表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
107/432

91-下山準備

晴雲の話だと、妖鬼族または妖怪が攻めてくるのは2週間後。

時間がないとまではいかないが、八柱すべての説得をするのならのんびりとしてはいられない。


俺達は、目標を定めると速やかに行動に移った。

まずはロロの回収だ。


せっかく魂生と仲良くじゃれあってるのに、引き離すのは申し訳ないが……


「おーい、ロロ。目的地が決まったぞ」

「へー……どこー?」

「龍宮だ」

「ふーん……」


彼も俺達と同じく、ヤタにそこまで詳しくないはので、そのまま何も言わずに肩に飛び乗ってくる。

向かう場所についても、新しくできた友達と一旦別れることについても、特になんとも思っていないようだ。


また会える……というか、別にいつでも会えるから当然の反応だろう。

だが、それを見て立ち上がった魂生は、この世の終わりかのように悲しげだった。


「じゃあまたねー」

「うん……」

「お姉ちゃんがまた連れてきてあげるから〜。……ね?」

「……わかった。待ってる」


彼女は、ロロが素っ気ないからか泣きかけてしまったので、美桜がゆっくり歩み寄ってあやしてくれる。

顔を思いっきり歪ませていて、普通にかわいそうだ。


……もう少しちゃんとお別れしてあげた方がいいんじゃないか? いや、普通に困るぞこの状況……


「なぁロロ」

「なぁに?」

「もっとちゃんとお別れしとけば?」


余計なお世話かとも思ったが、ちゃんとしておいた方が万が一の時に後悔しないので軽く提案してみる。

仲良くしてたのなら、お互いが気持ちよく別れるべきだ。

……俺達はできなかったし。


「えー? 別にまた会えるじゃん」


だが、彼は面倒くさそうに言い切ってしまった。

強制するべきことでもないし、どうするか……

そんなふうに俺が困っていると、ドールがロロの顔を覗き込んでくる。


「ロロさん。ここにシリア様がいたとしたら、人との出会いは一期一会……と言っていたと思いますよ。

それに、この国には妖怪が……」

「どうした〜?」

「……昨晩、妖怪って来ましたか? ハラハラ」

「俺はずっと寝てた」

「俺も〜」


一昨日の深夜……か昨日の早朝かはわからないけど、よく考えたら愛宕郡では妖怪たちがかなり騒がしかった。

毎晩のように現れるらしいし、昨日は来ていないなんてことはないだろう。


昨日の夜はみんな倒れ込んで眠ってしまったし、もし起きていたのが晴雲達や律だけなら迷惑をかけたな……

俺達は全員、思わず律……それから、誠に遺憾ながら美桜にも申し訳なさげな視線を送る。


だが……


「……?」


当の律本人は、何のことだかわかっていない様子だ。

いつも薄かった表情に、わかりやすくハテナマークを浮かべている。


妖怪と戦ってないのか……?

律は聖人とも魔人とも違った不可思議な雰囲気だけど、神秘ではあるはず……戦えるんだよな?


それに、彼はたぶん倒れる程には疲れていなかったはずだけど……


「お前は昨日倒れた?」

「ううん、いつも通り。のんびり、してたよ」

「……妖怪は来なかったのか?」

「妖怪がねらうのは、愛宕ばかり、だし……

そもそも、ここには、来ないよ」

「へ?」

「うん。せいかくには、ここをふくめた、聖域5つね」


律は、ようやく合点がいったという風に表情を和らげ、ゆっくりとした口調でそう言った。

心配事はすべてなくなってすっきり、といった様子だ。


けど、そもそも聖域ってどこのことを言ってるんだろう?

