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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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107-捜索、宇迦之御魂神➃

俺は毎晩、同じ夢を見る。何年も何年も、同じ夢だ。


誰かと暖かい家の中で笑い合う夢。

その誰かと別れ、暗い森の中で何かを1人で追いかけ続ける夢。


それははっきりとしたものではなくおぼろげだが、どこか懐かしいような気がする。そんな、心をかき乱す夢。


その終わりはいつも『落ち着け』という声。

多分これは、俺の望みなのだろう。


廃村で孤独に生きていた俺の、一番望んでいること。

誰かと暖かい家の中で笑い合いたい。


その誰かのために、狩りや農業をしたい。

家族が欲しい……と……




だが、今晩の夢は明らかにいつもと違った。

夢の中なのに夢と自覚できるところから、景色がいつもよりも鮮明であることまで、何もかも。


そもそも俺が1人で生きていた小屋ですらない。

まったく見覚えのない部屋で、テーブルや椅子の中にたった1つだけある立派な本棚が印象的だ。


どれも古くて価値の有りそうな本ばかり。

いつもの夢と同じなら、あの村にあった家の中……?


たしかに田舎で人はあまり来なかったが、よく考えたら聖人も来たことがあるんだし、フラーの一部だった……のか?


ボロ小屋暮らしが長すぎたせいか、ほとんど覚えてなかったけど思ったよりも貧乏そうじゃないな。

全体的に質素ではあるが、俺が1人で生きていた小屋よりも住心地が良さそうだ。


それは部屋にまった1人でいる人物の雰囲気にも現れていて……


『クロウ、覚えているかい?

村の禁足地にいたっていう、神様のこと……』


目の前の椅子に座って、ゆったりと本を読んでいた少年が唐突に言う。禁足地の……神様?

……まるで記憶にない。理解するのを拒むように頭が痛む。


俺は目を瞑って、少年の姿を視界から消す。

無意識にしたことだったが、ほんの少しだけ頭痛が和らいだ。これで少しは考えられるな……


神様というと……夜刀神、宇迦之御魂神……

強い神秘と成った……生物……?


俺は目を開けて旅の経験で得た知識を口にしようとするが、何故だか言葉が出てこない。

口は動いているのに、陸に上がった魚のようだ。


『うん……ならいいんだ。

魔人や聖人、神様として崇められる神獣。随分たくさんの神秘と出会っていて、ちょっと確認したかっただけだからね』


そんな俺の様子を見ると、彼は表情を和らげてつぶやいた。

考えを読まれてる……? 確認というのも謎だ。


覚えているかの確認というと、面識かなにかがあるはずだけど……俺は、目の前にいる少年にも心当たりがない。

すると彼は、また考えを読んだらしく言葉を続ける。


『それでいい。それでいいんだよ……

君は、旅の中で多くの仲間――家族とも呼べる友をを得た。

忘れていることが幸せとは限らないけど……それでも僕は、君には彼らと共に、これからを生きてほしい。

本来発揮できるはずの力があったとしても、わざわざ思い出して傷つかないでほしい。

だから……申し訳ないけど、ここでのことも忘れてね』


そう言うと彼は、また視線を本に戻す。

彼が誰なのかはわからない。けど、何故か懐かしい……離れたくない……まだ声を聞いていたい……


俺は必死に意識を繋ぎ止めようとしたが、結局なんの抵抗もできずに視界を黒く塗りつぶされた。




「……きて……さい。……きてください。起きてください」

「ん……」


俺は、体を揺さぶられている感覚と呼びかけられる声を感じて、ぼんやりと意識を覚醒させ……

なんか、冷たい……?

いやっ間違いなく冷たいぞ!?


「さっむ!!」


俺は首筋に冷気を感じて飛び起きる。

寝ぼける暇もない、強制的な起床。

冷気ってことは……


俺は背後にいるであろう人物を確認するため、首がねじ切れるんじゃないかという程のスピードで振り返る。

そこにいたのは、やはりドール……の多分冷徹。


……ドールと冷徹は、どっちも静かで無表情だからわかりにくいな。


「おはようございます。クロウ様」

「……冷徹の仮面(ドール)?」

「ええ、私は冷徹です。ドールならあちらに……」


彼女に促された方向を見ると、丁度ドールが仮面たちと一緒に、他の仲間を起こしているところだった。


冷徹ほど無理やり感がなく、とても羨ましい。

……いや、なんで俺だけ無理矢理起こされた?

