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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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98-VS夜刀神・中編

「かはっ……!!」

「うっ……!!」


しばらくその場で踏みとどまっていたが、結局俺達は吹き飛び岩壁に叩きつけられる。

水……レヴィの時も思ったけど、やっぱ半端じゃねぇな……


「はぁ……はぁ……痛って……」


俺は運良く苔が生えている場所で角もなかったので、少し背中が痛むだけ。

流石に痣くらいできるかもしれないけど……

とりあえず今は、すぐに立ち上がることはできそう。


夜刀神のブレスの影響で、軽く雨が降っていて滑りそうだ。

雨でもう手遅れかもしれないが、無駄に体力を消耗しないように気をつけて立ち上がる。


「うにゅう……」


ロロも猫なので、完璧な受け身で無事のようだ。

多分目が回っただけだろう。

雨に何も言わないし、多分相当。


律とドールは……


「……!! おい、大丈夫か!?」


吹き飛ぶ直前まで律がいたのは俺の右側。

なのでそちら側を見てみると、彼は腕の向きが少しおかしいことになっていた。


……角に叩きつけられたのか、右腕の関節が曲がらないはずの方に曲がっている。

……見るからに、骨が折れていた。


……俺は思わず下唇を強く噛む。

敵意はないのに勘違いで、話も聞かず、こんな小さい子を傷つけた……!!

俺だけ運良く打ち身だけというのも、許せない……!!


「くっそ……!!」

「クロウお兄ちゃん、ぼくは、平気」

「はぁ!?」


だが、律は何事もなかったかのように立ち上がり始めた。

ぶつかった時には小さくうめき声を上げていたが、骨が折れたとは思えないような声量。


しかも、今だって涙の一粒も流しはしない。

どういう……こと……だ……?


「……かれは、気持ちが過去に、もどってしまったみたい。

ドールお姉ちゃんの、精神こうげきは逆効果、だったね」

「そんなことよりお前……」


"麒麟招来"


思わず声をかけるも、彼は構わず懐から札を取り出す。

しかも、折れているはずの右手で……


彼はいつも通りに札を顔の前で構えると、淡く光るそれを地面に叩きつける。

やはり、折れているとは思えない力強さで。


地面が盛り上がり、真っ二つに割れ、現れた麒麟はすぐにその折れた腕を見る。

一連の流れで一つだけまともだったのは、律の式神……かみさまが見せるのが、苦悶の表情だったことか。


彼は大きく表情を歪ませると、静かに問いかける。


「……律」

「ぼくは、折れないよ?」

「……っ!!」


それに対する律の返答は……普段通りの穏やかなもの。

……なんなんだ? この子に痛覚はないのか……?

痛々しくて、見ていられない。


ロロは、これも治せるか……?

