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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
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10-ローズの捜索、歪との邂逅

フェニキア滞在2日目。

朝になり目を覚ましたヴィニーに話を聞くと、ローズがいつまで経っても帰ってこないので探しに行ったとのことだった。


その途中、そよ風が吹いたと思ったら攻撃を受けたらしい。

やっぱり、風の魔人かな。


ということで、俺はボロボロのヴィニーを置いてローズ探しに出ることになった。

当てはないが、彼女はおそらく賊の幹部にやられたはずなのでそこからだ。


多くの店が色々と朝メニューを出している中、俺は町を当てもなくさまよう。

気を抜くと誘惑に負けそうになるが、流石に怖いので気を引き締めないといけない。俺もやられたら笑えない。


けど、見つけられなくても同じだよなぁ……

運がいいから、きっと手がかりが見つかると思うけど。

……でも見つけてどうするかな?


うーん、俺に倒せる気はしねぇけど……まぁヴィニーが言うには殺意はなかったらしいから大丈夫か。

おそらく彼女の身も問題ないだろう。

早く助けるに越したことはないが。


ていうか、この町であいつら認知されてんのかな?


「なぁ、ちょっといか?」

「ああ? ……まぁ別にいいぜ」


ちょうど近くの肉屋で暇そうにしていたこの男。

身長も高く筋肉質……なかなかにゴツい。

このナリで知らなかったら手掛かりなしだ。


「この町に賊っているか?」

「この町に? そうだな、よく見かけはするぜ。

けどここら一帯なら何処にでも現れるからなぁ。

この町になのかは知らねぇな」

「そうか、助かった」

「何の用か知らねぇけど、すげぇデケェ組織だって言うから気をつけろよ」

「ああ、気をつけるよ」


……これ、見つかる?

運良くても手がかりなしは無理だろ。

一応やってみるけど。


「チル」


いつもどおり、光と共に現れる。どうか道見つけてくれ……


"幸せの青い鳥"


さて、この後どうするかな。




~~~~~~~~~~




「ふぅ、潜入成功」


いやまさかここまで上手くいくとは……

俺が今いるのは路地裏の奥に進んだ先の屋敷。


取り敢えず歩いていただけなのに、俺達の話をしているやつがいて、そいつらの後をつけてきたらたどり着いてしまった。門も玄関もそいつらのお陰で開いたので、すんなり入れる。


戦闘みたいな不確定要素の多いこと以外は大抵上手くいくの、怖えよ。便利だけど実感もないし。


だけどまた行き詰まってんだよな。

この屋敷、窓も明かりも少なくて見ずらいし、装飾もほとんどなくだだっ広い。


延々と代わり映えのしない廊下が続いて現在位置すら怪しい。……どう探そう。


「っと」


危ない危ない。考え事しながら暗がりはコケる。

不運な事もあるもんだ……って。


「アハッ。外しちゃった」


さっきまで俺の体があった辺りに、無数のナイフが飛ぶ。

なんだよコケたのも幸運かい。マジで呪われてるな。

そしてこれが、あいつの言ってたそよ風かな?


よろけたおかげで攻撃は当たらずに、襲撃者はそのまま距離を取る。


振り返った先にいるのは小型のナイフを両手に持つ細身の女性。能力的に身軽さを追求したのか、かなり露出の高い服装だ。


「はぁ……あんた昨日俺の仲間襲ったか?」

「え〜? 別に知る必要なくな〜い?」


彼女は再び暗がりに身を潜める。

暗殺者ってことかよ、めんどくせぇ。

その割には明るい性格のがなんか腹立たしいな。


ナイフを構え、周囲を警戒する。

あれが幹部なら絶対に格上だが、一対一ならやりようはあるかな。


どうやら攻撃の瞬間にはそよ風が吹くようだし。

皮膚の感覚に意識を集中させる。

攻撃が来るまでは、髪の毛一本動かない無風。


来た、何故か上からだがそよ風。

上を向き、ナイフを構える。

だが、攻撃が来たのは……後ろ。

遅れて身をよじり、なんとか掠っただけで済ませる。


「痛っつ」

「え〜? なんでそんな避けれるのさ」

「運が、いいんだよ!!」


攻撃の後隙にカウンターを入れるべくナイフを付き立てるが、彼女が纏っている風にずらされ掠めるだけ。

これは……あれだな。運良く風の薄いとこが見つかるとかだな。


「アッハハハ、鬱陶しいやつだねぇ」

「お前が言うな!!」


彼女は再び距離を取るが、動きがおかしい。

フワフワと浮かぶように跳ねながら、空中で右に行ったり左に行ったりして離れていくのだ。


昨日の奴らより風自体は弱く見えるのに、技術が凄いのか厄介さは圧倒的だ。

それに、オーラがある。


「確認するが、魔人だよな?」

「アハ、あんたもだねぇ。昨日のはただの人だったけど」

「さっき言わなかったくせにそこ言っちまうのかよ!!」

「楽しきゃ何でもいいじゃな〜い?」


もう暗殺の戦い方は諦めたらしい。

彼女は不規則に動きながら飛んでくる。


「その性格でなんで暗殺だよ、テメェ」


こっちのナイフの方が大きいから打ち合ったら勝てる。

そう思い、真っ向から斬り結ぶ。

と思いきや、その瞬間に軌道が変わる。


「はぁ!?」


俺のナイフをすり抜けてきた彼女のナイフは今またしても、俺を掠める。

今度はナイフの位置に助けられたようだ。


パワータイプじゃないからどうにか戦いになりそうだが、翻弄され続けてしまう。

どうにかしないとジリ貧だ。


「やっぱり上手く当たらないねぇ……」


だが、彼女も中々当たらないことにイライラし始めているようだ。キレるなよ……?


「アハッ、良い〜こと思いついた〜」


彼女は不気味に笑い、また距離を取る。

これはこちらから行かないとまずいか?


「クソッ逃げんな」


距離を詰めるべく駆け出すが彼女は逃げ方にすら捉えどころがなく追いつけない。

そしてその間にナイフをしまい、両手を球状にした中に風を集め始めた。


まずいまずい、あれは範囲が広すぎて運関係なしに当たるやつだ、絶対。

必死に追いかけるが近づけない。

これは……逃げるべきだな。


もう既にヤバそうだが、まだ間に合う。

すぐさま体を反転させて距離を取る。

彼女の姿はすぐに見えなくなるが、あいつは神出鬼没だから油断はできない。


なのにここがどこだか分からないから屋敷から出られない。ピンチだ。


「は〜い。もう溜まったよ〜」

「なっ、見つけんのも速えーな!!」

「アハッ。たとえそよ風だって、廻り続ければ強風だよ〜?」


彼女は閉じていた両手の籠を開く。

すると先程までとは比べ物にならない質量の風が迸る。


"サージブリーズ"


風圧で体が押しつぶされる。

外に飛ばされるならマシだと思ったが、これ……中だな。

俺は意識も朧気に、まるで布切れのように無惨に吹き飛んだ。