意味がわからない……


「ロロさん、ライアンさん、律くん。朝です」

「にゃ〜……にゃ〜……にゃあ?」

「猫ではないです。朝です」

「うにゃあ……」

「朝です。うずうず」


下手な漫才かな?

寝ぼけているのか、猫語のような言葉……それとも普通に鳴き声? で話の通じないロロに、ドールは無表情で呼びかけ続けている。恐ろしくシュールだ。


「あっははは!! ライアンも起きなよー!!

ほらほらぁ喜びの朝だよー!!」

「は〜い〜よ〜……」


その隣では……喜びかな?

朝っぱらから騒がしく起こしにかかっている。


というかライアンは……ガルズェンスでは俺より早かった気がしたんだけど……寒かったからかな?

ヤタでは毎回俺とどっこいどっこいだ。


彼はロロほどはごねないが、どこか危なっかしい感じで起き上がっていた。


「律くん♪ 律くん♪ 新しい朝だよー?

希望の朝だよー? 待ちに待った、2柱目の守護神獣に会える朝だよー♪」

「うん、そうだね。楽しみ。

ドールお姉ちゃんも、るんるん、だね」

「もっちろん♪ あたしが出るのも久々だし、とってもわくわくしているよ♪」


さらにその隣で律と笑っているのは、どうやら楽しみの仮面らしい。表情どころか、全身で楽しいを表現している。

彼女のあんな満面の笑み、初めて見るな……


本体のドールじゃないにしても、シリアが見たら喜びそうだ。……そういえば、忘れてたけどあいつどこ行ってんだろ?


「ちなみに、なんで俺だけ無理矢理起こされたんだ?」

「昨日心配かけましたよね?」

「……すみません」


冷徹の仮面に軽く睨まれ、俺は昨日の夜のことを思い出す……




俺達は昨日、春日鉱山を封じた後すぐに岩戸に戻りはしなかった。それどころか、帰ってきたのは日が完全に沈んだ後――みんなが夕食を食べ終わった頃だ。


理由は……


「よ〜し。

これで今日のノルマは終わったと言っていいでしょ〜」

「ん……? まぁ居場所は突き止めたし、そうなるかな」


鉱山から少し離れたところで、美桜は突然楽しそうに胸を張りながら声を上げた。

サボり魔らしく、仕事が終わったのが何よりも嬉しい……といった感じだ。


といっても、俺だってやらないといけないことが終わるのは嬉しい。それも彼女のように浮かれる程じゃないけど。


年上らしいのによくこんなにわかりやすく浮かれるなぁ……

俺がそんなふうに少し呆れていると、彼女は朱雀に命令して地面スレスレまで降りてくる。


「ではでは〜さっきの約束を果たそうじゃないですか〜」

「約束……?」

「ほらクロー、陰陽道」

「ああ……忘れてた」

「クロウ君、思ってたより馬鹿です……?」

「は?」


正直、仕事内容をちゃんと把握していない管理職に言われたくはない。けどまぁ忘れていたのも事実な訳で……


「少し先に、あまり人目につかなそうな場所があるから、そこでね〜」

「……わかった」


反射で一言出てしまったが、流石に何も言い返せはしない。

再び上昇する美桜に大人しく返事をして、俺は前方の森に向かった。




「では、お教えしましょう陰陽道〜!!」


美桜は森の中心辺りの開けた場所で、楽しげにそう言った。

さつきから、本当に本人なのか疑わしくなるほど活発だ。


人にものを教えるっていうのも仕事みたいなものだと思うんどけどな……

俺は、何が彼女をそうさせるのだろうか……? と不思議に思いながらも、大人しく話を聞く体勢になる。


ちなみにロロは、白虎の上で昼寝中だ。

……夕方だけど。


「もう詳しくは聞いたはずなんだけどな……」

「そうだね〜。ほぼないよ〜」

「じゃあ何を……?」

「これで〜す!!」


俺が問いかけると、美桜は懐から5枚の御札と一個の果実を取り出す。札はともかく……果物?

