閑話 お留守番中のミゼラ
一年ぶりの更新!
旦那様達がギゴショク共和国へと出発して数日。
寂しい気持ちはあるけれど、ポココやシノビの子達が食事や買い物に付き合ってくれるので紛らわす事は出来ている。
それに今は薬草畑のお世話もあるし、冒険者ギルドに卸すポーション製作も休めないので忙しくて寂しいと思う暇があまりなかったりする。
「よし。今日の分は終わりね。あとで冒険者ギルドにポーションを持って行って……っと、その前に薬草畑の様子を見に行かないと」
最近は午前中にポーションを作り、午後は薬草畑を見て回って昼食を取った後に収穫をし、その後ポーションを卸しに冒険者ギルドへ行くのが日課となっている。
「ロズマリルの成長……シアンさんが言っていた通り早いわね」
シアンさんがお勧めしてくれた薬草のロズマリル。
煎じて薬にすると集中力が上がり、今後の活動に役立つとの事。
それに煎じ方を変えればリラックス効果も得られるそうなので、たまに無茶をする旦那様の役にもきっと立つと思うし……。
それにロズマリルを使って生み出した薬を、錬金スキルでどうポーションに出来るのかが楽しみ。
ただでさえ錬金スキルで作れるものも材料次第で膨大なのに、薬師で作った薬も使えるとなると可能性が無限大に。
色々試してみないと分からないけれど、分からない事が一つずつ分かっていくのがとても楽しい。
「さて……収穫も終わったし、今日のお昼はどうしようかしら……」
今日はポココ達はアイリス様の用事でいないのよね。
一人分だけ作るのって、なんだか寂しさが増長されるのだけど……簡単なもので済ませてしまおうかしら。
その簡単なものっていうのも、少し前を考えてみれば贅沢なものなのだけど……いけない、今はとっても幸せなのだから後ろ向きな考えはしないべきよね。
「……い! ……ラちゃーん!」
「……う、ん?」
「おーい! ミゼラちゃーん!!」
「……領主様?」
あ、今は代表だったわね。
ついまだ領主様って思ってしまうのよね。
「あ、いたー! やっほーミゼラちゃんー!」
「こんにちはオリゴール代表」
「いやだなあ硬いよその呼び方。オリゴールちゃんでいいんだぜ!」
パチリ、と可愛らしくウィンクをしているのだけれど、確かオリゴール様って旦那様よりも年上なのよね……。
目上の人をちゃん呼びというのは気が引けるのだけど……。
「えっと……オリゴール様?」
「硬いなあ……まあ呼びやすい呼び方でいいけどね!」
「ありがとうございます。それで、私を探していたようですけど、どうしたんですか?」
「ああ、うん。ご飯食べに行かない?」
「え?」
ご飯……ご飯か……。
ちょうどうどうしようか悩んでいたし、一人で食べるのは寂しいからお誘いいただけるのは嬉しいのだけど……。
「いやあ美味しいお店を予約していてね! せっかくだからお誘いをと思ってね!」
「えっと……構いませんけど…………またですか? あの……もしかしなくてもですけど、気を遣われてますか?」
「うぐっ!」
ああやっぱりそうなんだ。
まあ今の反応がなくても気が付いたけれど……。
だって昨日はメイラさんがやってきて、
『ミゼラさん! お昼ご一緒いかがです? 珍しいハートゥポルッポウのお肉が手に入りましたの! それにデザートにはプルプルプルリィンもありますのよ!』
と、初めて聞いた食材や料理を振る舞うお店にお誘いを受けその前の日は
『ミゼラよ。せっかくだからわらわと食事などどうだ? む? 立場など気にするな。わらわももうアインズヘイルの一員であるからな!』
と、アイリス様からもお食事に誘われたものね。
ダーマさんからは贈り物が毎日届いていて、便利な生活用品ばかりだけれどこれ多分全部高級品なのよね。
怖くて使えないので旦那様が帰ってくるまで触らない予定なのだけど……ここまで日替わりでアインズヘイルのトップ達がやってきたら嫌でも気が付くでしょ。
「えっとぉ……あのぉ……そのぉ……」
「別に怒っている訳ではないですよ? ただ、そんなに気を遣って貰わなくても構わないのですけど……」
「そうはいかないよ! お兄ちゃんには大分無茶をお願いしてしまったからね……。それに、残ったミゼラちゃんにも申し訳がないしさ……」
「残ったのは私の意志ですよ? だから気にしなくても構いませんのに……」
それに今回はオリゴール様達からのお願いというよりは、シロの為というのが強いと思うし、私も落ち込んでいるシロを見続けるのは辛かったから仕方ないと思うし……。
「うん……でもさあ……やっぱり、離れ離れは寂しいじゃん?」
