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カソット  作者: 綾部葉月
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2夢幻次元の魔女の使者

 キリスと男性は睨み合うように立っていたが、僕とギルバレッタは少し離れたところに伏せていた。静かに立ち上がって物陰から様子を伺うことにする。

「教会関係者には見えないわね」

 ギルバレッタの言うとおりだ。サングリア国の教会関係者はみな白い法衣を着ていると相場が決まっている。しかし、退魔師が教会に追いかけられているという話は聞かない。人々に忌み嫌われているだけである。

 どちらかというと、ギルバレッタが教会関係者に目をつけられたくないのだろう、と思う。

「悪魔憑き、俺はユアという。その黒猫の悪魔も見えてるから安心しろ」

 僕とギルバレッタには気づいているのかいないのか、男性、ユアはキリスを威圧するように言う。

 ユアにも悪魔は見えているようだ。

 あれ、何かひっかかる。

「退魔師と呼んで欲しいな。悪魔に憑かれてるようには見えないのに悪魔が見えるなんて、何か深い事情がありそうだ」

 キリスのことばで、ようやく僕は気づいた。

 悪魔は、憑かれたか契約したか、どちらかでなければ見えないものだ、と。

「なんで僕は悪魔が見えてるんだ……?」

「そうそうおかしいと思ってたのよ、ジスの反応。やっぱり見えてたんだ。ふーん」

 あまりおかしいとは思ってなさそうな、軽い調子でギルバレッタは言った。

 僕の気づきと疑問をよそに、キリスとユアの会話はつづいている。

「……名乗るってことは、何かあるんでしょう?」

 ユアはくつくつと笑い、キリスに言い放った。

「魔女がお呼びだ。来てもらおうか」

 キリスは眉をひそめる。

 ギルバレッタはねぇねぇ、と僕に魔女は何かと問うた。

「夢幻次元の魔女のことを言ってるんだと思う。次元の管理者。魔女はどこの次元にも属さない。夢幻次元っていう神の次元にいるらしい。元は人間だったけど神から力を授かったとか、そもそも人間じゃなかったとか、そのへんはあまりはっきりした情報はないんだ」

 僕の知っている限りの情報を伝えた。

 ギルバレッタは感心しきりで、

「ジスって、ほら、なんていうんだっけ、歩く百科事典だよね……」

「それは言い過ぎな気がする」

 一方、キリスは魔女がなんなのかは知っていたらしい。さも不思議そうに、

「なんで魔女がわたしを呼ぶ? 一介の退魔師になんて用はないだろうに」

「理由は分かってるだろ。ヲルクの族長から頼まれてる件だ」

「やっぱりそれか……」

 キリスには心当たりがあったらしい。ギルバレッタを振り返って、

「聞いてた? ギルバレッタ。行くよ」

 ギルバレッタは物陰から出て、心底嫌そうに言う。

「えええええ、頼まれたのキリスだけじゃない。なんであたしまで」

「ひとりヲルクがいると説明が楽。それから、」

 キリスは一度ことばを切って、

「ジスもだよ。このこわーいお兄さんと同じで、悪魔と契約してるわけでもないのに悪魔が見えてるんだから、何か関係がありそうだからね」

 僕はしょうがなく物陰から出て、キリスを見返した。

「こわーいお兄さんとしては、善良そうな少年を巻き込みたくはないんだが。いや、悪魔が見えてる、だと? 少年、人間のなりはしてるじゃないか」

 ふむ、とキリスもその点に気づいたらしく、何かをぼそっと言った。

 その瞬間、ばちん、と電流が僕のそばを走った。間一髪で避けられたけれど、直撃していたらどうなっていたかわからない。そして僕は悲しいかな条件反射で、記術を唱えて記<ソゾ>を指で中空に書いていた。

 キリスとユアの間で、ぼわっと炎が上がって、消えた。

「ジス、試すような真似をして申し訳ない。あなたも、自分が知らないだけで何かありそうだね」

「少年、今のは記術か? 魔法にしては稚拙すぎる……」

 ユアが目を丸くしている。

 魔法と記術の見分けがつくユアも、まだまだ何かありそうだった。

「ユアの目もどうなってるんだか興味があるな」

 キリスはその割につまらなさそうに言い、さて、とユアに向き直った。

「それで魔女は今どこにいるんでしょうね」

「サングリア国にいるのは確かなんだが」

 さきほど自信に満ちた言い方をしていたわりに、とても無責任な発言だ。

「どこにいるとも知らない者に、来てもらおうかと言われても困るね」

「あの人は忙しいんだよ」

 さすがに言いにくそうにユアが早口で言う。

「魔女の使者として役に立ってないね、ユア。つまり、情報収拾しつつ、サングリア国内をうろうろしろ、と?」

「そういうことになるな。俺のところに定期的に手紙はとばすって言ってたから、それを頼りにいくことになる」

「手紙って、いわゆる魔法をかけた相手、この場合はユアに対してしかとばせないあれでしょう。記術にも似たようなものがあった気がする。あなたと一緒にいないといけないわけね」

「その手紙だ。まちがいない」

 キリスは大きくため息をついた。

「仕方ないね。乗りかかった船だ、諦めるところは諦めるしかない。この街にはいないんでしょう? なら、首都へ向かう方向で手紙も待ちつつ、ひとつずつ街に滞在して調べましょう。それでいいかな、ユア」

「異論はない」

 そして僕と、おそらくギルバレッタには拒否権がないのだった。

 ぷすぷすと炎の煙がくすぶっている。キリスが何事か唱えると、炎はさっと消えた。

 魔法。こんな近くで見られる。

 非日常はもう、始まっていた。

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