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49.埋葬場所

 王子の視点です。

 いつも読んでくださりありがとうございます!


 昼過ぎ、エレオノーラの両親が埋葬されている場所に向かう。リーザと最近入った侍女の二人が執務室に残った。恐らく交代で休憩を取るのだろう。

 先頭はルカが歩いている。彼が埋葬場所まで案内してくれるようだ。


「埋葬場所は官舎の脇でございますので少々歩きます」


 ルカが言った。昇進したらしく少し立派な格好になっている。先ほど執務室前にいたマッテオとパスカーレも同じ格好をしていたので彼らも昇進したようだ。


「陛下、どうぞおつかまりください」


 自分は腕を曲げて、エレオノーラに腕を掴むように促した。


「えっと、これでいいのでしょうか…?」


 エレオノーラが自分の腕を掴んだが、身長差があるのでぶら下がっているようにも見えるかもしれない。自分は腕を九十度に曲げていたのでエレオノーラがつかまり易いように前腕部を下げ、腕の曲げている角度を鈍角にした。


「これならどうでしょう」

「ええ、ありがとうございます」


 エレオノーラと自分は腕を組んだまま歩いた。彼女の歩幅に合わせているのでかなりゆっくりである。先頭を歩くルカはそれを把握しているので一人で先に行かずゆっくり歩いている。

 王が城の外を歩いているので官や兵達が驚いているようだ。皆道を空けている。

 十五分ほど歩いたら官舎が見えてきた。誅伐の際に宰相や将軍に大まかな見取り図を見せて貰っていたので、大体は把握している。建物は綺麗ではないが所々修繕した跡があるので、自分達で直したのだろう。

 官舎の中には入らず官舎に沿って歩く。王城の敷地内に入るまでは多くの木が枯れているのを見たが、ここには木々が生い茂っている。一部の地域では食べ物がなくて木の葉を取ったりや樹皮を剥いだりしたため木が枯れてしまったそうだ。何とか食べられないかと苦心したのだろう。

 少し離れた木の陰に男性が立っていた。一瞬身構えようかと思ったが敵意を感じないのでそのままにした。


「あちらの方が十年前に陛下のご両親をこの場所に埋葬したうちの一人だそうです」


 先頭を歩くルカがこちらを振り返って言った。


「こんにちは」


 木の陰に立っていた男性が挨拶をした。年齢は三十代前半ぐらいだろうか。


「こんにちは。今日は司令官殿と将軍も一緒よ」


 エレオノーラが言った。男性は十年前に行われた埋葬の様子を説明してくれた。あの男は鳥や獣に食わせろと言ったそうだが、この男性と共に十人ほどが賛同しエレオノーラの両親を埋葬したのだそうだ。当然あの男は遺体がなくなったのに気付いて埋葬した人々を探したらしい。


「発起人は全てをご自分一人でやったとおっしゃったのです…」

「そうか…」


 発起人は処刑され、その後埋葬に関わった人々は散り散りになった。男性はエレオノーラが即位するまで埋葬に関わったと誰にも言わずに過ごしていたらしい。家族にも黙っていたそうだ。

 男性が立っている後ろは他の場所より心なしか雑草が少なかった。手入れをしていたのだろうか。そしてその場所には小さな石が三つ置いてあった。


「石が三つあるのは何故だ?」


 エレオノーラの死を偽装したのかと思ったが、もうその必要はないので石を退けてもいいだろう。


「…はい。王妃様は妊娠されていたそうなのです。当時いた医師が教えてくださいました」


 男性は悲しみを堪えながら言った。

 将軍と自分は息を飲んだ。


「私には弟か妹がいたそうです。母は妊娠初期だったので、妊娠の発表は体調が落ち着くのを待っていたのだとか…」

「っそうでしたか…」


 将軍は言葉に詰まりながら言った。つい昨日将軍は妻子と再会出来た。エレオノーラの境遇と照らし合わせてしまったのだろうか。彼女は将軍の報告にとても嬉しそうにしていた。無理に笑っていたのではなく心の底から喜んでいた。

 エレオノーラ、自分、将軍の順で手を合わせた。花があればよかったが、それは今はない。帰国したらエレオノーラの家族や、犠牲になったこの国の国民ために花を贈ろうと思う。

 男性に礼を言い、王城に戻るために皆で歩き出した。少し歩いたところで異変が起きた。


「陛下の御前だぞ。無礼である!すぐに立ち去れ!」


 突然女と子どもが飛び出してきたので、先頭を歩くルカが大声を出した。将軍はエレオノーラ前に出た。


「陛下!お願いでございます。私達を官舎から追い出さないでください!私達には頼る家族や親戚がおりません。ここから出されたら路頭に迷ってしまいます。何卒ご慈悲を!」


 女は頭と手と膝を付いて言った。子どもは事の重大さを分からないのか、ぼんやりと立っているだけである。あの男が平伏させるのを好んだから、この女もしているのだろうか。

 追い出されるのは、あの男の悪事に加担した者の家族だけだ。この女と子どももそれに該当するのだろう。


「また貴女なの?昨日も言ったのだけれど、働くのならばこのまま官舎においてあげると言ったはずよ。それを貴女は拒んだ。働きたくないけど、ここに置いてくれって随分と虫がよすぎるんじゃないかしら?」


