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4 伯爵令嬢の謀

 ――ビリビリッ――


「!?」


 次はダルイ乗馬の授業。乗馬服に着替え更衣室を出て少し歩いていると、イヤ~な音がした。恐る恐る開放的になったお尻に手を当てる。


(ヤバイ。キュロットのお尻が裂けている!)


 この一ヶ月ちょいで、私はよりグラマラスでダイナマイトなボディーに成長していた。身体つきが少女から大人の女になってきたのだ。

 しかし、溢れるセクシーさと服が破れているのは別問題。誰かに見つかる前に着替えないと。そう思って焦って更衣室へ戻っていると、モニカが先に更衣室に入って行くのを見かけた。


(これは、またもやチャンス到来じゃない!?)


 私はキュロットが破れなければ、図書室に本を返そうと思っていた。よしよし、モニカを貶めついでに、この本はモニカに返させるとしよう。公爵令嬢をパシリにするなんて最高だ。

 私はお尻を隠しながら、そのままモニカが更衣室から出てくるのを待った。




「ドロテアさん? 何かあったのですか?」


 フフン、着替え終え私に気づいたモニカはやっぱり私に話しかけてきた。


「あのね、月のモノが来たみたい。今からまた着替えないと……。ああ、でもどうしよう。昼休みの内に、図書室に本を返さなきゃいけなかったのに……。間に合わないよー」


 私は腕の中の本をモニカに見せ、「困っていたのよ」アピールをする。


「それなら、私が返しておきますよ」

「ありがとう、モニカ。じゃあ、お願い。その後は先に授業に行ってていいよ」

「分かりました」


 御しやすい奴だ。まんまと引っ掛かったモニカが立ち去るのを見届け、私は急いで別の乗馬服へと着替えた。


(大きめサイズも準備しておいて良かったー。で、こっちの破れた方は――)


 思い切りビリビリに破りまくって、ロッカーに仕舞っておいた。コレには後で活躍してもらう。

 それから私は、急ぎ足で馬屋へと向かった。モニカより早く馬屋に着くために――




「ドロテアさん、どうしたのですか!?」


 泣きながら馬屋に到着した私に、アニーとライザが声を掛けてきた。もちろん嘘泣きだ。


「モニカが読みたいって言ってた本を、私が図書室から借りて来たの。でも、さっぱり返そうとしてくれないから返却期限が来て……。――ウウッ――早く返そうよって言ったら急にヒステリーを起こして、私の乗馬服をビリビリに破いたの……。――ヒグッ――」

「そ、そんな……」


 皆、驚きを隠せないくらい衝撃を受けているが、憔悴しきった感じを醸し出し畳み掛ける。


「替えがあったから、乗馬の授業を休まずに済んだけれど……。――ヒック――私がセオドア様と恋仲になってから、モニカのヒステリーが日増しに激しくなってきてぇ……。――ヒック――」

「ひ、酷いわ……。お願い、泣かないでドロテアさん」

「なんて事……。モニカ様がそんな事になっているなんて知らなかったわ……。今までよく我慢してきましたね」


 アニーやライザなんか完全に騙されて、私を慰めはじめた。


「違うのぉ。――ヒック――モニカからセオドア様を奪った私が悪いのよぉ。――ヒック――」

「だ、だからって、そんな事をして良いわけじゃないのに!」

「本当に、私は大丈夫よ。――グスッ――こうして話を聞いてくれる皆がいるだけで頑張れるわ」


 気丈な感じで涙を拭いて、私はニッコリ微笑んでみせた。


「だからモニカを悪く言わないで。私は本当に平気だから。私とセオドア様の思いが通じたせいで、今のモニカは少しだけ感情のコントロールが出来ないだけだと思うから」

「「ドロテアさん……」」



 これでクラスメイト全員がモニカを悪者にするはずだ。そして、何も知らないモニカがやってきた。


「ドロテアさん、早かったですね。大丈夫でしたか?」

「うん……」


「よくもまあ、いけしゃあしゃあと!」

「ドロテアさんが本当にお可哀想ですわ」


 アニーとライザ、グッジョブだよ。アニーなんか直情型だからすぐに怒り出すと思っていた。傍観するクラスメイトも、言動に出さないだけで心中は私の味方だろう。狼狽するモニカを見られるなんて、最高に気分が良い!



「集合~! それでは授業を始める」


 クソッ。もっとゴタグチャやって欲しかったが、先生が来てしまった。残念。




 授業が終わるとモニカが声を掛けてきた。ったく、皆がいるところで話しかけて来いっての。間の悪い奴。


「本当に大丈夫でしたか?」


 大丈夫? 月一のアレで腹痛どころか、愉快なモノが見られてお腹がよじれそうだったって。


「うん。でも、念のため家の者を迎えに呼んだの。それまで医務室で休んでいくから、今日モニカは先に帰って」

「分かりました。それなら医務室までは一緒に行きましょうか?」


 しつこい。こういう所が嫌いなんだよね。イライラする。


「仰々しいと、男子にばれてしまうから、遠慮する」

「そうですよね……。では、先に帰ります」


 そうそう、とっとと帰ればいいんだ。面倒くさい。で、私はモニカが帰った後に、皆の前で涙を浮かべながらビリビリの乗馬服を鞄に詰めるんだ。あいつら馬鹿だから、それでさらにコロっと騙されるだろう。




 ――その翌日――


 効果覿面。遠くから見ていると、アニーとライザがモニカを無視したようだ。


「おはようございます、ドロテアさん」


 モニカは私を見つけると、懲りずに私にも挨拶してきた。メンタルお化けだ。よく無視されたばかりで声をかけまくれる。恐ッ。取りあえず、しおらしく返しておくか。


「おはよう……」

「ドロテアさん! 早くこちらに来て!」


 アニーたちは本当にいい働きをしてくれる。私は小動物になりきって、プルプル震えながらアニーたちに返事をする。


「うん……」


 そして、三人でモニカから離れるように、早足で教室へと駆け込んだ。


「あいつ、人間じゃないわ!」

「あんな事をしておいて、微笑みながら挨拶してくるなんて、異常ですわね!」


 クラス中に響き渡る声でアニーたちが騒いでくれる。で、御本人登場だ。うっわー、空気が一気に悪くなる。

 これでもう、私の勝ちが確定したようなものだ。




 それから、モニカを避けて無視するクラスメイトがどんどん増えた。もう時間の問題。ネズミ算式にモニカを無視する者は増えるだろう。

 学園内中に悪役令嬢モニカと憐れなヒロインドロテアの構図が広がるのだ。


(あ、でも先生方も抑えておきたいところよね。とどめのもうひと芝居、うっちゃいますか)

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