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カソット  作者: 綾部葉月
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4偽典と魔女の依頼と

 教会に悪魔の残したコインを持っていくと、換金できるそうだ。キリスは教会の前に僕ら3人を残し、「待ってて」と中にひとりで入っていった。

「あのコインがなんなのか、ジスは知ってるんでしょ」

「悪魔の心臓部分らしいっていうのは聞いたことがあるけど。なんで教会で換金できるのかはちょっとわからない。教会だってそんなの持ってたってどうしようもない気がするし」

「へぇー。心臓、ね……」

 ギルバレッタと僕が話している間に、もうキリスが教会から出てきた。用事は済んだらしい。

「さて。せめて今日中にロゼの隣町まで歩かないと。急ぐよ」

「町の門が閉まる時間を考えると、かなりギリギリだね……」

 ギルバレッタが顔をしかめる。

「ジス、ロゼって乗合馬車みたいなの走ってないのか?」

 ユアもこの町に詳しくはないらしい。ちなみに乗合馬車とは、6人くらいが乗ることのできる馬車である。店の前など、決まった場所からしか乗れない。乗った距離によって払う額が決まる。

「普段なら走ってる。でも喜望節のさいちゅうだから、どうかな……」

「素直に歩くしかないってことか」

「これくらいの距離なら魔法使った方がいいのかもしれないけど、人目につくかな」

 キリスがあたりにさっと目を走らせる。

 確かに人目ゼロとは言い難い状況だった。

「話を戻したいんだけど」

 それなりに早足で歩きつつ、キリスはギルバレッタに目をやる。ほとんど睨みつけてると言ってもいいところだが、もしかするとキリスの目つきは普段からこうなのかもしれない。

「後継者<アルデプリオ>とギルバレッタの偽典はなんなのか、きちんと答えてもらいたいね」

 ギルバレッタの目が不自然に宙を泳ぐ。ヲルクの偽典に関してはそれぞれだから僕は知らないが、

「後継者<アルデプリオ>なら僕でも説明できるよ……?」

 ギルバレッタが明らかにほっとした顔をした。

「どうせ話さないといけないんだからさっさと話した方がいいと思うけどね、ギルバレッタ。ただジスが助け船を出してくれるみたいだから、ジスの解説から聞こうか」

 僕は1度頷いて、

「後継者<アルデプリオ>はヲルクにとっての希望の星みたいな存在なんだ。キリスもユアももちろん知ってると思うけど、ヲルクは空間に迎合できないっていう性質があるせいで、どこにも安住の地がない。

 そもそも、ヲルクの始祖<ディクトリオ>が神の怒りに触れてヲルクって種族自体を流浪の民にしてしまったらしい。それで、始祖<ディクトリオ>と同等の力を持つ者なら神の怒りを解けるんじゃないか……っていうヲルクが語り継いでる神話上の存在が後継者<アルデプリオ>。

 ついでに偽典にもいくつかパターンがあるんだけど、ギルバレッタは自分で説明する気ない?」

 のどかな道が続いていて、人目もそこそこあって、ただお互いが無関心なかんじがする。そんなロゼの通りに僕たちが浮いていないとは思わないし、僕たちの話に聞き耳を立ててる人だってあるかもしれない。

 そんななか話したくはないだろうな、とは思うが、僕としても情報は欲しかった。

「ヲルクが発作的に起こすっていう空間のねじれだって、いつ起きるか本人だって予見できないって聞いてるよ、僕は」

 キリスとユアは感心して聞いてたが、僕のことばにふたりとも少なからずぎょっとしたらしかった。

「あまりその可能性は考えてなかったが、そうなのか……」

 ユアが問うというよりは納得するようにギルバレッタを見た。

「あたしの偽典ね……。ジスが軽く分類の話までしてくれたから、さらっと言っておくとあたしのは操作型。攻撃とか防御とかはできないけど、使われるといちばん厄介な奴。偽典を使うと任意のことを対象に信じ込ませることができるってことなんだよねー役に立たないでしょー」

 ギルバレッタは早口で平坦に言い切った。

「対象ってどのくらいの範囲まで?」

 キリスは冷静に説明を求めた。

「あたしの中で顔と名前が一致してればいくらでも。だから大衆とかだと無理」

「今まで聞いた中でここまで戦闘に不向きなのは初めてだな」

 ユアが何度か頷いてそう言った。

「そうでもないかもしれない。たとえば敵に自分はろくに武器も使えないって思い込ませれば、それだけで戦闘回避くらいはできると思う」

「前から思ってたけど、キリスって結構修羅場くぐってきてるよね……あたしそんなこと思いつかなかったよ……」

「修羅場の数は適当に想像しといて。たぶん人よりは多いとは思う」

 ギルバレッタの恨みがましいとも言える口調にもキリスは特にコメントしなかった。

 その後は特にこれといって話もせず、お互い過去のあまり必要とは言えない話に花が咲き、無事僕たちは門が閉まる前に次の町の門へたどり着き、なんとそれなりの宿まで確保できた。しかもふた部屋。4人でひと部屋区切って使うことにはならなかった。

「ユア、話せたらでいいんだけど」

 部屋にわかれた後に、部屋でくつろぐユアに僕は訊いてみた。

「ヲルクの族長は何を魔女に頼んだの?」

 ああ、とユアは頭の後ろをがりがりと掻いて、

「後継者<アルデプリオ>がいなくてもヲルクが空間とケンカせずに済む方法と」

 言いづらそうにしていたが、僕は何も言わずにユアのことばを待った。

「ええとだな。そのだな。魔女の弟子を紹介してほしい、ってことらしい」

「魔女に弟子なんていたっけ?」

「いない。だからキリスはその件を忘れたフリでもしてたんだろ。……ああ、ジス、立候補してみたらどうだ。素養はあるみたいだし」

 思ってもみなかったことばに、僕はことばを失った。

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