崑崙を含めたって言われても……ヤタには詳しくないし、まったく心当たりがない。


……なんか、本当にヤタに来てから知らないことばかりだな。

ガルズェンスでも科学とか理解できないようなものはあったが、ここのは神秘なのに知らないというのが悔しい。

もともと田舎者で無知ではあったけど……


「聖域ってなんだ〜?」

「えっと、出発は……?」

「そういえばそうだった。ロロ、挨拶どうする?」

「するー」


話がそれてしまったが、改めてロロは魂生にお別れの挨拶をしに飛び跳ねていった。

美桜がうまくなだめてくれたようで、2人共いい笑顔だ。


話が戻ったことで聞きそびれてしまったな……

けど、聖域とかは移動しながらでもいいか。




しばらく待ってから、俺達は裏庭から出る。

まずは朝食を食べるため――可能ならば、サンドイッチのような持ち運べるものをもらうために、食堂だ。




~~~~~~~~~~




俺達が食堂へと向かうと、そこにいたのは晴雲と朝食の準備をしている七兵衛だ。

……ここにいるのは、その2人だけ。


こいつもヴィニーみたいに万能なのか……?

晴雲はテーブルでくつろいでいるだけだが、七兵衛はかなり広々とした厨房の中で、数個の鍋やフライパンの前に立っていた。


下ごしらえから調理まですべて1人……

しかも、厨房からは漂ってくるのはかなり芳ばしい香りだ。

朝っぱらから何を食べるつもりなんだ……?


さらには、どうやらすぐに出発したいことはわかっていたようで、すでに包みが用意されていた。

準備が良すぎるし、仕事量も半端じゃない……


謎に量が多いが、1つだけ常識的な大きさもあるし、少なくともそれの中身は持ち運べる料理だろう。

ものすごく申し訳ないし、多すぎてあ然としてしまうけど、ありがたいな……


けど、これは単純な予想なのか、占いの結果なのか……

どうでもいいことだけど、ちょっと気になる。


「これいいんだよな?」

「もっちろんだとも! うちの子もお世話になったしねぇ」

「ロロが仲良くしてただけな」


俺達は、大仰に笑う晴雲に軽く返事をして、厨房前のテーブルまで向かう。

確かに泣き出したのには焦ったけど、俺は焦ってただけだし、正直そこまで世話をした感じはしない。


美桜はあやしていたけど、最終的には結局ロロだ。


「なんだか多いですね……」

「ええ。晴雲様が、彼らは夜刀神に会いに行くとおっしゃったので。供え物もございます」

「なるほど、ありがとうございます」


包みの多くは、上から見て縦横30センチはある箱型。

どう見ても普通じゃない。

まぁこの人に限って、外で食べにくいものなんかじゃないとは思うけど……


「それがありがたいのさ。あの子、よく泣くから困ってたんだよねぇ。いつも怯えてるしー」


容器の深さはまちまちだが、大きいものだと40センチはありそうだ。

また麒麟に乗るとして、これは持っていけるのか?

ちょっと心配だな……


「それも占いか〜? すげ〜!!」

「ふふ。何故か本格的な天地盤や筮竹(ぜいちく)を引っ張り出しておられたのですよ。どうやら当たっていたようで」

「流石晴雲だね〜。私は面倒くさくてやってらんないよ〜」


しかも数も多い。

小さめが1つで、これはおそらく俺達の朝食。

その他は夜刀神用で、大きめなのが4つだ。

ちゃんと麒麟の頭数分……


「私、これにするわ〜」

「だめです。それは律くん……」


美桜はここでもサボりたがっているが、ドールがどうにかまとめてくれそうだ。

……律はやっぱり気にしてなさそうだけど。


小さいのは1つだけ。

麒麟に縛り付ける訳にもいかないだろうし、多分乗り手が支えるんだろうな……

とぼんやり思いつつ、大きめのものを抱えるおっも!!


「ぐっ……!!」


……適当に持ち上げていたが、改めて見てみると、どうやらこれが一番大きい包みだったらしい。

というか、そもそも見た目からして重いんだった。

気軽に持てるはずがないっ……!!


あまりの衝撃に腕がもげそうになるが、どうにか元の位置にまで持ち上げる。


「ふぅー……」


そして、そっと元に戻して2番目に大きい包を手に取る。

今度はぼんやりせずに、力を込めてっと……

かなり重いけど、ぼんやりしてなきゃ案外長時間でも持てそうだ。


……うん、けど一番大きいのははライアンに任せよう。

重さ的には大して変わらないけど、気持ち的に……


「……人とは無理でも、神獣なら……

ともかく、適当に占っただけで笑顔が見れて万々歳!!

しかも役人まで連れてってくれるというのなら、私も肩の力を抜けるというものさ……」


俺達が七兵衛と話しながら包みを手に取っている間も、晴雲は1人で話し続けている。

こいつは振り回してこないけど、誰よりも変人かも……

……適当?


「今、適当って言った?」

「なんだ、話すの?」

「返事を嫌がるってなんだよお前!?」


聞き捨てならない言葉だったので聞いてみると、何故か彼は嫌そうに顔を歪めた。

独り言が好きって何なんだ!?

意味がわからなすぎて、思わず突っ込んじまったよ……


「適当ー適当ー。さっくりって言ったじゃなーい」

「……確かに」


言われてみれば、確かにどちらも当たるからってことでさっくりだった。

ただ、サイコロを回しただけ。


今の言い方的に少し不安だけど、それでもちゃんと道を示してくれたのはありがたいか……


「まぁそれでも当たってるなら……」

「当然だろう? 私は誇り高き陰陽師だよ?

向いてる方向は同じ。違いはその近さくらいのものさ」

「心配することないって〜。彼は占いに関しては私よりも上だからさ〜」

「え……? お前も占えんの?」

「私も陰陽師だからね〜」


麒麟の話には、確かに晴雲と美桜の名前が出てきた。

けど、札を使うのが陰陽師みたいに言ってたし、占いは相談役としての役割かと……


……というか、愛宕で麒麟から聞き損ねたせいで今更だけど、陰陽師ってなんだ?

ガルズェンスでの科学者みたいな、職業的なやつか?


「まず陰陽師って……」

「1人1つ持ったので、出発しましょう」


気になったので聞こうとしたが、ドールの言葉に遮られる。

さっきまで美桜が小さい方を持ちたがっていたが、いつの間にか決着がついていたようだ。


美桜はかなり不満そうだけど……


「小さいのがよかったな〜……」

「役人じゃなくても、普通小さい子に押し付けたりしませんよ、美桜さん」

「わかってます〜。(海音ちゃんみたいにカタブツだな〜)」

「何か言いました? ぷんぷん」

「無表情でやめてよ〜……何も言ってないからさ〜」


途中で海音に引き渡すつもりだったんだけど、馴染むのが早い……


「じゃあ、しゅっぱつだね」

「おう。来るときより大変そうだけど、頑張ろうな」


俺達は、重い供え物を抱えて食堂を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