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雑貨屋の商品

村での用事を済ませた俺達は自宅まで続く細道を登っていたのだが、その足取りは非常に重かった。


「はぁ、面倒くせぇ」

「さっきからため息ばかり、どうしたの?」

「今俺の家に屯してるであろう連中の事を考えるとな、ため息も出るさ」


少女の問いにそう答えた後、再び深いため息を吐く。

あの連中は顔を会わせる度に、新商品はないのかだの、品物は用意出来ているのか、約束通りの数は用意したのかなど一々聞いて来るため非常に煩い。


いや、二つに関しては確かに以前納期を忘れたり数を間違えてたりした前科があるため仕方がないと言えば仕方がないのだが…。


そんな事を考えながらも山を登るうちに視界が開け自宅が見えてきた。

自宅の前には12人の人間が集まっており何やら話をしてが、こちらの姿を認めるとその内の何人かが軽く手を挙げる。


俺もそれに返すように軽く手を挙げながらその集団に近づき声を掛ける。


「全員集合かよ……こんな大人数で人の家に押しかけやがって」


俺がそう声を掛けると、40代半ばくらいの細見で柔和な笑みを浮かべた男、ビックスが返してくる。


「確かに大人数でいきなり他人の家に押しかけるのは不作法かもしれんが、ここは雑貨屋でもあるでしょう?。店に大勢の人間が集まるのは自然な事であって、決して不作法という訳ではありませんよ?」

