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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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87-不死身の桜

今は俺しかいないが、占いによってこれからの方針は大体決まった。


まずは、守護神獣を探すことだ。

正直不安しかないし、やりたくはないけど……


ローズ達は国中を動き回っているらしいので、やっぱり場所の特定は難しいだろう。

そのための占い、と思わなくもないが、どうせ場所がわかっても移動の間に消えてそうだ。


だから、別の方法をとる。

2週間後に起こるらしい妖怪・鬼人との戦いでは出てくるというのだから、まずはその戦いで海音を助ければいい。


海音は苦労人すぎて助けたくなっちまうし、どうせ四天王探しはやるつもりだったんだ。

ついでに神獣も引っ張り出してやる。


方針は決まったけど……


「神獣について長々と聞いちまったけど、2つ目の占いは?」


俺は、そういえば四天王のことも頼んだはずだと思い出し、星雲に向き直る。

危うく、神獣についてだけで脳内が埋め尽くされるところだった……


「んー……雷閃くんに獅童さん、美桜ちゃんのことだよね?

1人はここにいるよ」

「は!? いるの!?」

「いるよー。

ここは美桜ちゃんの領域とも言える場所だからねぇ」

「……早く言えよ」

「いやぁ、あははは」


話を逸らされた気がして軽く睨むが、星雲はまったく堪えた様子はない。

俺をまっすぐ見返すと、ヘラヘラと笑い始めた。


相談役がこんなに軽いやつでいいのか……?

サボりばかりの3人に、占い師というところからもなんか胡散臭く感じる男。本当に海音が不憫に思えてくる。


他の2人のことも聞いておくと、将軍・嵯峨雷閃はなんと愛宕のどこか、そして侍所所長・橘獅童は神奈備の森-羅刹のどこかにいるらしい。


流石に知り合いは早いな……

ローズ達のことでは頼りなかったが、それ以外だと思ったよりも優秀だ。


じゃあ今回は、詳しい場所までわかるか……?

そんな期待を高めて口を開く。


「じゃあ美桜って人に会いに行く。崑崙のどこだ?」

「ん〜……この屋敷には庭がいくつかあるんだけど、一番大きな裏庭には、ここの不死桜を祀る社があるんだ。

そこにいるはずだよー」

「一番大きなって……」

「大丈夫大丈夫。案内人をつけるからさ」


彼はそういうと、手のひらをパァン……パァンと勢いよく打ち付け始めた。

見た目は力を抜いた立ち姿なのに、やたらと響く。


その割には俺の耳への負担は少なかったが、何故か屋敷中に響き渡っているという確信が持てる。

不死桜でわかりにくいけど、神秘でも使っているのかもしれない。


彼自身が神秘という訳ではなさそうだけど……

そうでもない……か? 濃すぎてわからん。

ともかく、常人よりは上手く神秘を使っているようだった。

仙人かな?


「お呼びでしょうか」


俺がその響きに耳を傾けていると、いつの間にか星雲の足元には1人の男が跪いていた。

服に少し黒色が多くなっているが、愛宕にいたような侍だ。

神出鬼没っていうか、よく聞こえたな……


「おーご苦労。彼の案内をしてほしいんだよ」

「御意」


彼は星雲の命令にそう答えたと思うと、次の瞬間にはどこかへ消えてしまった。

え、どこ行ったんだ……? 


案内役で呼ばれたはずなのに、俺を置いてどこかに行くとか……御意とか言って、できてないじゃん。

そう思いつつ前を見ると、いつの間にかその男が目の前に跪いていた。


「うわっ!?」


意表を突かれ、思わず飛び退る。

はぁ〜……ビビったぁ……

なんかよくわからないけど、都にいた侍とはレベルが違うみたいだ。


……もしかして、晴雲の護衛だからか?

