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受け継がれる想い

鮮血が舞い、辺りに血の匂いが立ち込める。

背後からティアを抱きかかえるようにしていた俺の右手にナイフが突き刺さり、大量の血が右手を大地を赤く染め上げる。


「う…あぁ…なん…で?」

「何でじゃ…ねぇ…このっ馬鹿野郎!」


脂汗を浮かべながらも、困惑するティアを怒鳴りつける。


「何でこんな事しやがった!」

「だって…だって…!」


ティアが震える右手でナイフの柄を握ったままそう繰り返す。

ティアの右手が震える度に、鋭い刃が俺の右手に食い込んでいく。


「お母さんは…私の事が要らなくなったんだ!それで私に…」

「違う…違うんだティア」

「何が違うの!?あの人が言ってた!神様は人を食う化け物だって!」


ナイフを握る右手にどんどん力が込められていく。

俺は激痛に顔を顰めながらも、ティアに言葉を掛ける。


「確かに…神と言えば人食いの化け物だ、それが世間の常識だ」

「だったら…!やっぱりお母さんは――!」

「でもなティア」


そう言いながら、俺は左手でティアの頬を撫でた後、ティアの左肩に手を置く。


「お前には知っていて欲しい、世界には人を食うのではなく、人を救う神が居る事を――アリスティア!」


俺は呼ぶ、自身の左手に宿った神の名を。


「ティアの左手を治してくれ!」

『分かった』


ティアの左肩に置かれた左手から光が漏れ出し、その光が肩口から真っ直ぐ伸びていき棒状の光となる。

やがてその光は完全に消え、代わりに左手がそこに存在していた。


「え?え?なんで…どうして…」


ナイフから手を放し、突如として現れた左手を右手で触りながらティアが困惑の表情を浮かべる。

困惑しているティアの頬に左手を添え、こちらに顔を向かせる。


こちらの見たティアは相変わらず混乱しているようだったが、俺はそんなティアを落ち着けるように語り掛ける。


「ティアは怖いか?」

「え…?」

「お前の左手を治したこの力が、この左手が…お前は怖いか?」


俺がそう言うと、ティアの視線が自身の頬にそえられた左手に向けられる。


「俺の左手には神が居る、その石碑に宿っていた女神、アリスティアが」

「………」


ティアは何も答えない、ただ黙って俺の顔と左手(アリス)を交互に見ていた。


「怖いか?人食いの化け物と言われている神が今ここに居る事が」


先程まで左手をチラチラと気にしていたティアだったが、俺の顔をじっとみながら口を開く。


「…どうして?」

「?」

「どうして、私の左手を治したの?」


ティアのその問いに、俺は答える。


「知っておいて欲しかったんだ、人を救う神が居る事を」


痛みで震える右手で、ティアの頬に手を添える。


「そして忘れないで欲しい、ここに神が居る事を、人の痛みが分かる神の事を」


それはかつて、父から俺に向けられた言葉だった。

俺がまだ幼かった頃、初めてこの場所に連れてこられた時の話だ。


「ここにはなテオ、神様が居るんだ」

「神様?」

「あぁ…俺はある人からここに居る神様の事を任されたんだ」

「…まかされたって何を?」


父は空を見上げながら答える。


「そいつは分からない、人間に出来る事なんて限りがあるし…俺も任せるとだけ言われただけで、具体的にどうしろとは言われなかったからな」

「それじゃ、どうすればいいの?」

「うーん…そうだなぁ」


空を見上げていた父が、視線を石碑に向ける。


「忘れない事…だな」

「忘れない?」

「あぁ…テオ、お前には知っていて欲しい、この世界には良い神も居れば悪い神も居る。そして神と言えば、皆悪い神の事しか考えない」

「どうして?」

「この世界には神様にとって良くない物が溢れてる。それから身を守るために神様は様々な物に宿っている…この石碑のようにな」

「この石碑に神様が居るの?」

「あぁ…神様はこうやって何かに宿ってその悪い物から身を守っている。その悪い物は、良い神様を悪い神様に変えてしまう…だから良い神様は外に出られないし、人に姿を見せる事もない。外に居るのは悪い神様ばかりだから、人間には神様は悪い物しか居ないという風に見えてしまうんだ」

「何だか…可哀そう」

「そうだな…だからこそ、テオには知っておいて欲しいんだ、そして忘れないで欲しい。ここにも神様が居る事を、人の痛みを理解できる心優しき神様が世界には存在する事を」


今は亡き父との記憶。

父から託された想い…忘れない、忘れられるものか。


「大丈夫だよ」


俺が記憶を振り返っていると、ティアの両手が俺の左手に添えられる。


「ティア?」

「忘れない、忘れないよ」


先程までの困惑とした表情は消え、穏やかな表情を浮かべながらティアが左手(アリス)を撫でる。


「怖くないのか…?」

「怖くなんて無いよ、私に左手をくれたんだもん」


――だから、忘れない。


ティアがそう口にする。

俺はティアのその言葉で、今回の件が終わりを迎えた事を理解した。


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