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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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89-サボり魔は逃げる・前編

美桜の話を一通り聞いた結論は、彼女達はとんでもなく海音に負担をかけている、だ。


侍所は多分ほぼすべて。政所は管理職の仕事なら一部不完全で上げてあるかもしれないが、やはり基本的に海音の負担。


さらには、彼女本来の役職である問注所長官は、裁判だけでなく、妖怪や鬼人が暴れたり騙そうとしてきたりすることについての相談もある。


過労だ。

もちろん、幕府全体の管理が執権と連署の2人だけというのもおかしいが、海音も十二分に過労だ。

俺は、美桜をどうにか愛宕に戻らないかと説得を始める。


「話はよーくわかった。あんたは海音の負担になってる。

問注所に戻ってくれ」

「え〜!? 景綱……」

「2人だけしかいないのに、実務も管理職も肩代わりできるはずないだろ!!」

「実際、国は破綻してないよ〜」

「それだけその3人が頑張ってんだろ!!」


多分もう海音の負担になっていたことは理解してくれたと思うが、それでもなお美桜はサボろうとしていた。


もう海音のことなどお構いなしで、国が破綻してないから大丈夫とまで言い出している。

説得できる気がしない……頭が痛いよ……


しかも、もう視線ははるか遠くを眺めて楽しげだ。

こいつっ……!!

もうこれは引きずって行かないとダメかもしれない。


そう思っていると、美桜は再び詠い始める。


「世の中に 常に満ちたる 神秘の灯

されどいずれは 絶えるものと知れ」

「はーなーしーをー聞ーけー!!」

「申し訳ない。そう思わなくもないけど〜……

仕事ばかりしていると、視野を狭めちゃうのよね〜」

「知らねぇ」


正直、そんなことで仕事をサボるのはどうかと思う。

海音をちゃん付けで呼ぶくらい仲良さそうなのに、その海音に迷惑かけすぎだ。


普通なら、今すぐ帰って謝るところだ。

しかし、彼女の場合は戻る気にはならなかったらしい。


明らかに仕事をするつもりがない。

彼女は、俺ですらそう察することができる程に、今までで1番輝いている笑顔を見せた。


「うん、だからね?

私はあなた達に付いていこうと思いまーす」

「は?」


目的も話していないのに、いきなりどういうことだ……?

俺、1人だし……


戸惑っていると彼女は、俺の戸惑いを見て笑みを深める。

説明をし始めた時――自分の正当性を証明できると思っていた時と同じく、とても楽しそうだ。

……もしかして、性格悪い?


「進みゆく 道はただ我 知るのみぞ

しかして友は 常に傍らに」


友……?

詩に出てきた単語と優しげな笑みに、もしかしてとその視線を追うと、はるか下方にいくつかの粒が見えた。

1、2、3……4?

動いているように見えるから、多分ライアン達だろう。


ただ、人数が多いな。ライアン、律、ドールと誰だ?

晴雲は自分で案内なんてしないだろうし、また七兵衛かな?


……わからないけど、とりあえず部屋まで起こしに行く手間が省けた。

流石に木から降りることを拒否はされないだろうし、美桜を紹介してしまおう。


……ついてくるってのはみんなで聞けばいいかな。

できればドール辺りの力も借りて、戻す方向でいきたいけど。


「まさか律くんとも知り合いとはね〜」

「なんだ、あいつのこと知ってんのか?」

「……腐っても政所長官だから〜」


そういう彼女は、珍しく少し苦笑気味だ。

おそらく無知で迷惑をかけまくっていたと思われる人に苦笑されるのは、ちょっと納得いかない気がするけど……

まぁ当たり前か。俺は八咫の人間じゃないもんな。


「そーかよ。まぁついてくる云々は置いておくとして、ひとまず仲間は紹介していいか?」

「うちの子以外と話すのは久々だから、すごく楽しみ〜」

「おう、じゃあ……」


美桜も乗り気だったので、俺達は不死桜を降りることにする。

のだが……


「ええ、さっさと降りちゃいましょ〜」


俺が足をかけるくぼみに目星をつけていると、美桜は笑顔で飛び降りてしまう。

300メートルはありそうな巨木の上から。

なんの道具も、躊躇もなく。


「はぁーー!?」


思わず叫んでしまうが、当然彼女の姿はもう消えていた。

急いで下を覗き込むと、おそらくもう少しで地面というところまで行っている。


え……? いや、え……?

着地どうするんだ……?