「……それはそうですけど」
「せめて! せめてボクの騒がしさでその寂しさを埋めたいんだ! お昼ご飯だけじゃなくて、夜だって寂しいならいつでも一緒に寝てあげるぜ!」
「ありがとうございます。夜は大丈夫です」
夜はお風呂から上がったらすぐに眠気が来て寝てしまうからこの騒がしさで夜に一緒に寝たらきっと次の日寝不足で倒れてしまいそうだし。
まあ、それに比べればお昼くらいは一緒でも構わないわよね。
「さあさあさあ! 遠慮なく頼んでくれよ! これも美味しいし、それも美味しいぜ! あ、これもなかなかいけたよ! 個人的に一番好きなのはこれかな! でも今日はこっちを頼むけどね! あ、どうせなら全部頼んじゃう?」
お昼くらいならって思ったのだけど……早計だったかしら。
「オリゴール様と同じものでお願いします」
「それだけでいいの? ボクと一緒で足りる?」
「ええ。足りると思います」
オリゴール様はハーフリング族だから体は小さいけど、私も小食な方だし多分ちょうどいいくらいだと思う。
それに……オリゴール様が予約してくれたお店、多分ここ高級店なのよね。
旦那様から結構なお金を渡されているのだけどお会計が心配だし、書いてあるメニューもどんなものかも分からないから同じものにしておいた方が無難だと思う。
「あ、ドリンクはどうしよっか! お酒飲んじゃう? ここのお店! 珍しくて美味しいお酒もいっぱいあるんだよー!」
「お、お酒はちょっと……この後もお仕事があるので……」
「そっか。じゃあボクもやめとくね! ジュースも美味しいから安心して好きなのを頼みなよ!」
好きなのって言われてもねえ……。
『草原に咲く一凛の華』『砂漠に吹く砂塵の中心』『大森林に実る魅惑の果実』『大海原の小さな波』。
何も……何も分からないのよ!
フードメニューも似た様な物なのだけれど、皆これで何が出てくるかわかるの?
これがお洒落な高級店では常識なのかしら?
私……一生お洒落な高級店とあわない気がするわ……。
「ボクはどうしようかなー? 『黄金郷にある最高級の錆鉄』にしようかな? まだ飲んだ事ないんだよね!」
「錆鉄……? え、飲んだ事ないのにそれでいいの?」
「最高級だし大丈夫でしょ! ここのお店に外れは無いしね! ミゼラちゃんも気になったのチャレンジしてみなよ!」
「そ、そう……。それじゃあ、『トラブルメイカーの休息』にしようかしら……」
「お、やっぱりそれを選んだかー。なんかそれお兄ちゃんっぽいよね!」
ま、まあ確かにこれを見た時旦那様を思い浮かべたからだけど……その口ぶりという事は飲んだことがあるのね。
……すっごいニヤニヤしているのだけれど、どんな味なのかしら?
「うはぁぁぁ! 『黄金郷にある最高級の錆鉄』はこんな味かー! まさしく黄金郷にある最高級の錆鉄味だ!」
「……こっちも、トラブルメイカーの休息って味なのね……」
意味が分からなかったけど、飲んだら意味が分かるとは思わなかったわ。
一口飲んだ瞬間は味がしなかったのに、突然複雑で刺激的な味が多数現れたかと思えばあっという間に清涼感が訪れる……。
口の中で物凄いトラブルが起きて、それが解決してスッキリしたような味……。
もしかして、ここにあるメニューすべて本当にメニュー通りの味なのかしら?
「さあ食べようぜ! 今日のボク達のメニューは『青空に踊る星達の歌』だぜー!」
……どんな味なのか全く皆目見当もつかないのだけど!?
歌? 青空に踊る星達すら予想出来ないのにその歌なの?
それが味ってどういうこと?
しかも出てきたのどう見ても焼いたお肉にソースが掛かっているだけなのだけど?
「んぐんぐ。なんかすっごい複雑な顔してるね。ボクにはとても美味しく感じるけど、苦手な味だった?」
「いいえ……」
実際食べてみたら青空に踊る星達の歌のような味だった。
こう説明するしか表現できない味だったのが納得がいかなくて、だけどとても美味しかったのが凄く悔しかった。
というか……ほかの味も気になりすぎるのだけど?
気になりすぎる名前の料理が多すぎて、もう一度来たいと思わせる料理屋なんてものがあるのね……。
その後のお仕事は頭の中があの料理の事でいっぱいで、まともな仕事にならなかったのだけど、きっとまたオリゴール様は来るのよね……。
貴重な体験をさせてもらったし、誘って貰えるのは嬉しいのだけれどお仕事が手につかなくなるのは困るわね。
旦那様……無茶はして欲しくないのだけれど、今まで以上に早く帰ってきて欲しいわ……。
ちょっとまだ再開まではかかるのだけどもね。
一年経ってしまったからね……。




