109-捜索、宇迦之御魂神➅
岩戸で1番大きな街を出発した俺達が、数時間かけてやってきたのは、島の最東端に位置する浜辺だ。
隣接しているため、ここからでも崖の合間から遠く本島が見える。
それほどまでに愛宕に近い位置……
春日鉱山が封じられたとはいっても、多少聖域の影響を受けていそうな場所だった。
だけど左右は見渡す限り砂浜ばかりで、後ろには島の中へと続く坂道と、その両脇を固める崖。
祭壇なんてどこにも見当たらないな……うーん……
「どこに祭壇があるんだろうな……?」
多分ロロの感知だと、構造はわかっても、外で特定の建造物を探すなんてことはできないだろう。
そもそも愛宕に近いと精度も落ちるようだし、占いの方が頼れるかも……と美桜に聞いてみる。
「そうだね〜……」
「しってる人、なんて、いるのかな?」
「そもそも人がいませんよ、律くん」
だが、当然彼女は占う素振りを見せなかった。
白虎の上で寝っ転がりながら、のんびりと海を眺めている。
……うん、いつも通りだ。
頼りになるのに頼りにならない。
律とドールも、同じくやれることはなさそうだし……また人海戦術になるか?
チルがいれば先導してもらうとこだけど、いないから俺も特にできることがないんだよな……
「なら申し訳ないけど、また分身で探す感じになるか?」
「そうですね……今回は待つ必要はないので、各チームに1人ずついてもらいましょうか」
"感情の仮面"
今回ドールが呼び出したのは、不安、楽しみ、冷徹、喜びの4人の分身だ。
前回と同じように恐怖と憎しみの感情がなく、追加で悲しみの感情も消えている。
彼女達が各チームに1人ってことは、最大で4グループ作れることになるけど……
俺、ロロ、ライアン、ドール、美桜、律、吾輩。
5人と2頭で、メンバーは合計で7……美桜か律は自分の式神があるから1人で、残りは適当に分ければいいかな?
もし美桜が1人になったとしたら、負担が増えるのでごねるかもしれないが、分け方としてはそれが一番いい気がする。
まぁ一応確認は取っておくか……
「1人余るけど、4チームでいいか?」
「いいんじゃね〜?」
「私も文句はないで〜す」
「なら……」
全員賛成のようだったので、まず最初に能力的に1人になってもいいと思う美桜と律の名前をあげる。
2人の反応を伺うと……
「え〜……!?」
「……」
美桜は案の定嫌そうに顔をしかめているが、律はとくに気にした風でもなくぽけ〜っとしている。
多分どっちでもいいんだろうし、なんなら1人になった方が、傷付く行動をとっても文句言われなくていいとか思ってそうだ。
俺としてはそんな律を1人にはしたくないので、美桜に頼みたいところ……だけど、説得するよりは律に頼む方が楽だ。
時間を取るか、理想を取るか……
……考えている時間がもうもったいないな。
俺は考えるのを諦めて、さっさと言うことにする。
「じゃ、美桜よろしく」
「え、なんで〜……?」
「だって……律はなんか危ういだろ?」
「いやだぁ〜……見る範囲が増える〜……」
「式神で補えよ」
彼女はどうせ、普段からそうやって楽しているんだろう。
政所の仕事は海音や部下達、移動や捜し物なんかの私的なことは式神達。
見る範囲が増えるなんてことは絶対ないはずだ。
というかむしろ、1人じゃサボるんじゃないか……?
ふと、頭にそんな考えが浮かんでくる。
神として崇められたいる存在を探す、説得するってのは大変なことだし、1チーム消えるのは困るぞ……?
そう思って、改めて美桜について考えてみる。
まだ数日しか経っていないけど……とりあえずサボり魔。
だけど今までの行動を見るに、案外やるべきことはやる人っぽい?
