とにあれ!
街のブティック。女性用の服を扱う店舗で、トニとアレスロが小さな争いを行っていた。
「ほら、往生際が悪いですわよ」
「しかしだな……」
試着室のカーテンを開けようとするトニに、ささやかな抵抗を見せるアレスロ。
「罰ゲームなのですから覚悟を決めてくださいまし」
「うぅ……でもこれ、ボクには似合わないって」
「問答無用、ですわっ!」
勢い良く開かれたカーテン。
その先にはフェミニンな服を着たアレスロの姿があった。
上は白を基調に金の刺繍が施されたフリルブラウス。
細やかなウエストラインを際立たせるシルエットをしており、逆に袖口はゆったりと余裕があるタイプだ。
スカートは青。裾がふわりと広がっており、まるでドレスのようなデザインになっている。
上下共に彼女の髪色と合わせてあり、耳にはシルバーのイヤリング。
その普段の装いからかけ離れた服装に、アレスロは両手を腰の前でモジモジと組み合わせていた。
「ほらやっぱり。似合ってますわよ」
その服をコーディネートしたトニがドヤ顔で言う。
元より顔は整っているのだ。
こうやって服を選んでやれば美少女になることは分かりきっていた。
本当はメイクまでさせたい所だが、そこは罰ゲームの範囲から外れてしまっている。
今回はこれで良しとしよう、と思いながら、トニはスマホを取り出した。
パシャリ。
「ちょっ!? 今写真撮らなかったか!?」
「撮りましたわよ。はいチーズですわ」
パシャリ。パシャリ。パシャシャシャシャ!
「いくら何でも撮りすぎだろ!?」
慌てて伸ばされた手をひょいと掻い潜って試着室の中に入ると、トニはアレスロの左頬に手を当てる。
「あまり聞き分けが無いと……こうですわ」
逆の手でカーテンを締めながら、軽く背伸び。
アレスロの口元に、柔らかな物が触れる。
離れ際、イタズラな笑みを浮かべているのが見えた。
「トニ!?」
「あら、他の方には見えてませんからセーフですわ。それより大声を出したら人が来ますわよ?」
「――――ッ!!」
アレスロは完全に言い負かされ、何も言えなくなってしまう。
そんな彼女に追い打ちをかけるように、その体をトニがふわりと抱きしめ、上目遣いでニマリと笑う。
「……続き、したくなっちゃいました?」
「ばっ……何を言ってるんだ!?」
からかわれていると分かっているが、それでも顔が真っ赤になってしまう。
彼女のこういうイジワルな所も嫌いではないが、外でそれを見せるのはやめて欲しい。
「うふふ、続きはまた後で。今は着せ替えを楽しみましょう?」
踊るような足取りで試着室から出ていったトニの後ろ姿に軽い頭痛を覚える。
やはり彼女には勝てない。
せめてこの時間が早く終わってくれ、と願うアレスロだった。
その想いが「この後の事」が気になってなのかは、彼女にしか分からない。