「今はクローズの看板が掛かってるのが見えねぇのかよ……閉店後に店の前で屯すんな、思春期を抜け出せなかったガキ共かお前らは」

「だーれーがーガキですって?」


そう言ってこちらを睨みつけてきたのは、真っ赤な髪を後ろで束ねた気の強そうな女、アムルだ。


「ここに居るのは全員アンタより年上なのよ?私達からしたらアンタの方がガキよ」

「俺より3歳上ってだけで何を偉そうに…」


俺とアムルが互いににらみ合っていると、俺達の間に割って入るように一人の男が割って入ってくる。


「まぁまぁ!二人とも落ち着いて!今日は喧嘩じゃなくて商談に来たんだろ?」


そう言って仲裁に入ったのは額に汗を浮かべた小太り気味の男、マルコフ。


「マルコフ殿の言う通り、力ではなく言葉で欲しい結果を掴み取る、それが私共商人なのですから」


マルコフの側に立ち、こちらを見下ろす背の高い老人、ザール。


この四人が、俺が商品を卸している商人達だ。

他の八人はその護衛の人間なので割愛する。


「ふんっ!それくらい分かってるわよ」

「本当かよ…」

「何か言ったかしら?」

「なーんにも」

「ぐぐぐぐ……アンタは一々私の神経を逆なでしないと気が済まないのかしら…?」


再び険悪なムードになりそうになった時、俺とアムルの服が引っ張られ、俺達は自然とそちらに視線を向ける。


「喧嘩は……駄目」


そこに居たのはあの少女だった。


「え、何この子、超可愛い…!」


アムルがそう言って少女に抱き着き頬ずりを始める。


「ちょっとテオ!この子どうしたの!?」

「どうしたって……山の中でシャーキに襲われた所を助けたんだよ」


俺がそう言うと、全員がピタリと動きを止め俺に視線を向ける。


「それはまた」

「あぁ……またなの」

「また、だねぇ」

「またですな」


この四人とは昔から付き合いがあるため、俺のトラブル体質の事も良く理解している。

俺のトラブルに巻き込んだ事は幾度となくあったし、例え巻き込まれなくてもそれが原因で商品の納期が遅れるという事も多々あったのだ。


そのためか、護衛の人間も含めて全員が微妙な表情を浮かべていた。

全員がそんな表情を浮かべる中、ビックスが右手を挙げて尋ねてくる。


「ちなみにですが、商品の方は……」

「あぁ、アンタのは二日前に用意しといたぞ」

「私のは!?」

「他の奴らの商品も全部用意してるから安心しろ」


俺がそう言うと、護衛を含めた全員が安堵のため息を吐く。

まぁ、こんな山奥まで来て手ぶらで帰るというのは絶対に避けたい所だろう。


『テオ、何時までも店先で話ているのもなんだし、家に入らないか?』

「それもそうだな……おい、お前ら今日も店の中見てくんだろ?」

「あぁ、商品の受け取りも大事だが、新しい商品が増えてないかをチェックするのもここに来る目的の一つだからね、見させてもらうよ」









「テオ君!この瓶は一体何だね!?」

「あぁ?あーそれ以前に頼まれて作った脱毛クリームの余りだな、定期的に剃るのが面倒だとかで作ってやった奴だな」


ここに居る四人はそれぞれ扱う商品が違う。

ビックスが扱うのは主に日用品で、洗浄剤や身体を洗うのに使う布なんかはビックスに卸している。


「テオ!この布地は何!?」

「それは東の方に遠征した時に見つけた魔物から採取した糸で作った布だな、数はあんまねぇぞ」


アムルは女性向けの衣服を取り扱っていて、ここにはその素材になる物を探しに来ており衣類に使うような布地はアムルに卸している。


「テオ坊!ここにあるこの怪しげな色をした液体は!?」

「そりゃ以前狩った魔物の体液を採取して作った精力剤だな、一度飲んだら三日三晩は動けるようになる代物だ」


マルコフが扱うのは主に薬品、傷薬のような庶民向けの物から怪しげな薬までそろえており、薬品関係はマルコフに卸している。


「テオ殿!ここにある槍のような物は!?」

「前に海に行った時に作った(もり)だな、言っとくけど返しが付いてるから槍のようには扱えねぇぞ」


ザールが扱うのは武具の類、うちの店で武器になりそうな物と言えば調理、解体等に使うようなナイフに、伐採に使う斧くらいしかないが、それでも並みの武具よりも切れ味も良く、丈夫だと冒険者の間で人気らしい。

ザールには主に金物関係を下ろしている。


俺は良く店を空けて各地を飛び回っている。

それは誰かの依頼だったり、何か厄介事のせいだったりと理由は様々だが、俺は各地を飛び回る度に様々な物を作ったりする。

中には必要だったから作った物もあれば、気まぐれで作った物もある。

そう言った物は大抵二度と使わなくなるので、倉庫もとい店内に商品として並べている。


そのため俺の店に並ぶ商品はどれも統一性が無く、また数も少ない希少品が数多くあったりする。

そのせいかこの四人は俺の店に来る度に店内の隅から隅まで徹底的に調べていくのでそれだけで閉店まで居座られる事が良くあった。


(はぁ、こりゃまだまだ時間が掛かるな…茶でも用意してやるか)


椅子から立ち上がり、カウンターの裏の扉を開けてキッチンに向かう。

棚からカップを取り出し、ポットの隣に人数分のカップを並べる。


「じゃ、アリス頼んだ」

『はいはい……まったく、お茶くらいお前が入れたらどうなんだ?』

「俺が入れるよりアリスが入れた方が良いだろ」


俺が入れたお茶とアリスが入れたお茶では天と地ほどの差がある。

普段からアリスにお茶を入れて貰っているため、俺もここに来る連中もアリスの入れたお茶に舌を慣らされてしまっている。

今更俺の入れたお茶なんて飲ませたら顰蹙(ひんしゅく)を買うのは間違いない。


まぁ、あいつらも俺の左手の秘密をすべて知っている訳ではないので、普段飲んでいるお茶を俺が入れていると思っている。

お茶だけではない、俺はアリスの事を今まで誰にも話したことはなく、アリスがやってきた全ての事は俺の功績になっていた。


その事に罪悪感を感じない訳ではないが、それでもアリスの事を知られるリスク(・・・)を考えると、誰にも本当の事を言えなかった。


決してアリスの事を知られる訳にはいかない。

もしアリスの事が世間に知れ渡ってしまえば――


(はぁ……ダメだな、あんな夢を見たせいか、どうもマイナス思考になっちまう)


