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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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110-狐神の祭壇

崖の上を左方向に進んでいる俺達の目の前にあるのは、潮風から内陸を守るかのように入り組んだ森だ。

宇迦之御魂神がいるかもしれない場所なだけあって、畑や田んぼへのケアはバッチリできている。


正直、崖だけでも防ぐことができる気がするが……

まぁ宇迦之御魂神は豊穣神なのだから、手を加えるとしたらこうなるだろう。


……とても探しにくい。

それを望んでいるんだろうけど。


しかもクロノスと会ったあの森は、岩戸の裏山のごく一部であったと思われるので、広さはこちらが圧倒的だ。

密度はそこまででもないが、結局広くて迷ってしまう。


実際に森の中に入っても感知できないのか……?



「感知じゃなにも見つからないか?」

「そうだねー……なんか、ところどころ反応がブレるんだよ」


愛宕の隣だからなのかねぇ。

まぁ隣同士とは言っても島と島の話だから、泳いですぐに着くような距離でもないんだけど……

神秘なんて曖昧なものだし、考えても仕方がないか。


ともかく、もしそういうことなら今愛宕には橘獅童がいるということだ。幕府に引き渡さないと……


俺は周囲に目を向けながらも、感知が完全には機能していない原因について考えてみる。

すると、少し後ろからちょろちょろ走り回っていた楽しみの仮面(ドール)が思いっきりぶつかってきた。


周囲にもちゃんと目を向けていたから、ちゃんと受け止めることができたぜ……


「危ねぇ……」

「いいじゃんいいじゃん♪ 先がわかっている冒険なんて、まったく楽しくないんだからさ♪」

「そうはいってもな……もう3日目だし」

「あと11日もあるよ♪」

「ちょうど2週間後って決まってる訳でもないぞ?」


夜刀神が1日。

宇迦之御魂神が今のところ2日……多分今日で見つけることができるだろう。


ここからは予想でしかないけど、白兎大明神、多邇具久命はそう難しくはなさそうだから……それぞれ1日くらい。

大口真神は探すの大変そうだし2日。


射楯大神、天迦久神、隠神刑部は、性格的にそれぞれ2日以上はかかりそうだから、少なくとも6日かかって合計10日。

……うん、普通にギリギリだ。


それも晴雲の占いが当たっていることが前提だから、もし「未来のことを完璧に知れる訳がないじゃん?」とか言って実際は10日後に来たりしたら、それだけで破綻してしまう。


しかも、道中で嵯峨(サガ)雷閃と橘獅童も見つけておく必要もあった。

晴雲の助言は守護神獣だけだったけど、それを抜きにしても海音が不憫すぎるからな……


全員を愛宕に引っ張り出すとしたら、少しは余裕もほしい。

俺としては、今すぐ宇迦之御魂神を見つけて次を探しに行きたいくらいだ。


ほんと……今すぐ見つかってくれねぇかな……


「おやおやぁ……? うわぁ……!! 何あれ何あれ?

すっごく面白そうなものがあるよ♪」


俺が少しぼんやりしながら暗い未来を想像していると、楽しみの仮面(ドール)が興奮しながら前方を指差し始めた。

何だ……? 何か見つけたのか……?


「祭壇でもあったか?」

「んーん。崖!!」

「崖?」


改めて彼女が指差す方向をよく見てみるが、俺の目には特に変わったものは映らない。

崖といえば、ここが既に崖の上だ。

海辺以外にも崩れている場所でもあるのか……?


「なくね……?」

「えー? あるよー? むー……じゃあ、行こっか♪」

「は?」

「ほらほら行くよ♪」

「ちょ……」

「おちるー……!!」


楽しみの仮面(ドール)は薄い反応にしびれを切らしたのか、俺の手を思いっきり手を引っ張りながら走り始める。

ロロが肩から落ちそうになるくらいの勢い……!!




