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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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84-コンロンへ・後編

「という訳で、この子が案内してくれることになったぞ!!」


ドール達が話を聞き終え、ライアン達がテイクアウトした団子を抱えながらやってくると、俺は開口一番にそう言った。


律は再び団子を口に詰めているため、返事はない。

その代わり、派手に反応したのはライアンだ。

何故か目を見開いている。


「ほほぉ〜。なんか不思議な雰囲気だけど、今回は警戒しなかったんだな〜」


どうやらローズの時のことを言っているらしい。

あの時は……まぁオーラを気にし始めたばかりだったしな?


俺はライアンと別れた後、再開の間だけでもリュー、フー、ヒュギエイアにシル、ヘズなんかとも会ってきている。


もちろんヴァンや暴禍の獣(ベヒモス)みたいな危険なやつだっていたけど、神秘にはだいぶ慣れてきたからな。

警戒はすることもあるけど、あれほど拒絶しようだなんて思わない。


再開後のニコライの時は……流石にビビったけど、あれは密入国っていう状況だったし仕方がないだろう。

うん、不可抗力だ。


だが、それもあってかライアンには、まだ警戒しすぎるやつだと思われているようだった。


というか、リツとは面識があるどころか友達なんだから、警戒なんてするはずがないけどな。

あの時は少し戸惑いはしたけど……


一言で否定できるので、すぐにその言葉を口にする。


「ディーテで会った友達なんだよ」

「あ〜、俺がほっつき歩いていた時ね〜」

「そうそう。だから警戒なんてする必要ないね」

「ふーん……けど、なんか不思議な雰囲気だぞ〜」

「けど、オーラは白いのも黒いのもないじゃねぇか」


俺とライアンが謎の口論をしていると、ドールが間に入ってくる。

無表情だから、何考えてるのかまったくわからない。


「時間がない訳でもないですが、どうせなら急いで行くべきだと思います」

「そうだな〜」

「じゃあ団子は……」


ドールがすぐ出発することを提案してきたので、リツが食べ終わっていない団子をどうする……? と彼に視線を向ける。

だがその心配は杞憂だったようで、彼は既に袋を手元に置いていた。


どうやらイナバと同じように、団子袋とでもいうようなものを持参していたらしい。

これが一般的なのか、はたまた彼らが常連なのか。

店員にはまったく気にした様子がない。


これはニコライのサンドイッチ、それから……ヒマリのパンケーキよりも重症のように感じる。

気にしたら負けかもしれない。


そして詰め終わると、彼は俺達の方に向き直って、改めて自己紹介を始めた。


「非時律だよ。よろしくね」

「俺はライアン。よろしく〜」

「ドールです。よろしくお願いします」

「オイラ、ロロ!!」




こちら側の俺以外のやつも名乗ったら出発だ。

案内役がいるので、特に何も心配せずに店の外へと歩き出す。

だが……


「あれ? クロノスどうした〜?」

「ん? 本当だ……」


ライアンの言葉に振り返ると、いつの間にかクロノスが消えている。

店内を見回しても、影も形もない。


一瞬で外に出れるとも思えないし、船長さんの時のように釘を刺すような自己紹介もしていた。

消えるタイミングも時間もなかったような……?

不思議どころか怖いくらいだが……どう探していいのか見当もつかない。ほっといても大丈夫か?


