『貨幣の価値』 例えば500円玉サイズの金貨・銀貨・銅貨の価値は
異世界ファンタジー物に限らず、金貨・銀貨・銅貨が流通している世界を描く時、多くの作者は一度くらい「金貨ってどれくらいの価値があるんだろう?」と疑問を持った事があるのでは無いでしょうか。
だいぶ前、『異世界、ファンタジー世界での暦、時間や長さの単位について』というエッセイを書いた時、最後にオマケとして貨幣の価値について少しだけお話ししましたが、今回はこの”貨幣の価値”を主題に、徒然なるままに書き述べて参ります。
☆何故、500円玉か。
例えとして、500玉サイズを用います。
理由は二つ。
第一に、このエッセイをお読みになる方は基本的に日本人であると思われるので、感覚的に理解がしやすいと思われる為です。
よければ、500円玉を用意して、それを眺めながらお読みください。
第二に、500円玉のサイズが0.99立方センチメートル、おおむね1立方センチメートルだからです。
これは単純に、計算がしやすい、比較しやすい、比重がわかりやすい等、都合が良い大きさだからです。
よって、このエッセイでは”500玉サイズ=1立方センチメートル”の前提で話を進めて参ります。
ではまず、500円玉サイズにする前に、金銀銅の単純な価値を調べてみましょう。
☆純金属1gの価値
金属の価格は、毎日変動します。
特にここ最近は金銀銅が値上がりしています。
大雑把に言うと、販売価格で
金1gが7000円
銀1gが100円
銅1グラム1円
くらいですね。
つまり、同じサイズの金貨・銀貨・銅貨を比較すると、金貨1枚は、銀貨70枚分、銅貨7000枚分の価値がある!!
……というのは、間違いです。
なぜなら、これは重さでの比較。
大きさ、つまり体積の比較では無いからです。
では本題、500玉サイズにするとどれくらいの価値差になるでしょうか。
その前に。
先ほどのレート、金7000、銀100、銅1、(ついでにプラチナが4000)は、高騰している状態だと思いますので、今の価格では無く、過去の価格を参考に、個人的に妥当だと思うレートに修正させていただきます。
1gあたり
金が4500円
プラチナが3500円
銀が60円
銅が0.75円
銅は0.5円でも良いかと思いますが、ここ数年を見るとこのあたりでしょうか。
銅が一番乱高下するので判りづらいです。
金は5年ほど前は4000円少々でした。
この時1kg(400万円少々)で買っていれば、先月(令和3年7月)辺りなら700万円以上で売れた計算ですね。
「よし、金を買って大もうけだ」
とか思った人、止めておきましょう、前述通り、今は高騰しています。
さて、話を戻して。
☆比重と500玉サイズの重さ
比重とは『物質の質量÷同一体積の水の質量』です。
単純に、同じ大きさの水と比べて、どのくらいの重さであるか、です。
厳密には違いますが、だいたいそんな感じだと思ってください。
1立方センチメートルの水は、1ミリリットルであり、1gです。
例えば金の比重は19.3(水と比べて19.3倍重い)ですので、1立方センチメートル(500玉サイズ)の金は19.3gになります。
500玉サイズ、非常に計算しやすいですね。
以下にまとめますと、
金、19.3g
銀、10.5g
銅、8.9g
ついでに、代表的な金属も書いておきます。
プラチナ、21.5g
鉛、11.4g
鉄、7.9g
錫、7.3g
アルミニウム、2.7g
水銀、13.5g
同じ大きさのコインにすると、金貨は銀貨の2倍くらいの重さになります。
プラチナは、少しだけですが更に重い。
上の例(小数第二位を四捨五入しています)の、gを取り除いた数字が、そのまま比重になります。
比重が1を下回ると水に浮きますが、軽いと言われるアルミニウムでさえ、水の2.7倍の重さがあります。
純アルミニウムでできている1円玉が水に浮くのは、比重の所為では無く、水の表面張力による物。
水銀の比重、13.5を下回る物質は、理論上、水銀に浮かびます。
重いと言われる鉛ですら、水銀には沈む事が無く、ここに上げた中では金とプラチナだけが沈みます。
ちなみに、実際に水銀に金を入れると、溶ける、と言うか、融けると言うか、金アマルガムになりますので、沈むという現象は起こりません。
