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カソット  作者: 綾部葉月
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3悪魔は何も語らない

 ロゼはサングリア国の首都の東に位置するわけだが、首都のすぐ隣というわけではない。その間にいくつか町がある。

「除籍になったら笑えない気がしてきた」

 僕のことばにギルバレッタは笑う。

「その時はその時だよ」

 そこまでポジティブになれる理由を教えて欲しいくらいだ。

 キリス、ギルバレッタ、ユア、僕の4人は、ロゼを横断するように西に向かって歩いていた。キリスの魔法での移動はできない。人数の問題もあるそうだが、そもそも移動先が分からない以上、歩くしかないとのことだった。

 ひと通りの少ない通りをわざと選んで僕たちは移動していた。

「魔女からしたら、わたしに逃げられたら困るだろうに、そのわたしを殺しかねない態度だったのは、単に試した、ってところかな」

 キリスがユアに問う。ユアは口笛を吹いて、

「当たりだ。俺に殺される程度なら自分でなんかした方が早そうだからってことだった」

「無慈悲な魔女、ね。童話か何かに出てきそうだ」

「ひとつ言っておくと、あれは無慈悲なんじゃなくて、面倒なことが嫌いなだけだと思う」

 あと、とユアはギルバレッタに言った。

「ヲルクの嬢ちゃんはどんな偽典を持ってるんだ?」

「へ? あ〜それはね〜、なんて説明すればいいのかな〜」

 ギルバレッタの目が泳いでいた。よほど説明したくないらしい。

「わたしもそれは知っておきたい。トラブルを未然に防ぐために」

「トラブルって。あたしがトラブルメーカーみたいな言い方しなくてもいいじゃない」

「話をそらすその手には乗らない。どういう内容なの? 見た目の年齢からしてもう偽典は授かってるはずでしょ」

「キリスつめたい」

「つめたくても問題はない」

 キリスはギルバレッタを睨んでいた。見ているだけなのかもしれないが、表情が乏しいせいできつく見える。

「大した偽典じゃなのよ。後継者<アルデプリオ>にはまずなれないだろうっていう偽典で、」

 ギルバレッタは早口でまくしたてて、急に黙り込む。

「後継者<アルデプリオ>がなんなのか気になるけど、さっさと続きを言って」

 キリスは相変わらず厳しい視線でギルバレッタを見ている。

 叫び声が響いた。

「あっ悪魔が!」

 言って男が建物の陰から出てきた。追いかけられているらしく、ひィッと悲鳴をあげて、走って逃げようとしている。途中でこけて腰を抜かしそうになりながらも走ってーー助けを求めるようにこちらに走ってきた。

「……なんて都合の悪いタイミング」

 キリスが苦々しげに言う。

 悪魔に乗っとられた人間が出たらしいことは、僕にも分かった。

「旅の人! 助けてください!」

 キリスは言われる前に走り出していた。

 重さを感じさせる足音がして、人間の倍はあろうかという身の丈の「何か」が現れた。

 それはもう人間と呼べるカタチはしていなかった。

 頭がふたつに割れて手が6本触手のように伸びていて、肌の上を血管が走っている。失敗作、ということばが浮かんだ。人間にも悪魔にもなりきれない何か。

 小柄なキリスがそんな化け物と対峙している。

「そーいえばさ、ジス」

 ギルバレッタがある意味安心した顔をして僕に問いかける。

「キリスは悪魔と契約してるじゃない? あの化け物みたいなのは悪魔と契約してるのうちに入らないの?」

「僕も退魔師じゃないから詳しいことは分からないけどさ。

 悪魔に乗っ取られる可能性は、キリスにだってあるはずだよ。どちらも契約してることは契約してることに違いない。ただ、飲み込まれるか飲み込まれないかの差だと思う。

 一説によると、悪魔は自分と対等だと感じた人間に対して左手の甲に接吻をするんだって。普段キリスが手套の下に隠してる痣みたいなのがそれなんだろうね。で、悪魔に魅入られて悪魔の意志が先行してしまうような人々は、たぶんそれがないんだ」

「ジス、辞書みたいに物知りなんだな」

 感心したようにユアが言う。

 一方、キリスはニュイと会話していたらしく、何度か深く頷いて、

「問題ない。終わらせましょう」

 ニュイは満足げに喉を鳴らしたように見えた。声は聞こえなかったけれど。ニュイは大きな元人間に飛びかかっていく。ジャンプしている間にニュイの身体はどんどん大きくなって、元人間を見下ろすまでの大きさになった。

 口を大きく開けるニュイに、元人間は奇声をあげた。雄叫び、だろうか。それには関心を示さず、ニュイは元人間にかじりついた。奇声。いや悲鳴。肉が咀嚼される嫌な音をたてて、ニュイは元人間を片付けていく。

 一方的な展開だった。

 建物の陰から何人かがその様子をみていたようだが、そのうちのひとりが言ったのは、

「悪魔憑きがこんなところにもいたなんて」

 キリスを見ながら、そう言うのだった。

「毎回思うけど、キリスもお礼すら言われないのに、よく見捨てないわよね」

 ギルバレッタがわざと大きな声で言った。

 こちらにもぎょっとした気配が伝わってくる。

 たしかに、ギルバレッタの言う通りなのだ。自分が疎外されるにも関わらず、キリスは何も言わずに元人間の脅威を取り除く。

 そんな間に、ニュイは元人間を喰い尽くしていた。

 からん、と元人間のいた場所にコインが出現する。キリスはそれを回収し、何事もなかったかのように、

「行こうか」

 僕たちに声をかけ、教会へと向かって歩いて行った。

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