俺は何もできずに慌てていたが、突然、下に炎のようなものが見えた。

美桜がいた辺りが赤い光を発している。

小さくなっててはっきりしないが、鳥のような……


なにはともあれ、美桜は無事着地できたようなので、俺も急いで木を降り始めた。




~~~~~~~~~~




俺が数十分かけて木を降りると、そこにいたのは案の定ライアン達。

だが4人目の人物は、七兵衛ではなく初めて見る少女だった。

見た感じ律と同じくらい――10歳前後で、花柄の可愛らしい着物を着ている。


誰だろう……?

みんなが晴雲のところに行ったとすると、わざわざ七兵衛以外に案内をさせたのだろうけど……


……まぁ今はいいか。

気にはなるが、もう休みたい。

足が棒みたいに震えてしまう……


「おはようございます」

「おは〜」

「あら〜、遅かったですね〜」


俺が、疲れで手足を震わせながら近づいていくと、美桜はそう言って笑う。

自分は飛び降りて楽だったからって……

まずはライアン達に挨拶を返して、美桜に反論する。


「普通はこれくらいかかるだろ。あんたはどうやって降りたんだよ? なんか光ってたけど」


上からは赤かったことしかわからなかった。

もし楽に降りる方法があるなら、ぜひ伝授してもらいたいものだ。


「ふふ〜ん」


だが、彼女の答えは得意げな声だけだ。

ドヤ顔で体を軽く反らしていて、若干腹立つ。

そして……


"朱雀招来"


彼女はすぐにまっすぐ立ち始めると、懐から1枚の御札を取り出し、顔の前に構える。

もう2回も見た光景。


やはり淡く光る札を地面に叩きつけると、地面から吹き出してきたのは、上から見たのと同じ赤い色……

燃え盛る炎の柱だ。


柱と同じく一瞬で収まりはしたが、空気が温められたことで風まで発生している。

天后も麒麟も静かな登場だったのに、今回は嫌に騒がしいな……


そう思っていると、炎の中からは真紅の鳥が現れた。

体の色が赤いのは炎だからなのか、羽ばたいているだけで若干の熱を感じる。軽く火の粉も舞ってるか……?


陽気な気分になって心地いい。

だが安らぎの空間とは程遠く、彼は登場の仕方と同じで騒がしく笑い出す。


「あひゃひゃ。自由な主を持つと忙しくて堪んねぇぜ〜」

「うるさいわよ〜おしゃべりさん」


す、すげぇ……!!

どうやら美桜も、海音のような人型のものではなく、律と同じような獣型の式神を使えたらしい。

一応式神が使えることは聞いていたが、いざ目にしてみると衝撃が段違いだった。


こんなに巨大な、炎を操る鳥……

他の2人……2頭? は保護者のような感じだったけど、彼は悪友っぽい感じだ。


……サボり魔にはピッタリの式神だな。

もし口に出したらめちゃくちゃ文句を言ってきそうなので、絶対口には出さないけど。


少し表情に出ていた気もするが、美桜はまるで気づいた様子もなく俺に向き直る。


「ということで、式神がいるからでした〜」

「飛べるのもいたんだな」

「そうだね〜。飛行能力のある子はたくさんいるよ〜」

「ま、まじか……」

「移動が楽そうですね……」


式神がいるってだけでもすごいことなのに、まさか飛行能力という、もっとも移動に便利な力を持っているのがそんなにいるとは……


貸し出しているなら、少なくともあと3頭……

能力はわからないけど、天后がいたから人型がいるのは確定……あとはどんなのがいるんだろう?


興味をそそられて少しワクワクしていると、さらに彼女は驚くべきことを告げる。


「ちなみに、私の式神は十二天将よ〜?」


十二天将……つまり、式神は十二頭……!?

麒麟は別枠らしいし、残り10頭も存在しているということか……!! 


……俺達にも貸し出してくれねぇかな? 便利そうだ。


「余ってたり……」

「貸しませんよ〜」


試しに貸し出しを頼んでみるが、言い終わる前に断られる。

残念だ……


「なぁなぁ〜、他にどんなのがいるんだ〜?」


俺が肩を落としていると、ライアンがわくわくした表情で口を開く。

残り9頭……俺も気になる。


「そうね〜……」

「あひゃひゃ、これだけかよ〜……」


俺もそれを聞き、思わず美桜を見つめてしまうが、彼女は朱雀を再び札に戻しながら思案顔だ。

……うん。敵ではないにしても、ためらいなく手の内全部晒すなんてことはないよな。

だが……


「どうせついて行くんだし、使う機会があればね〜」

「そういえばそうでした」

「ええ。よろしく〜」

「よろしく!!」


どうやら俺が木から降りている間に、全部終わってしまっていたらしい。

全員が歓迎ムードだ。


……説得は続けるけど、今すぐは無理……か?

なんか負けた感じでくやしいけど、まぁどうせ一通り回ったら愛宕に戻るし……仕方ない。


俺も諦めて、まずどこに探しに行くかの相談を始めることにした。


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