彼の治癒力上昇は治療を受ける側の体力が重要で、重傷だと治せないことが多い。


だが、ちょうど足元に寄ってきたので、かすかな希望を込めて聞いてみる。


「ロロ、治せるか……?」

「完全にはむりだよ。いちおーなめてみるけど……」


そう言うとロロは律に登っていく。

彼自身は怪我を気にしておらず、治療のために座ることもなかったので、軽く爪を立てて自力でくっついている。

結果は……


「ほねは、やっぱりむり」

「そうか……」


ロロが舐めるとほんの少し元に戻ったかもしれないが、ほとんど変化はなかった。


「律。お前はもうここに残ってろ」

「え、なんで……?」

「……律」


俺の言葉に疑問符を浮かべた律だったが、麒麟がたしなめると珍しく顔をしかめてうなずく。

ロロはここに残るとして……


「麒麟は俺と来てもらえたりするか?」

「いいだろう。いるだけで上手くいく程に信用はされていないかもしれないが、あれとも顔馴染みではあるしな」

「そうなのか……? じゃあロロと律待機でよろしく」


信用ないなら無駄かもしれないが、顔馴染みというだけで安心感があるな。


ロロが律の肩に乗ったのを確認すると、俺も麒麟に乗る。

夜刀神の様子も気になるけど、なによりもまずはドールが無事かどうかを確認にいかないと……


「麒麟。悪いけど先に、左側でドールの無事を確認したい」

「了解だ」




岩壁にもたれかかっていたドールのもとまで行ってみると、彼女は思いの外元気そうにしていた。

改めて出した仮面たちを並べて、作戦会議をしている。


一度はかき消えた不安、冷徹、恐怖の感情に加えて、怒り、悲しみまでも呼び出しており壮観だ。

立ち上がらないということは、大なり小なり怪我はしているはずだけど……


「おーい、無事か?」


俺は少し呆気にとられながらも声をかける。

すると、本体を含めたドール達総勢6人が一斉に俺達の方向を向いた。……ホラーかな?


