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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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102-岩戸へ

「そういえば昨日、あれと同じ一人称なんか……とかって言ってたよな? あれ、どういう意味だ?」


祭壇へと戻る途中。

俺は昨日の夜刀神と律のやり取りを思い出して声をかける。

特に聞く必要はないけど、聞いてた感じだとなんか面白そうだ。


神として恐れられている蛇が、どんなことでああなるんだろう……? という程度の、ちょっとした興味。

だったのだが……


「げふぁ!! ……聞こえていたのか」


彼は、いきなり慌て始めると息を詰まらせ、その影響で俺の乗っている頭も軽く揺れた。

……これは相当だな。


「いや、自分の体を見てみろよ。

見える範囲にいたらほとんど聞こえるぞ」


というか、普通にしてるだけで島中どこからでも見えそうな巨体だぞ?

声が島中に届くというのは流石に言い過ぎかもしれないが、ある程度遠くにいても声は聞こえるだろう。


しかも今回その話を聞いたのは、至近距離と言える程の場所だ。聞こえないはずがない。

今更何言ってんだよ……と苦笑しつつ、続きを待つ。


しばらく嫌そうにしていたが、少し待つと彼は渋々といった様子で口を開いた。


「吾輩、昔は一人称を我としておった。

威厳、あるだろう?」

「まぁな。神っぽい」


面と向かってそれを聞いてくるのには威厳ないけどな。

せっかく素直に話しているところだったので、口には出さず、密かに心に留めて、適当に同意する。


「うむ。……人間を、その……襲っていた時にだな?

使っていたのだが……」

「うんうん」

「大口真神らに叩き潰され、共に戦うことになり、今に至る訳だが……」

「あんたのことを聞く時は、絶対にそれが出てくるよな」


思わず口に出すと、彼は少し黙り込んでしまう。

やば……もしかしてまた話を逸らすか……?


と思ったのもつかの間。彼は意外にもすぐに話を再開する。

よかった……


「吾輩はあれに負けた。ならば吾輩、けっして同じものを使わぬ。あんなかたっ苦しいのと同じであってたまるか!!」

「おおう……同じ守護神獣なのに、結構嫌ってんのな……」


頭に乗っているので表情は見えないが、彼はだいぶ語気を荒げている。どうやら相当嫌っているらしい。


たしか大口真神は、もっとも人に寄り添っている神。

もしかしたら恐れられている神とは真逆……なのかも?

とするとまさか、案外すんなりいった夜刀神よりも大変だったりするのだろうか……?


一応助けを求めたら助けてくれる神だとは聞いている。

けど夜刀神と仲が悪いのなら、彼の助力を得たことで拒否される……なんてこともあるかも……?


そんな漠然とした不安を感じていると、夜刀神はなおも言葉を続けた。


「それから吾輩、威厳のある一人称を探していたところ、射楯大神のやつに吾輩というのをおすすめされた。

あれは大陸中を飛び回って、色々と見ておるからな。

見識が広いだろうと信じて、使ってやっているのだ」


ああ……大口真神との話は、我という一人称を使わなくなった理由だもんな。

そしたらもちろん、吾輩を使い始めた理由だって……え?


「は? 射楯大神に!?」

「うむ。あれは気のいいヤツよ。龍宮にはあまり来ないので、100年以上は会っていないがな」

「今ヤタにいるかわかるか!?」

「さてな……会っとらんと言っただろう。

ついで吾輩、最後にこの島から出たのは数百年前だ。

外のことだって、吾輩を恐れてか、殺そうとしてくる人間がいることしか知らぬ」


同じ守護神獣でも知らないとかってマジかよ……

レア中のレアじゃねぇか……


ただ、彼が気のいいやつと言うくらいだし、やっぱり会えたら協力はしてもらえそうだ。

……運良く会えることを祈ろう。というか……


"幸運の呪い(チル)"


今から呪いで射楯大神に会うことを願掛けしたら、もしヤタにいなくても運良く戻ってくる気になるかもしれない。


ふとそう思い、俺は右手を持ち上げて呪いを発動させる。

命の危機以外だと、チルは案外気まぐれだったりするんだけど……


「ピィー……」


よかった……今回はちゃんと出てきてくれた。

彼は祭壇の近くだからか、か細く鳴いて頭上を回ると俺の肩に降りてくる。


何分くらい経ったかはわからないけど、もうみんな起きててもおかしくはない。

それなのに随分と配慮のできる子だ。偉い。


「チル。射楯大神に会わせてくれ。

今は他の幸運はいらないから、ただそれだけを頼むよ」

「ピ、ピィ……」


俺は、チルの目を見て強く願う。

すると彼は、今までで1番まばゆく発光すると、戸惑ったように小さく鳴いて羽ばたいていく。


……今更だけどこれ、使い方あってるかな?