試さないように。
☆500玉サイズの金属の価値
さて、再び話を戻しましょう。
500玉サイズの金銀銅の重さが判りました。
これに、先に上げた1gあたりの金属の値段を掛けます。
金
4500円×19.3g
=86850円
プラチナ
3500円×21.5g
=75250円
銀
60円×10.5g
=630円
銅
0.75円×8.9g
=6.675円
さて、この状態で比較してみましょう。
仮に500玉サイズの純金貨、純銀貨、純銅貨があるとした場合。
金貨1枚あたり、銀貨が約138枚、銅貨が約13011枚。
銀貨1枚あたり、銅貨が94枚。
前提とした1gあたりの価格比が、金4500:銀60:銅0.75
判り易くすると、金6000:銀80:銅1
ですから、同じ重さ、仮に13.3gの金銀銅貨があるなら、1金貨が75銀貨、6000銅貨。1銀貨が80銅貨の価値です。
なので、”同じ大きさ”にして価値を比較すると、”同じ重さ”の場合より、金と銀銅の価格差は広がる事になります。
昔、「1ゴールドが100シルバー、10000カッパーは無理がある」と書いた事がありますが、これを見ると妥当に思えてくる不思議。
1ゴールドが140シルバー、14000カッパー
1シルバーが100カッパー
プラチナ貨があるなら、1プラチナが120シルバー
くらいに、なるのでしょうか?
ですが、実際の金・銀・銅貨の交換比率が、これ程大きくなる事はありません。
原因となるのは、時代や地域によって金属の価値が違う事と、価値をコントロールする為に金属に混ぜ物が加えられる為です。
では、次に、硬貨の価値を決める上で、重要な要素の一つ。
☆硬貨の純度
希少金属を使った硬貨は、使用されている金属の価値が、ほぼそのまま硬貨の価値を決めます。
つまり、純度が高いほど価値が高く、混ざり物が多ければ多いほど、価値も下がります。
しかし、純金は柔らかく、本来、硬貨には向きません。
現在も生産されている、純度99.99%のメープルリーフ金貨のように、使用しない事を前提とした”金を売り買いする為の金貨”であるなら問題ないですが、普段使いにすると結構簡単に傷つき凹みます。
噛んだら歯形が残ります、本当に。
むしろ歯ごたえで金の純度が判るとか何とか。
マンガ『ベルセルク』で、ガッツが受け取った金貨を噛んでいるシーンがありましたが、あれは金貨が本物かどうか確かめているんですね。
今でも、金メダルを噛んでみせるのは、「本物の金だ」というアピールなんでしょう。
まあ、あれ、ほぼ銀ですけど。
”ほぼ銀”である金メダルの中身は、92.5%が銀、7.5%が銅、極々僅かにアルミニウムなどが入っています。
俗に言う、スターリングシルバーです。
純銀も柔らかい素材ですが、合金にする事で格段に硬くなり、細かい細工も出来る様に成ります。
スターリングシルバーは12世紀頃からイギリスの銀貨、スターリングポンドに使われている銀です。
さて、話を金に戻しましょう。
金の純度を表す方法として、一般的にはパーセント(100分率)やパーミル(1000分率)では無く、24分率を使います。
24金が純金。
18金が75パーセント金(残りは銀や銅など)。
同じく、12金や10金などと表現します。
古代ローマで造られたソリドゥス金貨は、23金、つまり純度95.8%で、これは11世紀まで続きました。
中世の金貨の基本はこのソリドゥス金貨です。
純金よりは多少硬いですが、傷つきやすく、歯形も付けられます。
マンガやアニメの様に、革袋に何十枚も詰め込んでいたら、たちまち傷だらけになってしまうでしょう。
頑丈さと価値のバランスでお勧めするなら、やはり18金でしょうか。
よくアクセサリーでも使われている金です。
金75%が固定で、銀15%・銅10%、逆に銀10%・銅15%など、比率は様々です。
最近では、銀15の方をイエローゴールド、銅15の方をピンクゴールドと呼んでいるようです。
金貨にするなら、銀15の方が良いでしょうか。
最後に銅について。
純銅も柔らかく錆びやすいですが、同じように、合金にする事によって、格段に扱いやすくなります。
代表的な銅合金は、青銅。
日本人にはお馴染みの、十円玉です。
十円玉は95%が銅で、亜鉛が3~4%、錫が1~2%です。