仕事から逃げるためについてきたんだとしても、春日鉱山を封じるのとか美桜以外にできなかったし……
自分でやるんじゃなくて、誰かにやらせてって感じだけど、まぁやっていることに変わりない。
今もちゃんと探すつもりがありそうだし、やっぱり適任だ。
当然自分の代わりに式神を酷使するんだろうけど……
「うへぇ〜……わかりました〜……
どうせ私じゃ見つけられないんだし、白虎に寝転んで、朱雀に空から探させますよ〜……」
やっぱり美桜だな……と結論付けていると、彼女も嫌そうにしながらも承諾してくれた。
……けど、案の定式神達が可哀相なことになっているな。
今も背に美桜を乗せている白虎が、ほんの少しだけ顔をしかめている。
乗せるだけならまだしも、多分方向を決めるのも探すのも全部彼がやるんだろうな……
空から朱雀も探すとは思うが、地上はやはり彼だろう。
……まぁそこらへんは自分でどうにか交渉してほしいところだ。術者と式神の力関係ってのもわからないし。
「なら残り3チーム……」
「ライアンさん、律くん、ロロさんはバラバラがいいと思います。他より不安要素が多いので」
「うわっいつの間に……」
俺が組み合わせを考えていると、いつの間にか隣にはドール――多分冷徹の仮面がいた。
少し空気が冷たいように感じる。
「ええ、冷徹の仮面です。
このような場では、1番必要かと思いまして」
「なるほど……助かる。えっと……」
ライアンは呑気に歩き続けて見逃しそうで、律は普通に保護者がほしい……あとロロもこっち側。
この3人と残りの3人の誰かが組むのがいいってことかな?
吾輩も若干ライアンと同じ匂いを感じるけど……まぁ仮にも神なんだし、やる時はちゃんとやるだろう。美桜以上に。
うん、これが良さそうだ。
「そうだな。それでいこう」
「はい、それから他は‥」
「オイラ、クローと!!」
「……まぁいいでしょう」
考え込んでいた冷徹は、飛びついてきたロロの勢いに少し面食らったようだが、すぐに落ち着いてそれを認める。
戦うつもりがないから別にいいけど、このチームだけ頼りなさすぎないか……?
「ドールが律くんと組むのには無理があると思います。ドールも、あまり普通の感覚を持っている訳ではありませんので……オロオロ」
「そうですね。ならライアンさんと組んでもらいましょう」
「夜刀神様。律くんとでいいですか? ハラハラ」
「よかろう。知らぬ中でもなし、面倒を見てやろう」
「ぼくには、ちゃんとかみさまが、いるよ?」
「それはそれとして……だとも」
「……ありがとう」
どうやら組み合わせが決まったようだ。
まず俺とロロ……
頼りない。間違いなく頼りない。
……運と感知で乗り切るしかねぇな。
次にライアンとドール……
これ、結局どっちも危なかっかしくはあるような……?
まぁドール本人も、感情以外は心配ないか……
冷徹が頼りだな。
最後に律とわがは‥夜刀神……
どっちも神様的存在の力があるし、久々の人里観光って感覚じゃなければ吾輩も頼りになる。
1番安定していそうなチームだ。
「よ〜っし!! さっさと出発しようぜ〜ドール〜」
「わかりました。冷徹の仮面、お願いします」
「わかっているわ。行きましょう」
話し合いが終わると、真っ先にライアン達が歩き出す。
彼らは浜辺の左方向に向かうようだ。
「私には誰がついてきてくれるの〜?」
「ド、ド、ドールが……つ、ついて……い、いきます……」
「感謝〜。じゃあ白虎に乗っちゃって〜」
「は、は、は、はい……」
恐ろしく不安を掻き立てるな、このやり取り……
だが美桜に喜びと楽しみをつける訳にもいかないし、仕方がない。彼女達は浜辺の右方向に進み始める。
最後に残ったのは俺達と律達……
「吾輩も知らないんだよな?」
俺は彼らと分かれる前に、一応吾輩に最終確認をすることにした。
浜辺に出た2チームはいいだろうけど、普通に浜辺近辺の森なんかを探すことになる俺達は、範囲が広くてキツすぎる。
正直岩戸の街近くを探していたのと同じ感覚だ。
そう思って夜刀神に声をかけ直視していたのだが、彼はしばらく同チームになる喜びと話し続けていた。
しばらく待っていると、律が彼の脇腹をつつくことでようやく俺達に気がつく。
「……む? 吾輩を呼んでいるのか?」
「そう、あんただ」
「吾輩、たしかに気軽に接してほしいとは思ったが……
せめて夜刀と呼んでくれんか?」
「いや、あのエピソード面白くて……」
「……少しは敬ってくれても構わんのだぞ?」
「ははは、また後でな」
「無視か!?」
せっかく気安い関係になったのにもったいない。
吾輩の言葉をスルーして、俺達は左方向に足を向ける。
また当てのない捜索の始まりだ。
大変だなぁ……
「じゃあ俺達についてくるのは楽しみの仮面だな?」
「そう♪ よろしくね♪」
「よろしくー」
全身で"楽しい"を表現している……
気持ち的には、前回より辛くなさそうだ。