的で困るな。
「じゃあ俺はもう少し休むことにするよ」
「そうだな。俺とロロは敵を探ってくる」
「散歩ー?」
「索敵だ」
そう、索敵。断じて遊びに行くわけじゃない。
そこを間違ってもらっちゃ困る。
……けど、ロロはとても空気を和ませるな。純粋だし。
そんなことを考えながら、俺達はフェニキアの町に繰り出した。
~~~~~~~~~~
2日後。ヴィニーは、傷が塞がり完全復活を果たした。
その期間は傷の大きさからいって異常な短さ。
ロロの能力の有用性がはっきりと出ていた。
だがいくら短いとは言っても暇は暇。
そのため彼が治るまでの間、俺とロロは町を観光していた。
本来の目的は敵の幹部を探ることだったのだが、観光しているだけで情報は勝手に入ってきたからだ。
ロロは魔人が近づいてきたら分かるし、分かってしまえば俺の幸運でまず見つからない。
そもそも運が良すぎて遭遇も楽々だ。
そんなやり方で1日目の昼には、幹部の人数とよく見かける2人の顔を覚えることが出来てしまった。
幹部は3人、覚えたのはあの女と、彼女によく似た顔の男だ。多分双子で2人共風の魔人だと思う。
どちらも俺は苦戦するだろう。
だがそれだけではなく、プラスして1つ気がかりができた。
どうやら魔人が増えているらしいのだ。
ロロが言うには、あの屋敷に荒ぶる神秘が集まっている、とのこと。
これはいよいよヴィニーの回復は必須だと思い、俺達は時間を潰すのに観光していた、というわけだ。
俺の旅の目的は、本来楽しむことだからな。
仕事もしてるし文句は言わせない。
ということで俺達は楽しんだ。
あの子に教えてもらったショートケーキも食べたし、ディーテとは違ったコーヒーも飲んだ。
甘いだけでなく見た目にも気を遣って作られたであろうそれは、味覚も視覚も嗅覚も楽しませてくれた。
さらに、この町には海の魚がある。
村で食べたことがあるのは当然川魚のみ。
ディーテでも多分食べられないことはなかったが、希少であったため、初実食だ。
焼き加減も塩気もいい塩梅で、脂もよく乗っていてとても美味い。
そして当然それだけでなく、爽やかな果実やそれに近いソース。理解不能な工夫が沢山なされていて飽きない。
俺はゆく先々の店員に勧められるまま、ひたすら食べ続けた。
神獣というのも意外と何でも食べれるらしく、ロロも食を楽しんでくれた。
終始飛び跳ねていて可愛かったので、一緒に周れて良かった。
町の名所などはまたいつか……
それが昨日のこと。
今日は一転、俺は苦行を強いられていた……
「もっと腰を据えてね」
その優しい声音とは裏腹に、木剣が恐ろしい音を出しながら迫ってくる。
ナイフサイズの木剣で受け止めるが、手が腫れてるんじゃないか? と思うほどの痺れが残る。
「もう、十分リハビリになったんじゃねぇか?」
「いやいや、まだだよ」
「仕事はちゃんとやったろ? もう許してくれよ……」
「それもあるけど、普通に魔人増えてるなら鍛えないとじゃん」
既に午前中いっぱいこれが続いている。
もう俺の体はボロボロだ。
そしてロロも、攻撃を避ける訓練や念動力で攻撃する訓練などをさせられていた。俺と同じでヴィニーが相手。
だが、見るからに手加減されている。
剣のスピード、狙うタイミング、位置、すべてが少し緩やかなのだ。
俺にだけ本気。
訓練だけじゃなく私怨もあると、俺は思うね……
夜になりようやくそれが終わった時、立っていたのはヴィニーだけだった。
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