青銅貨ですが、ほぼ銅貨。
これはもう、銅貨と言っても問題ないくらい銅貨です。
という事で。
金貨(18金)
金75:銀15:銅10
銀貨(スターリングシルバー)
銀92.5:銅7.5
銅貨(青銅)
銅95:亜鉛3:錫2
以上が、硬貨を造る上でお勧めです。
そうそう。
私も長らく勘違いしていましたが、この比率は、体積では無く、重量だそうです。
例えば、100gの18金を作るなら、金75g、銀15g、銅10gと……。
と、すると、金が75%って、結構少ないんじゃ?
☆材料1gの体積
1÷比重=1gの体積
金
0.052立方センチメートル
4500円
銀
0.095立方センチメートル
60円
銅
0.112立方センチメートル
0.75円
桁が小さすぎて、一瞬、あってるのか疑ってしまいました。
金が1cm×1cm×0.52mmで1gなら、そんなものでしょうか。
亜鉛
比重、7.1
1g、0.141立方センチメートル
0.2円
錫
比重、7.3
1g、0.137立方センチメートル
2円
錫と亜鉛の価格は乱高下しすぎで、断定しにくいです。
あくまで参考価格ということでご了承ください。
さて、混ぜてみましょう。
☆100gの合金の体積と価値
まずは判り易く、100gの合金を作ります。
18金
金75:銀15:銅10(グラム)
3.9+1.43+1.12(立方センチメートル)
337500+900+7.5(円)
6.45立方センチメートル、338407.5円
スターリングシルバー
銀92.5:銅7.5
8.79+0.84
5550+5.63
9.63立方センチメートル、5555.63円
青銅
銅95:亜鉛3:錫2
10.64+0.42+0.27
71.25+0.6+4
11.33立方センチメートル、75.85円
小数第三位四捨五入。
当たり前ですが、一番比重が大きい18金が、一番小さくなりました。
そして、当然の様に高い。
ただ、体積で考えると純金が3.9に対して、銀と銅が2.55、金は60%くらい?
これで「75%が金」と言ってしまうのか。
さて、ではこれを500玉サイズにしましょう。
☆500玉サイズの合金貨の価値
先ほどの、100gの価値を体積で割って、500玉サイズの合金貨の価値を出します。
それを純金属の価値と比較してみましょう。
18金貨
52466.28円
純金
86850円
S銀貨
576.91円
純銀
630円
青銅貨
6.69円
純銅
6.68円
小数第三位四捨五入。
まず、青銅が純銅とほぼ変わらない、当然ですけども。
S銀は一割近く減りました。
そして、18金は、銀と銅の価値が誤差程度しかなかったので、体積比と大体同じ、60%くらいまで下がりました。
判り易くする為、金銀は小数一位、青銅は二位で四捨五入してしまいますね。
18金貨
52466円
S銀貨
577円
青銅貨
6.7円
価値の比率はだいたい
1:90.9:7830.7
1:138:13011
よりは大分マシになりました。
主題は『500玉サイズの金貨・銀貨・銅貨の価値』なので、これで終了ですが。
ついでに、ちょっと改造を施します。
18金貨を0.05mm薄くして、直径を一円玉サイズの2cmにすると、体積が約54.95立方センチメートルになり、価値は約28830円になります。
S銀貨50枚が28850円だからほぼ等価。
これを仮に小金貨とします。
さらに青銅貨の厚みを0.24mm減らせば体積が約86%になり、価値が5.762円。
100枚で576.2円ですのでS銀貨とほぼ等価。
これを仮に薄銅貨とします。
まとめると、
小金貨 直径2cm、厚み1.75mm、18金
(一円玉を0.25mm厚くしたサイズ)
S銀貨 直径26.5cm、厚み1.8mm、S銀
(500玉サイズ)
薄銅貨 直径26.5cm、厚み1.56mm、青銅
(500玉を0.24mm薄くしたサイズ)
すると、
小金貨1:S銀貨50:薄銅貨5000
S銀貨1:薄銅貨100
という、非常に判りやすい交換レートになりました。
☆鋳造費
今回は考慮に入れませんでしたが、基本的に、貨幣の価値は素材とされた金属の価値に、鋳造費が加えられたものになります。
鋳造費って、どのくらいなのでしょう?