~~~~~~~~~~




「起きてよー。そこの、起きてー」

「う、う……あ? ハァハァ」


俺、気を失ってたか?

だが捕まってないなら、そこまで時間は経ってなさそうだな。


「起きたなー。オイラのおかげだぞ、感謝しろー」


何やら耳障りな声が聞こえるな。……うん、無視だ無視。

俺は声をスルーして立ち上がる。


「無視すんなー」

「はぁ、なんだよ。ん? てかどこだ?」


ここはどうやら牢屋の前のようだった。1つしか牢が無いのでそこに何かいるらしい。

しかし声は聞こえるのに人影は見えない。怪しいな。


「下だよー。下ぁ」


声に導かれるままに下を見る。するとそこにいたのは黒猫。それが存在を必死にアピールをしているようで、跳ねていた。


……喋る、猫。

神秘も少し感じるし、聖獣か神獣か? 初めて見たな。

だけどどうやら捕まっているようだ。


「よう、お前聖獣? なんで捕まってんだ?」

「むっオイラは神獣だー。なんでか捕まってんだ。

オイラ何も悪いことしてないのにさー。

失礼なやつだよねー。だからさ、逃してよ」

「まず跳ねるのをやめろ、鬱陶しい。あと俺は牢屋なんて壊せねぇぞ」


そう言うと、ようやく跳ねるのをやめた。


「こわすひつようないよ? なぜか君といっしょに、ここの鍵もふきとんできたからねー」

「は? どうやったらそうなるんだ?」

「オイラに聞くなよー。ねぇねぇ、開けてくれよー」


捕まってるってことは、あいつらの敵……なのか?

ならいいか。何なら俺も1人で逃げられるか怪しいし。

側に落ちていた鍵を拾い、開ける。


「やったぁー、ありがとー。

ところでさ、君はなんで飛んできたの?」

「お前を捕まえたやつの仲間と戦ってたんだよ」

「へー。じゃあじゃあ、あれだね。仲間、だね」

「なんでそうなるんだ? 協力して逃げるつもりはあるけどよ」

「オイラ友達欲しかったんだ。嬉しいな〜」


こいつもうるさいし、話をあんまり聞かねぇな。仲間と言ったり友達だと言ったり忙しいし。


「で? お前神獣って言うからにはとんでもない力持ってんだよな?」

「あぅ。オイラこの前生まれたばっかで……ちょっとした念動力とかしか持ってないんだ……でもでも、この屋敷の構造は大体分かるぞ」

「でかした!! 俺の能力は幸運だから、合わせればきっと見つからずに逃げられるぞ」

「ほぇーすごいなすごいなー。オイラもそんなすごいの欲しいなー」

「いや、レアだとは思うけどよ……弱ぇーぞ」

「そーなのか? 残念だなー」


"幸運を運ぶ両翼"


「よし、力を使ったからさっさと行くぞ」

「あいさー」


中に飛ばされたときはどうなるかと思ったが……やっぱり運がいいな。

俺達は、危なそうな所を事前に予想し脱出を開始した。



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