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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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103-岩戸

全員が夜刀神の頭部に乗っかると、彼は頭を上げて西の方角を向く。


目的地は岩戸。

ヤタの入口とも呼べる位置にある島だ。


俺達はまったく気が付かなかったが、そこに宇迦之御魂神の祭壇があるらしい。


だからといって、夜刀神と同じように祭壇に行けば会えるという感じでもなさそうだけど……

まぁ彼よりも人の役には立っているらしいし、いきなり攻撃はされないと信じたい。


夜刀神と仲がよかったら楽なんだけどな……


「なぁ夜刀神。宇迦之御魂神とはよく話すのか?」

「いいや。吾輩、龍宮以外ではここの近海で狩りをする程度しか外出をしない。どこにいるのかすら知らんよ」

「ふーん……」

「それより、お兄ちゃん。

しっかり捕まってたほうが、いいよ」


俺がどうやって探そうかと考えていると、律がそんなことを言ってきた。

美桜は特に言ってこないし、朝も乗ってて危険はなかったけど……


「俺、朝も乗ったぞ?」

「こうてい差のある山と、平らな海だと……」


彼がそこまで言った時、夜刀神は龍宮の浜辺へと到着した。

と、同時に……


「ぐわっ……!!」

「ひぇっ……!!」

「うにゃっ……!!」


彼は……海を真っ二つに……割るかの……ような……スピード……で……走り……出した。

走り……出した? 海……を?

