神の石碑
今回は短め 次の話とまとめようかとも思いましたが分けました。
俺達は今、家を出て3分程の場所に居た。
「家から目的の場所までは結構近いからな…後数分も歩けば着くはずだ」
俺の言葉を聞き、隣を歩く少女の顔が少し強張る。
「そこに神様が居るの?」
緊張した面持ちで俺にそう尋ねてくる少女に向かって告げる。
「いや、昔はそこに居たんだけどな、今は違う場所に居る」
「そう……なんだ」
そういう少女の顔は、何故か残念というよりは安堵の表情を浮かべていた。
そんな少女の様子に違和感を覚えながらも、俺は草木をかき分けて目的地を目指す。
昔は自宅から目的地までは簡素ではあるが道が存在したのだが、両親が死んでからは俺も一度だけしか行かなかったため整備もされず、以前あった道は完全に山に飲み込まれてしまっていた。
朧げな記憶を頼りに進んでいくと、開けた空間に出る。
膝の高さほどまであった雑草は足首程の高さになり、開けた空間の中には一本の樹木も生えては居なかった。
「ここだけは昔と何も変わらねぇな……」
そう呟きながら開けた空間の中央、そこに存在する小さな石碑に向かって歩みを進める。
『………ただいま』
石碑の前に辿り着いた時、アリスが小さくそんな事を呟いた。
俺は何も言わずに立ち尽くしていると、後ろから控えめな声が聞こえてくる。
「なんだかとっても不思議な雰囲気、ここだけ時間が止まってるみたい」
確かに石碑を中心としたこの空間だけはまるでこの石碑を山自体が避けているかのように不自然なまでに木々が生えていない。
昔はとくに不思議とも思わなかったが、あれから10年は経つというのに昔切変わらないこの場所は確かに不思議だ。
そんな事を俺が考えてる間にも少女は俺の隣に立ち、石碑に視線を向ける。
「ここに神様が居たの?」
「あぁ、もう10年以上昔だけどな、俺がお前くらいに小さかった頃の話さ」
そう言いながら中腰の姿勢になり、左手で石碑を撫でる。
長年放置されていたためか、石碑の表面は酷く汚れ、そこに書かれていたはずの文字は判別出来なかった。
「ねぇ、この石碑にはなんて書いてあったの?」
石碑に書かれた文字が気になったのか、少女がそんな事を聞いて来る。
俺はそんな少女の質問に対し、苦笑いを浮かべながら答える。
「それがな、昔の俺は文字の読み書きが出来なくてな…別段興味も無かったから親になんて書かれてるか聞いた事も無かったんだ。だから何が書かれていたかは知らない」
以前ふと石碑の事を思い出してアリスに何が書かれていたのかを聞いた事があったが。
『そ、そんな物は知らん!大体お前が気にするような事ではないわ!』
と、何か隠している様子だったのだが、余りの剣幕にそれ以上は聞けなかった。
その事を思い出しながら、目の前の石碑をマジマジと見る。
殆どの文字は掠れ、何が書いてるかは分からないが辛うじて一つの単語だけ読み取る事が出来た。
そんな俺を見つめながら、少女が再び質問を投げかけてくる。
「この神様って、名前はないの?」
「あぁ…名前か、名前ならあるぞ」
そう言いながら、辛うじて判別する事が出来た唯一の文字を指先で撫でながら神の名前を告げる。
「”アリスティア”それがこの神様の名前だ」