表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
102/432

86-崑崙の陰陽師

目が覚めると、俺の視界に広がっていたのは見慣れないワッフルのような天井。

木を組み合わせて作っているらしく、装飾はないのにそれだけで美しい模様として機能している。


あれ……? 泊まってた宿って、こんな天井だったっけ……?

確かに宿の天井もワッフルみたいだった……というか、あっちは平らだったから、むしろ宿の方がワッフルか。


……って違う違う。そんなことはどうでもいい。

多分ここはコンロンのはずだ。


あんまり記憶にないけど、登りきった後に倒れ込んでしまった気がする。

で、起きたなら今は……朝?


時刻確認のために障子の方を見ると、ぼんやりと白く光っている。うん、朝だ。

ついでに周りも見てみると、近くでぐっすり眠っているのはライアン、ロロ、律。


律だけは倒れ込まなかったはずだが、彼は調べることを知らないから意味はない。

早くセイウンってやつに占ってもらいたいな……着いてすぐ寝ちまっててなんだけど。


俺は布団から出ると、障子に向かって歩き出す。

顔は知らないけど……一番偉いやつだよな?

人に会えたら教えてくれるだろ。


一瞬迷ったが、そう結論付けて障子を開ける。


「うっ……」


すると、視界いっぱいに広がったのは不死桜だ。

木の上の部分――特に花びらがよく見える位置からの絶景。

絶景だけど……落ち着かねぇな、これ。


確かに山一面にあったけど、まさか屋敷の敷地内にもあるとは思わなかった……心に悪い。


「はぁ……」


思わずため息が漏れる。

嫌いって程でもないけど、心労がすごい……


どうやらここは2階のようなので、速く1階に降りよう。

流石に花びら直視は頭痛くなってくる。




~~~~~~~~~~




俺は1階に降りると散策を開始する。

不死桜ばかりなのは変わらないが、その環境で一晩寝たからか、下からなら案外平気だ。


というか、山道のように無駄な乱立ではないのでむしろ綺麗だと楽しめる。

道は砂利でザクザクと、上は花びらがひらひらと……

うん、楽しい。




さらに、少し歩くとその先には庭があった。

ここには珍しく芝生が生えており、ピンクばかり見ていたので心が落ち着く。


飾っているのはもちろん不死桜ばかりだが、たまに普通の木もあるし、池やそこに架かる橋、岩などでも他とは違った趣を感じる。

セイウンってやつも、不死桜ばかりじゃ飽きたのかねぇ……


それに、そういったものは神秘も桜ほどではないので、安心感もすごい。

ホッとして、ついあくびをしてしまうくらいだ。


「ふぁ……眠くなってきた……」

「それは困ったものだねぇ」

「いっ!?」


突然、隣からは声がかけられた。

気配など一切なく。


だ、誰だ……!?

心臓を鷲掴みされたかのような衝撃なんだけど……!!


慌てた俺は、首を痛めるくらいのスピードで振り返る。

すると、そこにいたのは目がない男。


しかも、海音と違って白い和服を着ているので地味。

目がない上にそれだから、なんだか印象に残りにくそうな人物だ。


……あいや、もちろん目はある。

ただ、細い。糸目ってやつだな。


それだけなら目ぇ開け、としか思わなかったけど、気配がなかった分余計に気味が悪い。

誰だよマジで……


俺は軽く深呼吸をすると、庭を見ていた彼に問いかける。


「あんたは?」

「私は蘆原晴雲。律から聞いてるよ? 

占いのために来た、お客さんだってねぇ」


彼は、名乗るのと同時に占いについても触れてきた。

口調は優しげなお兄さんって感じなのに、少し含みを感じるような気がする……


そうだな……つまり、客が来たと思ったらみんな寝ちまった。

せっかく起きたのにまた寝られたらさらに待つことになる、ってことか……?

相談役とも言われてたし、優しいだけの人じゃなさそうだ。


「そうだな。占ってもらいに来た」


俺はそう答えるが、セイウンはぼんやりと庭を眺めたままで返事をしない。

……髪を軽く揺らすくらいの風が吹き、彼の服、髪が桜吹雪の中で揺蕩っている。


不死桜とは別の意味で落ち着かない静かな時間……

まさか寝てないよな?

俺には困るとか言ってたけど、彼は起きてるのかわかりにくい。


俺がしばらくソワソワしていると、彼は唐突に空を見る。

目は閉じたままだ。