チルが俺の近くにいないのに、俺が会えるようになるのかは少し疑問だ。


うーん……まぁ運は運だもんな。

今までだって、チルが出てくるかどうかは気まぐれっぽかったし、彼がいてもいなくても俺の運はいいだろう。

だとすると、やっぱり離れていても運良く会える気がする。


といっても、その負荷とかで不運になられても困るんだけど……まぁ、確かにチルは呪いが具現化したようなものかもしれないけど、そもそもは俺が幸運の呪いだ。


多分、大丈夫だろう。そう信じることにする。

俺が1人納得していると、夜刀神がゆっくりと祭壇に近づきながらつぶやいた。


「随分と珍しいものを見た」

「そうか? この国はみんな式神使うだろ。

似たようなもんじゃないか?」

「うむ、そうだな。同じようなものだ。

……ふむ。どうやらみな起きておるな。朝食の準備をしている。ところで、朝食を食べたらすぐに出発するのか?」


晴雲の話では、騒動が起こるのは2週間後……

現在はまだ1日目だが、急ぐに越したことはない。


それに大体とも言ってたから、なんなら2週間よりも早い可能性だって全然ある。

夜刀神からは1日で助力を得られたが、他の7柱も同じように上手くいくとも限らないし……


「そうだな……宇迦之御魂神も、会うの大変そうだし」

「なるほど。ならば吾輩が岩戸まで運ぼう。そして朝食は、ひとかたまりの山にしてくれると吾輩が喜ぶ」

「ははは、なんだそれ」


夜刀神は祭壇の上で静止すると、嬉しそうに付け加えた。

本当、どこが恐ろしい神なんだか。


俺は笑いながらそれを了承すると、彼から降り、朝食の準備をしているドール達の元へと歩いていく。

場所は祭壇の下だけど、収納箱にいれて祭壇に広げればいいかな? 


ちょっと大変……

あ、よく見たら美桜はやっぱりサボっているし、詰めるの手伝わせよう。

俺はそう決めて、祭壇を勢いよく駆け下りた。




~~~~~~~~~~




俺は美桜を巻き込むと、言われた通り夜刀神の分を祭壇に運んで、自分達も下で朝食を食べ始める。


今日の朝食は、七兵衛のくれたものの残りや幻萄果、夜刀神におすそ分けしてもらったものを焼いた焼き魚など。


野営にしては豪華で、そして大量だ。

残ればまた仕舞うとしても……うん、朝食としては多いな。


だが、俺は直前に軽く運動のようなことをしていたので、意外と丁度いい量だ。

するすると胃に収まり、もうすぐ完食というところまであっという間にいく。


宇迦之御魂神も、夜刀神と同じように戦闘になる可能性を考えれば、ちゃんと食べないとな。


しかし他のみんなは俺より遅く起きたので、少し大変そうにしていた。

まぁドールは自分で準備していたんだし、無表情なのでよくわからないが……ロロや美桜辺りは特に顔を歪めている。


これだと後で食べてくれた方がお互いにとってもよさそうなんどけど……


「むぅ……」

「うにゅぅ……」


唸っている彼女達の視線をたどると、その先にはリラックスした様子の夜刀神がいる。

リラックス……つまり誰よりも速く完食していた。


しかもその食事方法というのが、山のような朝食をほぼ丸呑みで食べてくというもの。

祭壇の上という1番目立つ場所にいるのだから、その衝撃もかなり大きいだろう。


まぁ正直言って、俺も驚いた。

そしてああいうものを見て起こるのは、大抵が自分も食べた気になって食欲が失せることだ。


ただし今回のような、食後すぐ出発するという場合は急かされたような気分にもなる。


この間にも、俺とライアン、ドールが食べ終わってしまったように。だから……


「ほら。ロロさん、美桜さん。夜刀神様はもう食べ終わっています。お2人も唸っていないで、速く食べてください。

それか、後で食べてもいいのですから出発しましょう」

「わかってるよぅ……宇迦之御魂神に会うんだし、流石に空腹ではいかないよぅ……」

「オイラだって、負けないよー……」

「俺も終わったぞ」

「俺も〜」

「くぅ……」


自分の食べられる分だけさっさと食べたドールや、普通に完食した俺とライアンにも急かされてしまう。


夜刀神の山を食らうかのような食べ方、ドールの自己分析した適量摂取、ただの早食い。


2人を急かす要素は、夜刀神の影響でそこら中にあった。

うん、ちゃんとひとかたまりの山にしてよかったな……

少し面倒ではあったが、結果的に良い方に転がってくれたので満足だ。




およそ10分後。

夜刀神にも影響されず、淡々と自分のペースで食べ続けた律と、急かされながら食べ始めた美桜とロロがほぼ同時に完食した。


箸が止まってなかったから何も言わなかったけど、律も案外ちゃんと食べれるんだな……

草餅のイメージしかなかった。


「律って意外と食べるんだな」

「早食いは、しないけどね」

「……」


俺が黙り込むと、やはり彼は察したように薄く笑う。

そして……


「うでは、問題ないよ」

「痛覚ないのか……?」

「ううん。つうかくは、人一倍あるよ」


普段通りの声色で、事もなげにそう言った。

思い返してみると、たしか麒麟も同じことを言ってたか……


夜刀神の評価では狂気の少年。

とすると、おそらく妖怪達が言ってたのもこの子のことだろう。


……狂ってるってことはやっぱり魔人?

でもマキナやニコライ、美桜なんかと比べても、彼の方が優しそうな印象だ。


しかも、やっぱりオーラは黒くも白くもない。

……というか、そもそも神秘はあるだけでオーラはないのか?


今一番の謎かもしれないな……

聞いてもはぐらかされるし、どうしたもんか……


「クロー。みんな夜刀くんにのりはじめたよー!!」

「わかったー!!」


また聞いてみるか……? などと考えていると、すこし離れたところからロロが俺達を呼ばわってくる。


その先を見てみると、美桜はもう乗っていてくつろいでいるようだ。あいつ、麒麟の時よりも楽な態勢してやがる……!!


他の面々も、荷物が収納箱に入っているので今にも乗り終わりそうだ。

聞いてもどうせはぐらかされるし、行くか……


「じゃあ、行こう。クロウお兄ちゃん」

「そうだな」


俺は律に促され、夜刀神に乗るべく2人で祭壇を登っていった。

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