私も知りません。
なのでここは、現代の純金貨の価値と、金貨にされてないバー状態の純金の価値を比べてみましょう。
比較対象は、純金貨と言えばこれ、先ほども例えに使った『メープルリーフ金貨』です。
前述通り、これは貨幣として使用される物では無く、将来の値上がりを見越して投資の一種として利用される物、つまるところ”金を売り買いする為の金貨”です。
99.99%純金貨、メイプルリーフ金貨の1トロイオンス(31.1g)の場合、額面はたったの50カナダドル(4400円くらい)ですが、売買価格は20万円を超えます。
今回は購入価格、つまり店頭小売価格で比較してみましょう。
日本時間、令和3年8月19日午前9時30分公表の価格
メープル金貨、1オンス(31.1g) 231271円
純金、1g 7009円
掛ける事の31.1で217979.9円
差額は13291.1円なり。
すると、約5.75%が鋳造費、つまり金を貨幣に変えた手数料でしょうか。
ついでにプラチナ貨も見てみます。
1オンスプラチナ貨、135719円
プラチナ1g、3993円で、1オンスが124182.3円
差額が11536.7円。
こちらは8.5%
思ったよりも差が出てしまいました。
大体、高額貨幣の方が比率は下がるので、妥当と言えば妥当かも。
鋳造費を考える参考として、もう一つ。
中世の貨幣の価値基準として、カール大帝の定めた、『1リーヴル:20スー:240ドゥニエ』があります。
理論上、ドゥニエがデナリウス銀貨、スーがソリドゥス金貨に相当しています。
一番上のリーヴルは、古代ローマの重さの単位リーブラで、1リーブラは327g、古代ローマにおいて”人が一日に食べるパンの量”でした。
それを、カール大帝は1リーヴル491gに改め、1リーヴルの重さの銀で、ドゥニエ銀貨を240枚を造りました。
故に、1リーブルという単位が240ドゥエニに相当するのです。
ですが。
厳密には、408gの純銀で240枚を造ったそうです。
銀貨の純度が95%だったそうなので、約21.5gが混ぜ物、恐らく銅でしょう。
ここから、1リーヴル491gと実際使われた純銀408gの差、銀83gから銅21.5gの価値を差し引いた物が、ドゥニエ銀貨を240枚を鋳造した時の鋳造費なのでは無いかと推測します。
「で、それって、いくらくらい?」
「……さあ?」
あくまで参考までにっ!!
