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神と呼ばれる者

「はぁぁぁ…なんか疲れたな」

『そんなに身体を動かしたか?』

「ちげーよ、肉体的じゃなくて精神的にだっての…」


あれから俺はティアを連れて自宅に戻り、ミリアにティアの無事を伝えた。

ティアの顔をみてほっとした様子を浮かべていたミリアだったが、すぐに何か言いたげな表情に変わる。

ミリアが何を言いたいかは何となくわかっていたが、今日はもうティアも疲れているからと無理やり帰らせた。

その後は飯を食って、風呂に入って俺もティアも自分の部屋に戻り、俺は自室の窓から夜空を見上げながら今日一日の出来事を思い返していた。


「山の中走り回るなんて何時もやってる事だけどよ、今日は夢を何回も見たんだぜ?体はともかく頭が…」

『まぁ、テオは頭の出来が良い方じゃないからな』

「うるせー…てかそれ関係ねぇだろ」


互いに軽口を叩きながら、今日あった出来事を話していく。


「実はな、今日見た夢なんだけどよ…あの夢の続きを見たんだ」

『…そうか』

「あの夢の続きだけじゃない、あの場所に初めて行った時の夢も見た」

『………あの時か』

「覚えてるのか?」

『あぁ、あの馬鹿者、息子が出来たと自慢してた癖に私の元には全然連れてこなかったからな…』

「父さんらしいな」


あの人は良く自慢話をする人だったが、話をするだけで満足する人だった。

俺も子供の頃は父さんの自慢話を聞かされたものだが、山の何処何処で珍しいもの食べ物を見つけたとか、景色がとても綺麗な所があったとか、話すだけ話して現物を持って帰ってきたり連れて行ってくれた事は殆どない。


暫しの沈黙の後、俺はぼそりと呟く。


「俺も…忘れない」

『…テオ?』

「俺の左手がこうしてあるのはアリスのおかげだ、俺もティアもアリスのおかげで救われた…だから、俺も忘れない」

『――――』


真面目な表情でそう言った後に、俺は表情を崩して飄々と言う。


「まぁ、左手にこんな小姑みたいなのが居たら、煩くて煩くて忘れようがねぇけどな」

『お、お前と言う奴は…!えぇい!今日は久しぶりに説教してやる!そこに座れ!ってコラ、聞いてるのかテオ!?』


アリスのそんな声を聞きながら空を見上げる。

晩秋の時期、既に辺りは真っ暗であり夜空に星々が輝いていた。


(もうすぐ冬…か)


あの夢が見せた厄介事は片付いたが、ティア自身の問題は未だに解決していない。

冬になれば街へ行き、ティアの素性を調べなければならない。


(もしティアの素性が分かったら…記憶を取り戻したら…)


ティアはどうするのだろうか?。

ミリアはあんな事を言っていたが、ティアの母親がティアの事を邪魔に思ってそんな事を言ったとは俺には思えなかった。

というのも、ティアが初めて会った時に着ていたあの修道服が理由だ。

神を化け物と考えている人間が、修道服なんて物を自分の子供に着せるとは思えない。

だとすればティアの母親は神を信仰している可能性は高いし、何故神の元に行くように言ったのかは分からないが、少なくともティアを殺すつもりで言ったという事はないはずだ。


(だからって、それがティアにとって良いか悪いかは別なんだよな…)


俺の頭の中では、ある夢の事が引っかかっていた。

それはティアの部屋で寝た時に見た夢、一人の女性と何人もの子供たち。


「何って…神の元に行く事だよ、君は嫌じゃないのかい?」


「そうだね、確かにそうかも知れない…僕たちは所詮それだけの存在だ…だけど――」


「僕は君に■■になって欲しくない」


その内の一人が言ったあの言葉がどうも頭から離れない。

あの子供は母親が何を思ってそう言ったのかを知っており、その上で神の元に行く事を嫌がっていた様子だった。

あの母親らしき人物は何者なのか?一体何を思ってあんな事を言ったのか?どうしてあの子供は嫌がっていたのか?。


(駄目だ…考えれば考える程分からなくなる)


そもそも、あの母親らしき人物がティアの母親とは限らない。

あの夢の主の視点でも、ティアらしき人物は見えなかった。


(夢の主がティアだった…って事何だろうか)


そう考えても、やはり俺にはあの夢の主がティアだとは思えなかった。

あの夢の主の思考が、感情が、どうも今ここに居るティアとは大きくかけ離れているように感じたからだ。

これからの事、今日見た夢たちの事を考えていると瞼が重くなるのを感じる。


『大体お前は何時もそうだ、不真面目で何でも適当に――』

「アリス」

『んん?なんだ、少しは反省したか?』

「眠いから寝るわ」

『…は?』


アリスの返事を待たずに俺はベッドに倒れ込み、瞼を閉じる。


『ちょ、ちょっと待て!?私の話を聞いて居たか?』

「おやすみ…アリス」

『あぁ、おやすみって、テオ!?ちょっと待て私の話を――』


そこまで聞いて、俺は自分の意識を手放した。








『はぁ…全く、話の途中で寝るとはな…』


そう呆れながらベッドに身を横たえるテオの様子を窺う。

枕に顔を半分埋めながらも規則正しく寝息を立てている。


『こんな時期に毛布もかけずに…風邪をひいても知らんぞ』


そう言いながら左手(じぶん)を動かしてテオに毛布をかけてやる。


『今日は随分と疲れた見たいだし、説教はまた今度にしてやるか』


寝息を立てているテオの顔に左手を添え頬を撫でながら、ティアの事を考える。


ティアは普通ではない。

それはティアに初めて触れた時に気が付いていた。

普通の人間とは何か違う感覚を覚えたが、それが何なのかは分からなかった。

でも、今日ティアの左手を治した時…いや、ティアに左手を与えた時にハッキリ分かった。


あの子は人間ではない。


人間に限らず、この世界に存在する全ての物には設計図のような物が存在する。

大雑把に言ってしまえば、人には頭があり、胴体があり、四肢がある。

人それぞれに顔や骨格に差異はあれど、基本は変わらない。

何故変わらないのか?、それは設計図があるからだ。

基本となる人としてのベースが存在するからこそ、人は人で居られる。

それぞれの存在に基本となる設計図が存在するからこそ、それらを区別出来る。


私はティアの腕を治そうとした際、ティアの設計図を読んだ。

例えどんな理由で腕を失ったのだとしても、設計図を読み込み、その通りに存在を構築し直せば左手を再生出来ると考えたからだ。

だが、ティアの設計図には端から左手など存在しては居なかった。

存在しない物を再構築する事など不可能だ。


だから私はティアの左手を”治す”のではなく”与えた”のだ。


あんな設計図を持った存在を私は未だかつて知らない。

知らないという事は恐らく、新たに生み出された物だからだろう。


(ならば誰が?誰がそんな事をする?)


決まっている。

そんな事が出来る存在など、この世界に二つと居ない。

この世界を管理し、この世界に大地を、自然を、空を、命を与えた者。

我ら神を生み出し、そして罰を与えた者、この世界の母とも呼べる神。


『何を考えておられるのですか…創造主よ』


その問いに答える者は、誰も居なかった。

これにて一章完結です。

説明だ何だとゴチャゴチャした印象ですが、二章からはお話重視で説明は少なくなる予定です。

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