ただの下っ端ではないのかもしれない。


「鬼塚七兵衛と申します。以後お見知りおきを」

「お、おう」


彼は、俺に対しても慇懃に挨拶をしてくる。

これまた落ち着かないし、めちゃくちゃこそばゆいな……


そう思っていると、彼はもう立ち上がって歩き始めている。

一挙手一投足が凄まじい……

どこかヴィニーのような完璧さを感じる程だ。


俺は、何故かにこやかな晴雲を横目に、慌てて彼を追いかけ始めた。




~~~~~~~~~~




やたらぐにゃぐにゃとした道順をたどり、俺が案内されたのは他と比べて圧倒的に質素な庭。

晴雲と会った豪華な庭のように、池や橋、岩などの装飾はまったくない。


ただ、中央に一本だけ。

注連縄が巻かれている不死桜がそびえ立っているだけだ。

その分、コンロンにあるどの桜よりも巨大で、神秘的で、どうにも異質な空間に感じる。


裏庭とは言われたけど、ここまでシンプルな場所とは……

晴雲は、ここにいる四天王――卜部美桜の領域と言っていたので、なおさら意外だ。


「妙に質素な場所だな」

「ええ。卜部様がおっしゃるには、あの不死桜に飾りは不要……とのことです」

「ふーん……」


それを聞いても、俺には飾らない理由がよくわからない。

ただ、確かにどこよりも圧倒的な神秘だ。


他のものも俺みたいに気持ち悪く……もとい、壊れやすかったりするのだろうか……?

少し考えてみるが、やっぱりよくわからないな。


「姿が見えないけど……」

「おそらくは幹の上だと思われます。詩でも詠みながら、おくつろぎになっているのではないかと」

「な、なるほど……」


仕事を放り出して詩に耽るって……

本当にシリアみたいなやつだな。


とすると、近くでももう声が届くかどうかあやしい気がする……まぁとりあえず木の下まで行ってみるか。

そう決めて巨木に向かって歩き出す。


……あ、そういえば。


「この国で鬼っていうと、たぶん妖鬼族になると思うんだけど、あんた……」

「鬼塚、という名字のことでございますね。

私の故郷は、妖鬼族がたくさん埋まっていた場所なので、あの事件を忘れないために……でしょうか」

「なんかごめん」

「いえいえ、お気になさらず」


かなりエグい理由だったので、思わず謝る。

七兵衛は軽く流してくれるが……


妖鬼族は恐れられている一族だと聞いていたから、その名を入れていることを少し変に思っただけ。

だというのに、なんだか悪いことをした気分だ。


実際は、ただ辺境に生まれただけという感じではあるんだろうけど、人間は鬼人を殺していたというし、普通聞かれて気分のいいものじゃない。

鬼の墓の近くとか……恐ろしすぎる。


それに、忘れないための名前なんてものがあるのなら、それはもうかなりの規模だぞ……? 一種の呪いだ。……つら。


というか、鬼人が攻めてきてたりすることもあるのか……?

……あんまり触れたくないのでそれはもう考えないでおこう。

俺は軽く会釈して、今度こそ不死桜に向かった。




~~~~~~~~~~




俺が数分ほど歩き続けると、不死桜までようやく半分くらいの場所なのに、もう空は桜の花で覆われ始める。

この場所でもう枝を広げているのなら、この木は300メートルくらいはあるのかもしれない。


いや、適当だけど……

それでも、もしも万が一それくらいの高さがあるなら、ローダンテと同じくらいの高さだ。

頭がおかしい。


普通の不死桜だって100メートル近くあるものがあるのに、一番巨大なのは小山くらいあるって……

どうなってるんだここの植物たちは……


呆れて言葉が出てこない。

コンロンを見た時と同じく、脱力不可避だ。

まぁたぶん濃すぎる神秘の影響なんだろうけど……




~~~~~~~~~~




さらに数分歩き、俺はようやくこの不死桜の王とも呼べる存在の足元に立った。

高さも幹の太さも、ついでに桜の花の輝きも規格外だ。


さて……

うーん、七兵衛もいないしどうしたらいいのかわからない。


「あー……」


彼が言うには、卜部美桜はこの木の上にいる。

この、300メートルくらいある木の上に……

いや、普通にどうするんだ!? これ!?


……黙って登れ。そういうこと……か?

軽く頭痛を覚えながら、落ち着くために深呼吸をする。


「すぅ〜……はぁ〜……」


空気を出し切ったら、改めて観察だ。

一応幹はゴツゴツしていて、登りやすそうな雰囲気を醸し出している。


だが、もちろん枝は遥か上空まで登らないとないので、休みなしで数百メートルをよじ登らないといけないだろう。

樹の皮なんて、そこまで丈夫でもないだろうし……


くそ!! そんなの常人がやることじゃないだろ!!

卜部って人は、海音以上に頭がおかしそうだ。


「……」


「……」


「やっぱ登らないと始まんねぇか……」


俺はしばらく黙って木を見つめ続けたが、諦めて巨木の幹に足を引っ掛けた。


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