純粋に銀だけ比較すると、20%くらいかな。
銀貨48枚分くらい。
だとすると高すぎるか。
リーヴルと比較しても17%くらい。
みんな、カール大帝に騙されてるんじゃ……。
大分、引っ張りましたが、硬貨の製造コストは不明確のままでした。
申し訳ないです。
本来ならば、「硬貨の価値は材料費+鋳造費」とだけ思っておいてください。
その意味は、
金貨を溶かしてただの金塊にすると、価値が下がる。
純金で純金貨を偽造すると、製造コストが掛かるので、利益が出ない。
の二点です。
偽造って、製造コスト分だけ利益出るじゃん、と思った人。
普通に働きましょう。
☆実際の金銀銅貨
さて、最後に、一つのお話として。
創作物の中に於いて、金銀銅貨の価値は作者次第です。
古代ローマのように銀が少ない時代でしたら、金と銀の価値が近付きますし、金貨を小さく、銀貨を大きくすれば、金貨銀貨の交換比率は小さくなります。
そして当然、逆もまた然り。
有名な『ダンジョン&ドラゴンズ』では金銀銅貨の比率が1:10:100という、多少無茶がありつつも、非常に判りやすい設定でした。
その他、作品によっては硬貨は全てゴールドだったり、シルバーだったり。
それもアリでしょう。
それはそれとして。
中世世界には様々な硬貨が同時に存在していました。
当然、大きさや貴金属の含有率も違い、同じ”銀貨”であっても価値は全然違ったのです。
基準として、東ローマ帝国ではソリドゥス金貨、フランク王国系ではドゥニエ銀貨が存在していましたが、それすらも、時代によって改鋳され、価値が違います。
現実的には、今の日本で1円玉から500円玉、そして紙幣まで存在するのと同じように、価値の違う数種類の銅貨と銀貨が織り交ぜて使用されていました。
金貨は日常で使用される物ではなかったようで、貯蓄や、何かの報奨、つまりご褒美や、大きな取引をするために使われたくらいです。
参考になるかどうか判りませんが。
聖書の時代、平均的な一般人の日給が1デナリウス銀貨だったそうです。
アウレウス金貨1枚が25デナリウス。
アス銅貨16枚が1デナリウス。
金1:銀25:銅400
本来は10アスが1デナリウスでしたが、アス銅貨が徐々に小さくなっていったそうです。
他に、アスを基準に、
1/24アスのセムンキア
1/12アスのウンキア
1/6アスのセクスタンス
1/4アスのクォドランス
1/3アスのトリエンス
5/12アスのクィンクンクス
1/2アスのセミス
2/3アスのベス
2アスのデュポンディウス
2.5アスのセステルティウス
3アスのトレッシス
4アスのクァドルッシス
5アスのクィンクェッシス
など、多数の硬貨が存在したそうです。
……正気かな?
5/12って、1/24が1円の感覚なら、10円相当なのでしょうか?
それと、「同じ”銀貨”であっても価値は全然違った」の好例として。
銀が底を尽きつつあった3世紀、2デナリウスの価値があるとして新しく造られたアントニニアヌス銀貨は、実はデナリウス銀貨の1.5倍しかありませんでした。
進むインフレーション。
暴落するアントニニアヌス銀貨の価値。
人々に貯め込まれるデナリウス銀貨。
ますます足りなくなる銀。
三世紀末のアントニニアヌス銀貨は、ほとんど青銅でできていたという冗談みたいなホントの話。
デナリウスも最終的には青銅貨になってしまったと言われています。
また、アウレウス金貨の純度もいきなり60%まで低下し、貨幣制度は壊滅的となりました。
ある人が調べた所によると、西暦301年の1アウレウス金貨は833.3デナリウス。
324年には1アウレウスが4350デナリウス。
337年、新たにソリドゥス金貨(純度95.8%)が造られた時には、1ソリドゥスが275000デナリウス。
356年には1ソリドゥスが4600000デナリウスに。
正に狂気。
歴史的大失敗で経済は大混乱。
中世初期には、庶民は物々交換の時代へ逆戻りしていたそうです。
もちろん、これに懲りず、歴史上の多くの君主が、金・銀の比率を下げて硬貨を改鋳する事を繰り返し、国を傾けます。
いや、改鋳せざるを得ない時点で、国は傾いていたのでしょうか?