「おう。骨の何本かは逝ってるが、案外ピンピンしてるぜ」

「お黙りなさい。本体はそこまで丈夫ではないのです。

荒っぽい怒りの仮面(ドール)と比べてはいけません」

「ああ? 無駄に冷静な冷徹の仮面(ドール)に言われたくねぇ……」


真っ先に言葉を発したのは怒りのようだ。

思わず体を引いてしまう程怒っており、額に青筋を浮かべている。会話はちゃんと成立していてありがたいな……


そしてそれを諌めるのは、どうやら冷徹。

悲しみはずっと泣いているし、不安は縮こまって震えていて恐怖は引きつった笑顔を浮かべてヘラヘラしている。


一番頼りになるのはやはり冷徹か……

ひとまず見た感じでは、律よりは軽傷に見えるので彼女達に移動をお願いしよう。


そう思って口を開きかけると……


「い、い、今は……」

「わかっています。急ぎ夜刀神様を落ち着かせる必要がありますね。クロウ様。こちらから前に出すのは不安以外の4人。

不安とドールは律様のもとへ行けばよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。それで頼む」


不安が言葉を詰まらせながら先を促し、冷徹がその後の行動を完璧に決めてしまう。

……うん、頼りになりすぎるな。ありがたい。


「不安はコイツをちゃんと運べんのかぁ?」

「ド、ドールは……ドールも、ま、魔人……」

「オレらは呪いな? 間違えんじゃねぇ!!」

「は、は、はい……し、神秘は丈夫……」

「ほい、じゃあさっさと行きな!!」

「は、はいぃ……」


不安の仮面(ドール)は弱々しく返事をすると、他の感情に助けられつつも、本体のドールを背中におぶった。

弱々しい割には力強く、自身の不安による震え以外では特に揺れてもいない。


どうせ夜刀神は後ろに向かわせないし、この様子なら問題なさそうだな。


「クロウさん、感情の仮面(ロキ)は消えてもすぐに戻せますから、積極的に役立ててください」

「……痛みはあるだろ?」

「問題ありません。私達は生物ではありませんので」

「えっと……冷徹がすぎないか?」


たとえ分身であろうと、積極的にドールを犠牲にしようだなんて到底思えない。

そう思ってドールの提案にすぐに反論するが、残念ながら冷徹が引き継いだので、聞き入れてはもらえなさそうだ。


……冷徹の仮面(ドール)を名乗るからには、徹底的に効率を求める気がする。


「行きましょう」

「おう。麒麟」

「了解だ。美桜殿が無事であればいいが……」


俺は心配げな麒麟に乗ったまま、今度は夜刀神のいた場所に向かっていく。周りにはドールの分身達。

よく麒麟についてこれるよな……




~~~~~~~~~~




俺と麒麟、ドール達が、さっきまで夜刀神のいた辺りに着くと、そこにあったのは巨大な池だった。

軽く見積もっても500㎡はありそう。


さらには付近にあった彼の神殿、谷間の岩壁も大きく崩れており、とんでもない惨状だ。

この島自体が山みたいなところがあったのに、景観が大きく変わっている。


もちろん、確実にあのブレスで生まれたものだろう。

……不完全だったはずなのに、威力がえげつないな。

神殿が壊れたから人を襲う……なんてことにならなければいいけど……


しかも作った本人……本蛇も、美桜もライアンも近くにはいないようだ。池の水面は完全に凪いでいる。


ライアン達は吹き飛ばされたんだとしても、夜刀神がいないのはどういうことなんだ……?

まさか本土に渡ろうとしてないよな……?

ものすごく不安だ。


ただ、おかしなことも一つある。

それは、この池の上空を中心に、辺り一帯に無数の水球が浮いていることだ。


明らかに神秘で、不規則にふわふわとした動き方。

水面は欠片も揺らいでいないのに、どこからきてるんだ……?

意味がわからないので、試しに麒麟に聞いてみることにする。


「なぁ麒麟。これ、どういうことかわかるか?」

「そうだな……ひとまず水球には触れない方がいいだろう。

それからあの2人は……」


彼は顔馴染みだとは言っていたが、水球に関しての助言は危険だということだけ。

そして、2人の行方にも心当たりはないようだった。

ゆっくりと池に顔を近づけて、少し唸っている。


「これが出来た時、何か音を聞いたかい?」


しばらく水面を眺めた後、ようやく顔を上げて麒麟が言ったのは、その一言だけ。


音……? 聞こえていたのは岩が砕かれる音と、水がそこら中にぶつかる音とかか……

彼らの行方には関係なさそうな音ばかりだ。

素直にそう答えると、彼は再び唸りだす。


「ううむ……」

「おいはっきり言え‥」

「お黙りなさい」


怒りがしびれを切らして口走り、冷徹がすぐに黙らせる。

相手は神として崇められる、本当の意味で神獣。

顔馴染み程度では、考察の材料も少ないだろう。


水球は危険だと言うし、無闇に動くべきでもない。

俺は黙って麒麟を見守る。


「……まず、彼は普段、海で狩りをしていると思われる」

「蛇なのに?」

「この島には人も獣も少ないからね。多少はいるが、あの巨体では満たされないだろう。水中でも生きられる……

むしろ水中がテリトリーと考えるべきだ」

「なるほど……」


実際、一瞬で池を作ってしまうような力を持っているのだ。

山っぽい島内よりは、海の方が適していると言える。


「次に、水球。これはかつての戦いでも見たことがある。

投擲武器……そんな使い方だった」

「触れたら破裂するとかあるのか?」

「まぁあれの気分次第だろう。だが、移動していることから見て、少なくとも察知はしてくる。つまり……」

「彼らは水中に引きずり込まれましたか」

「……」


麒麟が丁寧に考察をし披露していると、結論部分で冷徹の仮面(ドール)が答えを言ってしまった。

もちろん自慢したいなどという考えはなかっただろう。


けど……なぁ?

彼はこの場でもっとも夜刀神を知る者として、全力で問題解決に臨んでいたはずだ。

それを、横取り……


しかも、彼女はもう次の思考に入っているようだった。

顎に手を添えて、思い浮かぶままにつぶやき始める。

入り込む隙がないので、他の分身含め、俺達はただ見守ることしかできない。


「だとすると……私達も入る、もしくは逆に引きずり出す。

こちらの神秘はクロウ様の運、私の氷、怒りの炎、恐怖の雷、悲しみの水……

麒麟様は……それぞれ土、火、水、金、木の力を持つ分身?


操作性は少ない……なら取れる手段は、凍らせるか蒸発させることで引きずり出す。もしくは入る……自滅覚悟で運特攻。

ひとまず、水球に石かなにかをぶつけてみるという手もなくはないですが……」


すると、唐突に彼女は顔を上げて、両手の人差し指をつきだした。


そして右……引きずり出す作戦と、左……運任せで特攻する作戦のどちらがいいかと問いかけてくる。

無機物で試すつもりはないようだ。


まず、池の中にいることが前提だけど……多分運がいいのでいるだろうな。麒麟達の考察もしっかりしてる。


だけど、特攻にまで運が回るか……?

不安ではあるけど、乗り込むくらいなら……


「……引きずり出せるなら、そっちでいきたいな」

「了解です。では、私達は悲しみの仮面(ドール)以外一旦死にますね」


俺が引っ張り出すという作戦を選ぶと、彼女は薄く笑ってそう言った。……え? 軽すぎない?

なんか、冷徹すぎて怖い……

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