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冬の訪れ

二章開幕です。

説明が殆どの一章と違い、ここから本格的に物語が動き出します。

夢を見た。


騒がしい祭りの夢。


大勢の人々の声、笑顔に溢れた夢。


俺は父さんに連れられて一番近い街の祭りに来ていた。

左手で父さんの右手を握り、右手には屋台で買った串焼きを持ちながら祭りの様子を見ていた。

人の流れに乗って歩く内に大きな広場に辿り着く。

広場には大きなステージが設置されており、ステージの上では様々な人間がパフォーマンスを行っていた。

俺達が付いた頃には既にパフォーマンスもクライマックスに近づいていた。

ステージに立つ人間が、大きく両手を空高く伸ばした瞬間、ステージの背後から巨大な炎が噴き出した。





そこで俺の目が覚める。

ゆっくりとベッドから身体を起こし、窓の外を見る。

空は曇り、何時雪が降っても可笑しくはない。

窓から視線を外して、自分の身体を見下ろす。


「はぁ…また夢か」

『起きたか、テオ』

「あぁ…おはよう、アリス」

『おはよう、テオ…所で今”夢”という単語が聞こえてきた気がしたんだが…またか?』

「また…だな、ったく朝から嫌なもん見ちまったぜ」


そう言いながらベッドから降り、服を着替える。


『ちなみにどんな内容の夢だったんだ?』

「ムルタルの街で冬祭りがあるだろ」


ムルタルの街というのは、ここから最も近い街であり、今年冬を過ごす場所だ。


『あるな…まさか』

「そのまさかだよ、冬祭りの夢を見た」

『人の大勢集まる場所で…か、嫌な予感がするな』

「あぁぁ…クッソ行きたくねぇ、今からでも今年の冬は自宅で過ごす事に変更するか?」

『テオ?』

「そんな怖い声出すなっての…冗談だよ、夢に見ちまった以上行かない訳にはいかんだろ」


着替えを終え、自室の部屋を扉を開けて一階に降りる。

一階では朝早くから起きていたであろうティアが朝食の準備を進めていた。


「あ…おはよう」

「おう、おはよう」

『おはよう、ティア』

「うん、神様もおはよう」


俺の左手にアリスが居る事をティアに教えてからは、アリスはティアにもテレパシーで会話するようになった。

てっきり俺にしか声を届ける事が出来ない物だと思っていたが、そういう訳ではなかったようだ。


『済まないな、一人で朝食の準備をさせてしまって、本当なら私も手伝いたい所だが…』

「………何だよ?」

『どこかの誰かがグッスリと寝てるせいで朝早くに手伝えなくてな』

「グッスリ寝てて悪かったな」


そんな憎まれ口を叩きながら、朝の準備を手伝うべくティアの隣に立つ。

まぁ、殆どアリスがやってしまうため、俺はアリスの指示通りに移動するだけなのだが。

そうして朝食を作り終え、ティアと一緒に朝食を取っているとティアが話しかけてくる。


「ねぇ、街には何時行くの?」

「んーそうだなぁ…冬も近いし、そろそろ行っても良いかもな」

「街ってすぐ近くにあるの?」

「いや、大体歩きで5日位か?」

『そんなものだな』

「………今から行って間に合うの?」


ティアのもっともな質問に対して、こう答える。


「あぁ、歩きで行ったら間に合わないだろうが、俺達にはちょっとした移動手段があるからな」

「移動手段?」

「ま、それは行く時のお楽しみって事で…ほら、冷める前に飯食っちまうぞ」


朝食を済ませた後、軽く店の方に行き商品を確認する。

冬に入ってしまえば暫く戻ってくるつもりはないので長時間放っておいても良い状態にしておく必要がある。

それは以前、冬の時期に何もせずそのまま放置していた事があったのだが、薬品が腐敗、発酵し瓶が割れ内容物が辺りにまき散らかされていた事があったのだ。