☆オマケ
☆金属について、まとめ
○金
占星術に於いて、太陽が司る金属。
錆びない、普遍の金属、富と永遠の象徴。
比重が高く、見た目よりもかなり重い。
水銀に触れると吸い込まれる様に融け、水銀が蒸発すると器に薄く張り付きます。
これを利用して金メッキを施したり、錬金術師が「水銀から金を作り出しました!!」と手品紛いのことをしたりしました。
自然に産出される金には、銀などが含まれている事が多いです。
○プラチナ
現代では金と並び称される貴金属。
金よりも重い。
希少性も高い、なのに値段は金ほどでは無い。
たまに、RPGや異世界物の作品で、金貨の上位硬貨としてプラチナ貨が存在してる場合がありますが、ヨーロッパでプラチナがプラチナであると認識されたのは近世になってから、つまり、中世にプラチナ貨は有り得ません。
融点が金や銀よりもはるかに高く、鉄よりも高い、故に、加工の難しい金属でした。
○銀
月が司る金属。
中世では金に次ぐ希少金属でした。
ただし、古代エジプトやインドでは、金よりも希少だったそうです。
古代ローマに於いても、アウグストゥスの時代(紀元元年頃)の交換比率から考え、相対的な価値は今よりも高かったと思われます。
ヨーロッパでは16世紀頃に銀が増産され、その結果、銀貨の価値が暴落し、インフレーションが起こったとか。
熱伝導率、電気伝導率、可視光線の反射率が金属の中で最大。
オカルト的には、霊力、または魔力を通しやすいと言われ、悪魔や魔物に特効があると考えられていました。
○銅
金星が司る金属。
人類にとって、最も重要な金属の一つ。
銀に次ぐ熱伝導率と電気伝導率を持ち、大量に存在し安価である事から、様々な工業製品で利用されています。
はっきり言って、利用価値は金やプラチナよりも遙かに高いと思います。
純銅は柔らかいですが、古代より銅合金として利用されてきました。
銅と青銅を混同している例が多くあります。
例えば、銅メダルはブロンズメダルであり青銅製。
代表的な銅合金、青銅と真鍮については、以下に分けて説明します。
○青銅
銅と錫の合金。他に亜鉛や鉛なども含まれます。
銅を扱うなら、とりあえず青銅にすれば良いと思う、それくらいに硬くて丈夫になるのです。
前述通り、10円玉も青銅の一種。
古代より様々な道具や武器となってきました。
錫の割合が増えると赤銅色から黄金色を経て白銀色へと変わっていきます。
錫が3%だと赤銅色、延性が高く柔らかい、10%だと黄金色、強度が高く頑丈、17%だと白銀色、硬度が高いが脆い、23%だと融点が最も低い。
武器を作るなら、黄金色が一番良いそうです。
○真鍮
銅と亜鉛の合金で、亜鉛が20%以上の物、黄銅とも言います。
20%以下は丹銅と呼ばれ、文字通りの赤みを得ます。
丹銅は黄銅に含まれますが、真鍮には含まれないようです。
ぶつかっても火花が出ないという特徴があり、可燃ガスや油、火薬類と相性が良いです。
日本人に説明するなら、五円玉。
五円玉は亜鉛が30~40%。
35%前後が一般的で、45%を超えると脆くなるそうです。
綺麗な黄金色で、貧者の金、金の銅とも呼ばれていました。
ちなみに、金の銅を意味するラテン語「アウリカルクム」が、真鍮をさすギリシア語のオリハルコス、イタリア語のオリカルコの元になっています。
○鉄
火星が司る金属。
銅と並ぶ、人類にとって重要な金属。
存在する量が非常に多く、比較的加工もしやすいので様々な物に利用されています。
今や鉄が無ければ社会は成り立たないほどです。
欠点は錆びやすい事。
現代に生きる人々は忘れがちですが、びっくりするくらい簡単に錆びます。
錆び鉄がくすんだ血の色である事、血の味がする事、何より武器が鉄で作られていた事から、血を象徴する金属とされ、妖精は鉄を嫌うと言われています。
あわせて、銀とは逆に魔法適性が低く、魔術師は鉄製品を身に付けないとも言われています。
