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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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106-捜索、宇迦之御魂神➂

もうこの場所に宇迦之御魂神がいないのは確定している。

だが俺達は、クロノスが消え去った辺りを眺めながら、呆然としてしまっていた。


いきなり現れた上に意味のわからないことばかり言い、消えるのもいきなり……

ここから動いていいのかすら迷ってしまう。


「なんだったんだ……?」

「さぁ……?」


無意識にこぼれ出た言葉にロロが反応を示すが、お互いに訳がわからないのでどうしょうもない。

うーん……もやもやするけど、今は別に放っておいても大丈夫か? 悩ましい……


けど、クロノスもあの消え方をしたなら多分もう出てはこないだろう。ここに来た目的は果たしたし……


「まぁ……もう祭壇は確認したし、戻るか」

「そうだねー」


俺達はしばらく迷った後、最後にもう一度祭壇を見てから美桜との待ち合わせ場所へ向かった。




~~~~~~~~~~




少し迷いながらも森を抜け、待ち合わせ場所までいくと、そこにはもう既に美桜の姿があった。

彼女は分かれた後に呼び出したであろう朱雀に寄りかかっていて、まるで緊張感がない。


楽しげに鼻歌を歌っているので、観察してたらそのうち詩を詠い出しそうだ。


……冗談じゃない。一度そうなってしまうと止めるのが大変になるので、俺達は速やかに近付いて声をかける。


「意外と早いな」

「お、来たか〜……うん、そりゃあね〜。

だって見つけられなかったんだもの。あなた達は〜?」

「祭壇は見つけたけど、やっぱいなかったよ」

「へ〜……!! うんうん。なら次だね〜」


彼女はそう言うと、笑顔で懐から数枚の御札を取り出す。

そしていつものように顔の前に構えると、淡く光りだす札を地面に叩きつけた。


"白虎招来"


すると、地面を割って出てきたのは巨大な鉱石だ。

鉱石は索冥の時と同じように砕けると、中からは白く輝く虎が現れる。


朱雀に続く、2体目の式神……虎!!

こいつも騒がしいのかな……?


俺が大人しく見守っていると、彼は切れ長の目で美桜を一瞥して口を開いた。


「久しぶりだな、美桜殿。基本的には、そこのおしゃべりで事足りているだろうに珍しいことだ」

「そうね〜。確かに1人なら、これに乗るだけだけど〜……

今はなんと! 友達がいるのです!!」


朱雀の「おしゃべりだと!?」や「これ呼ばわりかよ!?」という抗議を完全に無視しての会話……

美桜はもちろんのこと、白虎も朱雀の扱いに慣れているようだった。


あー……俺も、ほんの少ーしだけ異論があるな。

別に否定したいという訳ではないんだけど……


「海音ならともかく、あんたと友達?」

「え〜? だって私はあの子よりも長く行動を共にしているでしょ〜?」

「まぁ……」

「はい、そういうことで〜す」


嫌いという訳じゃないし、形だけの抗議だからいいけどな。

俺がすんなり引くと、彼女は白虎との会話を再開した。


「ほらね〜」

「うむ、いいことだ。同年代だと獅童の爺さんしか……」

「わ〜!! わ〜!!」


白虎は天后と同じく、どこか保護者味を感じる目線からの言葉を発する。

だが美桜はそれを聞くと、慌てたように大声をあげて遮り始めた。な、なんだ……?


「ん……? 急にどうした?」

「やれやれ……私は海音ちゃんとも仲がいいのですよ〜?」


そして、彼が意表を突かれたように問いかけると、彼女はすぐ元のようにのんびりとした雰囲気に戻り、そう答える。


……これはあれか?

ヒマリと同じように、細かい年齢は知られたくない的なやつ?


歳を取りたくないという気持ちはわからないでもないが、神秘に成ったなら寿命はないんだよな?

もうどうでも良くないか?


あの時も思ったけど、やっぱりよくわからない感覚だ。

ローズはそんなことなかったし、女性特有って感じでもない気がするんだけど……


ただ、獅童は爺さんだと言うし、美桜も年齢的には……

……うん、言ったら半殺しにくらいはされそうだ。

ヤメテオコウ。


「はっはっは。あの娘は酒吞の……」

「ちょっと。それ以上は駄目よ」

「ふむ……口が滑った。ともかく、この子ども達を乗せればいいのだろう?」

「そう、よろしくね〜」

「任せ給え。……ほら」


どうやら白虎は、俺がちゃんと止められたようにはできなかったようだ。

美桜に鋭く静止されると、腰を落として俺達を受け入れる体勢になった。


鋭い言葉なんて、美桜にしては珍しい気がする。

というか、酒吞っていうと死鬼の1人が襲名する名前だったような……


海音と酒呑童子……気になるけど、これも美桜の年齢と同じで、あまり触れない方が良さそうだ。


もし彼女が美桜のように適当だったなら、かなり信用できない人物になってしまうので気にしなければいけない。

だが彼女は真面目すぎる役人だったし、聖人だったし……


触れるなということなら、わざわざ触れなくてもいいと思えるくらいの信頼がある。

……美桜だったら無理だな。


俺は、触れないでおくと心に決めて、白虎の背に揺られた。




