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40.贈り物

 王子視点です。短めです。

 ※2020/08/31加筆修正いたしました。


 自分はエレオノーラの執務室からご機嫌で出た後、宝石の鑑定人達の所へ向かった。昨日北領の従者から渡された宝石類の請求書と領収書の控えを元に、あの男達の購入分と王家に代々伝わる物と分けているそうだ。

 作り替えてしまった宝石もあるそうなので、元に戻すのは大変だろう。残された絵画や記録から再現するしかないだろう。これはかなり時間と金がかかりそうだ。職人も必要だろう。


「進捗を聞こう」


 鑑定人は三人来ている。中年男性と、若い男女である。女性の方は中年男性の娘だそうだ。幼い頃から宝石と触れあっていたのでかなり良い目を持っているらしい。若い男性はセマルグル国内で一番の目利きの弟子だそうだ。彼も小さい頃から目利きの真似事をしていたそうで腕が良いようだ。ちなみに一番の目利きは老齢のため不参加である。


「ええ、この請求書達のおかげで大分進みました。八割がた終わりました。殿下側にあるのが購入した品でございます。相場はこの位でしょう」


 中年男性が答えた。今回の鑑定人の長を務めてもらっている。

 自分は書かれた金額を見て卒倒しそうになった。覗き込んだ部下達からも呻き声が聞こえてきた。

 確かにこれだけ並べられているのだから、そんな金額になるのも分かる。宝石達は何十人も着席出来る長机に所狭しと並べられている。


「これだけあれば、他国から食糧の他に馬や牛が買えるか。古着とかも買えそうだな」


 牛馬は主に農耕用だ。この国の人は身に纏う物も買えず作れずの状況なので、何年も同じ物を着古しているようだ。なので安く買える古着を買うのだ。


「建材も必要でしょうね。城内に入るまで様々な町を見ましたが、これほどまでに酷いとは…。隣の国でこんなにも違うとは…いやはや、なんとも……」

「建材か…」


 確か北東領は林業が盛んだったはずだ。木が育ちすぎているかもしれないが、ないよりはいいだろう。レンガを焼くのにも燃料は必要だから木材は高くなるかもしれない。ケレース国内では木が枯れている地域も少なからずあるので輸入に頼る割合が多くなるかもしれない。


「宝石を元に戻す職人が必要だから、その人達への賃金も必要か…」

「殿下が髪飾りを頼んだ職人にお願いするのでしょうか?」


 発言したアルトゥールはドナートとミハイルに肘打ちされている。ちょうど真ん中にいたので左右から攻撃されたらしく、短く悲鳴が聞こえた。


「髪飾りって女王様への贈り物でしょうか?」


 若い女性が目を輝かせて言った。それを父親が諫める。


「こら、仕事中だ。それも殿下に軽々しく口を聞くんじゃない。殿下、うちの娘が大変失礼な事を申しまして誠に申し訳ございません」


 鑑定人の長は女性…娘の頭を押さえ頭を下げさせた。長自身も頭を下げている。


「いや、いいんだ。…事実だからな」


 自分は少々照れてしまった。多分顔が赤くなっているだろう。


「何を贈られたのでしょうか。我々に言ってくだされば女王様にお似合いの物を見繕えましたのに」


 若い男性が淡々と言った。表情も眉をピクリと動かしただけで無表情のままだ。


「ええ、そうですよ。とてもお美しい方だと伺いました。お美しい方なら何でも似合ってしまいますけど、やはり贈り物となりますと相手の方に一番よく似合う物でないといけませんからね。どのような品を頼まれたのでしょうか?」


 若い女性の熱のすごさに圧倒され、一歩下がってしまった。


「私自身はどのような物か見ていないんだ。詳しい者に手配してもらった」


 長の顔が真っ青になった。他の二人も目を見開き驚愕している。不味かったのだろうか。


「で、殿下…な、何故そのような愚行を…贈り物ですぞ。それも一国の女王様への。なんと恐ろしい…」


 長の声が震えている。


「で、殿下がそんな、そんな愚かしいことを…」


 若い女性は目をぎょろぎょろさせながら言った。かなり動揺しているのが分かる。


「まさか高価な物ならなんでもいいとお思いでしょうか。そりゃあ良い物は高いですが、違うのです。贈られた人がどんな顔になるか想像するのです。内から輝く笑顔になるのか、繕った笑顔になるのか…」


 若い男性はそれまでの静かな印象から打って変わって熱く語り出した。


「彼女ならなんでも喜んでくれるだろう」


 自分が苦し紛れに言ったこの一言で火に油を注いでしまった。


「それは甘えです!」


 このあと鑑定人の三人にこってり絞られた。肝に銘じておこう。部下達もそう思ったようで、頷いていた。




 夜になり陣営に戻った。何時ものように書類をまとめ、パランゲア大陸連合加盟の各国への報告書にどう記載するか考えた。エレオノーラの即位については宰相が国内外に知らせているだろうが、こちらからも経緯を報告する。後は活動内容、装飾に使われていた金銀の総量等だ。金銀の輸出先はまだモコシュ大公国しか決まっていないので、購入希望国あるいは企業、個人を募らねばならない。