そして、さらに数分経つと……


「悪くない……何を占えばいいのかな〜?」


彼はようやく占いの内容を聞いてきた。

はぁ〜……無駄に緊張したぁ……


「2つ占ってほしい。

まず俺達の仲間、ローズとヴィニーの行方。

次に遊び歩いてるっていう、雷閃四天王の行方だ」

「時間をかけてガッツリ? すぐさまさっくり?」

「どっちもはダメか?」

「んー……さっくりでも当たるよ?」


……じゃあなんで2つあるんだ?

釈然としないが、それなら早い方がいい。


「すぐで頼む」

「りょーかい」


セイウンはそう言うと、おもむろに懐に手を突っ込む。

取り出したのは2つのサイコロだ。

黒と赤の八面体で、なんの変哲もないサイコロ。


そして、それを勢いよく投げると黙って見つめ始める。

もう終わりか……?


「ふふ、残念。中途の困難。逆境。大変だ。

……けど、必ず見つかるよー」


どっちの占いだ……? と思っていると、彼は続けてローズ達のことを質問し始めた。

どうやら俺達の方だったようだ。


質問内容は、それぞれの性格、いなくなった時期、俺達との間柄など……

そして出した結論はわからない、というもの。


はぁ!? 幕府お抱えの相談役なんじゃねぇのかよ!?

俺がそんなことを思っていると、セイウンはちらりとこちらを見て弁明を始める。


「ん〜あはは。何というか……ずいぶん荒れてるねぇ。

多分タイミング次第ではどこででも会えるよー」

「それが大変だから占うんじゃねぇのか?」


すかさず反論すると、彼は目を閉じたまま空を見上げる。

話聞かねぇのかこいつっ……!!

だが俺が少し苛ついていると、今回はすぐに前を向いて口を開いた。


「ん〜……それなら助言を一つ。

大体2週間後くらいかなぁ……よくないことが起こるはずだよ。

妖怪か、妖鬼族か……どっちかが総力を上げて攻めてくるんだろうねぇ……まさしく天災だ。

だけど、そこには必ず彼女達も来る。

それまでに会えなきゃ愛宕にいなさい。


あとついでに。多分四天王だけじゃ足りないから、守護神獣を引っ張り出すといいよー」

「守護神獣?」

「かつてこの国を救ったという土地神だよ。

たしか八柱いるはずだ。信用ならないのもいるがねぇ……」


国を救った神獣ね……魔獣が活発って聞いてたけど、敵対してない神獣・聖獣もいたんだな。

少し意外だ。


……ん? というか、もしかして神社に祀られてた守護神?

それなら確かに土地神に成ってたな。

まさか実在してるとは……


いや、それよりも攻めてくるやつのことだ。

国民でもないのに、もしくだらないことで引っ張り出してたら後が怖い。

俺は軽く頭を振って思考をリセットする。

ふぅ。


さて、都に攻めてくるのは妖怪と妖鬼族ということだ。

……うーん、海音に聞いた百鬼夜行みたいな話だな。


百鬼というからには、百頭……鬼人だとしたら百人いるのか?

全部が全部、聖人・魔人レベルとも思わないが、もしいるなら確かに5人で抑えられる訳がない。

俺達がいても厳しいだろう。


そこに味方になってくれる土地神。

あー……やっぱり何が何でも引っ張り出さないといけないやつなんだな……


ただ、そんなことはまったく頼まれてないし、俺達にとってヤタはまったく知らない土地。

さらには、神として崇められるような神獣が相手、と。

うわ、荷が重すぎる……


けど、どうせ一緒に戦うなら戦力増強は嬉しいし……

仕方ない。

少し不安もあるけど、神獣探しもついでにやっちまうか。

そう思って詳しく話を聞くことにした。


のだが……


「んじゃ、まずはこれを」

「なんだ?」


彼が差し出してきたのは1枚の御札だ。

律が式神を呼び出したのと似ている。

……ちょっと意味がわからない。え、俺に使えってことか?


俺はつい混乱してしまったのだが、なんでも持っているだけでいいらしい。

今から出てくる名前が難しいから、わかるようにとのこと。


な、なんだ……それだけか……

俺はホッと息を吐くと、大人しく懐に忍ばせ、彼の話を聞き始めた。




この国を守る八柱の土地神。

彼らは現在、あまり人類に関心を持っていないらしい。


そもそも1500年程前の「鬼人の大火」では、ただの気まぐれで呼びかけに応じてくれた、ということらしいのだから当然だ。


3000年以上も昔……「百の手」の伝説では、どうやら1人の女性の元に集ったらしいが……


ともかく、1500年前の時点でそうなのだ。