俺達が手を引かれながら、数分ほど走って連れてこられた場所は、たしかに崖と呼べるものだった。

森のど真ん中で、地面がいきなり深くまで崩れている。


といっても、曲線や直線でつながったような、一目でわかる谷の形をしたものではない。

あちらこちらに穴が空いていて、それが浜辺と同じくらいの低さまで届いている感じだ。


一見、ただ穴だらけの森……

だが地面に見えている部分も、この辺りは下が道になっている場所ばかりのようだった。


近場だけでなく、遠くの穴の向こう側からも、少しだけ光が漏れているのが見える。

地下がなくて、どうやってこの形を保っているのか気になるけど……


やたら植物の根がはっているようだから、それで地面を支えてカモフラージュもしているのだろう。

豊穣神としての力を存分に活用してるな……


あと気にする必要はないと思うけど、音の方向からして道は浜辺と森の奥を繋いでいる。

どうやら正規の入り口は浜辺だったらしい。


崖の方が範囲が広くて見つけやすいけど……

もしかしたらライアン達も、浜辺側からこの谷を見つけている頃かもな。


そうであってくれたら、もし祭壇を見つけて戦闘になっても安心感がある。……まぁ、まずは降りるところからだ。

恐る恐る覗き込んで見ると、一応崖の壁はツタなんかに覆われてはいる。


けど危険度は下がっても、難易度は変わらないだろう。

これは降りるのが大変かもしれない……


「ね?」

「本当だな……見るからに怪しいような……?」

「うん。ここいるよ、クロー!! なんかある!!」

「確定か……ならどうにか下に‥」

「それなら任せて♪ 楽しみの感情は、自由な風♪

安全に運ぶよ♪」


そう言うと楽しみの仮面(ドール)は、両手を空にかざした。すると、俺たち全員を柔らかな風が包み込む。


リューの強風はもちろんのこと、フーの細かなよそ風とも少し違った、大きく、力強く、優しく包む風……


「レッツゴー♪」


俺達は楽しみの仮面(ドール)の掛け声と共に、崖の中へと勢いよく飛び込んでいった。




~~~~~~~~~~




「はい、到着♪」

「ありがとな」

「ありがとー」


風に運ばれた俺達は、ものの数分で崖の下に到着した。

広さは……2~3人が手を広げて歩けそうな程に広い。


そして、地面には少し土もあるが、小石などが多くてどこか浜辺に近い感覚を受ける。


多分浜辺側に行くほど多くの砂や砂利に変わっていくのだろう。現在地を推測するのにとても役立ちそうだ。


……とすると、今は半分くらいの場所かな?

行き止まりがあるとすればだけど、そこまで時間をかけずに辿り着けそうな予感がする。


「じゃあさっさと進も……おい、こっちだぞ!!」

「おっとっと……間違えちゃった♪」


彼女は何故か浜辺の方向へ向かっていたが、俺が慌てて声をかけると、舌を出しながら体の向きを反転させた。


口では謝ってるけど……なんかそれすらも楽しんでいそうだ。

流石楽しみという感情が具現化された分身だな。

……決して褒めてはいない。


はぁ……地面を見たらすぐにわかるっていうのに……

楽しみすぎて周りをまったく見てないんじゃないか?


「楽しむのはいいけど、道を間違えるくらいに視野を狭めてちゃ、色々と面白いもんも見逃すぞ」

「そうだね♪ 反省反省♪」

「わかってねぇな……」

「まぁもしクローが見のがしてたら、オイラが念動力でほうこうをゆうどうするよ」

「俺もよーく目を配っておくよ」


とはいえ、そもそも分身ごとに役割があるようだから、楽しみの仮面(ドール)はこのままでもいいのかもしれない。

まぁそもそも、気分屋なリューとかシリアよりはマシだし……


俺はあまり気にしないことに決めて、谷底を内陸に向かって歩き始めた。




~~~~~~~~~~




それからしばらく歩き続けて辿り着いたのは、小ぢんまりとした、緑あふれる広場のような場所だった。


下は芝生、上は大量の木の葉の屋根が覆っており、どこを見ても目に優しい緑色が埋め尽くしている。

谷底でドーム状になっているからか、とても空気がおいしい。葉が薄いからか、とても明るく幻想的だ。


思ったよりもすんなりと見つけることができたけど……

まぁ多分、この道を辿ってこないと見つけることはできなかっただろう。やっぱチルがいなくても運はいい。


そして、中央にはもちろん立派な祭壇があり、上には1頭の狐がいた。


美しい狐神は、吾輩ほどではないが明らかに俺よりも大きな体で、白い全身から黄金色の光を発している。

まるで、岩戸で見た田んぼの稲みたいだ。


吾輩はただ巨大な蛇って感じだったのに、祭壇の豪華さも見た目の華々しさもえらい違いだな。

豊穣神として崇められているから……なのかもしれないが。


ともかく挨拶……しても大丈夫か?

宇迦之御魂神は、人に会わない神と聞いている。


もし視界に入っただけで怒るようなら、吾輩を呼ぶかロロに頑張ってもらうしかないんだけど……


「人間が会っても大丈夫だと思うか?」

「でも、オイラだけで会うのいやだよ?」

「楽しそうだし、さっさと会っちゃお♪」

「え、いや危機感……」

「おーい宇迦之御魂神様ー♪」

「え、えー……」


俺達が慎重に話し合っていると、楽しみの仮面(ドール)はそう言ってさっさと呼びかけてしまう。

しかも、敬いの欠片もない、思わず引いてしまう程に気安い感じで……


「……」


その声を聞き、宇迦之御魂神はゆっくりと頭を持ち上げる。

閉じていたまぶたを開き、その神々しい瞳を俺達へ……


「なんじゃ? お主らは」


警戒、敵意、不信、軽蔑、怒り、殺意、諦観、苦悩。

それは、あらゆる負の感情が詰め込まれたような、思わず体を震わせしまうような視線だった……


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