また幻桃果みたいなものか……?


「まずはこれを食べてね〜」

「ん……」


俺はまず、彼女から果物を受け取り一口かじる。

あの果物達と同じようなものなら、絶対に美味しいだろう……


……ん? あまり美味しくはないな……

というかこれ、むしろ酸っぱくて不味い部類に入るんじゃないか……? 


食べられなくはないけど、酸っぱすぎるせいか体中がビリビリしてくる。とんでもないな……


「はい、適正な〜し」


美桜が笑顔で宣言したことで、同種であることは確定。

だけど味が違いすぎる。


夜刀神の話ではより美味しく感じるって話だったのに、なんでこんなに美味しくないのか……

そう思って聞いてみる。


「なにこれ……」

「ああ、これはね〜霊檬果(れいもうか)っていうの。

五行の適性を測れる果物で、1番美味しくないんだよ〜」

「適性あったら?」

「ちゃんと美味しいよ〜」


本当に適性があったら美味しく感じるのか……?

多分俺は、幻萄果(げんとうか)には適性がなかったけどそれでも普通に美味しかった。

とてもじゃないけど信じられないな……


「それから、御札ね〜」


次に彼女は、俺にさっきの札を手渡してくる。


「見てもパッと見じゃわからないかもだけど〜、この5枚には明確な違いがあります!」

「5枚ってことは、それぞれの属性か?」

「おお〜、わかるなんて偉いね〜!! うん、その通り〜」


……なんか変な気分だ。

旅の途中で、誰かの手伝いとかをした時に「ありがとう」とかは言われたことがあるけど、これは褒められた……ってことだよな?


あんまり記憶にないし、すごくむず痒い。

聖域とはなんか違う落ち着かなさだけど……うん、無視だ無視。ちゃんと美桜の説明を聞こう。


俺は軽く頬をつねって、話に意識を集中させる。

彼女の話によると、術はたしかに適性がなくても使えるが、適性がないのだからそんな一瞬でできるものでもないらしい。


訓練用でもあり、本番用でもあるのがこの5種類の御札……


火相の札は、けっして燃えない札。

水相の札は、けっして濡れない札。

金相の札は、けっして壊れない札。

木相の札は、けっして破れない札。

土相の札は、けっして汚れない札。


適性がない場合、まずはそれぞれの札で慣らさないことには、完璧には使えないということだ。

そして適性があったとしても、その相の札の方が扱いやすい……と。


うーん……壊れないと破れないの違いがわからない……


「ということなので〜す。まぁ全部あげるから、使ってみるといいよ〜」

「え、今回はくれるのか?」

「別にあげたくなかった訳じゃないし〜」


マジか……!! あれだけ面倒くさがってたのに……!!

めっちゃ嬉しい……!!

なら言われた通り、色々試してみよう……




という感じで、俺は美桜に陰陽道を教わっていた。

まぁ聞くべき内容は御札の特性くらいだったから、ほぼ実戦で遊んでいたようなものだったんだけど……


だけど原因は美桜だし、ロロもいたんだけどな……

美桜は俺の前に執行されているかもしれないけど、少しだけ納得いかない。

まぁロロは見てただけだし、仕方ないのか……


ちらりと冷徹を見ると、彼女は冷ややかな視線を浴びせてくる。


「思い出したようで、何よりです」

「……でもさ、普通に夕食食べてたよな?」

「変な所にいたせいで、いくら探しても見つけられなかったんです。帰って来た時、時間を見ましたよね?

あの時間まで探して見つからなかったので、もしかしたら祭壇を見つけて泊まっている可能性もありました。

なので、心配しながらも戻ったんです」


一応抗議のようなものをしてみるが、冷徹なドールは間髪入れずに論破してくる。

はい……申し訳ないです……


もし1話改稿前に1話を読んでいた方がいたら、多分夢の部分の神様に見覚えがあると思います。ですが、ご意見いただきましてカットしています。ここが初出しでよろしくお願いします。

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