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記憶

「聞きたい事があるんだが、ちょっと良いか?」

「…何?」


食事も終わり、後片付けをした後俺は少女に色々と聞いてみる事にした。

小首を傾げる少女に視線を向けながら、気になっていた事を聞いてみる。


「何であんな所に一人で居たんだ?」

「神様を探してたの」


初めて会った時と同じような事を言う少女に、再度質問する。


「何で神を探してるんだ?」

「お母さんに言われたの」

「お母さん?」


予想外の答えに俺が首を傾げていると、少女が言葉を続ける。


「そう、お母さんに”お前は神の元に行かなければならない”って言われたの」

「神の元に行けって…お前の母親は本当にそう言ったのか?」

「うん」


何の事はないというように平然と答える少女は対照的に、俺は動揺していた。


(もし神の元に行けという言葉が俺の持ってる通りの意味なら…コイツは)


一体少女の母親は何を思ってそんな事を言ったのだろうか。

顔も知らぬ少女の母親に対して苛立ちを覚え、拳を握りしめる。


『おい、大丈夫か?』

「っ…」


アリスの言葉でハッと我に返る。

左手の手の平を見てみると、爪が食い込んだのか血が滲んでいた。


『気にするな、これくらいすぐに癒える。私よりも目の前の子を気にしてやれ』


俺が謝罪するよりも早くアリスがそう言う。

俺は感謝と謝罪の想いを込め右手で左手を優しく撫でながら少女へと視線を戻す。


「お前はこれからどうするんだ?」

「神様を探す、お母さんに言われた事だから」

「探し出して見つけたとして、その後はどうするんだ?」

「その後…?」


少女は少し考える素振りを見せた後、少しだけ顔を伏せた。


「分からない…」

「お前の母親は神の元に行けとしか言わなかったのか?」

「分からない…」

「分からないって…何も聞かずに家を飛び出したのか?」


俺がそう尋ねるも、少女は顔を伏せたまま小さく首を振る。


「分からないの…お母さんに言われた事以外何も思い出せない」

「思い出せないって…じゃあ家の場所は?」

「分からない、気付いたらもう森の中だったから…」

「まじかよ…」


想像以上に面倒な事に巻き込まれたかもしれない。

幾度となく面倒事に巻き込まれた俺だからこそ分かる。

この手のパターンは実はこの少女が何処かのお偉いさんの娘か何かで、この少女を狙って何者かが襲撃してきたりするパターンだ。

実際以前にも似たような人間を保護したことが何度もある。

公爵の嫡男だったり、国を揺るがすような大事件の証人だったり、果ては隣国の姫なんてのも居た。

大体は自分の身を守るために適当な嘘を言って身分を偽る者が殆どだったが、稀に本当に自分が何者なのか分からないという奴もいた。

そして記憶の無いという奴に限ってとんでもない人間だったりする。


(隣国の姫さんを保護した時もこのパターンだったな…)


あの時は本当に苦労した…思い出すだけで胃が痛くなって来る。

腹をさすりながら、俺はふと気になった事があった。


「なぁ、もしかして自分も名前も分からない?」

「………うん」


最初は俺の言葉にキョトンとした顔をうかべていた少女だったが、少し間を置いて気が付いたような顔をすると小さく頷く。

どうやら自分の名前の事もすっかり頭から抜け落ちていたようだ。


「お母さんの言葉だけ考えてたから…自分の事なんて全然考えた事なかった」

「お母さん…お母さんねぇ、なんでそこだけ覚えてるんだろうな…」


誰かに魔法で洗脳紛いの事をされてそれ以外の事は思出せないようにされたとか?。

実際に在り得そうだが、だとしたら本当に洒落にならない。


「あなたは?」


俺が頭を悩ませていると、少女が唐突に聞いて来る。


「ん?俺がどうかしたのか?」

「あなたの名前は?」

「………あぁ」


考え事をするあまり、自分の事を何も教えていなかったな。

というか何も知らない相手に良くついて来たものだ。

俺が親だったら間違いなく知らない人間にはついていくなと教育する所だ。


(まぁ、母親の言葉だけ考えててそれ以外は深く考えなかったのかもしれないな)


そんな事を考えた時、ふと何か引っ掛かる物を覚えたがそれが何かが分からなかった。

引っ掛かった何かが気になったものの、今は少女の疑問に答える事にする。


「俺は”テオス”親しい人間からテオって呼ばれてる」

「テオス……」


俺の名前を小さく呟きながら、何か考えるように目を瞑る少女を見つめながら俺は自分の事を語る。


小さい頃に両親が死んだ事、両親から受け継いだ店を一人で切り盛りしている事、森の中で暮らしている事、少女のような客人には慣れている事などを説明する。


「テオスは自分の事を良く分かっているのね」

「ん?まぁ…自分の事だしな」

「私は分からない…自分が何者なのか…自分の事は何にも知らない」


そう言って顔を伏せ、少女は肩を震わせる。

俺はそんな少女の姿に居ても立っても居られなくなり、テーブルに身を乗り出して左手を少女に向かって伸ばす。

俺の意図を察してくれたのだろう、アリスが左手を動かして少女の頭を優しく撫でる。


「ん…」


左手が触れた時、少女がピクンと小さく反応した物の逃げる事はなく、無言のまま撫でられることを受け入れる。


「あなたの左手…なんだかとっても不思議…凄く落ち着く」


そう言って目を細めながら気持ちよさそうにしている少女を見て、俺は思わず口を開く。


「俺の左手はな、昔に死んじまったんだ」

「…?」


俺が何を言っているのか良くわからないのだろう、少女が疑問を顔にうかべていたが、俺は構わずそのまま話を続ける。


「今あるこの左手は俺の物じゃない、この手は神様がくれた物なんだ」

「神様に会った事があるの…?」


少女が目を見開いて俺の言葉に驚いていた。


「あぁ、姿も見た事ないし声だけだったが……優しい神様だったよ」

『………』


その時のことを思い出しながら、俺は少女に提案する。


「なぁ、良かったら明日行ってみるか?」

「どこに?」


そう聞き返してくる少女に、俺は微笑みながら答える。


「その神様が”居た”場所に」

ここに来てようやく主人公の名前登場です。

次は左手こと、アリスの名前について触れます。

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