だけど……そうとしか……思えない。


いや……速すぎっ……!!




~~~~~~~~~~




「ゼェ……ゼェ……え、もう……?」


し、信じられない……

夜刀神が海を割きながら突き進み始めて、ほんの数十分後。

俺達は気がついたら岩戸に到着していた。


麒麟といい夜刀神といい、神レベルの神獣はとんでもないな。船長さんの船では岩戸と本土で半日弱かかったのに……


俺はあまりの速さに力が抜け、少しフラついてしまう。

だが、ロロと一緒に滑り落ちることで彼の念動力を利用し、どうにか無事上陸に成功した。


……疲れたな。

場所は入国時と同じように浜辺で、港はかなり離れた位置にあるので人っ子一人いない。

ただ、潮騒の音が聞こえるだけだ。

少しだけ癒やされる……


そして彼も、移動中は力を使う余裕もなく、必死にしがみついていたのでお疲れの様子だ。


「つかれたー……」

「ほんとな……ブライスの機械に吹き飛ばされて以来だ……

なんか、もう懐かしい……」

「もう、会えないしね……」

「そうだな……」


……つら。

意図せず暗くなってしまったので、頭を振って思考を切り替える。


ヒマリもそうだけど、もう会えない人達のことを思うのはもっと余裕ができてからの方がいい。

ちゃんと大厄災を全員殺せた後で、だ。


といっても、やっぱりふとした瞬間には無意識に出てきてしまうんだけど……


とりあえず、港がなかったおかげで見られることがなくて助かったな。

あの時は、少し不便なんじゃないか……? とも思ったが、こんな移動をするやつがいるのなら納得だ。


最近は引きこもってるとは言ってたけど、昔もこうやって移動していたのだろうし、もしこの位置に港があって人が多ければ絶対騒ぎになってた。


よくよく思い返してみれば、本土と龍宮の間にも港はなかったし、龍宮周りには意図的に作ってないんだろう。

幕府の首脳陣……サボり魔ばかりのくせに優秀だ。


「ほっ……」

「ん? ってうわ……」


頭上から声が聞こえたので見上げてみると、ライアンが勢いよく飛び降りてきた。

しかも全体重をかけたのか、砂を巻き上げながら。

豪快すぎる……


そして砂カーテンの向こう側には、気がついたら律がいる。

彼は小さいので静かな着地だ。


「あっはっは〜いやいや、これまた珍しい体験だった〜」

「うん。久しぶりに、そうかい」

「ライアンは相変わらず元気だな。

律は……ちょっと意外だけど」

「人生は、安定しているのが、1番いい。けどね、ちょっぴりのしげきがあれば、さらにかがやくものだよ」

「お、おう……妙に達観してんな……」


俺が2人と話していると、続いて美桜、それからドールも飛び降りてくる。

彼女達はしばらく夜刀神の上で休んでからなので、律と同じくとても優雅な着地だ。


そして、美桜はえらくご立腹の様子……

ふわりと着地すると、すぐに夜刀神を見上げて文句を言い始める。


「こんなスピードが出るなら、先に言ってほしかったんですけど……!?」

「む。それはすまなかった。なにか術があったのかね?」

「あったに決まってるでしょ〜!? 私は本職の陰陽師よ!? 

それに、なくても適宜作るわよ〜!!」


彼女は麒麟の時に、火の適正があって呪文を唱える必要のない風の相……追風という術を使っていたな。

夜刀神のスピードだと麒麟よりも負担が大きそうだけど、問題なく使えたなら確かに使ってほしかった……


正直俺も強くそう思うけど……まぁもう岩戸には着いたことだし、さっさと祭壇に向かいたい。

だがせめて次には活かすぞ……そう心に決めて、話を進める。


「もう着いたんだし落ち着けよ。

それより、夜刀神はどうするんだ? 戻るのか?」

「む……? 吾輩はどちらでもいいが」

「移動に困るので、できれば待っていてほしいです。

ドキドキ……」

「うむ、ならば同行しよう」


ドールの言葉を聞くと、彼は即決で同行を決めた。

まるで迷いがないけど……

え、その巨体で町に入るのか……?


絶対に騒ぎになるよな?

式神である麒麟だって……


そう、確か移動時に人の生活域を通っていたが、あのスピードだとちゃんと確認なんてできなかったはずだ。


かなり遠くからなら見えたかもしれないけど……

少なくとも俺が見かけた範囲なら、まだギリギリ広く見渡す感じでは見えない距離だった。


少し遠くになんか通ったか……? というレベルだろう。

見た目も馬と言えなくもないし……


その上律は、目立たないように召喚する場所を選んでいたから、騒ぎを起こさない配慮もバッチリだ。


やっぱりあんま堂々と人里にいていい存在じゃない気がするんだけど……


「なぁ律。

式神も町中でダメだったんだし、神獣も無理だよな?」

「うん、そうだね。けど、彼ほどの神獣なら………」


俺が問いかけると、律はそれを肯定しつつも問題ないといったふうに夜刀神を見る。

薄く微笑んでおり、彼を信じ切った目だ。


だが視線を向けられた夜刀神自身は、しばらくなんのことだ……? という感じで首を傾げていた。

俺もわからないので戸惑っていると、彼はすぐに目を大きく見開く。


「ああ、なるほど……人里は久しぶりで忘れていたが、そうだな。このまま入るのはマズい……」

「うわっ……!!」


そしてなにやらブツブツつぶやくと、なんの前触れもなく発光し始める。

な、なんだ……?


やがて光が収まると、さっきまで夜刀神がいた所に立っていたのは1人の男だった。

どこかで見たような全身のことごとくが白い格好で、不思議な雰囲気をまとっている。


……え?


「うむ、これでいいだろう」


人間の姿にしか見えない夜刀神は、顔にかかった長めの白髪を軽く払うと、満足げな笑みを浮かべる。

白一色だが、長身で和服もかっちり着込んでいるので、蛇の時と変わらず威厳たっぷりだ。


「おっどろいた〜……なんだなんだ〜? 変身か〜?」

「幻覚……ではないですね」


ドールが蛇の体があった場所に手を泳がせて確認しているので、どうやら見間違いとかでもなく、ちゃんとあの形になっているらしい。


……神獣は、人に、なれる?

いや、もう意味がわからない……どうなってるんだよ……


あの巨体が俺達と変わらない姿って……

俺は驚きすぎて声が出なかったので、ひとまず周りの反応を窺う。


美桜はどうやら知っていたらしく気にしていない。

律はそもそも、彼にこれを思い出させた立場。


……まぁこの2人は地元民だ。

夜刀神は仮にも神なんだし、よっぽど避けなければ知る機会はあるだろう。


だけど……だけどだ。

ドールが冷静なのは当然として……ライアンはなんなんだ……?


おっどろいた〜とは言ってたけど、この感じだと驚いているというよりは受け入れて楽しんでる。

順応力高すぎるだろ……!!


はぁ……なんか、ヤタに来てから少し疎外感を感じるな……

聖域での落ち着かなさも、神獣が人化することへの驚きも。

俺が田舎者だからか、経験が違いすぎて少し悲しくなる……


ガルズェンスの科学は、みんな知らないから同じ反応だったのに、ここでは驚いた反応がほとんどない。


もちろんヴィニーなんかは冷静で、ライアン、リューなんかは興味津々に手を付けてた。

だが、そこには間違いなく驚きがあったのに……


今では、ちゃんと驚いている仲間はロロだけだ。

彼だけは俺と同じようにあ然としている。


……まぁこれはこれで、神獣なのにそれでいいのか? と思わなくもないけど。


「慣れがすごいな、ライアン」

「ん〜……まぁそういうこともあるだろ〜。あっはっは」


……どうやら慣れているというよりは、いつも通り呑気なだけらしい。驚きを乗り越える呑気さって……

これもまた成長か……? 呑気度が上がってる気がする。


「……まぁわかった、こういうもんなんだな。

同行できるならありがたいよ」

「うむ。さっそく行こう」


意味がわからないからそんなもんだと納得した科学と違って、多少知ってるつもりだった神秘だからより驚いたんだ。

もう、これもこういうものだと受け入れてしまおう。


聖域に続いて神獣の人化を目の当たりにした俺は、ようやくガルズェンスの時と同じように受け入れ態勢を整え、岩戸の町へ向かった。


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