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8 公爵令嬢としての最後

「あんたさ、いくらモニカが許してくれたからって、公爵令嬢に馴れ馴れし過ぎなんだよ。なんでモニカが丁寧語で話してんのに、あんたの方が偉そうにタメ口なんだ?」

「モ、モニカは優しい人ですもの……。私も甘え過ぎたかもしれませんが、私とモニカの仲だから許してくれたんです」


 あわてふためくドロテアは、私が複数人に音を届けられるよう練習していた集音魔法で、会場に居る全ての人に会話を聞かせている事に気づいていない。


(風で空気を繊細に操るの、大分苦労したなぁ)


 皆の頭は疑問符で一杯だ。「えっ、あんたたち仲良いの?」「虐げられていたんじゃないの?」って顔をしている。


(でも可笑しいわ。ユリアン様に対して、大き過ぎる態度のセオ兄様が言える事ではないのだけれどね)


 私は可笑しくなってきてしまったのだが、兄様の怒りは収まらない。


「それに、何を勘違いして俺がモニカを好きだと思ったのか知らないけれど、モニカは大事な妹分だからな」

「そ、そうですよね。セオドア様がモニカを妹の様に大事に思っていると、ちゃんと分かっています」

「はあ? なら、俺が温厚な妹の代わりに、あんたに復讐しても構わないな?」


 セオ兄様は、公爵令嬢として振る舞っていた私しか見ていない。逆冷水の刑やスライムまみれの刑に、苛めた人をその都度処してきたので少々居たたまれない。

が、このままセオ兄様が受けた被害の鬱憤を、エレナさんの分と合わせて晴らしてもらっても良いかもしれない。


「ここに居る奴等も、騙されていたとはいえしっかり反省しろ! 俺には好いた人がいる。まだ婚約の申し入れは出来ないが、ずっと想い続けてきた人だ。けして、こんな顔も性格も悪い女じゃない!」

「ううっ。セオドア様……」


 泣くのを我慢するドロテアに、「恋人じゃないのか?」「嘘をついていたのね!」と騒めく人々。中には「顔も悪いのに性格も悪いって、どうしようもない奴だな」と吹き出す人もいる。


「自分で可愛いと思っているみたいだけれど、あんた別に可愛くないからな。むしろ醜悪さが顔から滲み出ているぞ?」

「セオドア様、止めてぇ」


「あのご令嬢、図々しい上最低だな」

「頭がお花畑では済まされませんわね」


 状況を察した皆が、サッと手のひらを返しはじめた。コロッとドロテアに騙された人々も、その噂を鵜呑みにしていた人たちも、私からすると大差はないのだが。


(あ~。こんな人たちと、仲良くしたり婚約したりしなくて本当に良かった)


「あんたに名前を呼ばれるのも不愉快だ。あとさ、もう卒業したんだから、これからは俺やモニカは公爵家の人間だからな。二度と軽々しく声を掛けてくるな!」

「うあーん。ひどいよー」


 公衆の面前で嘘がばれた上盛大に振られ、ドロテアは貴族令嬢として再起不能だろう。身から出た錆だから仕様が無い。


(やれやれ、やっと終わったかしら。一応女性だと思って、兄様が物理に出なくて良かったわ)




 しかし、それで事態が集束するには至らなかった。セオ兄様と一緒に留学していた第二皇子のユリアン様も、卒業パーティー会場について来ていたらしい。

 兄様からは、ユリアン様が学園の教師の体たらくや、生徒の質の低下を問題視していると聞いてはいたけれど、ここまでついて来るなんて。


「偽りに踊らされモニカ嬢を貶めるとは……。ドロテア嬢だけでなく、ここにいる皆さんも頭を冷やした方がよろしいですね」


 ユリアン様の周囲を冷気が漂う。本能でこの人は危険だと察知する。同じように感じた人がホールの外に出ようとするが、鍵が開かないようだ。


「閉じ込められている!」

「貸してみろ! なっ、開かない!?」


 混乱する会場内に、第二皇子得意の水魔法が炸裂。私が浴びせられてきた冷水よりも、さらに冷え冷えとした滝のような氷水を浴びる参加者御一同。

 その時、私は見た。魔法を放った時、フワリと鼻先まで上がってしまったユリアン様のマスカレードマスクの下、美しく整った口元が妖しく弧を描いていたのを。


(これで悦に入るなんて、恐ろしい御方だわ)