現在、鉄の多くが炭素などとの合金、鋼として利用されています。
○鋼
鉄に0.04~2%の炭素を加えた合金。
現代では炭素の他にニッケルやクロムなども加えた合金が存在し、それら特殊鋼も鋼に含まれています。
青銅と同じように、鉄を扱うなら鋼にした方が良いと思われます。
鋼は含まれる炭素の量によって変化し、目的に合った、質の良い鋼を得る事が重要な目的となって、様々な技法が編み出されてきました。
基本的に近代・現代に近い方が良い鋼が作られているはずですが、日本刀に関しては「時代が新しくなるほど鉄が悪くなる」と言われています。
○鉛
土星が司る金属。
重く、柔らかい金属。
加工しやすく、様々な物に利用されてきましたが、毒性があります。
特に鉛の食器や白粉など、非常に危険です。
ただ、鉛のカップで飲むと、ワインが美味しくなるとか何とか。
○錫
木星が司る金属。
柔らかく、そして融点が低い事でも有名な金属。
綺麗な白銀色であり、通常は鉛の様な毒性も無い為、様々な物に利用されています。
青銅やピューターの素材としても有用。
○ピューター
錫と鉛の合金。一般的ではありませんが、白鑞とも呼ばれます。
合金にする事で、錫よりは硬くなります。
錫と鉛というとハンダが有名ですが、ハンダは鉛の方が主成分。
こちらは錫80%に鉛20%くらい。
ただし、前述通り鉛には毒性がありますので、近代に入ってからは鉛の代わりにアンチモンや銅を混ぜて作られています。
白銀色で装飾もしやすく、銀食器を使えない下級貴族が代用品として使っていました。
食器類、カラトリーの他、花瓶やランプなど、さらにアクセサリーも作られていました。
冒険者が酒場でガツンとぶつけているジョッキ、あれなんかも恐らくピューター製でしょう。
ピューターのジョッキで飲むと、酒がうまくなるとか何とか。
余談ですが、ジョッキは和製英語、マグか、ビアマグが正しいはず。ちなみに、マグカップも和製英語です。
真鍮が「貧者の金」であるのに対し、ピューターは「貧者の銀」。
どちらも現代日本人にはあまり馴染みがありませんが、中世ヨーロッパでは好まれて使われていました。
○水銀
水星が司る金属。
常温で液体。そして、かなり重い。
毒性があるにも拘わらず、よく不死の薬の材料とされています。
また、その特殊性から錬金術師が好んで使い、金を生み出す実験などが行われていました。
液体のまま他の金属と合金になります。
金が触れると吸い込まれるように溶け込む、厳密には溶けるのでは無く、合金になります。
これを仏像などに塗って火で炙り、水銀を蒸発させると鍍金ができます。
ちなみに、蒸発した水銀はもちろん有害で、水銀中毒を引き起こしました。
同じように金銀の鉱石を粉々にし、水銀と混ぜる事で合金化させて抽出する方法があるそうですが、これも同じく危険です。
以上、古代の7金属(金・銀・銅・鉄・鉛・錫・水銀)とプラチナ。
それと、重要な合金(青銅・真鍮・鋼・ピューター)でした。
中世を舞台にした作品の金属は、これで大体なんとかなります。
続けて、ファンタジーにおける金属を幾つか。
○ミスリル
最近はミスリル銀、魔法銀とも呼ばれています。
元々はトールキンの創作で『指輪物語』に登場しました。
著作権があるはずですが、様々な作品でその名が利用されています。
基本的に魔力を帯びた銀、もしくは非常に硬く軽い金属として扱われています。
また金よりも希少性が高く、ミスリル貨という貨幣として登場する作品もありました。
○オリハルコン
古代ギリシア語でオレイカルコス、ラテン語でオリカルクム。
なんだかさっき似たような名前があったような、ですね。
意味は「山の銅」であり、実在の金属として記録されています。
恐らく銅の合金、真鍮か青銅であったのだろうと思われます。