~~~~~~~~~~




朱雀に乗った美桜と白虎に乗った俺達は、その後もいくつか祭壇がある候補の場所を巡った。


崖下のくぼみに隠れたもの。

霧がかった岩山の頂上に鎮座するもの。


そんな、どうして岩戸の人達が見つけられないのか、少し不思議に思ってしまうような場所ばかり。

だが、それらの場所を見つけたのは俺とロロだけだ。


毎回二手に分かれると、毎回俺達だけがたどり着く。

もしかしたら、運が絡んでいるのかもしれない。

……適当だけど。


まぁともかく、俺とロロだけがいくつかの祭壇を見つけ、しかし宇迦之御魂神はいない。

ただそれだけの話。


最終的に俺達がやってきたのは……


「ここが岩戸にあるっていう聖域か……」

「そうだよ〜。紫電飛び散る春日鉱山〜」

「おちつかないよクロー……」

「俺もだ……不死桜よりはマシだけどな……」


崑崙よりは圧倒的に小さいが、龍宮よりは大きそうな山。

鉱山という話なので、中には大量の鉱石が埋まっているのだろう。


しかし、山の表面にもところどころ鉱石だと思われる物質が顔を出しており、太陽の光を反射して光っている。

もう夕方で太陽は落ちかけているが、それでもなお光量は衰えない。


これも神秘の為せる技なのかもしれないな……綺麗だ。

……ただし、1つだけ疑問に思うことがある。


それは、近くに十数名の侍が待機していたことだ。

彼らは何故か刀に手を当てながら、俺達がやってきた方向に向かって意識を集中させている。


……まぁ鉱山なのだから人はいるだろう。

近くには集落もある。


けど、それは鉱石を採るための人員のはずだ。

こんなふうに見張りだかなんだかをするためじゃない。

なんで待ち構えているか、まったく理解できなかった。


だが俺が戸惑っていると、美桜は朱雀に乗ったまま彼らに接近していく。迷いがない……

それに、侍ってことは部下なのか……?


俺達は白虎がのんびり進むから何もできないが、下っ端は暴走してるようなやつもいるみたいなので少し不安だ。

しかし……


「こんにちは〜」

「こんにちは、美桜さん」

「意外と集まってくれてるね〜助かるよ〜」

「いえいえ、とんでもないです。美桜さんにはとてもお世話になったのですから、頼み事くらいお安い御用ですとも」

「いや〜……私なんてまったく幕府に寄り付いてないのに、こんなに慕ってもらえて幸せものだな〜」


彼らは暴走していない人達なのか、和やかに会話をしている。どうやら美桜が呼んだ人達らしい……?