 私の周りには、モーガンさんが空気の層を張ってくれたので助かった。私が咄嗟に魔法を使えば、いつも皆にお返しして来た感じで、そのままユリアン様に氷水を跳ね返していただろう。


 さすがに、ここまでするという話は聞いていなかったので面食らったが、すぐに気を取り直し、モーガンさんのコートと私のドレスの裾に少しだけかかった氷水を、柔らかな温風でさらりと乾かしておいた。


「おや? ありがとうございます、モニカ嬢」

「こちらこそ、ありがとうございました」




 さて、学園を一歩出れば、私は公爵家の人間だ。しかも皇族と公爵家の次期当主まで怒っている。自分たちがしでかした事の大きさにやっと気がついた人々は、氷水のせいだけではなく、違う意味でもガタガタ震えていた。


「さ、もうここに用はない。行こうか、モニカ」

「はい、兄様」


 私はモーガンさんに再度礼をし、第二皇子のユリアン様には、学園内を騒がせた事とこの場を治めてくれた事への謝意を伝えた。

 留学から戻ったばかりで申し訳ないことをしてしまった。改めて、機会があれば御礼をお伝えしよう。


「お待ちくださいモ、モニカ様! 私たち、何も知らなかったのです。本当に申し訳ございませんでした」

「すみませんでした、モニカ様」


 今さらすり寄ってくる人間なんて信用出来ない。

 ゾロゾロと周囲に集まりかけたので、これ以上面倒になる前に牽制する。


「謝罪だけは受け取りました。ただ今後は、ご自身の目で見て、心で感じて、物事を判断された方がよろしいですね。それでは皆様、ごきげんよう。さようなら」



 こうして、私の学生時代が終わった。今まで公爵令嬢として品良く振る舞って生きてきたけれど、苛められたお陰で性格もたいぶ過激になってしまった。長所と短所は表裏一体。能動的になったと思えばいい。


「モニカ……、本当にこれで良かったのか?」

「良いのです、兄様。あそこにいる男性になんか、ちっとも惹かれませんでしたから」

「そうか……」


 私はセオ兄様に送られて屋敷へと帰った。その日は上手く兄様が取り成してくれて、両親への諸々の説明は翌日以降となった。





「お父様、お母様ごめんなさい。私は婚約者どころか、今後親交を深めるお相手も見つけることが出来ませんでした」


 翌日、まさかの事態に顔面蒼白になる両親に、更なる追い討ちをかけてしまうけれど、今後の生き方を伝える時が来ていた。合格通知が届いたのだ。


「ですから、お二人や弟には迷惑をかけないよう、職業婦人になります。官僚試験の合格通知です。私、官僚となり城勤めします」


「なぜ、モニカが城勤めなど……」

「どんな方を選ぶのか楽しみにしていたのに……」




 オイオイと泣き続ける両親をなだめながらも、何とか荷物をまとめ、私は職員寮に引っ越した。このまま家から通っても、クラウスティン公爵家のお荷物になるだけだ。

 これでいい。公爵令嬢のモニカはさようなら。私は一人の働く女として、華々しく社会人デビューするのだ――

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― 新着の感想 ―
[一言] 「けして、こんな顔も性格も悪い女じゃない!」 あれ? 頭も が足りなくない? ここで思わず声に出してしまった突っ込みです( ・ω・)
[一言] えげつない仕返しは好まないったって、次の日にはケロリとしてそうな連中に対して余りにもヌル過ぎる展開で全くスッキリしなかった。
[良い点] 卒業パーティーでの一幕。 スッキリしましたね。 今後の官僚としての話が楽しみです。
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