そんな考えを振り切るように首を軽く振って顔を上げた時、視界の端にキッチンの入口からこちらを覗く小さな影を見つける。


「どうした?そんな所に隠れて」


俺がそう声を掛けると、ヒョコっと顔を覗かせていた少女がキッチンの中に入り、俺の側まで歩み寄ってくる。


「大丈夫?」

「ん?」

「なんだか、怖い顔してたから」


少女にそう言われて、思わず右手で自分の顔を触る。


「そんな顔してたか?」

「うん、とっても怖い顔してた」


怯えた表情をしながらそう告げる少女を少しでも安心させるため、右手で乱暴にクシャクシャと頭を撫でてやる。


「ちょっと考え事してただけさ、心配してくれてありがとよ」

「ん…んん…」


数秒経ってから乱暴に撫でていた右手を頭から放してやると、少女は頬を少し膨らませながら無言でクシャクシャになった髪を整える。

無言のまま髪を両手で触っていた少女だったが、ふと視線を机の上に向けると今度は俺の顔をみつめてくる。


「どうした?」

「……左手、凄い器用だね」

「え…あっ!?」


完全にうっかりしていた、俺が少女の頭を撫でている時も、少女が髪を整えるのを俺が眺めてる間も、アリスは黙々とお茶を入れていた。

少女からしたら俺が手元も見ずにお茶を入れているように見えただろう。

慌てて俺はお茶を入れていたアリスの手首を引っ掴んで動きを止める。


『むぐっ!?』

「いや、コイツはなんだ、その」


どうにかして良い訳をしなければ…だが何と言って誤魔化せばいい?。

俺がどう誤魔化そうかと考えていると、突如アリスがもがき出す。


『うぐぐぐっ!く、首!手首を放さぬか馬鹿者!』

「ちょ、こら…!暴れんな…!」


アリスを机に押さえつけている俺を、少女が不思議そうな顔でみていた。


「…どうしたの?左手に何かあるの?」

「いや!何でもねぇ!何でもないから心配すんな!」

『テ、テオ……本当に放せ……』

「でも左手が暴れてるような……」

「それはその、ちょっと左手が攣ったというか……」

『うぐぐ…け、血液が…回らな…し、死ぬ…』


そんなやり取りをした後、少女は何か考えるような素振りをすると、ハッと何かに気が付いたような顔をする。


「もしかして……」

(まずい、バレたか!?)


少女が机に抑えつけられた左手に手を伸ばし、こちらの顔を伺うように見て言った。


「左手って勝手に動き出す物なの?」

「………は?」


少女はそう言うと左手(アリス)を撫で、興味深々といった様子で言葉を続ける。


「私、左手無いから知らなかった」

「………」


これは……どう反応すれば良いのだろうか。

少女に左手の事がバレなかった事を安堵すればいいのか、それとも左手のないこの少女を不憫に思うべきなのか。


(どちらにせよ今するべき事は――)


「実はそうなんだ!実は俺の左手はお茶を入れるのが好きでよ!一日に一回はお茶入れさせてやらねぇと暴れ出すんだ」

「そうなんだ…!」


少女はそう呟くと、目を輝かせながら左手にペタペタと触れる。

こんな小さな少女を騙すのは心苦しいが、素直にいう訳にも行かないのでここはこのままで行こう。


(はて…そういやアリスがやけに静かだな?)


普段ならベタベタ触られたら小言の一つでも飛んでくるのだが…。

そう考えながら、左手を持ち上げてみる。


左手首から先に一切力が入らず、指先がぷらんぷらんと力なく揺れる。


「………アリス?」

『…………………』


どうやら押さえつけたせいで血液が手の先にまで行き渡っていなかったらしい。

俺は左腕を軽く振り上げ、思いっきり振り下ろす。


『おぐっ!?』


血液が一気に指先まで流れ、アリスの意識が覚醒する。

俺は少女に背を向け、小さな声でアリスに声を掛けた。


「目が覚めたか?」

『うぅ…頭がぐわんぐわんする…』

「頭ないだろお前」


俺達がコソコソとそんな事を話していると、クイクイと少女が袖を引っ張る。


「お茶…あのままで良いの?」

「え?あぁ…そうだったな、お茶入れてる途中だったもんな」


そう言って俺は、お茶を入れ直し商品を物色している四人の元に戻るのだった。


ちょっと書いててグチャグチャになった感、読み辛かったらすみません。

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