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23 二人の皇子

(私は何をしているのだ)


 兄である第一皇子の側近モーガンがモニカに近づいているとマサから報告が入り、急いで駆けつけると、モーガンが泣きそうなモニカの頬に手を伸ばしているところだった。


(嫉妬心を抑えきれず、兄上の側近に魔法を放つなんて……)


 その後、すぐ冷静になり、モーガンに詫びて兄上の元へ帰したが、罪悪感に押し潰されそうだ。


 モニカの様子が明らかに変わったのには、思い当たる節が充分ある。


(想い合って側にいる事だけ望むのは、私の勝手な都合だったのに……)


 コテージでモニカに好意を伝えた事を悔やんだ。結果、自分だけでなく、モニカを苦しめることになってしまった。





「ユリアン様ぁー。失礼しますよー」

「今はそっとしておいて欲しいのに、本当にデリカシーのない奴らだな」

「「「ハッハッハッ」」」


 だが、本当に一人にして欲しい時に、私の係の者たちはそっとしておいてくれる。私はよく出来た部下を持てたと思う。


「ユリアン様ったら、モニカ様と少し会えないだけで最近ウジウジし過ぎですよ」

「俺なら会いに行って、直接理由を尋ねますけどねー」

「おいおい、それがユリアン様に出来るのなら、モニカ様は官僚になって私たちと一緒に過ごしていなかったぞ? 上司に感謝だなぁッハッハッハッ」


(えぐってくるな……全然出来てない部下だった……)



 森のコテージから城に戻って、モニカが課内で仕事をしたいと言っているとレンから報告された日、私は打ちのめされた。

 モニカは自分の立場の中で私を支えてくれると言ってくれたのだから、どんなにモニカに会いたくても、私からは会いに行ってはならない。


 モニカは懸命に、係の仕事に打ち込もうとしているのだ。


(何一つ、女としての幸せを叶えてあげられない私が、それ以上望むのはお門違い)


「レン、マサ、ノーラ。用件があれば呼ぶから、こちらには来なくていい。今はモニカを頼む……」


 このセリフを何度言っただろう。それなのに、こいつらは逐一、今日のモニカはああだったこうだったと報告してくる。


(本当にお節介が過ぎる)


「酷いわ。身分は違っても、ユリアン様は私の弟のようなものです。傷心の弟を思って何が悪いのですか」

「そぉーゆぅー人に限って、何でそんな重要な案件をすぐ報告しないんだとかって大騒ぎするんですよね。さっきだって、俺が報告したら真っ青な顔して飛び出して行ったじゃないですか」

「若いって羨ましいですなぁッハッハッハッ」


 騒がしくて仕方ない。



 ――でも、ありがたい――こいつらが居てくれてよかった――



「第一皇子係のモーガンが、またモニカに近づいた。兄上は私に対して過保護で心配性だからと我慢もしてきたが、今日のモーガンの件は腹に据えかねる。夜二人きりは許せん。第一の動きを注視してくれ」


「「「はっ」」」


(返事は立派だが、どうせ私を狭量だと思っているという顔つきだな)


「あ、ところでユリアン様。トムとサラの合流はいかがいたしますか?」

「トムはボルダン家と最終的にケリをつける時まで休ませてやれ。サラに関しては……モニカがどう思うか気がかりだ。まだ、今のまま頼む」


「私なら、友人と思っていた人が同じ係と知らずにいたら、激怒するわね」

「ユリアン様にもサラにも不信感抱くよなー」

「モニカとサラが友情を築いたのが先に違いはない。その辺りの経緯は、来るべき時が来たら、誠心誠意私がモニカに説明する」


「ま、俺らもフォローしますよ。現に、俺たちがモニカ様をずっとコソコソ見ていた事も、優しく受け入れてくれた懐深い方だもんなぁー」

「そうだな。モニカ様は素晴らしいお人柄だし、外見も最高に可愛らしいし、この世で最強の生命体なのだぁッハッハッハッ」

「早く母さんにも紹介したいわ~」


 こいつらは、モニカの話題になるとこうして途端に任務を忘れ、モニカ談義を始める。


(とにかく、こいつらがいればモニカは大丈夫だし、仕事を覚えようとしているところを邪魔しないようにしないとならないな)


 そう思えたのは一瞬。私が今日、自分がしでかした事を思い出し頭を抱える。


(悋気を起こすなんて最低だ。ココも私を呼んでくれていたのに……。私はなんて大馬鹿野郎なんだ……)