ここで俺達も彼女に追いついたが、特に問題がなさそうなのでこのまま見守ることにする。


捜索なら俺達だけで大丈夫なんだから、人手を必要としているっていうならそれ以外。

俺達は邪魔しないのが一番いいだろう。


「ちゃんと後から来る子もいるんだよね〜?」

「もちろんです。

聖域を封じるのなら、交代要員が必須ですから」

「うんうん。なら始めよっか〜」

「わかりました」


彼らは美桜の言葉に揃って返事をすると、5組に分かれて走っていった。場所は、こちら側の見える場所だと2箇所。


だが自分達でもよくわかっていないのか、キョロキョロと辺りを見回しながら微調整をしていた。

向こう側でも同じような感じだろう。


美桜はそれを見届けると、懐から取り出した御札を顔の前に構える。そして淡く光った札を前に突き出すと……


"木神の相-伏見"


突然、鉱山の周囲5箇所に不死桜が根を下ろす。

崑崙にあったものよりは幾分小さい気もするが、それでも100メートル近くあるはずだ。

でっけぇ……


それらは本来のものと同じように、ピンク色の輝きを放つ花びらの雨を振らせている。

聖域ではないから、純粋に綺麗だと思えるな……


「さぁ〜、準備はかんりょ〜。

みなさんも定位置に着きましたね〜?」

「はっ!!」

「なら行きますよ〜……誰に当・た・る・か・なぁ〜……?」


楽しげに笑う彼女は、続いてさらに追加で数枚の御札を取り出す。そして扇子のように綺麗に揃えると、やはり前に突き出した。


「燃えず……濡れず……壊れず……破れず……汚れず……

五行の輝き。陰陽の陽。

すべての命を象徴する、不可侵の結界をここに」


だが、今回は1つだけ違うことがあった。

それは呪文を紡いだ後、札を投げ捨てたこと。


"五行光彩陣"


空へと投げ捨てた御札は、それぞれ赤、青、白、緑、黃色に光ると、勝手に飛んでいく。

向かっているのは……5箇所の不死桜?


どうやら札は、それぞれの不死桜に張り付いたらしい。

不死桜の花の色が、ほんの少しだけそれぞれの札の色に変わっている。

赤で、青で、白で、緑で黃色。


そして同時に、聖域――春日鉱山から無駄に放出されていた神秘がピタリと止まる。

目の前にあるのは、ただ単に綺麗に彩られた山だ。


神秘を……閉じ込めたのか?

こんなことができるなら、地形を変えるとかも軽々とやってしまいそうだ……


俺があ然としていると美桜は、侍達に「あとはよろしくね〜」と声をかけて、俺達の元へと朱雀で飛んできた。

いや本当……本職ってすげぇ……


「ロロちゃ〜ん。感知の調子はどう〜?」

「あっ……!! できる!! できるよ!!」

「うんうん。場所は〜?」

「島のいちばん東の辺り……かなぁ?」

「ふ〜ん……あれで案外、人を気にしてくれてるんじゃん。

さっすが豊穣神だね〜」


どうやら聖域の神秘が止まったことで、感知を邪魔するものがなくなり場所の特定ができたようだ。


美桜に聞かれたロロは、少し迷いながらもそう答える。

少し曖昧なのは、本島に近くて美桜の聖域があるからか……


だがそれも、近くまで行けば解決しそうだ。

ということで、明日の目的地は岩戸の最東端に決定した。

……一日かけて、ようやく。


まぁ目的地が決まってるのは、たしかにありがたい。

けど、正直最初からここに来ればよかったんじゃないか……?

結果論なんだろうけど、もったいなく感じるな……


「ならさっさと戻ろう。明日も朝から祭壇探しだ」

「そうね〜」

「あひゃひゃ……忙しいこったなぁ」

「も〜……おしゃべりは黙ってさっさと私を運びなさ〜い?

夜刀神や麒麟がお迎えに来ちゃうでしょ〜?」

「変な呼び方やめろよなぁ」


ドールの言う帰りが遅ければって、まだ日も暮れてないうちからじゃないと思うんだけどなぁ……

怒られない……よなぁ?


俺はふと彼女の言葉を思い出し、少し不安に思いながらも街へ向かった。

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