(まぁ、今日はこれくらいでいいか。エレオノーラが即位した反応はどうなるかな。各部隊には伝えてあるが…)


 灯りを消して横になり、エレオノーラの反応を思い返した。昼間のあの言い方だと自分が帰ってしまうから結婚しないと言っているように聞こえる。ずっと一緒にいるのが恋人あるいは夫婦だと思っているのだろうか。遠距離恋愛だってあるのに…もしかして、一度離れたら戻って来ないと思っているのだろうか。


(彼女の生い立ちを考えればすぐに思いつくじゃないか。こんな簡単なのに考えが及ばないとは…)


 どうもエレオノーラを前にすると思考回路が正常に機能しない。明日からはもう少し冷静な気持ちで対面せねばと思う。


(無理だな。そもそもこの年頃の人間で好きな人を前にして冷静でいられるか。普段冷静なミハイルだってエレーナ嬢の名を出しただけで舞い上がっているんだ)


 ミハイルは真面目すぎるがゆえに、ああなるのかもしれない。ドナートは冷静というか肝が据わっているので、妻子の名を出しても微笑むぐらいでこちらが何か言っても大きく感情は動かないだろう。

 アルトゥールはよく分からないが、姉と妹の話は振ってはいけない。露骨に嫌そうな顔をする。


(待てよ…。俺が婿入りしたら三人には会えなくなるのか。いつも一緒だったから失念していたな)


 エレオノーラもこんな気持ちになったのだろうか。

 誰かを従者として連れて行くのは無理だろう。内政干渉ではないかと指摘されるだろうし、そもそも自分との結婚にも文句をつけてくる国はあるだろう。連合国だの言っているがそれは外面だけで、虎視眈々と覇権を狙っている国もある。


(ぬいぐるみは今頃どうなっているかな…。俺の代わりと言って渡せば侍女達はエレオノーラに我慢させたと思わずに納得してくれるだろうか)


 子どもっぽい発想かと思ったが他に何も思いつかなかったのでこの方法で行こうと思う。

自分も幼い頃にぬいぐるみが部屋に置いてあり、気が向いた時に遊んでいた。少し大きくなったら剣などの武芸に夢中になったので全く遊ばなくなった。あのぬいぐるみ達はどうなったのだろうか。下のいとこ達に貰われたのだろうか。そうだったらいいなと思った。少しの間でも自分を楽しませてくれたのだから捨てられたりしたら心が痛む。エレオノーラも大切にしてくれたらと一瞬思ったが、こちらの気持ちを押しつけている気がして嫌になった。飾っておいてくれればそれでいいか。


(ん?夜空の絵を飾るのだから、ぬいぐるみを俺の代わりにっておかしいか?いや、絵が用意出来るまでとか言うか、うん)




 朝食をいつも通りもそもそと食べていると、皆のお母さんの方のエリザベータがやって来た。どうやらぬいぐるみが完成したようだ。仕事が早いのはいいが、まさかこれを優先させたのではないか心配になった。


「もう出来たのか。ありがとう」

「ええ、今までに何体作ったか分からないほどやっておりますから、ちょちょいのちょいでございますよ」


 エリザベータは頬の肉を動かしてにっこりと笑った。エリザベータにとってはぬいぐるみを作成するのは朝飯前のようだ。

 自分は笑顔のエリザベータからぬいぐるみを受け取った。早速ぬいぐるみを見てみると、耳が丸く、尾が短いのでどうやら熊のぬいぐるみのようだ。


「うふふっ、ちょうどいい色の生地がございましたので使わせていただきましたよ!」

「お、おう。ありがとう」


 これならエレオノーラは自分の代わりだと思ってくれるかもしれない。二人きりの時間を作って貰いその時に渡そう。流石に人前で渡すは恥ずしさがあるし、これを持って城内を歩くのも恥ずかしいので袋に入れて持って行こうと思う。


「この熊ちゃんを殿下の代わりだと思ってくださるといいですね。これで遠く離れている間も思い合えるのですね。うふふっ、素敵ねぇ。私も若いときにこんな素敵な恋をしてみたかったわぁ~」

「そ、そうか…」


 思い切り行動を読まれている。長年培ってきた知識や経験だろうか。もしかしてよくある考えなのだろうか。今の今まで全く経験して来なかったので、全然分からない。


「ではでは、私はここで失礼いたします。女王様が気に入ってくださるといいですねぇ」

「ああ、本当に感謝する」


 エリザベータは満面の笑みで会釈して出て行った。




 鑑定人達は熱が入ってしまったようです。アレクセイも自分が悪いと思ったので話を聞いたようです。

 ぬいぐるみの行方が気になる方は評価&ブクマをお願いいたします。

 ※予告なく加筆修正を行う場合がございますので、予めご了承ください。

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