ただ、プラトンがアトランティスの謎の金属として書いており、これが後世に影響を与えました。
具体的に言うと、自称アトランティス人の生まれ変わりであるエドガー・ケイシーという人が現れて、古代アトランティスの謎を大公開、みたいな、変なオカルトブームがありまして。
そこからインスピレーションを受けた、日本のマンガやアニメに取り込まれました。
その所為で、本来「oreichalkon」だったオリハルコンが、日本風の「orihalcon」となって海外で広がったという笑い話。
基本的に黄金色の金属で、本来は武器では無く装飾品などに用いられたものです。
それが日本のせいで最強金属の一角に。
非常に軽い、または半重力性能があるとかいう設定の作品もありました。
これは、アダマントと混同しているのだと思います。
○アダマント
最近は、アダマンティン、アダマンタイトとも呼ばれています。
アダマンティンは「アダマントのような」を意味する言葉。
アダマンタイトは鉱石風にした言葉。
アダマンチウムは金属名風にした言葉。
ぶっちゃけると、鋼の事です。
そういう意味合いで、古代ギリシャの神話などで、武器の材料とされているのは全くおかしくありません。
おかしくなってきたのは中世になってからのようです。
語源はギリシア語のアダマスで「征服されない」を意味していました。
同語源はダイアモンドがあります。
よって、ダイアモンドと混同されてしまいます。
また、アダマントが磁石であると言う説が広がり、中世ではアダマントはダイヤモンドか磁石のどちらかを指す言葉となっています。
ちなみに、『ラピュタ』が空を飛んでいるのは、磁石としてのアダマントの働きです。
飛行石と言うより岩盤。
○ヒヒイロカネ
昭和初期、竹内巨麿という人物が「真の歴史書」として公開した『竹内文書』に登場する謎の金属。
この『竹内文書』は竹内巨麿を教祖とする天津教の聖典です。
内容はかなり電波系で、日本神話をベースにキリストやモーセ、アトランティス大陸なんかを織り交ぜた、かなりアレなものですが、オカルト雑誌『ムー』やオウム真理教の麻原彰晃など、一定数の人間がこれに影響を受けました。
ヒヒイロカネを世に知らしめたのも、『ムー』です。
緋緋色の言葉通り、赤い金属であると言われ、現在は製造法が失われたが、太古日本では日常的に使われていた、とされています。
三種の神器もヒヒイロカネだと……、いや、さすがに勾玉は違うでしょう?
アトランティスのオリハルコンと同じ物質で、生きた金属であり、オーラを発して表面が揺らめいて見え、ダイヤモンドより硬くて、絶対に錆びない。
あと、触ると冷たいとか、磁気を拒絶するとか、驚異的な熱伝導性を持つとか。
オウム真理教ではこのヒヒイロカネを、邪気を吸収するエネルギーを持つ霊石として、イニシエーションに使用していたそうです。
これを現代の作品に取り入れた作家さんは、出所を調べなかったのでしょうか?
金メダルについて。
さらりと流してしまいましたが、オリンピックの金メダルは、基本的に銀メダルと同じスターリングシルバー製で、金メッキが施されます。
ただ、東京五輪の場合はどちらも550gの純銀製で、金メダルにのみ、6gの金でメッキが施されているそうです。
えーっと、純銀52.25立方センチメートル? 500玉の52倍少々か。
本当に純銀だとしたら、……本当なんでしょうけど、柔らかすぎやしないかな。
ちなみに銅メダルは、青銅製ではなく丹銅製だそうです。
名称はブロンズメダルなのに、良いのかな?
銅95%:亜鉛5%で、450g、10円玉から錫を抜いて混ぜ物を全て亜鉛にした感じですね。
計算上、約50.96立方センチメートルで銀メダルよりごく僅かに小さいですね。
誤差の範囲内、なのでしょうか。
あと、余談として、オリンピックには存在しませんが、4位にピューターメダルを授与する例があるそうです。