 エレオノーラは呆れながら言った。侍女達は女を嫌悪しているようだ。この国だと女性がする城内の仕事と言えば侍女しかないので、それを拒んだのだから侍女達が嫌悪するのも無理はない。


「恥ずかしながら私は今まで何もしたことがありません。おそらくどの仕事も出来ないと思います」


 女と子どもはそれなりに綺麗な格好をしているし、痩せてもいない。


「やる前から出来ないと決めつけてはいけないわ。…貴女は今まで何もしないで贅沢な暮らしが出来ていたから、それを続けたいだけでしょう?」

「……」


 エレオノーラに指摘され女は黙り込んだ。女の顔はずっと伏せられたままなので表情は窺えない。


「なんなら牢に入れば仕事をせずにすむぞ」


 自分は吐き捨てるように言った。


「仕事ではなく労役をしますけどね」


 アルトゥールが言った。

 周囲に野次馬が集まってきた。女を見てヒソヒソを何か話しているようだ。


「そう。貴女、他に家族がいない訳ではないようね。官舎から出て家族からの仕打ちが怖いからここにいたいのね」


 エレオノーラは野次馬の会話が聞こえたようだ。

 女は震えだした。そんなにも恐ろしい家族なのか。一体何をしたのだろうか。


「……」

「もういいかしら?働きたいのなら働かせてあげるわ。嫌なら立ち去ってちょうだい。官舎は国のために働いてくれている人達のための建物なのよ」

「……」


 女は黙り込んだままだった。もう用は済んだと思い、自分達は女を避けて歩きだした。

 女から何歩か離れたその時、エレオノーラがピクリと反応し振り返った。子どもがこちら向かって走って来ていた。よく見ると子どもは手に刃物を持っていた。あろう事か女は子どもに刃物を持たせてエレオノーラを襲わせようとしたようだ。

 将軍が即座に反応しエレオノーラの後ろを歩いていた侍女達をかき分けて、子ども押さえ込んだ。辺りには子どもの泣き声が鳴り響いた。女は子を見捨てて逃げようとしたが、すぐにドナートが取り押さえた。

 もしかしたら野次馬に紛れて襲撃があるかもしれないので、自分とミハイル、アルトゥール、ルカは抜剣して辺りを警戒する。そうしているうちに他の兵士が集まってきたので、女と子どもの身柄を彼らに引き渡した。


「アルトゥール、事情聴取を頼む」

「はい」


 アルトゥールはああいう女は嫌いだろうからちょうどいいだろう。アルトゥールの柔和な顔は女も油断するかもしれないので、尚のこと適任だろう。若干私情が入っている気がするが気にしない。

 ルカが野次馬に立ち去るように指示を出している。


「皆さん怪我は?」


 自分はまわりに尋ねた。皆互いに視線を送り合った。


「私は大丈夫です。皆さん助けてくださり、感謝いたします」


 エレオノーラが笑顔で言うと侍女達も頷いた。


「さっきの女が現れた時に昨日もと言っていたが、昨日もあんな感じだったのか?」

「そうね…執務室で話すわね」


 エレオノーラは困った顔をして言った。




 執務室までは何も起きず無事にたどり着けた。エレオノーラと自分は応接用の椅子に向き合って座った。将軍も座るかと思い場所を空けたが将軍は立ったままでいいと言ったので自分は中央に座り直した。


「昨日の話ですが、大体先ほど同じ内容です。追い出されたくないが、侍女の仕事はしたくないと言ったのです。この時点で相手は話を聞く気がないと思ったので会話をやめたのです」

「それであの蛮行を?まさに話にならないですね」

「他にも同様の事件を起こしそうな輩はいそうですね。警戒を強めさせます」


 将軍が言った。その警戒は城内だけでなく全土で行わなければならない。今はまだ反乱を起こす余力

はないだろうが、食糧事情がよくなり体力がついてきたら起こらないとも言い切れない。


「…どうしたらよかったのでしょう」

「どうするも何も、他国なら斬り殺されても文句は言えないでしょう。そんなに気にしてはいけません」


 自分が言うとエレオノーラは小さく頷いた。彼女の性格を考えると自身を責めそうだ。


「陛下、他にも沢山の民がいます。どうかその者達のために時間を使ってください」

「ええ…」


 多分エレオノーラは納得していない。彼女は優しすぎるのだ。


「あ…」

「?どうされましたか…?」

「馬の尻尾の毛を忘れた…」


 自分が言うと後ろからああ、と声が聞こえた。ドナートとミハイルも忘れていたらしい。


「明日で構いませんよ」


 彼女は笑った。


「いえ、後で届けさせます」




 ドナートは静かに怒っていると思われます。

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