 私の執務室で三人がごちゃごちゃ話していたが、私は余計な事を考えないよう、書類の山に手を伸ばした――






「モーガンか」

「遅くなりました」

「腕はどうした?」

「ユリアン様を怒らせてしまいました。申し訳ございません」


 頭を下げるモーガンに、第一皇子ジェラルドは申し訳なさそうに、だが、いぶかしげにする。


「無理をさせたね。けれど、ユリアンがそこまで怒りを露にするのも珍しい」

「私がモニカ様に触れようとしたところを、ユリアン様に見られました……」


 楽しむようなジェラルドの視線から、モーガンはバツが悪そうに目線を反らした。


「ふうん。それで、モニカ・クラウスティンとはどんな話をしたの?」

「重ねて申し訳ございません。他言しないと約束したので、内容まではお伝えすることはできません。ただ、モニカ様はユリアン様に相応しい御方であることは間違いありません。断言いたします。それで御容赦ください」


「モーガンは誰の部下なんだろうね」

「何卒、平に御容赦願います……」


 少しイラついたように、ジェラルドの指がトントンと机を叩く。


「モーガン……。お前らしくもない。標的に入れ込むのは良くないよ」

「承知しておりますし、入れ込んでいるわけでもありません。しかし……」

「――不愉快だ、控えろ」

「はっ……」


(私の大切な弟ユリアンだけでなく、信頼する部下までモニカ・クラウスティンの手玉にとられてしまったのか)


 第一皇子ジェラルドの事情を知るものは少ない。このモーガンにジェラルドは全幅の信頼を寄せていた。

 そして、モーガンもその期待に応えるよう、いつも完璧かつ淡々と任務をこなしていた。

 ここまで、モニカに肩入れするとは、ジェラルドにとっては想定外の事態だ。



 始まりは、ユリアンが突如留学先から戻ることになった時だった。


(イレギュラーを好まないユリアンにしてはおかしな動きだな)


「モーガン、ユリアンが留学先から予定を変更してまで戻る理由を調べておくれ」

「かしこまりました」


 モーガンにさぐらせると、どうもユリアンはモニカ・クラウスティン公爵令嬢の卒業パーティーに間に合わせるため、急遽帰国を決めたらしい。


(私があまり表に出ないのをいいことに、いつの間にかユリアンをたらし込むなんて、どんな女だ)


 女になど現を抜かさない賢明な弟が、初めて女に入れ込んだ。しかも、学園でのその女の評判はすこぶる悪い。ずっと弟と二人、二人三脚で皇子の勤めを果たしてきたジェラルドから見ると、モニカは悪役以外の何者でもなかった。


「モーガン。可愛いユリアンが女にたぶらかされてしまったようだ。その女がどんな悪女か確かめてきておくれ」

「ユリアン様が女性に? それは気がかりでしょう。私がしかと見て参ります」


 ジェラルドは、モーガンに学園の卒業パーティーに潜入し、モニカ・クラウスティンを見定めるよう命じた。

 しかし、戻ったモーガンの報告はすぐには納得出来ないものだった。


「モニカ嬢は、噂とは全く異なる女性でした。そして、ユリアン様とご学友のセオドア様が、モニカ嬢にかけられていた嫌疑を卒業パーティーで晴らしました」

「お前の目ではモニカ・クラウスティンをどう感じたの?」


 モーガンはジェラルドの目をしっかり見ながらこう言った。


「全美な容姿もさることながら、勤勉で思慮分別を持ち慎み深いかと思えば豪胆。聡明さゆえに計算高いかと思えばあわれみ深く、瑕疵がない御方です」

「ふうん」


 ほんの数週調べに出したモーガンまで、こうしてほだされる始末。とんでもない性悪女だとジェラルドは思った。



 そして、(くだん)の令嬢はまんまと城に官僚として入り込み、第二皇子係の一員になった。ユリアンを守るべき第二皇子係の者まで、すっかりモニカシンパだという。


(私は常にこの身が病弱で他者の顔色ばかりを伺ってきたからこそ、その者の真実を見極められるのだ。

私自身でモニカ・クラウスティンを見定めるしかないな)


 ジェラルドは、モニカに接触する頃合いを探っていくことにした――

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 《第二皇子係の者まで、すっかりモニカ新派だという。》 の「新派」は、話の流れから「シンパサイザー」の略の「シンパ」で当て字するなら「親派」かと思い、誤字報告してしまいましたが、作者様の…
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