7.農夫
農夫視点です。短い話ですので、後ほど次話投稿いたします。
※2020/05/13加筆修正いたしました。
農夫は立ち尽くしていた。本来なら作付け作業を始めていなければならない時期だ。しかし、どこの耕作地でも誰も作業していない。
空っ風が吹き砂を巻き上げる。農夫はどこを見るわけでもなく視線を動かさず立ち尽くしたままだった。
(なんにもなくなっちまった。誰もいなくなっちまった…)
家は壊れ廃墟が多く、田畑は荒れ果てていた。
食物は税でほとんど持って行かれるので食べられる物は何でも食べた。飼っていた犬や猫も食べた。川で魚を捕り、道の草木になる実を食べたが、取り尽くしたらしく川から魚が消え、草木は枯れた。その後はわずかな食物を荒らす鼠や虫、蛇等をとって食べた。
馬や牛は随分前に税の不足があった時に持っていかれた。
森の恵みを採りに行った者は獣に食われた。森に行った人で運良く獣に襲われなかった人の中には毒茸に当たって死んでしまった人々もいた。
人の味を覚えた獣は危険だからと退治に行った農民もいたが、帰ってきていない。やがて野生の獣達は集落まで来て人を襲うようになった。
(俺ももう駄目だ。なんにもないところで生きていける訳がねぇ)
農夫の妻は息子の出産時に死んだ。妻が残してくれた息子も一歳になる前に病気にかかって死んでしまった。
(もうすぐ会えるから、待っていてくれよ)
「おぉーい!おぉーい!」
遠くから別の農夫の声が聞こえた。あんな大声を出す力が残っているのかと羨ましく思う。そう思いながらも相手をする。
「なんだぁ?どぉしたぁ?」
「見てみろ!これ!食いもんだ!あっちで配ってたんだ!」
「そんな馬鹿な…」
「嘘じゃねぇ!ほれ見てみろ!」
彼が持ってきた小袋の中を見てみると確かに食糧らしき物が入っていた。
「本当だ。どうしたんだこれ」
「だから!あっちで配ってたんだよ!」
「一体誰が……」
「よく分かんねぇけど、着てるもんからしてこの国の奴らじゃなかったなぁ。早くしないとなくなっちまうぞ。お前も早く貰ってこい!」
「あ、ああ…」
そう言うと彼は他の人にも教えるためにどこかに行った。
半信半疑だったが彼が教えてくれた方向に行ってみると人だかりが出来ていた。覗き込むとさっき彼が持っていた小袋と同様の物が無数あった。
(あいつが言っていたことは本当だったのか…)
「ちゃんと並んでください!充分な量はありますから!」
「俺と母ちゃんの分もくれ!」
「私にも!」
「俺にもくれ!」
食糧を求めて怒鳴り声に似たような声が飛び交う。それと同時にまだこんなに人がいたのかと驚いた。近隣の集落からも来ているのかもしれない。
農夫は他の人らのように手を伸ばして食糧入りの小袋を受け取った。
帰りの道中、貰えた小袋から中身を取り出して食べてみた。久しぶりにまともな食物を口にした。嬉しさもつかぬ間、じわりじわりと悲しみが沸いてきた。
(どうして…。どうしてもっと早く来てくれなかった。どうして…!!)
農夫はむせび泣きながら道路にうずくまった。
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