表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/85

50.言わぬ事は聞こえぬ

 王の視点です。

 ついに50話まで来ました。…記念すべき回ですが短いです。


 アレクセイと部下達が執務室を去ってから暫くしたら、ミハイルが一人でやって来た。馬の尻尾の毛を届けに来てくれたのだ。色んな色の毛混ざっているので、かなりの頭数から少しずつ集めてくれたようだ。


「ミハイル殿ありがとうございます」


 自分の代わりにリンダがミハイルから受け取った。馬の尻尾の毛は一頭分の量はありそうだ。軽く紐でまとめた後、布でくるんで持って来てくれた。


「こちらこそ、遅くなりまして申し訳ございません」


 ミハイルは頭を下げた。動きに無駄がない。


「そんな…、こんなに沢山集めてくださっただけで有り難いです」

「…隊の中にいた弦楽器経験者から聞いたのですが、弓の毛替えは半年から一年だそうです」

「消耗品なのですね」


 そうするとまた半年後ぐらいに馬の尻尾の毛を集めてもらわないといけない。きっと弦も長期間は使えず、新しい物に張り替えるのだろう。楽器はお金がかかるので、外務大臣が渋るのも分かる。今回は財務大臣が即座に対応してくれたが、これから先同じようにしてくれるとは限らない。楽団員のために予算を組んでおかなければと思う。

 他の元楽団員も金を工面できなくて楽器演奏を諦めてしまったかもしれないのかと頭を過ぎった。


「はい、それと先ほど投獄した親子についてです。アルトゥールが聞き出した話によると、母親は当初故郷で決まっていた婚約を破棄して駆け落ち同然で王都にやって来たそうです。そして結婚した男が今回捕まり、家族や親戚から非難囂々(ひなんごうごう)だったそうです」


 ミハイルは淡々と話した。

 アルトゥールは細かく聞き出したようだ。


「それで王城の敷地から出たくなかったというのね…」


 自分は自然と眉間に力が入った。


「はい、母と子は分けて投獄いたしました。子どもの方には見張りもつけております。というのも少々気がかりな事がございまして…」


 ミハイルがいうには、子どもを医者に診せたところ体中が痣だらけだったそうだ。その痣の多くがつい最近出来た物ではなく、治り具合から判断して痣になってから数日以上経過していたそうだ。試しに医者が手を上げたら子どもはビクリと体を震わせ怖がったそうだ。


「虐待されていたのね…」


 自分はため息を吐いた。

 憶測でしかないが、もしかしたら母親にもう殴らないからと言われて子どもは指示に従ったのかもしれない。あるいはもっと酷い事をすると言われたのかもしれない。


「ええ、そのようです。後は言葉を話さないようです。これは見知らぬ人間相手だからか、何か障害があるからなのかは分かっておりませんが、おそらく後者の可能性が高いそうです」

「夫に加え、子どもの事もあって官舎から出たくなかったと…」


 自分は母親の話をもっと聞いてやればよかったと思った。聞いていたら子どもに刃物を持たせて自分を攻撃させたりしなかったかもしれない。


「ならばそう言えばいいのです。重要な事を言わずに全て分かって貰えるはずありません。それは家族であっても不可能です。大体子どもにやらせたうえ、自身は逃げようとするなど愚の骨頂です」


 ミハイルはきっぱりと言った。確かに親しい間柄でもきちんと言葉にしなければ正確に相手に伝わらない。もちろん言っても上手く伝わらなかったりするし、相手が最初から他の意見を聞く気がない場合もあるが、言葉にするのは大事だと思う。

 母親はもし逃げきれていたらどうするつもりだったのだろうか。子を捨てるつもりだったのだろうか。


「報告ありがとうございました」

「すみません。私情が入ってしまいました。…殿下の叔父君ですが、早ければ今日か明日到着するそうです」


 ミハイルは頭を下げた。

 アレクセイの叔父はどんな人なのだろう。親戚なので大公代理のようにどこか少し似ているのだろうか。叔父なのではとこである大公代理よりは血が近いのでより似ているかもしれない。


「ええ、わかりました」


 自分は笑顔で言った。似ていても似ていなくても、どちらにしろ悪い人ではないだろう。


「あ、あの…最後にもう一つだけよろしいでしょうか。これこそ完全に私情なのですが、このケレース王国ではどのように塩を調達しておられるのでしょうか。岩塩の鉱山も閉鎖されているそうですし、十年間輸入していなかったですよね」