「バイバイ、おりんちゃん」

「うん! また来てね!」

「もちろん、また来るよ。

それから、お姉ちゃんをのこと、ごまかしてほしいな」

「またかってに出かけることだよね? 任せて」


俺達が戸惑っているうちに、リツも馴染みの店員と挨拶を交わしていた。多分同い年くらいで、10歳前後の色白の子。

なんだ、ちゃんと地元にも友達いるのか……

そうほっこりしつつ見守る。


だが彼はすぐに切り上げたので、俺達もクロノスのことは放っておこう。

あんまりリツの時間を拘束しちゃうのも嫌だしな。

話を聞いた感じ、やっぱりあの少女に怒られそうだ……




~~~~~~~~~~




白兎亭を出た俺達は、リツの案内に従い街の外へと歩いていく。乗り物も用意してくれるとのことだったが、どうやら外にあるらしい。

厩舎のようなものがあるとは思えないんだけどな……と少し不思議に思いつつも、大人しくついていく。


今歩いているのは、街の喧騒から抜け出した先のまばらに木々が生えているエリアだ。

臨海部でもないので、潮風とは違った澄んだ空気が気持ちいい。けど、目的地がよくわからないな……


「どこまで行くんだ?」

「いちおう、もう少し」


場所を聞いたつもりだったのだが、なんだか変な言い方だ。

釈然としないが、それ以上は答えてくれないので仕方ない。

俺達は、それ以上聞かずに黙って歩き続けた。




最終的に彼が立ち止まったのは、オタギから少し離れたところにある小山だ。

オタギからの距離は数百メートル程度だったが、ここまで来ると人はもう誰もいない。


わざわざ回り込んだので物音もほとんどなく、小鳥のさえずりや虫の鳴き声くらいしか聞こえてこなかった。

もちろんこんなところには厩舎もない。

……移動手段の提供ってなんだ?


「あ、あの……ここで合ってるのですか……?」

「うん。人がいなければ、それでいいんだ」


耐えかねた様子でドールが聞くと、リツはにっこり笑って答えながら、懐から何か札のようなものを取り出した。

彼がその札を顔の前に構えると、それはまばゆく光り輝き始める。


初めて見るけど、これも神秘か……?

ニコライの雷くらい眩しい。


「うにゃ……」

「まぶし……」


"麒麟招来"


俺達が目を細めている間に札を下に叩きつけると、いきなり地面が盛り上がってくる。

その土はみるみる膨らんでいき、目の前の小山くらいの大きさになると真ん中からぱっくりと割れた。


中から現れたのは、俺達が初めて見る生物だ。


体を覆っている黄金色の体毛を輝かせ、額には一本の角が生えている。

スラッとしているが背丈も5メートル近くあり、黒光りする蹄、炎のように揺蕩う尾など、全体的に神秘的な獣……


「仲間ー?」

「神獣か?」

「ううん。ぼくの、かみさま」

「??」


神獣じゃないのか……? なら……なんだ? 

シリアみたいに呼び出す道具が……あの札か?

どこからか動物を呼び出せる御札……便利だ。


「他国の者にその説明では不十分だよ、律」

「え、喋れるの……?」


神秘的なのは、道具から呼び出したからだと思ってたら……

話せるなら普通に神獣なんじゃないか?

俺達があ然としていると、彼らはこちらを気にせず話を始める。


「じゃあ、かわりにお願い」

「……仕方がないな」


どうやら、神獣が説明をしてくれるようだった……




キリンと名乗った彼――性別はわからないが、声は少し高めの青年っぽいものだった――がリツの代わりに話してくれたのは、自身のことやその札のことだ。


なんでも、彼は式神と呼ばれる存在らしい。

神秘を物に……この場合だと札に封じ込めた、生きているとも、死んでいるともとれないようなものなんだと。


彼の場合、どちらかといえば生きてはいるらしいが、普段は実体化しないので死んでいるのと同じ。

……要するに、術者の意思で呼び出される使い魔だ。


そして札なのは、この国の陰陽師が使う様式だから。

今から向かうコンロンの占い師、それから雷閃四天王の卜部美桜がそれで、特に卜部美桜は四天王達にも式神を配っているらしい。


しかし、この神獣は2人とは関係のない式神らしい。

だから、リツだけのかみさま。

口ぶりから察するに、どうやら保護者の少女にも頼りにされているようだ。


ただ、陰陽師ってのはなんだろう?

札は海音も使ってたけど、それなら律も陰陽師ということになる……が、キリンの口からはそんな言葉は出なかった。


律と海音は違って、セイウンと美桜はそう……よくわからん。

それも聞こうと思ったが、キリンはもう話を終えてしまった。……また後で、だな。


「ということだ。

律の願い通り、私が君達を運んであげよう」

「1頭で全員を?」

「バカを言うな。無理だ。無理だから……」


キリンはそう言うと、頭を軽く下げそしてすぐに上げる。

すると……


"炎駒(エンク)"


"聳孤(ショウコ)"


"索冥(サクメイ)"


"角端(カクタン)"


右隣からは炎が燃え上がり、中から火のように赤く染まったキリンが現れ、さらにその隣からは木が一瞬で生えて成長し、半分に割れた中からは苔むしたように青々としたキリンが現れる。


そして左隣からは何故か鉱石が地面を裂いてきて、粉々に砕け散った中からは白金のように煌めくキリン、さらにその隣からは水が吹き出し、中から深海のように黒く染まったキリンが現れた。


「は……?」

「1人1頭……のつもりだったけど、クロノスちゃん、消えちゃったから、あまるね」

「この神獣達、燃えてるし、苔むしてるし、金属っぽいし、濡れてるぞ?」

「物質に影響を出すかどうかは私次第だ」

「つまり……?」

「燃えないし、滑らないし、硬くないし、濡れない」


おお……完璧か。

そういうことなら、お言葉に甘えよう。

ロロは小さいし、神獣に乗るのは初めてだ。

正直楽しみ……


俺達はそれぞれの神獣を決めると、しゃがんでくれたその背にどうにかまたがる。

リツはもちろん本体のキリンでライアンは苔むした風の青色のキリン、ドールは金属でできたような白色のキリンだ。


そして、俺が乗るのは炎のように燃えている赤いキリン。

肩に爪を立てて乗っかっているのはロロだ。

振り落とされないか心配だが、キリンは優しそうだし配慮してくれると信じよう。


それより、本当に燃えてなくて変な気分になるな……!!

ワクワクが収まらない!!


はやる気持ちを抑えつつ全員が出発準備を終えると、キリン達はゆっくりと立ち上がる。

山の上やジェット機の中、研究棟からとは違って、高いところにいるというより自分が大きくなったようだ。


「では、しっかり掴まってい給え」


キリンはそう言うと、予想よりも遥かに速いスピードで走り始めた。


訂正

星雲→晴雲 読みは同じでセイウンです。

この先(未投稿分)も一通り直したつもりですが、直っていなければご指摘いただければと思います。

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