9. 昔調べが役に立ちました
――ここでの生活も少しずつ慣れてきて、家事は一通りジャンに教えてもらってできるようになった。
電気があって、便利な家電が当たり前のようにあった日本での生活とは程遠い生活だけど、電気や家電に頼らない生活にも馴染んできたことで、自分の順応性に割と驚いた。
それでも、家電まではいかなくとも生活のちょっとした便利な道具はアレクやジャンと一緒に作ってみたりして、なかなか充実した異世界ライフを送っている。
「ユリナ!この前ユリナと作った『洗濯機』がすごく話題で、作る職人の方が追いついていないらしいよ!それに、雑貨屋に試作品を置いてもらった『洗濯板』も庶民でも気軽に買えると市井で人気なんだって!」
突然扉を開けて入ってくるなり、ジャンが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「本当に?やっぱりみんな困ってたんだね。」
家事に慣れてくると、段々と簡単にできる方法を考えてしまうもので……。
日本で使っていた家電は電気のないこの世界では使えないけれど、もしかして電気のない時代の便利道具なら役立つかも知れないと思って。
学校で習ったこと、ネットやテレビで見たことなどを思い出したらメモを取るようにしている。
こちらの洗濯はタライに水を溜めて叩き洗いをするだけだったから、まずは手軽に作れそうな洗濯板を作ってみた。
板に溝を付けてそこに洗濯物をこすりつける作業は、叩き洗いよりは簡単だけどそれでも洗濯物がたくさんになると大変だし、現代日本の洗濯機を知っている私は生地が傷む気がして……。
そこで考えたのが、手回し式の洗濯機。
小学校の頃に昔の生活を調べた時に本で見かけて、その時の記憶を辿りながらアレクとジャンと試作品を作ってみた。
回すことで水流ができ簡単に洗えるし生地も傷みにくく、しかも冷たい水に長い時間触らなくて良いのは本当に便利だった。
そのうち、脱水も簡単にできないかと日本の洗車場で見かけたローラー式脱水機と生野菜の水切り器から手回し式の脱水機もまだ市場には出していないけど、試作品で作ってみた。
「洗濯機は価格が高いのでなかなか市井の民は買うことができませんが、洗濯板なら気軽に買えるので飛ぶように売れているそうですよ。」
ジャンがアレクに報告すると、お茶を飲みながらアレクは私の方へと控えめながらも笑顔を向けた。
「アレク、良かったね。私たちのしたことが形になるって嬉しいね。」
「そうだな。ユリナが考えたことだ。」
「それでも、私一人なら形にならなかったから。アレクとジャンのおかげだよ。」
アレクの魔法だけには頼らない生活、それでも便利で豊かな生活ができたらこの世界の人たちも、『この世界唯一の偉大なる魔法使い』アレクに何でも頼ろうとすることはなくなるかも知れない。
しばらくここで生活していて感じたのは、魔法使いのアレクに何でもかんでも問題ごとを持ち込んで、魔法で解決しようとする人が多いということだ。
アレクの魔法も限度があるし、何より魔素のないこの世界では回復に時間がかかる。
ということは少なくともアレクの身体にも負担なのではないかということが心配になった。
アレクの魔法は、使うとしても本当に自分の使いたいことの為に使って欲しい。
便利な物ができることで人々が何でもかんでもアレクに頼ることがなくなれば、アレクは殺人的な仕事量からも解放されて、自分のしたい研究に集中できるのではないかと思う。