「危なそうなのは処分してっと…よし、確認完了」

『本当に大丈夫だろうな?もうあれの後始末は嫌だぞ?』

「大丈夫だっての、たった今こうして確認したじゃねぇか」

『そう言って過去に三度後始末をさせられた事を私は忘れていないからな…?』


結局、アリスが納得するまで商品の確認をやり直していると、外の景色に変化が見える。


「おいおい、こんな事やってる間に雪が降り出したじゃねーか」

『む?仕方ない、これくらいにしておくか』

「四回も確認させやがって…本格的に降る前にとっとと行くぞ」


商品の確認を切り上げ、店の入り口に閉店の看板を掛けていると、カウンター裏のドアが開かれる。


「テオ?雪が降り出したみたいだけど…」

「ティアか、丁度いい所に来たな、そろそろ行くから準備しとけ」

「ん、分かった」


それから各自、自室に戻り街に行く準備をしてから、キッチンに集まる。


「なんでキッチン?」

「それはだな…っと」


そう言いながらキッチンの下の床下収納を開け、中に入っていた物を外に出す。

中身を出し終えたら床の部分の隙間に指を差し込み床を引っぺがすと、二メートル程の高さの空間が姿を現した。


「こんな物があったんだ…」

「遠出する時には良く使うんだ、だから普段からあんまり物も入れてないんだよ」


そう言いながら俺が先に降りて下からティアを受け止める。

降り立った空間の先には階段があり、階段を降りていくと薄暗い小さな小部屋に辿り着く。


「これがさっき言ってた移動手段って奴だ」

「この部屋がそうなの?」

「部屋その物じゃなくて床の魔法陣の方さ、それじゃアリス、頼むぜ」

『任された』


アリスがそう言うと同時に、俺は片膝をつきながら左手を地面に付ける。

左手が地面に触れた瞬間、魔法陣が輝き出し一瞬にして光が視界を覆い尽くした。






光が収まると、俺達は先程とは違う空間に居た。

薄暗い事には変わりないが、空間自体はそこそこ広くベッド等の必要最低限の家具が置かれている。


「ここは…?」

「外に出れば分かるさ」


困惑とした表情を浮かべるティアの手を引きながら、部屋を出て階段を上って行く。

階段を上り、一番上まで来たら天井部分に手を伸ばして板を外そうとする。


「重いな、あの野郎上に乗ってやがるな…」


ゴンゴンゴン!


天井を何度か叩くと、ガタガタと音を立てながら天井の板が外れ、髭を生やしたスキンヘッドのおっさんの顔が現れる。

俺が街に来た時に毎回泊っている宿屋の店主でスカムという名前だ。


「よぉ、遅かったじゃねぇか。今年は来ないものかと思ってたぞ」

「ちょっと色々あってな…よっと」


天井に空いた穴から懸垂の要領で這い上がり、ティアを引き上げてやる。


「なんだその子供は?」

「ちょっと一時的に預かっててな、部屋は二人部屋で頼むわ、空いてるか?」

「てめぇ分かってて聞いてるだろ…誰かのおかげで部屋は腐る程余ってるよ、二人部屋だろうが五人部屋だろうが好きなの選びやがれ」


おっさんがそう言い放つと、今まで黙っていたティアが辺りを見渡しながら口を開く。


「テオ、ここは?」

「ここはムルタルの街にある寂れた宿屋だ」

「寂れてて悪かったな…」

「ムルタルの街?でもさっきまで家に」

「転移魔法って奴さ、まぁ論より証拠だ、外に出てみな」


俺はそう言ってティアを先導するように宿屋の外に向かう。

両開きのドアを開け放ち外に出ると、大勢の人々が行き交う通りが姿を現した。


「わぁぁぁ…!」


興味津々と言った様子で辺りを見渡すティアに向かって、俺は声を掛ける。


「ようこそ、ムルタルの街へ」

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