八咫国各地で、特に妖怪から人類を守るようなこともなく暮らしているというのも当たり前のこと。


……この時点で俺の不安は限界近くにまで高まった。

マジで俺達が引っ張り出すの?

その神獣たちに殺されない?


というか、今も守ってる訳じゃないのに守護神獣って呼んでるのかよ!? 大した信仰心だな!! 

俺は不安しか感じなかったが、星雲は構わず言葉を続ける。


次はその土地神たちの詳細だ。


まずは狼の神獣。

大口真神(オオクチノマカミ)と呼ばれるその土地神は、八柱の中ではもっとも人に寄り添っている神らしい。


愛宕の神社に祀られていた狼がそれで、主に飛鳥雪原の社におり、稀に愛宕にも現れるという。

自分から人類を助けたりはしないが、運良く出会え、なおかつ人間の方から助けを乞えば助けてくれるという懐の深い神だ。


厳格そうだけど、引っ張り出しやすい部類かも……?


次に白兎の神獣。

白兎大明神(ハクトダイミョウジン)と呼ばれるその土地神は、八柱の中ではもっとも人に紛れ込んでいる神らしい。

……ん? 紛れ込んでいる? 

なにかおかしい……けど、まぁいいや。


大口真神と同じく愛宕の神社に祀られていた兎で、主に岩戸の下にある島の白兎という街にいる。

そして愛宕には度々訪れているという。


人間を助けることはほとんどないらしいが、人間は大好き――特に人間の作る団子が大好きで、白兎亭の由来……

クロノスの言ってた神の好物って本当だったのか……!!


次に、狐の神獣。

宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)と呼ばれるその土地神は、八柱の中ではもっとも人の助けになっている神らしい。


祀られている場所は岩戸で、その場にいるだけで豊穣が約束されている、と認識されているようだ。

といっても人と会うことはほとんどなく、奇跡的に会えても直接助けはしない神らしいが……


会えるかな? 不安だ……


次に蛇の神獣。

夜刀神(ヤトノカミ)と呼ばれているその土地神は、八柱の中ではもっとも人に恐れられる神らしい。

……ん? 本当に守護神獣……? まぁいいや。


なんでも、かつて愛宕の真下にある島の、今はない龍宮という街で大暴れしていた神獣らしい。

だが、大口真神含む他の神獣に説得――もとい叩き潰され、人類のために百の手に立ち塞がった神ということだ。


そりゃ確かに怖い……恐れられるのも納得だな。


次に鹿の神獣。

天迦久神(アメノカクノカミ)と呼ばれるその土地神は、八柱の中でもっとも存在感のある神らしい。


特に祀られている訳でもないが、神奈備の森でもっとも気高き存在として獣たちを守っている、まさしく神。

人間を助けることはなく、むしろ獣を――妖怪のような魔獣以外――守るために人間と戦うこともある。


はは……敵対することがあるなら、そりゃ一番存在を忘れちゃだめな神だな。

引っ張り出すのも面倒くさそう……


次に梟の神獣。

射楯大神(イタテノオオカミ)と呼ばれるその土地神は、八柱の中でもっとも影の薄い神らしい。


天迦久神と同じく祀られることはなく、一応神奈備の森にいるらしいが、姿を見たものはいない。

言い伝えでは、八咫にいないこともあるとか。


うん、これが一番大変かも……


次に蛙の神獣。

多邇具久命(タニグクノミコト)と呼ばれるその土地神は、八柱の中でもっとも愛されている神らしい。


前二柱と同じく祀られておらず、神奈備の森で自由に生きている。人間に会えば――特に子どもに会えば、話し相手や遊び相手になってくれるのだという。


うわー楽そうな相手ー……


最後に狸の神獣。

隠神刑部(イヌガミギョウブ)と呼ばれるその土地神は、八柱の中でもっとも嫌われている神らしい。


嫌われている神様って、それでいいのか……?

別に気にすることでもないかもしれないけど……


そして、神奈備の羅刹という地域にいるため同じく祀られておらず、そもそも守護神獣と呼ぶべきかもわからないような存在らしい。

これも噂程度らしいが、人も神獣も騙しまくるのだとか……


一応味方だが、信じ切るのは危険かもしれない相手ということだ。


厳格、自由気まま、無関心、邪神っぽいやつ、敵対、存在すらあやしい、腹黒い。

多邇具久命以外、面倒なのばっかりだ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