 ミハイルは眉間に皺を寄せながら言った。

 今まで気にして来なかった。塔にいた時の食事にもちゃんと味がついていたと思う。


「ああ、それは山塩ですよ。井塩(せいえん)とも言われます。塩分を含んだ温泉や地下水から作るのだったと思います」


 クラリッサが言った。クラリッサの故郷の近くで山塩を製造している場所があったらしい。

 ミハイルが興味深げに話を聞いていた。


「そうでしたか。セマルグル王国では行っていない塩の製法ですね。勉強になりました。教えていただき、ありがとうございました」


 ミハイルは疑問が解決して満足そうな顔で、いつもより背筋を伸ばして礼をした。そして執務室から出て行った。

 リンダはミハイルが出て行った後にニコロに馬の尻尾の毛を届けに行った。


「塩の作り方にも色々あるのね」

 

 自分が言うと侍女達が頷いた。

 岩塩の鉱山を再開出来ればと思うが、危険を伴う工事をしなければならないので当分先になるだろう。




 午後の執務を終え、侍女達と寝室に戻る。廊下の壁紙の張り替えは大体終わってきたようだ。あくまでも自分の行動範囲ではなのだが。

 皆には自分に会っても立礼だけでよいとした。というか元々はそうだったので元に戻しただけである。

 見張りの兵士以外は夜間は作業せずに休むように伝えた。復興は時間がかかるだろうから、体力を消耗させないためだ。疲労から起こる人為的過誤や失敗をなくすためでもある。もちろん各領にも伝達してある。寝室に行く間に作業を終えた人々に会った。皆言いつけを守ってきちんと休んでくれているようだ。

 自分が寝室に到着してすぐに、食事が運ばれてきた。相変わらず侍従達は言葉数が少ない。夕食の献立を言った後は黙ってしまうのだ。視線もこちらを向けず、床をじっと見ている。床に何かあるのかと思い、自分も見てみたが特に変わった箇所はなく、絨毯が敷かれているだけだ。彼らは絨毯の柄を見ているのだろうか。


(嫌われているのかしら…?侍従長にそれとなく聞いてみようかしら?)


 前菜、主菜、副菜と食べ、最後にドルチェを食べる。正直お腹いっぱいなのに、いざ食べると全て食べられてしまうから不思議である。

 食べ終わったので、侍従達に視線を向けると一瞬だけ目が合ったがすぐに視線を外されてしまった。やはり嫌われているのだろう。そういえば、毎回違う侍従達が給仕をしに来る。給仕担当の侍従がいるのではないようだ。交代制なのだろうか。


「今日も美味しかったわ。ありがとう」


 彼らは頷き食器を片付けて退室した。明日の朝も別の侍従達が来るのだろうか。誰が来たか書き付けておこうかとも思ったが止めておく。

 クラリッサがハーブティーを入れてくれたのでそれを飲んだ。とても良い香りがする。本来なら食後にエスプレッソや酒を飲むらしいが、自分はどちらも苦手なので飲まない。そもそも酒は口にする機会がなかったので、好き嫌いや得意不得意かは分からないのだが。

 食事の休憩に出ていたダニエラとリンダが湯浴みの道具を持ち運んで寝室に来た。食堂に加え浴場も改装中なので寝室の絨毯を敷いてない場所に桶を置いて、その周りに衝立を立てて湯浴みをする。前にいた部屋と同じだ。




 湯浴みが終わり髪や体を拭いて乾かし終わったら侍女達が寝室を出ていった。自分は侍女達を見送り寝台に登る。布団が分厚いので登る形になる。そのうち慣れると思ったが今のところ慣れていない。自分は枕に寄りかかった。そして自分は寝台脇に飾ってあるくまさんに手を伸ばし、自分の腿の上に乗せた。当然ながらくまさんはいつも同じ表情をしている。


(今日も可愛いわね)


 自分は自然に笑顔になった。くまさんの手足を動かしてみる。本当によく出来ている。

 ふと捕らえられた子どもが浮かんだ。捕らえられた子どももぬいぐるみは欲しいだろうか。その子に限らず子どもは好き嫌いが激しいらしいから、与えて刺激してない方がいいだろうか。少し見せてみて様子を見れば大丈夫だろうか。何かおもちゃがあった方がいいのは確かだろう。

 色々考えながらくまさんを眺め、その後眠りについた。




 アルトゥールではなくミハイルが来たのは、アルトゥールの機嫌が悪くなっていたからです。

 少しでも続きが気になる方は評価&ブクマをお願い致します。

 ※予告なく加筆修正を行う場合がございますので、予めご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